もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

21 / 46
第二十一話 五四五四五外門のとある喫茶店には気を付けろ

 翔はカフェに居座り、十六夜達の視界をジャックしていた。依然としてテーブルにはド○ペがある。

 その中で、気になる人物の姿を捉える。その視点の主はジンであった。その人物たちの姿を認識した翔は、眉を顰める。

 

「………こいつら、何が目的だ」

 

 以前、〝アンダーウッド〟で見た白髪の少年とその傍に控えていた少女の姿が、ジンとペストとサンドラと共にあった。

 

「………誰かに伝えるべきか?だがそれを感づかれたら、ジン達に危害が及ぶかもしれないから迂闊には動けないな。………あぁ、メンドクサ。十六夜に伝えて、そのあと偶然を装ってジンとペストに合流するか?」

 

 視界ジャックをやめて、ぼぉー、と頬杖を突きながら窓の外を見つつ考える翔。………なぜか勝手に提供されてくるド○ペを片手に。

 

「おかわりはいかがですかー?」

「まだある。それと対面に座るな腹黒店員」

「やだなぁー、私は店員じゃなくて店長ですよー♪」

「………腹黒は認めんだな」

「…………………………………………あっ、腹黒でもないですよー?」

「否定が遅ぇよ」

 

 そういってカップの中のド○ペを飲み干す翔。すると気がつくと次のド○ペがテーブルに置かれている。彼はド○ペと目の前の店員改め店長を交互に見る。

 

「………………………なにこの『わんこド○ペ』みたいな状態。終了を希望するんだが?」

「えー?いいじゃないですかー。もう少しここに居てくださいよー。この飲み物こんなに飲んでくれる人って、全然いないから嬉しいんですよー」

「俺はこの数の空のカップを見ても、そんなこと言えるアンタの目を疑わざるを得ないんだが?」

 

 翔のテーブルには軽く百は超える数のカップが置かれていた。勿論、置ききれなくなって回収されたのもあるが、それでもこの数なのだ。

 それを目にしても、にこやかに笑いながら話しかけてくる店長。

 そんな彼女の態度を見て、再び窓の外に目を向ける翔。

 

「そういえば、なんでこの店にこういう飲み物があるんだ?」

「企業秘密です♪」

「……………」

 

 笑顔を変えずに、人差し指を唇に当てながら答える店長。それを横目で見ながら興味を失ったように、人が行きかう通りを見つめる。

 

「………先ほどの様子から見ると、大分落ち着きましたね?達観でもしたんですか?」

「達観じゃなくて諦観。悟りではなく諦めだ、店長殿」

 

 店長の方に目も顔も向けずに通りを眺め続ける翔。それを聞くとクスクスと笑う店長。

 

「つか、店長仕事しろ」

「それもそうですねー。お代わりが欲しくなったら「もういい。飲み過ぎて腹ン中がタプタプ言ってるんだよ」残念です………私とは遊びだったんですね………」

 

 そう言って目じりに涙を浮かべる店長。そんな彼女の表情を見た周囲の客が、翔のことを責め始める。

 

「おいおい兄ちゃん。女を泣かせるなんざ許されねえぜ?」

「そのうえ遊びだったとは、なおさら許されねえよなぁ?」

「え?これって俺が悪いの?」

 

 なぜ自分が責められているのかわからず、仕方なく店長に声をかける。

 

「あー、店長………悪かったな」

「いえ、大丈夫ですよ………」

「ついでに、あそこの二人に『わんこド○ペ』を俺の奢りで。女性を泣かせるという大失態を指摘してくれた礼として」

「は~い♪」

 

 店長は嬉しそうな表情に早変わりして、テーブルの上にあったカップを一瞬のうちに全て回収して、カウンターの奥の厨房へと消えていく。

 彼女の背中を見送った男性客二人は、

 

「「じゃあ、俺らはこれぐらいで」」

 

 と言って席を立とうとする。しかし、

 

「おや?人の好意を無下にするのか?そいつは悲しいなあ?」

「そうだなぁ。男らしくねえよ」

「ただより美味いもんはないんだぜ?何も言わずに受け取っておけよ」

 

 翔をはじめとする周囲の客が今度は二人を責める。

 

「俺はアレをもう一度飲むなんて嫌だ!」

「俺も同じだ!」

「まあまあ、落ち着けよ。俺がいたところでは、ド○ペはこういう風に言われるんだ。『三回飲めば癖になる』ってな。………だから、最低でもあと二回は飲もうぜ?」

 

 逃げようとした二人をイイ笑顔の翔が肩を摑んで、無理やり席に座らせる。

 

「お待たせしました~♪」

「んじゃ、レッツトライ♪」

「あ、『わんこド○ペ』は最低十杯ですので、忘れずに!」

「「…………」」

「それじゃあ、店長。金はここに置いていくな。ごちそうさん」

「またのご来店、お迎えに上がりまーす!」

「来なくていいぞ~」

「貴方の方から迎えに来てくれるだなんて………きゃっ♪」

「どう聞いたらそう解釈するんだよ………目だけじゃなく耳も危ないんじゃねえか?」

 

