もしもスケーターが異世界に行ったならば。 作:猫屋敷の召使い
いや、ある資格試験の筆記試験を受けに行ってましたね、はい。その勉強のために夏休みの後半を全部使い潰しました。
そのうえ久しぶりの執筆のせいで主人公のキャラどころか原作キャラの性格さえも曖昧になっている始末で、ちょっと読み直しながら書いていたので遅れました。申し訳ありません。
………誰か、私に時間をください。精神と時の部屋でも可。
「うん、知ってた。どうせ面倒事に首を突っ込まざるを得ない状況になることぐらいはさあッ!?」
翔の文句が〝アンダーウッド〟に
それは、焰たちが工業区画に入って少し経った時に起きた。
突如、稲妻を帯びた大戦斧が三人が乗っていた水上馬車を木っ端微塵に打ち砕いたのだ。
それを見た翔はすぐにレースを中断し、急いで大河から陸地に上がった。
眼前にいる牡牛が次の一手を打ち被害が出る前に、近場にいる者たちをどうにかしなければいけなかった。
「ハルト!〝パーク〟を共有する!お前は反対側に行って目についた非戦闘員から一人残さずパーク内に避難させろッ!相手があれじゃ防波堤も多分無意味だ!工作員も避難対象とする!水際にいる者と大樹から離れている者を優先しろ!」
「ヒンッ!!」
翔の指示を聞いたハルトが硬水ロードを作り、空を駆けていく。その様子を見届ける暇も無くすぐに目についた非戦闘員を次々にパーク内に送り込む。
それでも、送り込む範囲は彼の視界内、つまり目についた者しか送り込めない。それに速度も彼の視線の移動速度で決まる。そのため、物陰にいる者は範囲外となる。
(………ッ!目が追い付かないなぁー、くそ!視界ジャックを乱用して、目についた奴からとことんぶち込むしかないかッ!?)
空中で回転しながら、避難が遅れている者を見つけてはパークへと送る。
「あーもう!全員スケーターなら、見捨ててもリスポーンしてくれるのにッ!!何でお前らスケーターじゃねえんだよ!?いっそ今すぐスケーターになれや!!そしてゲッダンしろッ!!大丈夫!!柔軟剤を使った服を着てればゲッダンしても死なないからッ!!たぶんおそらくきっとッ!!」
『無茶言うなッ!?』
「為せば成るんだよッ!!そんな半端な気持ちだからスケーターになれねえんだ!!お前らみんなYDKだ、YDK!!!諦めんなよおおおぉぉぉ!!!やればできるんだよおおおぉぉぉ!!!」
『うっせえ黙れ!!それよりも早く避難させてくれ!!』
「自分だけ避難しようとする玉無し野郎に貸す手なんかあるかッ!!つかそんだけ叫ぶ元気が有り余ってんなら、ちっとは女子供を助けろよッ!!ばーか!!あーほ!!ぐーず!!まぬけー!!いくじなしー!!」
『(ブチッ)上等だテメエ!!そこで首洗って待ってろやあああぁぁぁ!!!!』
宙を舞い、かなりの距離が離れているはずの翔にも、男たちの何かが切れる音が聞こえた。
外にいた男性たちは翔の煽り文句に怒り、付近にいた女性や子供を担いで大樹の中に向かって爆走し始める。
それを見た翔は満足げに口を歪める。
「―――なんだ。自主避難ぐらいやれんじゃん。………でも、それでも出来てないのは多そうだし、後が物凄く怖いけど―――」
―――ゴミ箱先輩に協力してもらおうか。
その言葉が聞こえたのかどうかは定かではないが、避難途中の者たちの背筋に寒気が走った。
「ゴミ箱先輩!ひたすらに食って、消化せずに後で吐き出して!」
『ちょっと待って!?その避難方法はどうなんだよ!?』
「安心・安全・恐怖の三拍子が揃ってる完璧な避難方法だろうが!ほらほら!喰われたくなきゃ、精々必死に大樹の中に向かって走るこったなァ!!」
『ちっくしょおおぉぉぉ!!?お前は鬼か!?』
「いいえ、スケーターです」
