もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 ちょっと雑かもしれないけど許してください。


原作五巻
第十八話 彼は料理人じゃなくてスケーターです


 ———〝アンダーウッド〟収穫祭・広場。

 収穫祭に持ち寄せられた食材は本祭を行う広場の脇に高々と積み上げられていた。調理を望む者は食材置き場から好きなものを手に取り、独自のレシピで腕を振るっている、はずだった。

 

()()()()!料理の確認をお願いします!」

()()()()!私のレシピの改良を教えて!」

()()()()!調味料のアドバイスを頼む!」

 

 何故か調理を望む者たちに拉致られた翔を、総料理長と呼んで囲んでいる。

 

「………なんでこんなことになってるん?」

「総料理長は三桁や四桁でも通用するほどの腕をお持ちとか!」

「作った料理で金銭やギフトをたくさん巻き上げているとか!」

「料理は人間ながら箱庭下層一と言っても過言ではないとか!」

『『『お聞きしたので!』』』

 

 声を揃え、目を輝かせながら翔のことを称える調理人たち。それを聞いた翔は不機嫌そうな表情へと変化する。

 

「………尾鰭つきすぎ。捏造されすぎ。誇張されすぎ。年齢的にお前らより経験短いのわかれよ………」

『『『………?』』』

 

 呆れと諦観の混じった声で自分にしか聞こえない声量で呟く。

 

「いや、何でもない………」

『『『では!』』』

「料理の確認を!」

「レシピ改善を!」

「アドバイスを!」

「誰がするか馬鹿ども!!」

『『『………!?』』』

 

 集ってくる連中に一喝する翔。

 

「そんなもん赤の他人に聞かず自分で考えろやッ!!」

『『『なん……だと………!?』』』

 

 一瞬、騒然とする一同。だが、すぐに翔の言う事が理解できたのか、ハッとした表情を浮かべる者がいた。

 

「ま、まさか………総料理長は料理人としての自分、そして作り上げたレシピと料理を信じろと、そういっているのか!?」

「なるほど!そんなことも出来ないようならば、料理人として前に進むこともかなわず、未来が存在しないってことだなッ!?」

「そ、そうかッ!そのうえ自身の作ったレシピを、自身で改良・工夫を考えなければ意味がないということなのだなッ!!」

『『『流石です!板乗総料理長!!』』』

 

 うおおおおぉぉぉ!!!と勝手に勘違いして興奮し、翔を褒め称える群衆。勘違いした群衆を見て涙を流してしまう翔。

 

「違う、そうじゃない。そうじゃないんだ………」

「おお、見ろ!総料理長が涙を流している!!自身の一喝で私たちが料理人としての正しい道へと戻ったことを、まるで自分のことのように泣いて喜んでくださっているぞッ!!?」

「す、すげえ!?どれほど人間性溢れる御方なんだッ!!?」

「俺達も感謝の意を込めて総料理長を胴上げするぞ!!!」

『『『おおおおおおぉぉぉぉ!!!!』』』

 

 物凄い勘違いをされた翔がされるがままに群衆に担ぎ上げられ、何故か宙に舞う。

 

『『『ワーッショイ!ワーッショイ!!』』』

「ええい!?俺の事はもういいから、さっさと調理に戻れ!!料理人なら黙って料理してろや!!?」

「な、なんと!?お前たち、聞いたかッ!?総料理長は俺達に早く料理を作って、一人でも多くの者に食べてもらえることを望んでいらっしゃるぞ!!」

「それが俺たちの成すべきことだと言ってくださっているのか!?」

「さすが総料理長だ!!喜ぶのも一瞬だけで、もう次の瞬間には料理を食ってくれる人のことを考えてやがる!!」

「こうしちゃいられねえ!!俺達も総料理長を見倣って調理に戻るぞ!!そしてより多くの奴らに食ってもらうんだ!!!」

『『『おおおおおおぉぉぉぉ!!!』』』

 

 そういって、胴上げをやめて各自の厨房へと散っていく一同。そして一人取り残された翔は、

 