 代金をテーブルに置いて店を後にする翔。

 後ろから野太い悲鳴が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

 そしてその日、ド○ター○ッパー中毒者が新たに二人生まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翔はカフェを出ると、当てもなくフラフラと歩きまわる。頭の中では十六夜を探すか、ジン達と合流するかを迷っている。視界ジャックでチラチラとそれぞれ覗いているのだが、ジンとペストの方は何故か風呂に、対する十六夜は〝混〟一文字を着た誰かを追っている。片方は社会的に入れず。片方は速度的に追えず。どこかで時間を潰そうにも、何かが起きた場合すぐに動けるようでなければ意味がない。………先ほどまでカフェに入り浸っていた者が言っていいのかは分からんが。

 仕方ないので、傍にあったベンチに腰掛ける。

 

「………視界を覗いても初めての場所じゃ特定は無理だな。十六夜はしばらくはかかりそうだし、ジンかペストだな。うまい具合に分かれてくんねえかな?」

 

 自身の希望を口にする。が、そんなうまくはいかないだろうと諦める。

 

(そもそもあいつらの目的は?ペストの口を封じるんなら簡単にやれるはずだ。ジンを消すのも同じだ。サンドラは………難しいかもしれないが、以前見た戦力的には問題はないはずだ。なら………この都市自体に目的が存在するか、あの三人をどうにかしたいのか?それも殺すのではなく、生かす必要がある?………やっぱ情報足りねえな。いくら考えても答えなんて出るわけない。それに少女の方は頭の回転もよさそうだし、俺なんかじゃいくら考えても裏をかけるとは思えねえな………いや、むしろ自然体の方が裏をかける?………って、そんなわけねえよな)

 

 考えるのが馬鹿らしくなり思考を中断させて、空を仰ぐ。

 

「ま、ジンか十六夜あたりがどうにかしてくれるかね?」

 

 全部投げた。思考を放棄して、コミュニティのブレインの二人にすべて任せた。視界ジャックもやるだけやってもまた気になり始めるので、やめることにした翔。

 

「そうと決まれば観光観光♪展示回廊はなんて言ったかな?たしか〝星海の石碑〟?だっけ」

 

 そう決めた翔は鼻歌交じりで、通行人に道を聞きながら展示品の鑑賞に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――箱庭五四五四五外門舞台区画・〝星海の石碑〟展示回廊入場口。

 

「―――それで。本当はどういうつもりなの、リン」

「ふぇ?」

 

 カフェテラスの端っこで、小さい両頬に黄金芋のタルトを詰め込んでいたリンは、突然の質問に手を止めた。真剣な話をしようとしたペストは、毒気を抜かれたように溜息を吐く。

 ペストとリンの二人は今、ジン達と二手に分かれていた。

 ジン、サンドラ、殿下の三人は展示回廊の中の現場を確認しに行き、ペストとリンの二人は入り口で待機。

 しかしそれでは暇だからと、〝サラマンドラ〟名物の黄金芋のタルトを食べていたのだ。何処までが本気なのか定かではないが、ペストはもう一度だけ気合を入れて問い直す。

 

「貴女たちがこの街に来た目的は分かっているわ。なのにいつまでこの茶番を続けるの、と聞いているのよ」

「おお、それは面白い発言だね。ペストちゃんは私たちの目的が何か分かってるんだ?」

 

 驚いたなー意外だなー!と微笑むリン。

 ワンテンポもツーテンポもずらしたようなしゃべり方だが、これはこの少女の会話術だ。はぐらかされない様にペストはもう一歩踏み込んで問う。

 

「言っておくけど、この展示回廊には〝ノーネーム〟のメンバーが全員向かって来ているわ。その中の一人でも合流できれば、逃げ切ることも不可能じゃない。そうなれば〝階層支配者〟の奇襲も失敗。また追い返されるのがオチよ」

 

 悠々とした余裕の笑みを浮かべるペスト。

 ―――当然だが、彼女が口にしたのは偽情報だ。少しでもリンに揺さぶりをかけようとしたものである。それが嘘から出た真になっていることを、ペストはまだ知らない。

 リンはしばらく考えたふりを見せてから、悪戯っぽく笑った。

 

「そうだね。そうなったら計画はここで終わりだ」

「そうでしょう?なら今のうちに、」

「うん。ペストちゃんを殺すしか『表蓮華ェェェェェェ!!』な、い?」

 

 空から何かが回転しながら飛来し、突然のことで手にナイフを握ったまま固まるリン。飛来物はそのままカフェテラスに衝突し、上半身が床へとめり込む。

 周囲の客も何が起こったのかと驚き、埋まった人物に注目する。するとその人物は、足をジタバタさせて何とか体を引き抜こうとする。でもすぐに諦めたように動きを止める。だが次の瞬間その場に無傷の状態で現れる。

 

「………ここは何処?」

「というよりさっきの声は一体誰よ?明らかに声が違ったわよね?」

 

 ペストが平然とその人物、翔に話しかける。先ほどの声というのは、【表蓮華】と叫んでいたあの声である。完璧に翔の声とは違っていた。それを不思議に思ったペストが、発生源と思われる翔に尋ねる。

 その問いに対して翔は、

 

「………?なんか叫んでたか、俺?思い当たることが全くないんだが………」

「………もういいわ。いつものことだものね………」

 

 翔には聞こえていなかったようだし、発していたのかもわからないようだ。

 それでは一体、先ほどの声はどこから聞こえてきたのだろうか?周囲の人も不思議そうに首を傾げている。

 翔自身も周りの反応を不思議そうに眺めては小首を傾げ、最後にペストに目をやると、

 