『俺らはお前を断じてスケーターとは認めないからな!!?』
男性のみならず女性や子供までもが、先ほど以上の速度で大樹の中へと駆けていく。後ろから迫りつつあるゴミ箱包囲網から逃れる為に。
そんな彼らを見て、翔は―――
「ほらほら走れ走れー。後ろからゴミ箱先輩が迫ってるぞー。かのメロスのようにもっと走れー。もしくはスケーターのようになー」
『テメエはいつか絶対殺すッッッ!!!!!!』
―――両手に小さな旗を持って一生懸命エールを送る。そんな彼を見て、怨嗟の言葉を返す避難者一同。
しかし、彼も決して遊んでいるわけではない。この間にも視界ジャックを利用して、目の届かない場所にいる者たちを避難させているのだ。
だが、そんな彼の行動にも意味はあったようだ。なぜなら、避難者が必死になって翔を殺すためだけに生き残ろうとしているのだから。
と、その時。遥か上空で雷鳴を轟かせる雷雲は目に見えるほど巨大な渦を巻き、大樹の枝葉が散るほどの雨風を吹かせ始めた。
そんな荒れ狂う空を見上げながら一言、翔が呟く。
「………うん。嫌な予感しかしない」
遥か天空で、怪牛の咆哮が響き渡った。
〝アンダーウッド〟全域に響き渡るその咆哮は聞く者全てを震え上がらせた。雷雲は稲妻の角を生やし、巨大な闘牛のように成り変わっていく。
巨大な闘牛が身動ぎをすると、水上都市を二十四もの落雷が襲った。
当然そのうちの幾つかが、翔のいる方にも降り注ぐ。
「―――あっ、これは間に合わんわ」
翔がポツリと声を漏らした。翔は動けずに、ただじっと、落雷の行く先を見ているしかなかった。今にも、眼前にいる者たちに直撃しようとしている。そして、無慈悲にも、落雷が〝アンダーウッド〟の民に―――
『「………は?」』
―――降り注がなかった。いや、正しくは降り注いだが、何
それは今にも死ぬかと思われた者たち、そして、翔までもが驚愕により唖然とするほかなかった。
そう。その何
『………ご、ゴミ箱?』
我らがゴミ箱先輩である!
突然ゴミ箱先輩が落雷の落下地点に飛び出したと思えば、降ってきた落雷を食べてしまったのだ。
それを理解した翔は、顔を青くしながら
「おいおいおい、やべえよやべえよ………俺、マジでゴミ箱先輩に一切勝てなくなる日が来ちゃうの………?マジで恐怖でしかないんだけど………?」
ついに有形物だけでなく、無形物をも食せるようになったゴミ箱先輩に戦慄せざるを得なかった翔。
あわわわ、と青い顔をしながら慌てふためく翔。しかし、それでもパーク内への避難は止めない辺り、流石と言うべきであろう。たとえ眼前に、自身の恐怖の象徴が迫っていたとしても。
「ぎゃあああぁぁぁッ!?ちょッ!?ゴミ箱先輩、今ふざけてる場合じゃないから!?マジで勘弁してくれええぇぇぇ!!!?」
『……………………』
もっしゃもっしゃ、と食べられている翔を放っておいて、彼によって焚きつけられた男たちは、本来の恩恵保持者である翔よりもゴミ箱先輩を使いこなして護衛とすると、他の場所にいる逃げ遅れた者たちを助けに向かった。
氾濫した大河?ゴミ箱先輩に水を全部飲んでもらえば障害ではない。
空から降り注ぐ稲妻?同様だ。ゴミ箱先輩に食べてもらえばいい。
倒壊した家屋?ゴミ箱先輩はダ○ソンに勝る吸引力を得てしまったので問題ない。
そうして、男たちとゴミ箱先輩の活躍により、怪我人こそ多数いたものの死者は翔一人で収まったのだった。めでたしめでたし。
「フッ………愚かな。新たな加速法であるボード掛け加速を身につけた俺に追いつけるとでも思ったのか?」
自身が焚きつけた男たちに追い回されたが、なんとかギリギリのところで逃げ切り大樹の中を悠々とドヤ顔で滑る翔。
「さーって、と。ぶっちゃけ、この時点で俺に出来ることなんて―――」