「なぜこうなった?なんでこうなった?どうしてこうなった?間違いを正そうとしたら、どうしてそれが真逆の方向へと転がっていくんだ………?俺は料理人じゃなくてスケーターなのに、どうして………!?」

 

 地に手を突いて落ち込んでいた。そこへ少女の声がかけられる。

 

「あ、あの、翔様………?」

「ん………?ああ、リリか。どうした?」

「あ、味見をお願いしたいのですが………」

 

 よく見ればリリの手には小皿があった。その中には彼女が作っていたシチューが少量入れられていた。

 

「わかった。………うん。大丈夫そうだな。あとは肉が柔らかくなるまで焦げないように混ぜれば、香草の味も多少和らいで丁度良くなると思う。頑張ってな」

「は、はい!」

『そ、総料理長が味見しただと!?』

『なに!?あの子ズルい!!俺だってしてもらいたいのに!!』

『クソ!!総料理長は隠れロリコンだったのか!?くたばれッ!』

「おい!最後の奴は料理人生命を終わらせてやるから潔く出てこいやアッ!!?」

 

 二人の会話を聞いていた周囲の料理人たちが野次を飛ばす。最後の野次に関しては翔も許容できずに、収まりきらなかった怒りを声のした方向へと投げる。

 

『お、大人しく行けよ!?俺はまだ死にたくねえ!!』

『だ、だがあの子は一体何者なんだ!?総料理長に味見してもらえるなんて!?』

『あっ!あの子は総料理長と同じコミュニティの子じゃないか!?』

『なんだと!?なら、もしかして、彼女は総料理長の一番弟子なのか!?』

『『『な、なんて羨ましいんだッ………!!!!!?』』』

「ひっ………!?」

 

 料理人たちの嫉妬の視線に怖がるリリ。

 

「あーもう!!お前らの店の料理も味見しに行ってやるから俺の分を残しとけやッ!!」

『さっすが総料理長!!話の分かる男だと信じていたぜ!!』

『テンション上がってきたああああぁぁぁ!!』

『よっ!ロリコン総料理長!!』

「ただし最後の奴。テメーはダメだ」

『……………………』

『コ、コイツ……!自業自得のくせに真っ白に燃え尽きやがった………!?』

 

 執拗にロリコン呼ばわりしてくる人物を拒絶する翔。その人物は翔の言葉を聞いた瞬間に真っ白になり、風に吹かれてサラサラと消えていこうとしていた。

 そんな彼から目を逸らしてリリに話しかける翔。

 

「それじゃあリリ。大変かもしれないが頑張れよ。俺は成り行きで露店巡りをしなければいけなくなったからな」

「はい!翔様も頑張ってください!」

 

 翔にエールを送って七番厨房の調理場にへと戻っていくリリ。彼女の背中が見えなくなるまで見送った翔は、メンドクサそうにため息を吐いて最初の露店にスケボーを向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 そして全ての露店の料理を食べ終えて、それぞれにアドバイスや案などの雑談をしてリリのいる七番厨房へと戻ってきた翔。

 そこには、鍋を混ぜているリリと、麻袋に手当たり次第に肉を詰め込んでいる十六夜がいた。

 

「あ、お帰りなさいませ翔様!早かったですね?」

「ああ、ただいま。いやはや、さすがに急ぎすぎて顎が疲れた」

「………お前は何をしてきたんだ?」

「全露店の試食、か?味見と言ってもいいかもしれないが、一通り食ってきただけだ」

「俺より先に全制覇した、だと………ッ!?それも初日制覇だと!?」

「何で戦々恐々としてんの、お前?」

 

 翔を睨むように見て対抗意識を燃やしている十六夜。その理由が分からない翔は首を傾げる。

 

「古き日に〝縁日荒らし〟の二つ名を勝ち取った俺が、異世界の露店よりも先に、こんな変態野郎に敗北するっていうのかよッ………!!?」

「うん。よくわからんが、とりあえず『変態野郎』って呼称やめてくんね?『変態』を含むのはちょっと、いや、かなり心にくるものがあるから。あ、でも『変態機動野郎』はOK。逆に『総料理長』はNG」