「………?相変わらず変な奴だな」

「………貴方だけには言われたくはないし、その喧嘩は高く買ってあげるわよッ………!!」

「すまん。喧嘩を売ったつもりは全くない。今回は普通に許して。土下座でも何でもしますんで」

「ん?今なんでもするって―――」

「記憶に御座いません。聞き間違いです」

 

 自身の記憶を改竄して、今言ったことを即座に撤回する。

 リンをほったらかしにして、翔とペストは話し込む。

 しかし、そこで翔は気づいた。

 ………なんで、ペストがここに居るんだ?と。ジンとサンドラ、おまけにあの魔王連盟の二人は何処にいるのか。

 そう思い、辺りを見回すと、唖然としているリンの姿が目に入った。そのまま数秒間見つめると翔は、

 

「じゃあ、ここらへんで御暇させてもらうわ。同年代同士楽しめよ」

「ちょっと待ちなさい?」

 

 そそくさと立ち去ろうとする翔の肩を、ペストが思いっきり掴む。それはもう骨の軋む音が聞こえるほどに。

 

「この状況でどこに行こうというのかしら?」

「いや、ちょっと、トイレに………」

「さっきリスポーンしたのだから、尿意も消えてるでしょう?」

「………落とし物しちゃって、いまから取りに………」

「貴方、貴重品は全部パークに入れてるはずよね?」

「……………い、今から耀達の応援に行かないと間に合わないかも………?」

「あら。それならまだ時間はあるし、ここからすぐに行けるから十分間に合うわよ?」

 

 面倒事をどうにか避けようと、必死に考え付いた言い訳が全てペストによって切り伏せられる。

 

 

 

 そうして観念した結果。

 

「「「………」」」

 

 先ほどと同じ、悠々とした余裕の笑みを浮かべるペスト。

 メンドクサそうに顔を歪めながら足を組み、自身の膝に肘をついて頬杖している翔。

 笑みを浮かべて()いるリン。

 その三人が席について向かい合っている。翔は頬杖を突きながらリンに質問する。

 

「それで?聞くけど、お前らの目的は何?ペスト達を殺す意思がないってのは、分かりきっているんだが」

「あ、そうなんだ。ペストちゃんよりかは頭が回るんだね?」

「そりゃどうも。この状況からさっさと離脱したいがね」

 

 依然としてメンドクサそうに話す翔。

 

「でも、そういう風に考えられるなら、答えは目前じゃないの?」

「お生憎、自分の妄想や憶測だけで、ベラベラしゃべるのは嫌いなんだ。だが、あえて言うのなら三人の勧誘か、もしくは強引に連れ去るかだ。あくまでお前はな。殿下とやらが同じ目的なのかは知らんが、まあ、同じなんだろうな」

「ふぅん?何でそう思うの?」

「直接会って話をすれば大体の思惑は分かる。こんなんでも昔は、多くの社長と駆け引きしてたんだ。心の内を読めなきゃ、即刻体罰だ。だから、会ってもいない殿下の目的なんぞ読めるか」

「………クビじゃないんだ」

「ブラックだったからな。やめようにもやめようとした瞬間、脅迫してくるようなブラック上司だったよ」

 

 ハッハッハッハ、と渇いた笑い声を上げる翔。

 

「それじゃあ、私たちの本当の目的も分かってるんじゃないの?」

「………分かっているにしても、わざわざお前に話すと思ってるのか?」

「………んー、お兄さんは本当に分かって言ってるのか、それともただのブラフなのか。それがすごい読みづらいね」

「そうでなきゃ、お前みたいな相手に舌戦を挑もうとはしないさ」

 

 二人が睨み合い、お互いを牽制する。しばらくその状態が続くが、翔の方から目を閉じてにらみ合いを終わらせる。

 

「まあ、勧誘自体は好きにしろ。俺はそいつらの意思を尊重する」

「あれ?そんな簡単に許しちゃうんだ?」

「そいつがコミュニティから離れたいんなら、そこに居場所がなかったってことだろう。なら、居場所を作り切れなかった俺らにも問題がある。その事実を受け入れるだけだ。それでも出来る限り居場所ができるように、努力はしているつもりだが」

 

 注文したコーヒーを飲みながら答える翔。彼の言葉に驚いたような表情をするペスト。翔は彼女の様子に気づかず、コーヒーを飲む。

 

「で、どうするつもりだ?俺らを此処に拘束しておくつもりか?前の時に空から観察して、距離操作だというのは分かっている。確かにお前のギフトなら拘束も可能だろうが、逆に俺はお前を拘束することが出来るぞ?」

「それはちょっと気になるかなー。ねえねえ、どうやって拘束するの?」

 

 リンは興味深そうに翔に詰め寄る。

 

「単純だ。お前をパークに閉じ込めて放置する。あの場所は俺が出そうと思わない限り、出ることはできない。逆に許可なく侵入することもだ。さすがに、水も食料も無ければ死ぬだろ?その点では、お前は俺と相性が悪い。………だから、今日ぐらいは平和に話し合いと行こうぜ?」

 

 へらへら笑いながら話しかける翔。その言葉に一瞬唖然とするが、すぐにへらっと笑うリン。

 

「………意外と優しいんだね?」

「もちろん。正直、お前らの本当の目的の方は、俺の力じゃ、どうにかできそうにもなさそうだ。それにペストが何を望んでいるのかは、あんま興味ない。好きにやってくれ、って感じで放っておいてるし。お前らと手を組んでそれが叶うのなら、別にそれでもいい」

「………っ!?」

 

