もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

28 / 46
かなり短めで申し訳ありません。


番外編2 予想していなかった非日常

~~~番外編3 翔のある日の非日常1~~~

 

 

 今日も翔は店に来て料理を作っていた。しかし、どこか動きがぎこちない。理由としては、彼はかつてないほどに緊張、いや緊迫しているといった方が正しいだろうか。

 原因はいつもと少し違う今の状況だろう。

 

「………(スッ)」

「………ッ!?(ビクッ!)」

「………(スゥ)」

「………(ホッ)」

 

 翔がいる厨房には普段はいない人物が、見学と称して見に来ているのだ。

 その人物というのは、彼自身よく知っている者だ。だが、だからこそ逆に気が気でないのだ。

 その人物、()()は翔が最もここに入れたくないと考えている人物だ。

 

「………なんでそんなに汗をかいてるの?」

「え?い、いや………厨房って暑いからさ………」

 

 食欲の化身が後ろに居るからとは口が裂けても言えない、と考えながらどうにか注文を消化していく。

 そう。翔の所属するコミュニティ〝ノーネーム〟の現リーダーであり、連盟の頭首こと春日部耀が、翔の店の厨房に見学に来ているのだ………!

 つまみ食い等をされないように、後ろに気を配りながら調理をするのはかなり精神がすり減る。今のところ問題が無いのだが、その動作一つ一つに体が反応して強張ってしまうということを繰り返している。

 

「………いつもこんなに忙しいの?」

「………まあ、こんなもんだな。食材の持ち込みがあればさらに忙しくなるが」

 

 下拵え済みの料理に最後の仕上げをして、店員のドライアドに持っていってもらう。

 

「………あの店員さんたちは?」

「パークにいるトレント爺がいつの間にか生み出してたんだ。ちょっと数が多かったから、一部はこの店を手伝ってもらうことにしたんだ。ちゃんと給料代わりの報酬は支払っているからな?」

「あの人たちからギフトを貰ったらどうなるんだろう?」

「………〝光合成〟とか〝植物操作〟とかかな?あ、でもトレント爺から生まれたのか。ならあの果実のギフトも持っているかもしれない、のか?」

「………?あの果実?」

「あー、聖書とかで言う『エデンの園の禁断の果実』って奴?」

「生命の樹と知識の樹の果実のこと?」

「そう、それ。それのハイブリット」

「………つまり?」

「食べただけで永遠の命と無限の知識が手に入るヤバい果実。それが彼女たちの親に生る実だよ」

「うん。彼女達には触らないようにする」

 

 流石に彼女も不老不死と全知にはなりたくないようだ。

 聞きたいことを聞いたからなのか、大人しく座る耀。

 沈黙する二人。

 此処にある食材が食い荒らされないかどうかが、翔は不安で仕方ない。

 

「………何か手伝おうか?」

「ん?いや、大丈夫だ。これぐらいならもう手慣れてるし」

 

 耀の問いかけに顔を彼女の方に向けずに、声だけで返答する翔。

 そして、厨房には調理音だけが響く。

 

(き、気まずい………。この状況、予想以上に気まずいぞ………!?なんだこの状況!?どうしてこうなったんだっけ!?)

 

 このような状況に陥ったわけは、前日に遡る。

 

 

 

 

 前日の夜。翔の部屋のドアがノックされる。

 

「翔」