「クソッ。あんな噂を流したのが裏目に出るとは………!」

「お前かよ、あの行き過ぎた噂の元凶はッ!?そのせいで変な方向に勘違いされたんだからな!?総料理長とか呼ばれる羽目になったしッ!!」

「ヤハハハハ!巨龍の時のことを誰かが根に持ってんじゃねえか?」

「それって絶対お前だろッ!?」

 

 笑って誤魔化す十六夜。それを見て頭をガシガシと掻く翔。

 

「つうか、此処の肉を持っていくなよ。他に作る料理もあるんだから。たしか十三番テーブルの方に肉あるからそっから持って行けよ。ていうかその肉は誰用なんだ?」

「グリー用だな。お前、アイツの好みってわかるか?生か調理済みかどっちを持っていけばいいのか分からないんだが」

「俺が知るか。不安なら両方持っていけ。そして次から好みの方を持っていけばいいだろ。ほら散った散った。リリもお疲れ様。此処はもういいから楽しんで来い。お小遣いもやるから」

「い、いいんですか?」

「ああ。販売は向こうの奴らがやってくれるように話を付けた」

 

 そういって後ろの方を指さす翔。そこには先ほど翔をロリコン呼ばわりした男性が男泣きしている様子が目に入ってきた。

 

「………お前、何したんだよ?」

「さっきロリコン呼ばわりしてきたから、味見してやらないようにしてたんだが、どうせなら利用してやろうと思ってな。味見する代わりに委託販売を頼んだ。面白いぐらいあっさりと了承してくれたぞ。あ、利益は勿論俺らが作った分は全額こっちに来るから問題ない」

 

 そういって笑って見せる翔。リリは若干笑顔が引き攣っているように思える。

 

「そうか。なら別に問題ないか」

「ああ。でも肉は置いてけ。それ不必要な分は持ってきてねえんだから」

「………マジかよ」

「あーでも、詰め込んだなら別にいいわ。………おい、お前ら!」

「「「へいッ!」」」

「この麻袋に入ってる量と同じぐらいの肉を持ってきてくれ。ついでに肉を詰めるのも手伝ってやれ」

「「「分かりやした、先生!」」」

「先生ちゃうわ、このダボども」

 

 そういって翔の後ろから三人の男が飛び出してくる。

 

「………誰だコイツら?」

「俺を手伝いたいって言いだした者ども」

「二番弟子ッス!」

「三番弟子でさぁ!」

「四番弟子だべ!」

「一番は何処にいったんだ?」

「「「一番弟子はそこの狐の姐さんですので!」」」

「ふぇッ!?」

「補足するけどコイツラ自称だから」

「お、おう………」

 

 十六夜ですら反応に困ってしまっている。翔もこのストーカーどもには困っている。だから使い潰してやろうというのが彼の思惑なのだが。

 

「ということで、ここはいいから楽しんできて」

「は、はい!ありがとうございます!」

「十六夜もグリーによろしく言っといてくれ」

「おう」

 

 そうして七番厨房から去っていく十六夜とリリと自称翔の弟子三人組。

 

「………さて、仕込みは大体終わってるし、肉を待つだけ………だとでも思ったのかねえ?」

 

 悪そうな笑みを浮かべて、〝混沌世界(パーク)〟にしまってあった大きな調()()()()を取り出す。それからは美味しそうな薫りが漂っている。

 

「実はもう既に完成していたのさ!あとはこれとリリのシチューを委託販売させるだけ………!」

 

 翔は未だに泣き続けている男の店へと二つの鍋を預けると、あの三人に気づかれないように一つ上の断崖の露店巡りに向かった。

 

「「「何処ですか先生―――――!!?」」」

 

 そんな声を背中に受けながら。

 

 

 

 

 

 

 

「静かに一人で露店を見て回れればー、と思って一つ上の断崖に来たのに………どうして俺は、耀の為に肉を調理しているんだ?」

「私の専属料理人だから」

「その認識いつからあったの?ねえ?いつから?俺の知らないところでそんなことになってたの?」

「きっと箱庭に来る前から決まってた」

「待って!それはさすがに俺も予想外だった!!そこまでは遡らないでくださいッ!?」

「………?」

「いや、不思議そうな顔されても!?てか随分と余裕あるなお前ッ!?」

 