 驚きのあまり息を呑むペスト。

 

「だから勧誘でも何でも好きにやればいい。だがもし、仲間を傷つけるようなことがあれば、容赦はしない」

 

 十六夜とかがね、と笑いながら付け加えて、コーヒーの残りを飲み干す。

 リンはしばらく翔の顔を見つめていたが、止めたと思うと突然カフェテラスから立ち上がり、席を離れる。

 

「そっか。まあ、兎にも角にも、今日の勧誘活動はここまでにするよ。ペストちゃんにも時間が必要だろうし。私はお暇するから、今日だけ殿下をよろしくね」

「できれば、もう二度と会いたくないんだが、その場合はどうすればいい?」

「知らない♪」

 

 クルリとスカートを靡かせてリンは、雑踏の中に消える。カフェテラスの彼女が座っていた席には、飲みかけのティーカップだけがポツンと残されていた。

 

「………勿体無い。せめて飲み干してから帰れよな」

「………ねえ、変態男」

「その呼び方はやめろ。で、なんだ?」

「………私は、どうするべきなんだろう………?」

 

 翔に問いかけるペスト。その問いに、彼は―――

 

「知るかドアホ。自分で決めろや。さっきも言ったが、お前の目的なんぞ、こちとら微塵も興味ねえの!自分で勝手に好きに自由にやってくれって。俺に聞いてる時点でお門違いだ」

「………それも、そうね」

 

 そう言って、ペストは顔を俯かせる。それを見た翔は気に食わなかったのか、

 

「オラオラ!そんな辛気臭い顔してないで笑え笑え!!」

 

 グシャグシャ!と頭を乱暴に撫でる。そのことを不満に思ってか、なんとかして翔の手から逃れようとするペスト。

 

「ちょっ!何するのよ!?」

「アッハハハハ!さっきみたいな沈んだ表情より、いつもみたいに悪態ついてる方が、お前には似合ってるんじゃないのか?」

「………やっぱ気に食わない!さっきリンの勧誘を受けておけばよかったわッ!」

「だが残念!次回にでも頼むんだな!!」

「………し、死ね!死ね死ね死ねぇッ!!」

「でも生きる!!というわけで、さよならバイバイまた今度!!」

 

 ピュー、とスケボーに乗って雑踏に消えていく翔。テーブルにはきっちり全員分の代金を置いて。肩で呼吸しながら、翔を見送るペスト。

 そんな彼女の表情は、先ほどよりも幾分かスッキリしているようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ペストと別れた(から逃げた)翔は、再び辺りをフラフラと巡っていた。〝造物主の決闘〟の会場へ向かうために。しかし、

 

「………もしかして迷った?」

 

 途方に暮れていた。人に道を聞きながら来たはずなのだが、何故か迷ってしまっている。

 

「さっきのリンとペストのとこに行ったのも、迷って仕方なくスケボーしてたら突然飛んだからだしなあ………」

 

 どうすっかなぁ、と呟いて首を傾げる翔。

 

「とーりあえずー………また人に尋ねながら頑張ってみるかぁ………」

 

 そう考えると、そこら辺の人に道を尋ねる。

 何故か物凄く懇切丁寧に説明していただいたが、おかげで何とか闘技場の前にまで辿り着いた翔。

 ………実は、その人物に道を尋ねるのが三度目だったとは、本人は全く気が付いていないんだが。

 それはさておき、流石の翔も闘技場が見えているのなら、迷うことはない。のんびりと闘技場の入り口に歩を進める。と、その時。

 

「………っ!?」

 

 大地が揺らめき、翔は体勢を崩してしまう。しかし、即座に震源が闘技場だと判断して、急いで向かう。

 翔は全員が無事であることを祈り、全力でスケボーで駆け抜ける。そして、闘技場の舞台に辿り着くと、耀と飛鳥が殿下と衝突する寸前であった。

 彼女たち二人では敵わないと一瞬で判断した翔は、殿下をパークへと送る。

 

「「………ッ!?」」

 

 標的を失った二人は混乱する。しかし、翔は気にせずに負傷した黒ウサギの下に駆け寄る。

 

「ジャック!黒ウサギはどんな感じだ!?」

「一応止血は行いました!今、ルイオス君に治療具を取りに行かせています!」

「………そうか。なら、一先ず出来る事はないな」

 

 そこに耀と飛鳥の二人も近寄ってくる。

 

「翔君!」

「翔!アイツは!?」

「パークに閉じ込めた。こう言っちゃ悪いが、お前らじゃさすがに無理だと判断したんだ。ありきたりだが、これ以上負傷者を出したくはない」

 

 翔は無力感に満ちた表情で、黒ウサギとジャックを見る。でもすぐに二人に視線を戻す。

 

「十六夜もこっちに向かっているはずだ。合流次第、さっきの白髪の相手を任せるつもりだ」

「「………」」

 

 二人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、翔を睨む。彼は二人の視線を受けても、一切動じることはなかった。

 

「俺を睨んで怒りが収まるのなら、幾らでもそうしていろ。でも、コミュニティの一員として、負傷者を増やしたくはないというのは理解してくれ」

「……………………分かったわ」

「……………………うん」

「その割にはものすごい不満そうで、あとが怖いんだが?」

 

 目に怒りの感情を残したままの二人が、さっと目を逸らす。翔はそんな二人の態度にため息を吐く。

 そこへ騒ぎを嗅ぎつけた十六夜が姿を見せる。翔は彼を見つけると手招きをして、こちらへ来るように促す。

 