「総料理長ー!!暇なら炊き出し手伝ってくださーいッ!!」
「―――賄い、だよなぁー」
そう考えて、呼ばれた方向に足を向ける。
「そのネタはもうやめろ。いい加減に飽きたわ」
「えー?いーじゃないっすかーそれぐらい。つか、ネタってなんすか、ネタって。俺達が総料理長のことを総料理長って呼ぶのは尊敬と畏敬による本心からで―――」
「それ以上言ったら地面に埋めんぞ?」
「うっす。黙ります」
その後は会話も無く、ただただ静かに避難所付近にある仮設調理場へと向かった。
「………食材自体はそこそこあるな」
「ええまぁ。ただ人手がどうしても足りなかったもんで………」
「なんでだ?ここにゃかなりの数の料理人が居たはずだろう?」
「腕のいい人に限って、怪我しちまったんですよ………」
「んな馬鹿な……………死者は?」
「料理人にはいません。それ以外でも翔さんとハルトさんのおかげで
「現状危ない奴はいるってことか………後で見舞いにでも行くか」
「うす。お供します」
「それよりも先にさっさと炊き出し終わらせよーかぁー?お前、食材運びな」
「うす………」
そして、
「お代わりはー?」
『自由ー』
「うまい飯を食ってー?」
『一息つこうー』
「明日のことはー?」
『寝て起きた後に考えるー』
「スケーターにー?」
『ならなーい』
「チッ………それじゃー、いただきまーす」
『いただきまーす!』
「………………………今の斉唱は、いったい何だったんでございましょうか………?」
よくわからないことを斉唱して食事を摂り始める避難民たち。避難民たちの様子を見に来たついでに、食事もとりに来たのだろう。
そんな彼女の存在に気づいた翔は、近寄って声をかける。
「黒ウサギも食いに来たのか?」
「は、はい。そ、そうでございますが………」
「そっか。焰たちはもう食ったのか?」
「いえ……焰さんたちの分も黒ウサギが取りに来たのでございますよ」
「ああ、それなら丁度よかった。姿が見えなかったからどうしようかと思っていたところだ」
「そうでしたか」
「料理自体はパークにしまってあるから、案内は、してくれるんだよな?」
「YES♪こっちでございますよ!」
黒ウサギはそう言って先導する。翔はそれに素直に追従する。
「それで、あいつらは今何をしてるんだ?」
「今は部屋で過去のギフトゲームの資料を読み漁っているでございますよ」
「………普通だな。本当に十六夜の弟なのか?」
「十六夜さんを反面教師にしたのでは?」
「………かもねー」
そう言ってケラケラと笑う翔。それにつられて黒ウサギもクスクスと笑う。
「………ところで、先ほどの斉唱は一体何でございますか?」
「なんとなーく適当に良さそうなことを言いながら、『スケーターになりたい』的な言質を取れないかと試してみた」
「………そ、そうでございますか……………」
そんなたわいない会話を続けながら歩いていく二人。そして、黒ウサギがある部屋の前で止まる。
「此処でございますよ!」
「ういうい。じゃあ、失礼しますよー」
軽い調子で部屋の中に声を掛けると、そのまま中からの返事も待たずに扉を開け中へと入る翔。そして、部屋の中にあるものに驚いた。
「………わぉ。随分と勉強熱心なことで」
翔は部屋の中で積んであるゲームの資料を見やる。その声でようやく翔の方に目を向けた焰と鈴華。部屋の外からの呼びかけには気づかないほど、二人は集中していたようだ。残りの一人である彩鳥は、部屋に備え付けられていた椅子に行儀良く座っていた。
「………ん?ああ、黒ウサギと翔さんか。どうしたんだ?」
「一応、飯を持って来たんだが………いらなかったか?」
「「いる」」
「わざわざすみません………」
「いいさ、別に。俺も君ら三人がどうしてるか気になったし」
