もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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さっさとギャグを書きたかったんです。ごめんなさい許して。三話同時投稿です。お気をつけてください。


第二十四話 早く真面目を終わらせたかったんです。許して

『……………』

「………ゴホッ」

 

 気管からか食道からかせりあがってくる血を吐き出しつつも、二本の足でなんとか地面を踏みしめている翔。

 対する三頭龍には、小さいが傷のようなものが二か所。

 

『………私に傷をつけるとはな。そのうえ分身体も一瞬のうちに処理したか。褒めてやろう』

「そりゃ、どうも………!その褒美として、この場から退いてくれません、かねえ………ッ!」

『戯言を。無理な話だと分かっているのだろう?』

「ハッ、言ってみた、だけだ………!こちとら、強がるのが、精一杯なんだよ………!」

 

 何とか声を絞り出しているが、立っているのがやっとの翔。

 そんな彼の横を通って黄金杖を取りに向かう三頭龍。

 彼が通り過ぎた瞬間に、完全に限界を迎えたのか、前のめりに倒れる翔。無理にギフトを使って脳を酷使させ過ぎたのだろう。

 

『……………』

 

 倒れた翔を一瞥して、〝ケーリュケイオン〟の黄金杖を手にする三頭龍。

 

 

『ギフトゲーム〝GREEK MYTHS of GRIFFIN〟

 上記のゲームがクリアされたことをお知らせします。

 勝者:アジ=ダカーハ。

 達成条件:宝の奪取。

 主催者側の責任者・サラ=ドルトレイクは速やかに恩恵の授与に移行してください』

 

 

 その瞬間。

 全ての戦闘行動が中断された。

 

『………フン』

 

 三頭龍は〝契約書類〟を見て鼻を鳴らす。

 そして、倒れている翔に止めを刺さずにその場を飛び去る。

 

「ク、ソ………茶の礼、のつもりかよ………あの変温動物野郎が………ッ」

 

 もう体も脳も限界を迎えているはず。だが、彼は三頭龍の態度が気に入らなかったのか、意地だけで無理やり体を起こす。ゲームのクリアによる強制力によって、移動こそできないが何とか立つことが出来た。

 

「覚悟しろよッ………最後の最後まで、邪魔してやっからよ………ッ」

 

 眼に力強い闘志を宿して、体を酷使する。最後のアドレナリンを握りしめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく動けるようになり、建物の外へと出る翔。視線の先には大嵐の化身となった煉瓦の双頭龍が暴れていた。

 丁度フェイスレスが一人で飛び掛かるところだった。

 しかし、翔は気にすることなく狙いを定めるように腕を構えると―――

 

「―――――円錐生成。力場・斥力と風。強度・測定不能(infinity)。………演算、スタート」

 

 ―――生成した円錐を、射出した。

 

 通常ではありえないほど強力な力で押し出された円錐は、一瞬で姿を消し、邪魔な建物を貫通しながら、誰にも目撃されることなく―――双頭龍を貫いた。

 

「………ッ!?」

 

 フェイスレスは突如眼前で息絶えた双頭龍に驚きと動揺を隠せなかった。すぐに周囲に目を向けると、遠くの方で翔が倒れるのを見つける。

 今までやらなかった、最大強度でのギフトの暴走行使。しかも力場を二つ併用してだ。相当な負荷が脳に掛かってしまったのだろう。彼の意識は一瞬で闇に沈んでいった。

 

『……………ッ』

 

 流石の三頭龍も予想外だったのか、息を呑んだ。龍格を与えた双頭龍が、いとも簡単に倒されたのだ。驚きや動揺の一つぐらいはするだろう。

 フェイスレスは倒れた翔の下へ向かい、彼を回収する。

 

「………お礼は、貴方が目を覚ましたら言わせていただきます」

 

 フェイスレスは意識の無い翔にそう告げて、耀とジャックの下へ向かった。

 

「翔ッ!?な、なんで此処に!?いや、それよりもどうしてこんなに………!?」

「………レティシアから口止めされていましたが、彼は地上でずっとアジ=ダカーハの相手をしていました。ゲームの攻略速度を少しでも遅らせる為に」

「ッ!!」

「その結果がこの負傷でしょう。彼が怪我を直さないのは、何らかの理由でギフトが使えないからかもしれません」

「そ、そんなッ………」

 

 耀が心配そうな表情で翔を見つめる。

 こんなことは初めてだ。リスポーンできない状態で死んだら、翔本人ですらどうなるかはわからない。

 だからこそ、耀は心配した。

 翔が死ぬかもしれない。そんな恐怖に襲われた。

 だがそこに、龍角の双頭龍が倒されたことに焦ったのか、空から純白の双頭龍が落下してきた。

 

「ッ!春日部さんッ!」

「え、あ、うん………」

 

 まだ事態を飲み込みきれてない耀が曖昧な返事をする。と、その時。

 見えない攻撃でうち一体が消し飛んだ。

 