「………おい。黒ウサギをやった奴は、何処だ?」

 

 抑揚のない声音で尋ねてくる十六夜。それは彼を知る者ならば大半が鳥肌が立つほど冷徹な響きで発せられた。しかし、翔は気にした様子も無く、返答した。

 

「今、パークにぶち込んでる。さすがにこの二人じゃ荷が重いと判断したからな。お前がやってくれるって言うなら、すぐに解放するが?」

「頼む」

 

 十六夜がすぐに返答する。翔は苦笑気味でパークから殿下を、闘技場の舞台中央の辺りに解放する。

 

 そして、姿を現す。

 

 

 

 全身が白くべたつくナニカに塗れた、レ○プ目の殿下(ショタ)の姿が。

 

 

 

「ア、アウトオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――!?!?!!?」

 

 翔はそのことを認識すると、すぐにバケツ状のゴミ箱を被せて彼の全身を隠す。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいぃぃぃ!!?この作品R-15、R-15ッ!!R-15なんですううううぅぅぅぅぅぅぅ!!!?だからごめんなさいお帰りくださいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!ごめんなさいしか言えなくてごめんなさいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

 メタいことを言いながらも必死に謝罪する翔。それを見ていた飛鳥、耀、ジャック、挙句には先ほどまで怒り心頭だった十六夜までも呆然としていた。

 

「とりあえず、お前をパークのお風呂にシュゥゥゥーッ!!」

 

 どこかから『超!エキサイティン!!』という熱苦しい声が聞こえたような気もしたが、きっと気のせいだろう。

 一先ず翔は、パーク内に設置してある銭湯に殿下を投げ込んだ。すると一安心したのか額の汗を拭う。だが、すぐに頭が混乱し始める。

 

「なんでだああぁぁぁ!?何があってああなったああぁぁぁ!?俺は何もないパークに入れたはずだ!!拘束用に残している更地のパークに!!それがどうしてああなるんだよおおぉぉぉ!?」

 

 ウガアアアァァァァァ!!!と頭を振り乱して血涙を流しながら、必死に情報を整理しようとする翔。それを白い目で見る十六夜たち。気を失っているはずの黒ウサギも、失血以外の理由で顔を青くしている。

 

「……………………おい翔。俺のこの、行き場を失った怒りはどうすればいいんだ?」

「ごめん待って!!?マジで待って!!俺もよくわかってないから!!!?どうしてこうなった!!!?」

「知るか」

「知らないわよ」

「知らない」

「ですよねッ!!?」

 

 だが実際、殿下をあのようにした犯人など見当がついている。

 そう。ラビットイーターもどきだ。しかし謎なのは、どうやってアイツが別パークに移動したか、だ。

 あいつは一切移動させていない。それこそパーク内の農園の世話をさせる程度だ。でもなぜか奴はそこにいて殿下を【自主規制】した。

 未だに頭を振り乱して発狂している翔を、三人が慰め―――

 

「まさか翔にそんな趣味があったとはな」

「全くね。翔君はやっぱり変態じゃない」

「………翔、気持ち悪い」

「やめろお前ら!その言葉は俺に効く!!」

 

 ―――るわけもなく、三人で攻め立てて追い打ちをかける。勿論、三人とも本気で言っているわけではないが、それでも心にくるものがある。………まあ、六割から七割ほど本気ではあるのかもしれないが。

 三人の言葉を聞いた翔は、ヤケクソ気味に殿下をパークから放り出す。全身が水に濡れて、先ほどの白い液体は完全に落ちきっていた。

 翔はそれを確認すると、三人を睨み、

 

「こ、こんなのッ………やってられるかああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 うわあああぁぁぁぁぁん!!と泣きながら、その場から脱兎の如く全速力で逃げて行った。

 三人の攻めで心が折れたのだろう。

 いくら殺されても砕けなかった精神だが、仲間からの白い目と侮蔑の言葉には、流石の翔でも耐えきれなかったようだ。

 その後、殿下は無事?にリンたちが迎えに現れ、去っていった。特に精神的にも参っていないようであったので、一先ずは問題ないだろう。

 ………恨みの有無は別として。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――〝煌焰の都〟サラマンドラの宮殿・地下牢。

 堅牢な石畳に、朧げな月明かりが差し込んだ。

 昼間の快晴から一転して、夜空は曇り空となっているらしい。

 小さな鉄格子から覗く月を、ペストは独り寂しく見上げていた。

 

「………ま、〝煌焰の都〟は星明りが見えないらしいけど」

 

 ペストは冷たい石畳の上で、文明の光を皮肉気に笑っていた。ペンダントランプが地上の星ならば、その星は星明りを消し去る宵闇でもある。

 ―――暖かな気候と夜の輝きが、星の光を喰らっている。

 太陽の光が弱まったことで死んだカノジョタチにとって、これ以上の皮肉はない。ペストはこの北側の地があまり好きではないと、直観的に感じていた。

 

「でも………これからどうしようかな………」

 

 幼い膝を抱えて蹲る。一時的な処置で、ペストとジンは地下の牢屋に入れられていた。あくまで形だけのものだから数日で出られるらしいが、それでもあんまりな扱いである。

 しかし問題はそんなことではない。

 ペストが先ほどから頭を抱えていた理由は、リンたちに対しての今後だった。

 

「流石に………ちょっと早まったかもしれないわ」

 

