もしもスケーターが異世界に行ったならば。 作:猫屋敷の召使い
特に変更はない。読み飛ばしていただいて構いません。
黒ウサギは困惑していた。
なにに?そんなもの目の前の光景に決まっている。
「これが【オーリー】。スケボートリックのオーリー系の基本でもあり、奥が深い中級トリック。すべてのトリックの基本となる技だ」
「「「おー」」」
スケボーで滑りながらジャンプする翔。それを見て素直に感心する三人。
「これが【インディーグラブ】。グラブ系トリックの初歩だ。本来なら段差とかからジャンプしたときにやるトリックだけど平地でもできなくはない。こう見えても上級トリックだ」
「「「おー」」」
空中に浮いてるときにボードデッキのフロント側をテール側にある手でつかんでから着地する翔。やはりそれを見て感心した声を上げる三人。
「そこから発展してグラブ系上級トリックの【クライストエアー】または【キリストエアー】。これは空中でボードを掴み十字架を表現する技」
「「「………ん?」」」
突然何もないところから坂が現れ、そこを滑りながらジャンプ距離を稼ぎつつ空中でボードを片手に十字架を表現する翔。少し不思議な光景に疑問を持ったがまだ許容範囲のために大人しく流す三人。
「そしてッ!これが超上級トリックの【天上天下】だッ!!」
「「「「いや、それはおかしい」」」」
「なぜだッ!?スケーターならこのレベルを目指すのが当然だろうッ!?」
その光景にはさすがに異を唱える四人。その四人に対して馬鹿なッ!?と慄く翔。
しかし、四人が異を唱えるのも当然のことだ。翔はジャンプした際にボードを上に持ち上げてそのまま足から地面に着地、せずに埋まりボードを頭に乗せ、がくがくと揺さぶっているのだから。
だが、普段ならこの天上天下はコンテナの上といった下に空間がある場所でしかできないはずなのだが、翔はこの世界に来てからは頗る調子がいいので、こういった下に空間のない場所でもこのような大技ができてしまっている。
「ところで、そっちのウサ耳の人はどちら様?」
「あっ………」
翔が天上天下に異を唱えた一人、黒ウサギに目を向ける。………地面に埋まりながら。
「えっと、あの、その、ですね………」
「とりあえず、怪しいから確保で」
「………わかった」
「フギャ!?」
翔が地面の中からそういうと耀が黒ウサギの耳をむんずと掴んだ。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面でいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業。それと翔の指示」
「えっ?俺のせい?てかそれ本物なの?それなら俺も触りたい」
いつの間にか地面から出てきた翔がウサ耳を所望する。
「………じゃあ、半分」
「おう。ありがとう。………へー、触り心地意外といいんだな。なあ、そっちの二人もどうだ?」
「なら触らせてもらうぜ」
「触らせてもらうわ」
「ちょ、ちょっと待っ―――――――――!」
黒ウサギの声にならない声が空に木霊する。
「あ、あり得ないのですよ。まさか話を聞いて貰うだけで小一時間も費やすとは。学級崩壊とはきっとこのような状態に違いないのデス」
「それなら君もこのスケボーで超上級トリック【天上天下】を決めて世界の心理を実感」
「しません!それにどこの宗教勧誘でございますか!?」
黒ウサギに新品のスケートボードを手渡そうとするがすぐに断られてしまった。そのせいで肩を竦めて落ち込む翔。
「いいからさっさと始めろ」
十六夜が話を進めるように促される。
すると黒ウサギはコホンッと一つ咳払いをしてから話し始める。
「それでは、皆様方。ようこそ、〝箱庭の世界〟へ!我々は皆様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は全員、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〟を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」
「ステージ、だとッ………!?」
「「「お前は黙ってろ」」」
「アッハイ」
ステージという言葉に反応した翔を三人が黙らせる。
しかし、黒ウサギの言う『普通の人間ではない』というところに疑問を持つ翔。自分の世界では天上天下のようなトリックは練習してコツを掴めば誰でもできる代物だ。だからこそ翔は自身の才能が何かを理解できなかった。
とはいえ、黙れと言われたからには黙っていようと口をつぐむ翔。
「コホン。さて、まず初歩的な質問からしていいかしら?貴方の言う〝我々〟とは貴方を含めただれかなの?」
「YES!異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある〝コミュニティ〟に必ず属していただきます」
「嫌だね」
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝
属していただきますと聞いた十六夜は拒否の意を示す。そして黙ってはいるが翔も嫌そうな顔を浮かべていた。なぜか?チームに属していると妙な決まりがあったりなどして嫌な思いをしたことがあったからだ。だから基本的には一人、もしくは友人としか集まったりしなかったのだ。
「………〝主権者〟ってなに?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。
特徴として、前者は自由参加が多いですが〝主権者〟が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。〝主権者〟次第ですが、新たな〝恩恵〟を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね………チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――――ご自身の才能も失われるのであしからず」
だから俺の才能ってなんだ。
翔はそのように言いたかった。だけど一先ず黙っておく。口を開いたら今度は警告では済みそうになさそうだからだ。
「そう。なら最後にもう一つ質問させてもらってもいいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「………つまり〝ギフトゲーム〟とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
「ふふん?なかなか鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも金品による物々交換は存在しますし、ギフトを用いた犯罪などもってのほかです………が、しかし! “ギフトゲーム〟の本質は全くの逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです」
「そう、なかなか野蛮ね」
「ごもっとも。しかし“主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しております。奪われるのが嫌なら初めから参加しなければいいだけの話でございます」
才能なんて思い当たらないし参加しなければいいか、と内心考えている翔は自分には関係なさそうだとスケートボードをいじり始める。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。ここから先は我らのコミュニティでお話をさせていただきたいのですが………よろしいです?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。オレが聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
三人は十六夜の言葉に黙って耳を傾けていた。その言葉に全身全霊の期待を込めるかのように。
「この世界は―――面白いか?」
その質問の回答を関係ないと考えていた翔までもが静かに待っていた。
そして、その答えはすぐに黒ウサギによって解決した。
「―――YES。『ギフトゲーム』は人智を超えた神魔の遊戯。
箱庭の世界は外界よりも格段に面白いと黒ウサギが保証します♪」
人智は超えなくていいんだよなぁ、と口に出してたらお前が言うな、と言われそうなことを考えていた翔であった。