そういってパークから鍋を取り出して四人分の料理を盛り付けて、それぞれに手渡す。そして自分の分は盛らずに鍋に蓋をする。
それを不思議に思った焰が翔に尋ねる。
「………?自分の分はいいのか?」
「…………………………おお。いつも食ってないから、すっかり頭からすっぽ抜けていたな。………まあ、気にしなさんな!基本あたりめしか食べてないような人間だから!」
ケラケラと普段通りに笑う翔。それを頬を引くつかせながら見つめる焰と鈴華。
「………よく栄養失調とかで倒れないもんだな」
「そこはほら、リスポーンすれば万事解決するから大丈夫大丈夫」
「………しっかり食べないと同士達に叱られてしまいますよ?」
「バレなきゃ平気平気。それにこういう食料の消費を少しでも抑えたい状況なら、多分みんなも許してくれるさ」
なおもケラケラと笑いながら話す翔。そんな彼を見ながら溜め息を吐く黒ウサギ。
そんな二人のやりとりを見た焰は疑問の声をかける。
「そう言えば、翔さんは―――」
「普通に翔でいいぞ?俺なんて『さん』付けされるほど偉くもないし」
「………じゃあ、翔は黒ウサギと同じコミュニティって言ってたけど、どういう立場の人間なんだ?今も偉くはないって言ってるけど………」
「立場?立場………立場かぁ………………………………黒ウサギさん説明よろしく」
「………絶対、なんて言えばいいかわからなくて黒ウサギに丸投げしたでございますよね?」
「はて、何のことやら?」
口ではとぼけたことを言っているが、その口元が笑っていることから、黒ウサギが言ったことは当たっているのだろう。彼女もそれに気づいたのか、本日何度目かの溜め息を吐きながらも説明する。
「翔さんは黒ウサギ達のコミュニティの頭首補佐でございますよ」
「は?」
「そして頭首の専属料理人でもあります」
「HA?」
「………………なぜそのことに、当の本人であられるはずの翔さんが一番驚いているのでございますか?」
「いや、だってそんなこと初めて聞いたから。え?俺ってそんな立ち位置だったの?初耳すぎて何も言えないぐらいに驚愕なんだが」
先ほどからの驚きの声は焰たちではなく翔であった。この中で誰よりも黒ウサギの説明で驚いていたのは彼であった。
しかし、翔ほどではないにしろ焰たちもかなり驚いていた。会った当初から「すごくない」「偉くない」と言っていた人物がコミュニティのナンバー2だったのだから。
「………十分すごいじゃないっすか」
「………らしいねぇ。俺としてはそんなつもりはなかったんだけどねぇ………」
「………自覚なしで今まで仕事してたの?」
「………………そういうことになるねぇ。いやはや驚いた。まさか自分がそんな立ち位置の人間だとは思わなかったぜい」
「………ある意味大物ですね」
「そんな褒めないでくれよ」
「「「褒めてない」」」
照れくさそうに頭を掻く翔に対して焰、鈴華、彩鳥の三人が口を揃えて否定する。
「まあ、凄くないのは事実だから。戦闘やゲームに関してはマジで弱いからさ。そんな立場にいても誇れるようなことは何一つないんよ。……………多分きっとメイビー」
「ですが、それ以外のことでその立場にいるのでございますから、問題はないのですヨ!」
黒ウサギがウサ耳をピン!と立てながら、翔のことをフォローする。『それ以外』の部分で鈴華が反応する。
「それ以外って例えばどんなこと?」
「翔さんは書類整理に関してはコミュニティで一番速いのです!戦闘では敵の足止めや囮、待ち伏せといったサポートのプロフェッショナルでございますよ!それと皆さんが頂いている料理も翔さんが作ったものです!」
「翔がこれを?」
そう言って、手元の料理に視線を落とす焰。そんな彼の様子を見た翔は口を尖らせながら問う。