 翔が逃げて行ったあと、彼女は勢いで宣戦布告してしまったのだ。しかし、リンや殿下の実力は今の自分より遥かに上だ。今のペストでは僅かな勝算でさえ見当たらない。

 戦場かゲームで出会ったが最後、手も足も出ないまま命を落とすことになるだろう。

 八〇〇〇万の怨嗟に応えられずに消滅すれば、彼女は永遠の糾弾に晒され続けることになる。

 別に、それが怖いというわけではない。

 ただカノジョには、箱庭で果たさなければならない使命があった。

 奇しくも先ほどリンが告げていた言葉。あれと全く同じ妄言を吐き、カノジョを箱庭に召喚した魔王―――〝幻想魔導書群〟を率いたその男は、八〇〇〇万の死者の霊群であるカノジョタチを試すようにこう告げたのだ。

 

 ―――黒死病の死を縛る宿命は、とても強固だ。

 数多の並行世界を旅してきたが、その全てで同じ現象が確認されていた。

 故にこの現象は自然災害などの確率論的な宿命ではない。

 星の在り方そのものに裏付けされた、より強固な絶対性を秘めた運命だろう―――

 

「………当然ね。だって大流行の理由に太陽の周期が絡んでいるのだもの。人の力でどうこう出来る運命じゃないわ」

 

 己がこれから目標とするものの大きさを嚙み締め、より強く膝を抱える。

 ―――しかしそれでも、あの男は運命を変える可能性があると宣言した。

 この箱庭の世界は〝可能性に偏在する空間〟だとあの男は言っていた。

 箱庭なら太陽に復讐を遂げ、黒死病の大流行を縛る楔を引き抜けるかもしれないと。

 八〇〇〇万の怨嗟と糾弾を以てして星の宿命を変えてみせろと、あの男は哄笑と共にカノジョタチを箱庭に召喚したのだ。

 

「………まあ、そのあと誰かに殺されたみたいだけど。おかげでステンドグラスに閉じ込められたまま、何百年も倉庫で埃を被ることになったわ」

 

 はあ、と珍しくため息を吐く。そもそも障害はそれだけではない。

 もしも方法を見つけたとして、ペストを邪魔する勢力は必ず現れる。

 国や宗教の礎として黒死病は存在している。

 それにより強力且つ数多の信仰の裏付けとして作用している〝歴史の転換期〟は中々存在していない。もしも楔を抜く方法なんて見つかろうものなら、その全ての神群や英霊たちを敵に回すことになる。一部の魔王も牙をむくかもしれない。

 

「黒死病の運命を変えたい………でも、ジンや飛鳥、ましてやあの変態に相談したところで………賛同してくれるはずないわ」

「そんなことないよ」

「おいおい、ジン。珍しいペストの本音だぜ?どうせならもう少し声を潜めて、楽しむくらいの意思を見せようぜ?」

 

 ひゃあ!?と、実にみっともない声を上げそうになったペストだが、それを渾身の努力で飲み込む。

 声はジンと翔のものだった。ジンはどうやら隣の牢屋に放り込まれていたらしい。

 そして何故か翔も、ジンとは反対側の牢屋に入れられているようだ。

 

「じ、ジンは分かるけど、なんでアンタがいるのよ!?」

「………あの三人に『『『ちょっと反省してこい』』』って言われて、ぶち込まれた。俺も今回も反省してるから甘んじて受け入れてる………」

「そ、そう………」

 

 呆れたような反応をするペスト。

 翔が入れられたのは、間違いなく殿下の一件だろう。逃げ出した後、十六夜に捕まってそのまま地下牢行きだったのだ。そしてその後に、ジンとペストの二人が放り込まれたのだ。

 

「そ、それよりも……!聞こえていたのならもっと早くに声をかけるのが礼儀でしょう………!?」

「ご、ごめん。本当は途中から声をかけようと思ってたんだけど、なんて声をかけたらいいかわからなくて」

「逆に俺は声をかけるつもりは全くなかった。世にも珍しいお前の本音だ。聞いて悩みを解決、とまではいかないが聞く価値があると考えてた。ついでにあとで揶揄えると思ったから」

「………絶対後者が、大半の割合を占めていると思うのだけれど?」

「お、正解だ。後者が十割を占めている」

「大半どころか全部じゃない!?前者はなんだったのよ!?」

「冗談だ。前者は一一〇割だぞ。何を言っているのやら」

「くっ………!こんな、こんな壁さえなければぁ………ッ!!」

 

 お前こそ何を言っているんだ、と怒りに身を震わせるペスト。

 壁の向こうから何か怒りと殺意を感じるが、あまり気にしない翔。むしろ、ペストに聞こえるように笑う。

 

「ちなみに最初から全部聞いてましたー」

「僕も最初から、かな」

「何で二人して最初から全部聞いてるのよッ!」

 

 毛布を広げて壁に叩きつける。しかし壁が無ければ、お互いにもっと悲惨なことになっていただろう。

 ペストは今、耳まで紅潮させて真っ赤になっていたのだから。

 

「はあああぁぁぁ………ホント、付いていく相手まちがえたかも」

「そ、そういう事は聞こえないように言わない?」

「馬鹿ね。聞こえるように言ってるのよ」

「まあ、こんな音の反射しやすそうな場所じゃ、どう頑張っても聞こえちまうと思うがな」

 