「ん?耀か。どうぞー」

 

 翔は訪れた人物をすぐに理解し、部屋に招き入れる。まあ、耀は彼が返答する前にドアを開けて入ってきているのだが。

 

「………いや、もう何も言うまい」

「………?どうかした?」

「なんでもない。それで、何か用か?」

「うん。明日、翔の店を見学させて」

「……………………………はい?なんで?」

「お茶会の下見と、翔がどんな風に働いてるのか気になったから」

「………まあ、いいけど………邪魔だけはしないでくれよ?」

「わかってる」

 

 

 

 

 そんなこんなで店に来ることを許してしまった翔。しかし、まさか厨房内で見学なんてするとは夢にも思わず………。

 

「あー、見てて楽しい?」

「そこそこ楽しい」

「あ、そうですか………」

 

 〝楽しい〟とはっきり言われて何も言えなくなる翔。その後は何かを話すことも無く、静かな時間が過ぎる。

 そして昼が近くなり、客足も増す時間帯。先ほどにも増して忙しなく手を動かす翔。

 そんな翔を見て、再び疑問が頭に浮かぶ耀。

 

「………翔って、食事ってちゃんと食べてるの?」

「ギクッ」

 

 口から声を漏らすほどに焦る翔。そんな彼をジト目で見つめる耀。

 

「………もしかして、食べてないの?」

「い、いや、ほら、リスポーンすれば万事解決だからさ?平気平気………」

 

 だんだんと語尾が小さくなっていき、バツが悪そうな顔をする翔。その言葉が普段はどのようにしているのかを如実に物語っていた。

 後ろからでも焦っているのが分かるほど、翔の声は早口だった。

 耀はそんな彼を呆れた表情で見ながら、溜め息を吐く。

 

「みんな心配しちゃうから、気を付けてね?」

「ウッス………」

 

 どんなに問題なくても、心配は心配なのだ。それは彼女も同じだ。

 翔は申し訳なさそうに返事をすると、今盛り付けていた料理を耀の前に置く。

 

「………?なに、これ?」

「耀の昼食」

「………いいの?」

「どうせ食材は多少は余るようにしてるしな。残るよりは食べてもらった方がいい。まあ、たとえ残っても本拠で使う予定だ」

 

 そういって、増え続ける注文を捌きに戻る翔。耀は料理と翔を交互に見つめると、料理を食べ始める。かと思いきや。

 

「あーん」

「………あの、耀さん?何をしておいでで?」

「………?料理を食べさせようとしてる」

 

 翔の隣には、フォークに料理を刺して彼に差し出している耀がいた。

 

「いや、だから俺はリスポーンすれば―――」

「あーん」

「いや、その―――」

「あーん」

「………………あーん」

 

 流石にこれ以上傍に居られると集中できないと判断した翔は、観念して差し出された料理を食べる。

 

「うん。一口ぐらい食べなきゃダメだよ」

「一口食べたんで、今は勘弁してください。これ以上は料理が焦げそうになるんで。客足が落ち着いたらちゃんとしたものを食べるから」

 

 翔がちゃんと食べたことに満足したのか、耀は先ほどの場所に戻って料理を食べ始める。

 ………流石に恥ずかしかったのか、その顔はほんのり赤く染まっていたのは、耀自身も知らない。

 

 

 

 その後、店は夜遅くまで続け、帰れる頃にはすっかり陽が沈み、耀も寝ていて仕方なく翔が背負って本拠まで運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