「そんなに意外でしたかー。こんな変人が料理できることがー」
「い、いや………別にそんなことは―――」
「顔に出てるぞ」
「うぐっ………」
翔はただ適当に言っただけだが、図星だったのか気まずそうに顔を逸らす焰。それに対して翔は苦笑で返す。
「別に出来そうに見えないのは自覚してるさ。料理だって必要だったから練習したら、いつの間にか上手くなってただけだからね」
「これでも翔さんは黒ウサギ達の外門にご自身のお店を構えるほどの腕前なのでございますよ!翔さんの料理を食べたくてわざわざ足を運ぶ方もいらっしゃるほどです。そのおかげで無駄に顔が広いのでございます」
「む、無駄って………」
「事実翔さん自身、世情に疎いのでコミュニティの重鎮の顔を把握していないので、知らず知らずのうちに仲良くなっていることがあるのですよ」
「いや、ぶっちゃけ興味ないし………客は客だし………それにお忍びで来てる人も相当数いるし………見た目はともかくみんな極普通の方だし………」
「お店にシーサーペントのお肉を持ち込む方が普通なわけないのでございますよッ!!」
スパン、と翔の頭をハリセンで軽く叩く黒ウサギ。その話を聞いた三人が驚く。
「シーサーペント………?美味いのか………?」
「味とかは蛇に近いぞ」
「………いや、蛇を食ったことが無いんだが………」
「え?……………まったく、これだから都会っ子は」
「いや、確かに都会育ちだけどよ!?つかアンタは違うのかよ!?」
「現役バリバリの都会っ子ですが何か?ただ料理の一環として蛇の肉を研究しただけでーす」
さらっと焰のセリフに普通に返す翔。その対応にガクリと肩を落とす焰。真面目に対応していては疲れるだけだと分かったのだろう。
「まあ、鶏をより淡白にしたものだと思ってくれ。それで食感に関してなんだが、水面付近や深海を行き来するせいなのか身が引き締まっていてな。コリコリと肉にしては食感を楽しめる独特な肉だったな。長時間煮込んでもその食感がしっかり残ってるんだよ。そのうえで味がしっかり染み込んで噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。皮の方はぬめりが酷くて下処理に苦労したが、それを終えていざ調理してみると存外美味くてな。揚げ物にすると食べやすくて良かったな」
「YES!確かにあれは美味しかったでございますね!また食べたいものデス!」
それを聞いた三人は食事中だというのにゴクリ、と喉を鳴らした。
「とはいえ、滅多に獲れるもんでもないんだがな」
「いいなぁ!食べてみたい!」
「それなら今度俺の店に来るといいさ。今は子供たちに任せて旅行に行ってたが、この一件が終わったら一先ず再開するし。十六夜の家族みたいだし、一回だけ
「余裕があれば寄らせてもらうよ!」
鈴華が元気よく返事をする。そして翔は会話の中で思い出したことがあり、黒ウサギに尋ねる。
「そう言えば子供たちは上手く経営できてるか?」
翔は休暇に入る前に、自身の店を自分が料理を教えている子供たちに修行と称して任せてみたのだ。今の会話でこの二か月間どうなっているのか気になったのだろう。
それを聞いた黒ウサギは少し気まずそうにしながらも答える。
「い、いえ………。それが持ち込まれる食材があまりにも奇抜なものが多くて、早々にカフェテリアとしての経営へと移行したのでございますよ………」
「あ、やっぱり?だから無理だと思うから、最初っからカフェにしといた方がいいって言ったのに」
失敗したかなぁ、と呟いて後頭部を掻く翔。それを見て黒ウサギは付け加える。
「で、でも!売り上げは安定しているのでございますよ!?固定客も多いうえに、毎日満席で黒字でございますよ!」