 なぜか翔は元々厨房にいたはずの料理人たちを追い出して〝斬る!〟〝焼く!〟という工程を繰り返していた。店をやってからは要領も良くなり、調理速度が耀の食べるスピードに合わせられるようになった彼が、何故か料理人の代わりに耀のために肉を焼いていた。

 

「初めて作る料理のはずだろう!?それなのになんなんだ、あの手際の良さは………!?」

「手が全く見えないぞ!?」

「あの子の専属となるとあれほどの技量と速度が必要だとでもいうのか!?」

「あの女と同等の速度で作ってる上に、遅くなるどころか加速していっているぞ……!?」

「サラマンダーより、ずっと速い!!」

『『『おい馬鹿やめろ』』』

「なんでや!?サラマンダー関係ないやろ!?っていうか箱庭でそのネタが通じるの!?」

『『『もちろんです、プロですから』』』

「だからなんでそんなネタを知ってるんだよ!?そんな文化は箱庭に流入してないだろ!?………………………え?してないよね?」

『『『……………………………………………………………………』』』

「そこで黙るんじゃねえぇよおおおおおおおぉぉぉぉぉ―――――――!!!」

 

 俺はツッコミじゃなくてボケに回りたいんだあああぁぁ!!と叫びながらも、調理する手を止めることなく、延々と〝斬る!〟〝焼く!〟の工程を繰り返す翔。

 そんな中、〝食べる!〟という工程しかしていない耀が、

 

「………フッ」

 

 挑発するように笑う。それが意味することは、彼女はまだ余力を残していて全力ではないという事だ。それを見た翔は、

 

「(ブチッ)………上等だゴラァッ!!!俺の全力を見やがれやあああぁぁ!!!」

 

 さらに速度を上げて、無意識に物理を狂わせて〝斬る!〟と〝焼く!〟の工程を刹那で終わらせてしまう。

 

「あ、あの坊主ッ今何しやがったんだ!?」

「肉の色が一瞬で変わりやがった!!」

「これが専属料理人の実力だとでもいうのか………ッ!?」

「サラマンダーより(ガンッ!)ガクッ………」

『『『モブYY(ダブルワイ)―――――!!!』』』

「二度も同じネタをかまそうとしてんじゃねえよッ!!プロなら同じネタは同じ舞台じゃ一回までだろうがッ!!!」

 

 先ほどと同じネタをやろうとした野次馬の一人に、翔が投げたおたまが直撃する。

 耀は彼が全力を出したのを確認すると、ゆっくり食べることをやめた。

 翔もそのことを感覚的に理解したのか、さらに加速する。

 両者の速度はほぼ拮抗していた。これはもう、食糧庫が尽きない限りは終わりはしないだろう。

 

「………………………………………………………………………えっと、」

 

 そんな中、リリは唯一人。

 会場の熱と光景に付いていけないまま、ポカンと立ち尽くしていた。

 此処で自分がツッコミを入れたら、きっと会場は冷めてしまうだろう。そうなってしまえば耀と翔は只の痛い人である。

 リリは会場の空気を読んだ末―――流されることを選んだ。

 

「よ、耀様!頑張って!翔様も負けないでください!」

「おう、お嬢ちゃん頑張れ!」

「料理人の坊主も負けんじゃねえぞ!」

「うおおおおぉぉぉぉ!俺は料理人じゃなくてスケーターなのにいいいぃぃぃ!!!しかも他人の厨房ってすごく使いづらいよおおおぉぉぉ!!!?」

 

 ワーワーと異質な盛り上がりを見せる立食会場。一人は切実な悲鳴を上げていたが。

 リリは〝六本傷〟の名物料理を諦めて、年長組を招集しようと二人に背を向ける。

 しかし熱の高まる観衆の中でふと、冷めた声が聞こえた。

 

「………フン。何だ、この馬鹿騒ぎは。〝名無し〟の屑が、意地汚く食事をしてるだけではないか」

 