 フン、と拗ねたように膝を抱え直すペスト。石畳のこの部屋は冷え込みが酷い。毛布を被って体を丸めていなければやっていられない環境だ。

 ジンも同じように毛布にくるまって膝を抱え、背中越しにペストへ声をかける。

 

「ところで、さっきの話だけど………僕は別に反対しないよ。きっと十六夜さんたちも同じじゃないかな?翔さんはどうですか?」

「ペストには言ってあるが、そいつ自身の意思を尊重する。手伝ってほしいと言われたら、出来る範囲で手伝う。そんなもんかな?」

「………それはどうも、ご親切に。でも安心して。私はもう自分の力でどうにかするって決めたから。〝ノーネーム〟には迷惑かけないつもりよ」

「そりゃ残念」

 

 突き放すように告げるペストに、大してそう思ってなさそうな声音で相槌を打つ翔。ジンの方も普段なら此処で言い淀んで終わりだっただろう。

 しかし、今日の彼は珍しく諦めが悪かった。

 

「………わかった。ペストがそう言うなら何も言わない。けどその代わりと言っちゃなんだけど、一つだけ聞かせてよ」

「何?」

「ペストは、どうやって死んだの?」

「ブフッ!」

 

 ジンが聞いた瞬間、反対の壁から笑いを堪えきれずに、空気を吹き出す音が聞こえた。

 

「しょ、翔さん?」

「ク、クフ、ハハハッ!防壁があるからとはいえ、随分と踏み込んだ質問を投げかけるもんだな」

「ぼ、僕はたださっきから、ペストらしくないくらい元気がなかったから―――」

「牢屋が怖いのかもしれないと思って、だろ?」

 

 ジンの言葉を遮って、翔が言う。

 

「昔の伝染病患者なんて、どうすればいいのか分からないから牢屋に入れられて隔離されるか、問答無用で殺されるかの二択だ。被害が大きくならないようにな」

「………まず、なんで貴方まで元気がないってわかったのよ」

「いつもより俺への殺意が超薄い。以上」

「「………」」

 

 呆れたのか、押し黙る二人。その反応を理解した翔はケラケラと笑う。

 

「………正解よ。………私は黒死病に罹った後、家の牢屋に閉じ込められて死んだわ。伝染を恐れた父の手によって。感染ルートを洗い出そうと躍起になった父は、私が当時仲の良かった農奴を皆殺しにしたわ。老若男女関係なくね。………フフ、今考えれば本当に馬鹿よね。黒死病の感染ルートが蚤や血液からだってことも知らずに。おかげで農奴を追い回して処刑をした人たちも、それに参加していた父も、みんな感染して、一族郎党あっという間に全滅よ。救いがないと思わない?」

 

 普段以上に冷徹な声でクスクスと笑うペスト。しかしその言葉の端々には堪えようのない嫌悪と憤怒、そして悲しみが入り混じっていた。

 彼女の父に対する怨嗟は死を超過して尚、薄れてはいない。

 

「………死の間際にね。父にも聞こえるように、牢屋から叫んでやったの。『死ね、死ね、みんな死んじゃえ』って。そしたら本当に皆死んじゃった。ま、私はそれが原因で小さな霊格を得たのだけど。呪いの成就っていうの?悪霊としてはそこそこ強力な霊格だってリンが言ってたわ。………それからかな。死後、特にやることも無くてヨーロッパ中をフラフラと歩きまわったわ。そしたらあちらこちらに似た様な境遇で死んだ人が居てね。その人たちは浮遊霊みたいなものなんだけど………なんだか、寂しそうに生きてる人を眺めていたから。その姿が見てられなくて手を引いて行ったら、何時の間にかヨーロッパから大陸に出て、数百年も旅をして。………気が付けば総勢八〇〇〇万人超の大所帯、という訳よ」

 

 そんな感じで己の生涯と二度目の軌跡を語るペスト。

 彼女の話を黙って聞いていたジンはしばし沈黙し、ポツリと呟いた。

 

「知らなかった。………ペスト、優しかったんだね」

「―――はっ、?」

「何だジン。そんなことも知らなかったのか?二か月もずっと一緒にいたというのに?」

「うん。知らなかった」

「ちょ、ちょっと。どうしてそういう結論になるのよ!?」

 

 ペストの戸惑うような声が響く。

 

「見てられなかったって言ったよね。黒死病が理由で理不尽に死んだ人たちを。そんな人たちを探して、わざわざ手を引いて行って。寂しくないように一緒にいるなんて、優しくないと出来ないよ」

「しょ、翔は?」

「いつも観察してれば、いやでもわかる。子供たちが無理してるのを横目でしんp「わーわーわー!!?」………言って欲しくないなら、そう言えばいいだろう。………ああそれと」

「………?」

「やっとまともに名前を呼んでくれたな」

「―――っ!死ねこの変態ッ!!」

「ちょッ!?黒い風はダメだって!!」

 

 ギャアアアァァァァァ!!!?と翔の断末魔が響く。

 照れ隠しを含む制裁を加えて少しはすっきりしたのか、改めてジンに話しかける。

 

「随分と贔屓目な感想をありがと」

「そ、そんなことない。少なくとも、僕は君が歴史を変えたいと望む理由が見えたよ。………うん。ペストは優しかったんだ」

「優しかったんじゃなくて、現に優しいんだよ。その根っこの部分は変わってないから子供たちにも―――」

「もう一回死ね!!」

 