「それぐらいはしてもらわないとねぇ。そのためにスイーツの作り方とお茶の淹れ方だけは、最初の方に徹底的にたたき込んだんだから。とはいえ二か月間とはいえ黒字か。金のやりくりが上手く出来ている証拠だな」
それならとりあえず安心した、と胸を撫で下ろす翔。しかし、黒ウサギは心なしか少しシュンとし、落ち込んでいるようにも見える。
この二か月の間、赤字にならずに経営出来ているということは上手に金のやりくりをしていることになる。翔ももちろん、仕入れ先の紹介だけはしたが、それ以降の取引に関しては店を任せた子供たちにやらせている。上手く交渉すれば安く売ってもらえる。しかし、相場も何も知らないのではただぼったくられるだけだ。取引先には子供だからといって容赦はしなくていいと事前に伝えてあったため、手は抜いていないのだろう。つまり、それだけ子供たちが交渉をやり遂げ、利率もバランスよく考えられているのだろう。
隣のテナントは事前に借りてあったし、これなら子供たち用のカフェテラスを別に開いても良いかもな、などと考える翔。
そこまで考えて翔はハッとし、何かを思い出したような顔をする。
「まあ、この料理は好きなだけ食ってくれ。飲み物が欲しければ避難所になっている広場に行ってみてよ。それじゃ、俺はこれで失礼させてもらう。ポロロに呼ばれてたのを忘れてたや」
「あ、ああ。じゃあな」
「バイバーイ!」
「食事、ありがとうございました」
三人の言葉を背中に受けながら翔は焰たちの部屋を後にした。
そして焰は、翔が遠ざかっていくのを感じ取ると黒ウサギに尋ねる。
「なあ、本当に翔は戦闘は弱いのか?」
「………えーっと………ちょっと、ちょーっとだけ無茶をすれば、かなりの実力者でございますよ?それこそミノタウロスも一撃で葬れるほどには」
「………なんであの人はやらないんだ?」
「………翔さんが無茶をすれば、心配する方が少なからずいるからでございますよ♪」
一応黒ウサギや十六夜さんもその一人でございます♪と、彼女は楽し気に話した。
「とはいえ、恩恵の暴走さえさせなければ心配するようなことはないので、滅多なことでは不安になるようなことはないのですヨ」
「………恩恵の暴走?」
「YES。翔さん自身の恩恵は強力すぎて未だに十全に使いこなせていません。そのため出力を上げる為に、わざと恩恵を暴走させるのでございます」
「それは、どうやって?まさか、危ない薬とか………?」
「あー………確かに薬ではありますね」
「………それって大丈夫なのか?」
「薬とはいってもただのアドレナリンですから大丈夫、と言うのも変でございますよね。まあ、勝たなければいけない場合以外では、滅多に使用することはありません」
使ったら使ったで同士の皆さんに叱られちゃいますからね、と黒ウサギは苦笑交じりに言う。そんな彼女の言葉に焰、鈴華、彩鳥の三人は苦笑を返した。
・ゴミ箱先輩
有形無形関係なく有象無象を飲み込むという新たな進化を遂げ、最強へと更に一歩近付いた先輩。
一体彼の進化はいつ止まるのだろうか?
そんな彼の潜在能力は未だ計り知れない………。
・新たな加速法
ボード掛け加速のこと。
・『スケーターにー?』
『なりたーい!』
翔の翔による翔の為のスケーター量産計画の第一歩。なお賛同者は現状ハルトしかいない。
・翔が料理を教えた子供たち
店の手伝いをしながら翔の料理技術を叩き込まれた勉強熱心な子供たち。なおスイーツの作り方を最初に叩き込んだのは子供たちの希望。
その理由は自分で作って自分で食べたいだけなのは彼らだけの秘密。お茶の淹れ方はそのおまけ。
というわけで一ヵ月半ぶりの投稿でした。
………さて、次の投稿はいつになるのかな………。
誤字脱字があったらよろしくお願いします。