~~~番外編4 翔のある日の非日常2~~~

 

 

 この日もまた、翔は店に来ていた。もちろん開店準備のためだ。しかし、そこには翔以外の人影も多くあった。

 

「んー♪やっぱり美味しいね!お兄さんのクッキー!」

「ふむ、美味いな」

「………無駄に美味いのが憎たらしい………!」

「………フン」

「キハハハ!顔に似合わず主夫してんだな、お前!」

「………♪」

「突然来てすみません、翔さん………」

 

 今、彼の店の厨房の奥の休憩スペースとして使っている場所で、ある一団を匿わされている。

 

「本当だよ………来られるこっちの身にもなって、事前に予約ぐらいしてくれよ………」

「あっ、予約したらいいんだ?」

「そりゃあな。客として扱う分には、お前らは無害と判断してるし」

「………ふぅん?害があるって判断したら?」

「一生、別世界(パーク)に閉じ込める」

「やっぱ油断ならないねぇ、お兄さんは」

「そしてスケーターとしての教育を施す」

「………お兄さんって敵には容赦ないよね」

「褒めてもクッキーと紅茶しか出ねえぞ?」

「わーい♪でも褒めたつもりは一切ないよ!」

 

 差し出されたクッキーを嬉しそうに頬張る()()

 そう今の翔の店には、殿下を始めとする魔王連盟の連中が来ている。いや、ある意味では〝元〟を付けた方がいいのかもしれないが。

 その場には殿下、リン、アウラ、グライア=グライフ、混世魔王、ペスト、ジンがいた。

 リンとペストは美味しそうにクッキーを貪る。

 アウラ、グライアの二人は不機嫌そうに座っているが、こちらもまたクッキーを食べている。

 混世魔王は皆を見ながら楽しそうにクッキーを食べている。

 ジンも申し訳なさそうにしているが、彼の手もまたクッキーに伸びている。

 結論。この場にいる連中は全員、翔の手作りクッキーを食べている。

 ………果たしてこの者たちは、こんなことでいいのだろうか?

 

「まあ来たからにはゆっくりしていけ。追い出す気は更々ないし、金を取るつもりもない」

「あれ?いいの?」

「所詮クッキーと紅茶だ。大して良いもんを使ってるわけじゃない。それぐらいの損害は気にならない程度には稼いでる。でも、それ以外が欲しいなら金を払え」

 

 それよりも、と言いながらある一人に視線を向ける翔。他の皆もそれにつられて視線を向ける。………視線を向けられている本人以外は。

 視線を向けられている人物、ペストも周囲の視線に気づいたのか慌てながらも皆を問いただす。

 

「………な、なによ?」

「アイツ、あんなに俺の料理を美味しそうに食べるっけ?あんな誰にも見せたことが無いような笑顔で、嬉しそうに頬張るっけ?」

「しばらく翔さんの料理を食べられないからって、軽く幼児退行していた時期もありましたよ」

「うっそだろ?あいつが?なにそれ?超見たかったんだけど」

「ちょっと!?聞こえてるわよ!?」

「「聞こえるように言ってんだよ(言ってるんだよ)」」

「死ね!!」

「うわぁ~。なんかもう懐かしいな、この癇癪も」

 

 顔を赤くしながら黒い風を飛ばしてくるペスト。それを日々磨いている変態機動で避ける翔。

 

「ていうかお兄さん?こんなところで油売ってていいの?」

「いいのいいの。昼休憩兼仕込中のプレート出してるし。それに基本的に気分でやってる店だし」

 

 たまには店でのんびりしてもいいでしょ、と椅子に座ってコーヒーを飲み始める翔。

 そんな彼を見てリンが一言尋ねる。

 

「………暇なの?」

「忙しいに決まってるだろ。でも、お前らがいたらさすがに集中できんよ」

 

 だから休憩、と二杯目に突入したコーヒーを飲む。

 リンもふぅん、と呟いて興味を無くして、再びクッキーを食べる作業に戻った。

 

「あっ、こっちからも一つ聞いて良いか?」

「ん?いいよ。クッキーのお礼としてなんでも一つ答えてあげる!」

「お、マジで?」

「ちょっと、リン?そんなこと言っていいのかしら?」

「大丈夫大丈夫!この人、情報ばら撒くような度胸の無いチキンだから!」

「ゴミ箱先輩に食わせてやろうか、テメェ?」

 

 翔がゴミ箱先輩片手にリンを脅す。

 彼女はすぐに、冗談だよ冗談!と言って翔に質問を促す。

 

「………旧〝     〟が封印していたとされる魔王の封印塚を破壊しまわっているのはお前らか?」

「………あー、それを聞いてくるんだ?」

「もち。むしろ今、それ以外に聞きたいことはないね!」

「はぁ、だから言ったのに………」

「フン。コイツはコイツで存外食えない奴だというのに」

「キハハハハハ!!」

 

 バツが悪そうな表情を浮かべるリン。それを見たアウラとグライアが彼女を責めるような眼で見る。逆に混世魔王は愉快そうな笑い声を上げていた。

 さあ答えやがれ!と、彼女に返答を促す翔。しかし、彼の質問に答えたのはリンではなかった。

 