 アビャアアアァァァァ!!?と翔の二度目の断末魔が響く。

 口封じに翔を攻撃して黙らせるペスト。

 自覚が無いところでそんな風に褒められても、嬉しさより気恥ずかしさが先行して、どう言い返せばいいかわからなくなる。

 ジンは何度も頷き、ペストの言葉を噛み締めて立ち上がった。

 

「―――よし。決めた。〝ノーネーム〟の再建が終わったら、僕は君を手伝うよ」

 

 壁越しに、誓いの言葉を口にする。

 ペストは大きく息を呑み、信じられないことを耳にしたように目を見開いた。

 

「な………何言いだすの突然………!?」

「十六夜さんたちには言いにくいんだよね?なら僕と翔さんから説明する。もしも駄目だと言われても………その時は、僕一人でも協力する」

「そういうことじゃないわっ!ジンは曲がりなりにもリーダーでしょ!コミュニティを放り出していいわけ、」

「大丈夫。その問題は、もう解決してる。むしろ今後の予定が出来て丁度いいくらいだ」

「おー、男らしいねぇ。ちゃんと成長してくれて嬉しいもんだ」

 

 何やら自分一人で納得しているジンと、彼の成長ぶりに感心している翔。

 ペストは唖然としながらジンの話を聞き、壁の向こうにいるはずの主人を見つめる。

 

「………本気なの?」

「本気だよ。君の願いは、叶えるべきだ。八〇〇〇万の声援に応える為に。魔王連盟と決着がついてコミュニティの再建に目途がついたら………その時は必ず、君の力になるよ」

 

 壁越しからでも伝わるほど、ありったけの真摯さを込めて宣言する。

 それを受け止めたペストは壁越しに向かい合う主人を見つめ―――小さく、頬を緩めて可憐に笑った。

 

「………そう。なら、その条文を契約内容としましょ」

「契約?」

「ええ。魔王の隷属ではなく、私とジン=ラッセルが結ぶ契約。その契約を守る限り………私は、貴方をマスターとして認め続けるわ」

 

 朧月の雲間が晴れ、鉄格子の向こうから満月の光が二人に降り注ぐ。

 二人は壁越しに手を重ね、牢獄で二人だけの契約を交わすのだった。

 

「………………………あれ?俺空気じゃね?」

「…………………………………………………………ああ。まだいたの?」

「え?酷くない?さっき散々殺しておいてそれ?つか牢屋だから勝手に出れないからね?」

 

 翔が自分の存在が無いように扱われてることに気づき、声を上げる。

 ペストも彼がいない者のように扱っていた。

 

「まあ、いいわ。貴方も手伝うとか言うのかしら?」

「お前の意思と俺の気分次第。手伝ってほしいと言われたら、手伝うかもしれない。でも、ジンとは違って俺はコミュニティを優先したい。それだけは言わせて」

「………なら、いつか頼ることになるかもしれないわ。だから、その、その時は、お願い、するわ………」

「………………………………………………」

「な、なんか言いなさいよ………」

「………じゃあ、一つだけ。…………………ついにデレた?」

「―――っ!?やっぱ死ね!!」

 

 ノオオオォォォォォ!!?と三度目の断末魔が響く。

 そんな二人のやり取りを聞いていたジンは、壁の向こう側で苦笑を浮かべていた。

 その騒がしいやり取りは、騒ぎを聞きつけた兵士が来るまで続けられた。

 

 

 




【わんこド○ペ】
 終わらない、止まらない。

【表蓮華】
 回転しながら落下する技。攻撃力は低い。でも、使うと何処からかゲジマユ少年の声が響き渡る。

【舌戦】
 何も考えてないだけ。

【ブラック上司】
 さて、誰でしょうね?

【殿下】
 白くべたつくナニカ塗れ。………誰得?少なくとも俺得ではないです、はい。

【白くべたつくナニカ】
 ラビットイーターもどきの()()です。誰が何と言おうと()()です。異論は認めない。

【デレた?】
 デレてないッ!!(ペスト談)



作者「はい。じゃあこれにて原作六巻終了です!」
翔 「………………」
作者「………?どうかしたかい、翔君や」
翔 「………俺って、これ以降活躍の場ってあるの?」
作者「……………さあ?」
翔 「プロットは?前作ってから書くって言ってたよな?」
作者「途中まで書いてたけど、それ通りに行くことなんてほぼゼロだからやめた。今は勢いとノリだけで書いてる。思いついたネタを書きとめる、ネタ帳ならあるけど」
翔 「いいのかそれで!?」
作者「いんじゃない?実際プロット書いても、こっちの方が面白いかもって変更するし。skate3ネタを挟むのも結構大変なんだぜ?例のあの人の動画とかを見返したりで」
翔 「………はあ」
作者「まあ、これからも頑張っていくし。ていうか、それよりもさ」
翔 「………?おう?」
作者「この作品のお気に入り登録数が500を超えました!読者様方には本当に感謝です!!これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!!」
翔 「………でも、もうすぐ学校始まんだろ?」
作者「グフゥ………その言葉は作者にクリティカルヒットですよぉ………ガクッ」
翔 「………作者も倒れたし、今日はこれぐらいにしておくか。じゃあ、また次回に!!」



耀 「翔、見て見て」
翔 「………?」
耀 「ボード呼び戻し」
作者・翔
「「!!?」」
翔 「作者貴様!何をした!?吐け!!」
作者「知らない知らない知らない!!?本当に知らないッ!!!俺も混乱してるから!!!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。