「「ッ!」」

「………最後の、一発、だな」

「ッ!?翔、起きたの!?」

「お前らが耳元で騒ぐから、起こされたんだよ………ほら、俺のことはいいから、行け………」

「………うん。わかった。だから、寝ないでよ?」

「アハハ………保障、できない」

「寝たら一年間私の専属料理人」

「起きてますはい。絶対寝ません」

 

 耀の言葉に翔が即答する。彼女は満足そうな、けれどもどこか残念そうな表情で頷くと、双頭龍の迎撃に向かった。

 その背中を見送る翔。

 

「あんなこと言われちゃ、おちおち寝て休むことも出来ないな」

 

 脳を酷使し過ぎたからか、彼の目や耳からは血が流れていた。

 

「あー頭ン中掻き回されてるみたいで気持ち悪い。………なあなあジャックよ。話くらいはできるよな?頼むから出来るって言ってくれ。でないとマジで寝そうになるから。独り言は寂しいんだよ畜生」

「………ええ。何とか、話ぐらいならできますよ」

「そりゃよかった。これで寝なくて済みそうだ」

 

 アドレナリンが切れてないのか、心臓が鬱陶しく感じるぐらい五月蠅い。代わりに痛みは感じないが、どんどん血が流れていって、体温が下がっていくのが分かる。

 翔はパークから止血剤と造血剤を取り出して、手当てする。

 

「ジャックも手当てしてやろうか?」

「………いえ、結構です。私は、覚悟を決めたので」

 

 そういうジャックの目には強い意志が見られた。それを見て翔は理解したのか、苦笑する。

 

「皆、悲しんじまうぞ?」

「その時は、翔さんに全部お任せしますヨ」

「………面倒な役回りを押し付けるなよなー。……………本当に、やる気なのか?」

「ええ。どうしようもなくなれば、迷わずやります」

「………その『どうしようもない』状況にならないことを祈るよ」

「ヤホホ………もしそうなったら、恥ずかしいですね」

「安心しろ。そんときゃ盛大に皆に酒のつまみとして提供してから、墓場に持っていくからよ」

「そうしたら、そうなる前に翔さんをどうにかして殺さないといけませんね」

 

 どちらも死にそうだというのに、どうでもいい会話をする二人。

 そんな談笑をしていると、落下する三頭龍が極光を放とうとしていた。

 

「ああ。あれは、マズいですね………」

「だからといって、俺らじゃどうにもできんだろう。仲間を、信じよう。………ああ、でも、結局」

「ええ。お別れのようですね」

 

 たとえ、誰かがあの極光を止めたとしても、その後の追撃を避けられるとは思えない。それこそ―――誰かが庇わない限り。

 ジャックが瀕死の身体を無理やり動かして立ち上がる。

 

「………ジャック。お前のことは、忘れない。楽しかったよ」

「それは此方のセリフです。貴方たちにはいつも驚かされてばかりでした」

「本当なら此処で、酒の一つでもあれば、別れとしては最高なんだがな」

 

 血だらけの顔で笑みを浮かべる翔。目は流した血のせいで赤く染まっていた。

 空では耀が極光の軌道を変えて、空中城塞を掠めて地平線へと飛んでいった。

 

「………それでは」

「………ああ。俺が死んだら死後の世界を案内してくれよ」

 

 叶わぬ願いを冗談として口に出す翔。

 ………本当に、叶えばいいな。そう思いながら。

 

 そうしてジャックは魔王となり、悪神の心臓を剥き出しにし、その存在を消した。

 翔は三頭龍とジャックの攻防を一瞬たりとも逃さず見守った。ジャックの雄姿を目に焼き付けるために。

 

「………グッバイ、ジャック。子供たちは連盟の仲間として、ちゃんと気にかけてやるよ」

 

 ジャックがいた虚空を見つめながら呟く。と、ふと視界が霞む。

 

「あ、これはヤバい。処置以前に流した血の量が多かったかな?それとも、暴走させすぎて脳に負荷がかかり過ぎたかな?あー、意識、が、遠、退く………」

 

 寝たんじゃなくて気絶だから許されるかな?などと、もう十六夜達の勝利を信じている翔は、耀の罰ゲームのことを考えながら、そのまま意識を無くした。

 

 

 

 

 

 

 

「………知らない天井、ではないな。うん」

 

 翔が起きて最初に目にしたものは、見慣れた天井であった。その天井は本拠の自室として使わせてもらっている部屋のものであった。

 ………ネタを言えなかったことを少し残念に思いながらも、体を起こす翔。

 窓からは月の明かりが辛うじて入ってきている。もうかなり夜が更けた時間帯なのだろう。

 自分がここに居るということは、無事に三頭龍に勝利したのだろう。

 だが、あれからどれほどの時間が経過したのかが全く分からない。どれほどの時間、昏睡状態だったのかも。

 と、そこで自分以外の呼気が部屋から聞こえるのに気が付く。部屋が暗くて先ほどまで目が慣れていなかったので、周囲を確認できていなかったが、今ならわかる。

 

「すぅ………すぅ………」

(………耀か。レティシアの時みたいに、交代しながら看病してたのかね?)