「ああ。俺達で合っている」

「で、殿下!?」

 

 殿下が翔の疑問に答えた。それにリンは驚き、目を見開いて殿下を見る。

 

「リン。お前がなんでも一つ答えると言ったんだ。なら、答えるのが普通だろう」

「そ、そうだけど!そうだけどッ!!」

 

 自身の主に対してはあまり強気に出られないリン。そんな二人を見て、笑いながら一言呟く。

 

「そうか。なら安心した」

 

 その言葉にその場の全員が言葉を失った。

 安心?誰が?何に?

 その言葉の意味を聞くためにリンが口を開く。

 

「………………え、安心?なんで?」

「まだお前らなら、俺は信用できるから。他の魔王とかに奪われてるとかよりは、断然マシだ」

 

 そういって屈託のないを笑みを浮かべる翔。

 その言葉に一同は呆けた顔をする。まさかそんなことを言われるとは一切合切、思っていなかったからだ。

 翔はその答えに満足したのか、改めて心身ともに落ち着かせてコーヒーを啜る。

 

「やっぱりお兄さんは面白いねー」

「………誉め言葉として受け取っておく。本音を言えば受け取りたくはないけど」

 

 残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がる翔。

 

「そろそろ店を再開するから、満足したら裏口から出ろ。それといつでも食べに来い。食べにくる分には客として扱ってやる。ただし開店前に裏口から頼むよ。ペストも、いつでも来てもいいからな」

 

 それだけ言い残して厨房に戻る翔。それを静かに見送る一同。

 

「よかったね、ペスト」

「………ふ、ふん!別に食べたいわけじゃ………」

「ふぅん?ならこれで最後でもいいよね?」

「………あぅ………でも、たまに、来たいかな、って………」

 

 今にも消えそうな小さな声で呟くペスト。その顔は伏せてこそいるが、それでもはっきりわかるほどに真っ赤に染まっていた。

 そんな彼女を見て、周囲の者たちは一様に優しげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 その後、クッキーを袋に詰め込んだ一同は、翔の店を後にした。

 

「ア、アイツら………山ほど作ったクッキー、全部持ってったのか?嘘だろ?……………………あー!?隠してあったケーキも無えし!?ザッケンなよアイツらッ!!!こんなことになるならパークにしまっておけばよかったッ!!次来たら覚えてろよアイツらッ!!!」

 

 てんこ盛りにしてあったはずのクッキーが消え去っているのと、コミュニティの子供たちのために作ってあったケーキが消えているのを見て、愕然とした翔がいたとかいなかったとか。

 

 

 




翔「主人公の板乗翔だ」
猫「作者の猫屋敷の召使いです」
翔「………今日はかなり短いんだな」
猫「ネタが思いつかなくてね。思いつかないからこのまま投稿しちゃえと思った次第です、はい」
翔「おい」
猫「それよりも次の番外編を書きたくて仕方なかったんやッ!許してぇな!!」
翔「あーはいはい。で?次はどんな番外編なんだ?」
猫「翔の『スケボー実験記録 最新版』的な感じの奴を予定してる」
翔「………………え?」
猫「これが思いの外出し渋ってたネタを出すのが捗る捗る」
翔「俺の大事な資料を公開しようとしてんじゃねえよ!?つか、資料が見つからないと思ったらお前が犯人かよ!?」
猫「大変楽しく読ませていただきました。現在まとめ作業中だ」
翔「テメッ!それ返しやがれ!!」
猫「後でね。多分次話が投稿された時に返すと思う」
翔「それじゃ遅いだろうがよ!?今すぐ返しやがれ!!」
猫「いやだね。あ、それと質問受付中です。何かあれば聞いてください。感想返しも次回予定してますのでよろしくお願いします。ではまた次回!サラダバー!」
翔「あっこの野郎………!!待ちやがれ!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。