 ———え?と足を止める。翔も幽かに聞こえたのか他者にはわからない程度だが、一瞬だけ手の動きが鈍くなった。

 しかも声は一つではなかった。

 やれ巨龍を倒して持て囃されている猿だの。

 やれ残飯を漁っていそうな貧相な身形だの。

 やれ一時の栄光だの。

 やれ屑は屑だの。

 好き勝手に宣う。だが、

 

「そんなことありませんッ!!!」

 

 リリの叫びに、観衆の視線が一斉に集まった。

 〝ノーネーム〟を蔑んだ男は、人の姿に鷲と思われる翼を生やしている。細身ながらも鍛え抜かれた体躯を持ち、鬣のような髪と猛禽類の様な瞳を持つ凶暴そうな男は、鋭い眼光でリリを睨み付けた。

 

「………なんだ、この狐の娘は」

「私は〝ノーネーム〟の同士です!貴方の侮蔑の言葉、確かにこの耳で聞きました!直ちに訂正と謝罪を申し入れます!」

 

 真っ赤に頬を染めながら、ひょコン!と狐耳を立てて怒るリリ。

 男の取り巻きは得心がいったように笑い、一歩前へ出る。

 

「なるほど。君が誰かはよく分かった。………でも君は、この御方が誰かわかっていますか?この方は〝二翼〟の長にして幻獣・ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

 取り巻きの男たちの言葉に、今度はリリがたじろいだ。

 

「ヒ、ヒッポグリフ………?でも、ヒッポグリフは鷲獅子と馬の姿を持った幻獣で、」

「阿呆か貴様。人化の術なんぞ珍しくも無いだろうが。数が多い獣人どもの都合で変幻してやっているだけだ。………それよりも、先ほどの放言のツケ。どう払うつもりだ?」

「ど………どうも何もありません!謝罪を求めているのは此方です!」

「ハッ、分を弁えろ。グリフィス様は次期〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の長になられる御方。南の〝階層支配者〟だぞ。〝ノーネーム〟なんぞに下げる頭は無いわッ!」

「………待って。それ、どういうこと?」

 

 観衆の視線が、一斉に動く。

 取り巻きに強く反応したのはリリではなく、会場の中央にいた春日部耀だった。食事の手を止めた耀は訝しげな瞳でグリフィスを睨む。そんな彼女の後ろでは、同じく手を止めた板乗翔がいたが、こちらは取り巻きに反応したのではなく耀に反応して動きを止めたのだ。ついでに言えば眉間を押さえている。

 グリフィスは鬣のような髪を搔き上げ、獰猛に笑った。

 

「何だ、あの女から聞かされていないのか?あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力を上手く使いこなすことが出来なくなったのだ。実力が見込まれて議長に推薦されたのだ。失えば退陣するのが道理だろう?」

「………それ、本当?」

「狡い嘘など吐かん。信じられんのなら本人にでも聞くと良い。龍種の誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女にな」

 

 クックッと喉で笑うグリフィス。取り巻きもより品無く下卑た声で嘲笑った。彼の話す事実を知った観衆にも動揺が広がり、ちょっとした騒ぎになっている。

 そんな最中、耀は無言で席を立ち、男たちへと近づいていく。翔は厨房から出てグリフィスへと歩み寄っていく彼女の背中を見ながら、ため息を吐く。

 

「………あー、辛口あたりめが恋しい………」

 

 耀が〝光翼馬〟を模したレッグアーマーで、取り巻きの一人を吹き飛ばすのを椅子に座りながら眺める。現実逃避ともとれる言葉を呟きながら。事実現実逃避なのだが。

 

「なあ兄ちゃん?止めなくていいのか?同じコミュニティの同士なんだろ?」

「アッハッハ。面白いことを言うなおみゃーさん。スケーターに何を求めているのやら。俺には彼女を止める力なんぞありゃしませんよー。だから誰か助けてくださいお願いします多少の謝礼は出すのでマジで頼んます」

『『『無理。野次馬に何を求めているんだ』』』

「知ってた。そして求めているのは辛口あたりめだ」

『『『だめだこりゃ』』』

 