 

 壁に椅子を寄せて、凭れ掛かりながら寝ている耀の姿が見えた。

 そして、いまさらながら自分の状態を確認する。

 今の翔はほぼ全身が包帯で巻かれており、外気に触れている部分が顔ぐらいしかなかった。だが、外傷は大きなもの以外はほぼ治りかけており、骨の固定の意味合いの方が強そうだった。無意識にですらリスポーンはできなかったようだ。

 

(ふはは………自分のことながら随分と無茶したなぁ。皆に心配されたくないのと、怒らせたくないっていう二つの理由でレティシアに口止めしたけど、これじゃあどっちにしろ怒られそうだな………。それに結局、心配させたしなぁ………)

 

 意識を無くす前の記憶を思い起こす。

 

(ああ、でも。アジ=ダカーハとのお茶会はちょっと楽しかったな。あの恐ろしい魔王が変温動物だなんて、誰も思わないよなぁ………)

 

 思い出して自然と頬が緩んでしまう翔。

 

(あ、結局アドレナリン全部使っちゃったや。箱庭で手に入るかな?今度女性店員に聞いてみるか)

 

 三頭龍との短い攻防の中で、最初の一本を除く五本すべてを使ってしまうとは思いもよらなかった。普通に量も気にせずどんどん使っていた。だが、それが無ければ三頭龍とはまともにやり合えなかったのも、また事実だった。

 

(………ああ。すごい本拠から逃げ出したい。でも、絶対にすぐ捕まるな。感覚的にギフトが使える状態じゃないし。思った以上に暴走させたことの反動が大きい………)

 

 これじゃしばらくスケボーが出来ないな。と、非常に残念に思う翔。

 窓からは陽の光が徐々に差し込んできている。かなり長い時間考え込んでいたようだ。

 と、その時。

 

「……………」

(あ………)

 

 耀の頭が壁を伝って滑っていき、

 

 ゴンッ!

 

 と、痛そうな音を響かせて床に頭を打った。流石にその衝撃で目を覚ました耀。

 ぶつけた額を押さえながら、体を起こす。そこで、翔と目が合う。

 

「………」

「おはよう。俺が意識を失ってから、どれぐらい経ってるんだ?」

「……………」

「………?耀?聞こえてるんだよな?もしもーし?」

 

 ひらひらー、と耀に向けて手を振ってみる。すると耀は翔の顔に手を伸ばし、

 

「………ひゃにをひゅる(なにをする)

 

 翔の頬を抓った。

 

「…………夢じゃない?」

ひゅめひゃない(夢じゃない)

 

 翔も仕返しとして耀の頬を抓る。

 これが現実だと理解した耀は、翔の手を振り払い部屋から飛び出すと、

 

『十六夜ー!!飛鳥ー!!黒ウサギー!!翔が起きたあぁぁ!!』

 

 声を張り上げて建物内を駆ける耀。その後すぐに、ドタバタガタンッ!と騒がしい音が近づいて来る。

 そして、ドアが壊れそうな勢いで開けられる。

 

「「「「………………」」」」

「……………?」

 

 四人がドアを開けたと思ったら、部屋には入らずに翔のことを見つめる。

 

「おはよー。ところで、俺が意識失ってからどれぐらい?」

「「「………ハアアアァァァァァ」」」

「………?」

 

 十六夜以外の三人が溜め息を吐く。その反応にどうしたらいいのか分からず、首を傾げる翔。

 

「あの?マジであの後どうなったか知りたいんだけど?ジャックの雄姿は目に焼き付けたんだが、それ以降は意識失ったから話を聞かせて―――」

「「「正座」」」

「………………はい」

 

 女性陣三人に睨まれながら命令された翔は大人しく従った。

 しかし、なんだか日常に戻った気がして、嬉しく感じていた。

 

 

 

 その後、三人の説教は交代しながら夜まで続いた。

 ………食事?あるわけがなかった。

 ちなみに意識を失っていたのは二週間だったそうだ。

 それは皆心配するわ、と反省した翔であった。

 




翔 「おいサブタイ」
作者「ごめんなさい!本当に真面目を書きたくない衝動に駆られて、さっさと終わらせたかったんです!!」
翔 「…………」
作者「とりあえずこれで最終決戦は終わりです!これから『軍神の進路相談です!』を書き始めていきます!今後ともよろしくお願いします!!学校がもうすぐ始まるので更新速度が遅くなるかもしれませんが!!それじゃ!」
翔 「あっ!?逃げんなこのクソ召使い!」

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