 バカみたいなやり取りをする翔と野次馬たち。

 その間にもグリフィスが人化の術を解き姿を激変させて、耀と相対する。

 

「ほら逃げろ逃げろー。早くしないと巻き込まれるぞー」

『『『はーい』』』

 

 暢気だった野次馬たちも素直に二人から距離を取る。だがリリは、その場から逃げずに踏ん張って―――

 

「ほらリリも。耀は心配いらないから」

「あっ………」

 

 ———いたかったが、翔の手によって抱えられてその場から多少離される。

 閃光と暴風、そして荒ぶる稲妻が、断崖に亀裂が走るほど迸る。

 そして刹那―――

 

「はい、そこまで」

 

 ———二人は、第三者によって同時に敗北した。二人が倒れるのを確認した翔は手をパンパンと叩いて、

 

「はーいお疲れー」

『『『収まったー?』』』

「おーう。もういいぞー」

「え?………え?………………………え?」

 

 野次馬たちに声をかける。

 どこまでも普通の声音の翔と野次馬たち。それを見て困惑するリリ。

 

「えっと、翔様は分かっていたのですか?」

「うんにゃ、全然。でも、ちょっと遠くから二人の様子を見ている人がいたから、『あ、どうにかしてくれそう』とか思っただけ。根拠はゼロだ」

 

 そういってリリを下ろすと、第三者によって気絶させられた耀に近寄る。

 

「いやー、助かったよ。さすがに、彼女を止めるほどの力はなかったからよー」

「ええよ。そんじょそこらの人が、この二人を止められるとは思わへんし」

「分かってくれて嬉しい限りだ」

 

 よいしょ、といって耀を抱き上げる翔。

 

「申し訳ないけど、そっちの〝二翼〟の人は頼んでもいいか?名前も知らない御人や」

「かまわへんよ。それと僕の名前は蛟劉や。よろしゅうなぁ、噂の板乗翔少年」

「………その噂、すっげぇ嫌な噂だったりしませんよね?」

「そうやなあ、巨龍を卒倒させたとかやなぁ」

「それはマジ勘弁。反省してるんで言わないでください。まさかあんなことになるとは思ってなかったんで」

 

 耀を抱えながらも謝る翔。

 

「それじゃ、そろそろ失礼させてもらいますかね。本当に、本ッ当に助かりました」

 

 そういってその場を立ち去る翔。その背中を追いかけるリリ。そしてその三人を追いかける野次馬たち。

 

「いや、お前らは来なくていいんだよッ!!?」

『『『いやいやいや、寝てる彼女に対して色々するんでしょ?エロ同人みたいに!くんずほぐれつするんでしょ!?エロ同人みたいにッ!!』』』

「誰がするかドアホッ!!そのお前らが持っている野次馬根性凄すぎるだろ!?」

『『『もちろんです。プロですから』』』

「同じネタの使いまわし禁止ィ!!よってゴミ箱先輩にボッシュートッ!!」

『『『うわなにをするやめr』』』

 

 そういってゴミ箱先輩に道を阻まれる野次馬のプロたち。その隙に【ポセイドン】で全力疾走する翔。耀を横抱き、かつリリを背中に担いで、その場から消え去っていく翔。

 

 

 

 

 

 

 

 翔は耀をベッドに寝かせると、リリに年長組を招集して宿へ戻るように告げる。彼女は素直に従って部屋から出ると年長組を捜しに行った。翔も三毛猫に概要を話すと部屋を出る翔。

 そして、収穫祭本陣営では十六夜、飛鳥、黒ウサギ、リーダーのジンが足を運び、グリフィスとサラを交えて話し合って最終的に蛟劉の話を聞くために宴を始めた頃、翔は別の場所で物凄く面倒なことに巻き込まれていた。

 

「翔さん~……ちゃんと聞いてるんですかぁ~……?」

「聞いてる聞いてる。だから早く寝てください女性店員さん」

「それよりもぉ~………翔さんも飲んでくださいよぉ~」

「あーはいはい。後で飲ませてもらうよ。……………………クッソ、まさか女性店員が絡み上戸とか、予想外だったぞ………超めんどくせえ………」

 

 黒ウサギが話し合いに行ったのを危惧して、白夜叉の様子を見に来た翔。すると大体予想通り大暴れだった。唯一予想外だったのは女性店員の酒癖であった。

 

「―――というわけでッ!収穫祭のメインゲーム・〝ヒッポカンプの騎手〟の水馬の貸し出しはッ!!!全員、水着の着用を義務とするッ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

「白夜叉様万歳!!!白夜叉様万歳!!!白夜叉様万歳!!!」

「〝サウザンドアイズ〟万歳!!!〝サウザンドアイズ〟万歳!!!」

「許せ黒ウサギ。俺にはこの状況をどうにかする術がない。元はと言えばあの馬鹿を一人にした黒ウサギが悪い」

「すぅ………すぅ………」

 

 寝てしまった女性店員を膝枕しながら、事の成り行きを見ることしかできない翔は、黒ウサギに謝りながら明後日の方向を見やる。

 心の中では、男に被害はないから別にいいかなぁ………。と考えて止める気力すらも消え失せた翔であった。

 

 




【総料理長】
 噂が十六夜、飛鳥、耀によって一人歩きさせられた結果の呼称。料理の腕は食材の扱い的に、別に料理人たちとどっこいどっこいで翔の方が上というわけでもない。だが、翔が知っている食材なら少し翔の方が上になる。

【露店巡り】
 リスポーンしながら満腹状態をリセットしながら食べ歩いたため、腹は膨れていない。ちなみに料理は全部完食しています。お残しは許しまへんでぇ!

【翔の弟子(自称)三人組】
 ストーカー。以上。

【プロの野次馬】
 何処にでも出没するプロの野次馬。何事にも動じず、唐突にネタをぶち込んでくる謎の集団。

【モブYY(ダブルワイ)
 もしかして:ヨ○

【絡み上戸の女性店員】
 書きたかっただけ。他意はない。増えろ女性店員ファンッ!



翔 「俺がスケーターだ」
作者「うんそうだね。スケーター(ヌケーター)だね」
翔 「………?今何か変なルビが付いてなかったか?」
作者「俺には何も見えないけど(すっとぼけ)?」
翔 「そうか?」
作者「うん。それよりもヒロインアンケートの結果発表!」
翔 「結局今日で締め切るんだな」
作者「投票率も安定してきたし、此処で締め切るのが正解かなって。それじゃ結果をドンッ!」


計三七票
・耀:十二票(+一票《複数投票》)
・ペスト:十一票(内SM覚醒チキンレース希望が二票)(+一票《ダブヒロ》)
・女性店員:七票
・レティシア:一票(+一票《複数投票》)
・十六夜:一票
・あたりめ:一票
・ヒロイン無し:一票
・黒ウサギ:一票
・ゴミ箱先輩:一票
・結月ゆかり:一票


作者「スケーターつながりで結月ゆかり票があったのが驚いた」
翔 「今のところ出てないキャラだもんな。今後に出すにしろ、いつ出るんだっていうレベルの人だよな」
作者「まあ、結果から言うと耀がヒロインなんだが、ここまで接戦だったなら、いっそダブルヒロインでもいいんじゃないかと思っている自分がいる。そこそこ多かった女性店員さんも、サブヒロ的立ち位置でちょいちょい絡んでもらおう。今回のように。今回のように!」
翔 「………二度言う必要があったのか?」
作者「一応。というか公式での女性店員さんの名前が今現在無いから、すごい困ってる」
翔 「それな」
作者「まあ結果的にはこうなったから、チョイチョイ出番を増やすつもりではあるけど」
翔 「それで、結果は?」
作者「耀とペストのダブルヒロイン。女性店員さんは残念ながら?サブヒロ的立ち位置で頑張ってもらいましょう」
翔 「………作者はどのキャラが好きなんだ?」
作者「基本的に嫌いな女性キャラはいない。でも、皆に鵬魔王の迦陵ちゃんもいいぞ、とだけ言いたい」
翔 「おい」
作者「ではまた次回!」


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