もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 外出の際は地中を潜って移動するようにしましょう。

 まずは申し訳ありません。
 オチやら言葉選びやら友人と遊んだりで物凄く悩んで投稿が遅れました。

 ヒロインアンケート継続中です。
 それと途中経過があとがきにあります。
 次回で締め切っていいのかと不安になってきた。主に一位をヒロインにした際の展開的な意味で。


第十七話 本日の〝アンダーウッド〟周辺の天気は晴れ、ところによってはゴミ箱が降るでしょう。

 ―――〝アンダーウッド〟東南の平野。

 巨人族による三度目の強襲は、またも突然の出来事であった。

 しかも以前のように濃霧に紛れた襲撃ではない。巨人族は何の前触れもなく平野の先の丘に現れ、一斉に襲い掛かってきたのだ。

 

『………………』

 

 が、全巨人族が足を止めて〝アンダーウッド〟へ進撃するのを躊躇い、一歩も動けていないのだ。

 何故か?そんなもの、決まっている。先日の二回の襲撃でも煮え湯を飲まされている、あの凶悪兵器(物理演算砲)のせいだ。地には局部を押さえて痙攣し、泡を吹く巨人族が多数見受けられた。

 

『………………』

 

 対して、迎撃するはずの幻獣達もまた、動きを止めてしまっている。

 これまた何故か?それも分かりきっている。巻き込まれたくないのだ、あの白い悪魔(ゴミ箱先輩)の行進に。触れた巨人族は忽ち、あの深淵のような口に吸い込まれてその存在を消していく。

 

 翔が用意した巨人族迎撃用兵器がちぎっては投げちぎっては投げの快進撃により、じりじりと前線を押し上げていく。目まぐるしいほどの戦果を挙げている。

 鉄球が撃たれれば、あり得ない軌道で百発百中巨人族の息子を殺す。

 白い悪魔が進軍すれば通った後には、骨肉の欠片も残さない。

 これだけ見れば、好ましい成果だ。

 だが傍から見ると、緊張感の欠片すら見えないような光景だ。

 物理演算砲の砲身はどうだ?原理が何一つわからないが、とにかく鉄球が射出される摩訶不思議な代物。

 ゴミ箱先輩はどうだ?白い円柱状の無機物がしっかり隊列を組み自律機動しているのだ。

 ………………知らない者から見れば目を疑う光景でしかない。こんな勝ち方でいいのだろうか?そんな風にさえ思ってしまうかもしれない。

 だが、『勝てば官軍』といったような便利な言葉が、何処にでも存在する。そして翔の言い分がこれだ。

 

 

 

 

 

 勝てばよかろうなのだァァァァッ!!

 

 

 

 

 

 ただこれだけだ。彼はこの言葉を初めて聞いた時、猛烈に感激した。まるで目が覚めたかのように晴々とした気持ちだったそうだ。

 それからは勝つために手段を決して選ばなくなった。それが彼だ。元の世界でも散々やってきたのだ。いまさら良心が痛むこともない。

 そんな戦況が黒ウサギによって飛鳥達の耳に入る。

 

「翔さんの情報通り、のようですけど………」

「そうみたいね。私たちが出る幕すらなさそうだけれど」

「で、でも〝バロールの死眼〟を攻略しなければいけませんから。―――ペスト!」

 

 笛吹き道化の指輪から黒い風と共に現れるペスト。その姿はメイド服ではなく、出会った時の斑模様のスカートで顕現した。

 

「ジン君。それで、作戦はあるの?」

「巨人族に関していえば、翔さんの戦略兵器もどきがどうにかしてくれてますから、僕たちは〝バロールの死眼〟をどうにか攻略しましょう」

 

 ジンの口から飛び出した言葉に、ペストは眉を歪めた。

 

「………何それ。敵は〝バロールの死眼〟を所持しているの?」

「うん。バロール自身の瞳じゃなく、同性質の魔眼だとサラは言っていたけど」

「同性質って………死眼の放つ〝バロールの威光〟は〝ゴーゴンの威光〟と同種の物よ?一度開眼すれば、防ぐことも避けることも出来ないわ。それこそ同規模の神霊か星霊でも連れてこないと、戦いにすらならないでしょ?」

 

 非難するような目を向けるペスト。

 

「うん。僕もそう思う。だから此処は『バロール退治』の伝承をなぞろうかな、と思って」

 

 ジンは黒ウサギに目配せする。

 黒ウサギも閃いたようにウサ耳を伸ばして頷いた。

 

「もしかして………黒ウサギの出番だったりします?」

「うん。黒ウサギが所持する〝マハーバーラタの紙片〟―――帝釈天の神槍なら、〝バロールの死眼〟を討ちぬけるはず。伝承が事実なら、ケルトの主神が撃った神槍も必勝の加護を帯びた物だったらしいから」

 

 顔を顰めるペスト。

 止めを刺してくれた神槍には感謝しているが、その前に翔にされたことを思い出したのだろう。

 

「魔王バロールを倒す方法は、開眼した死眼を〝神槍・極光の御腕〟で貫くというもの。その代行を帝釈天の神槍でやろうと思う。………出来るかな、黒ウサギ」

「YES!任されたのですよ!」

 

 シャキン!とウサ耳を伸ばして大きな胸を張る黒ウサギ。

 

「よし。作戦の初期段階として、まず巨人族を混乱させて叩く。飛鳥さんとペストは翔さんの戦略兵器のサポートを。うまく追い詰められたら敵は必ず〝バロールの死眼〟を投入してくるはず。黒ウサギは〝アンダーウッド〟の頂上でタイミングを見計らいつつ待機。敵の巨人族が〝バロールの死眼〟を使ったのを確認して、帝釈天の神槍でトドメを刺す。………どうかな?」

「………ふぅん。まあ、無難な作戦ではあるわ」

 

 ペストは一瞬だけ意外そうな顔を見せたが、すぐに悠然とした笑みで飛鳥と黒ウサギを見た。

 

「そう。あの変態のせいですっかり忘れていたわ。貴方達には、この化け物ウサギがいるのだったわね」

「ば………!?」

「それじゃ赤い人。行きましょうか」

「飛鳥よ。ちゃんと名前で呼びなさい〝黒死斑の御子〟」

「そっ。気が向いたら、あの変態よりは先に呼んであげるわ」

 

 ペストは言うや否や、黒い風を舞い上がらせる。黒ウサギが反論する間もなく土煙を上げて飛翔し、物理演算砲が撃ち漏らした巨人族を迎え撃つ。

 飛鳥も同様に巨人族を討つために黒ウサギ達と別れる。

 彼女が向かったのは混沌の渦中にある最前線ではなく、〝アンダーウッドの地下都市〟を守るための防衛戦だった。勿論そこにもゴミ箱先輩や物理演算砲が設置されているが、様子を見に行かないわけにもいかない。

 

「〝アンダーウッド〟を守る約束だものね。―――行くわよ、ディーン!」

 

 ギフトカードを掲げ、幻獣や獣人たちの援護に回る飛鳥。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟東南の平野・最前線。

 黒ウサギが足止めを受け、自身の元に現れた少女を強敵と認めた頃。

 また、サラが飛鳥と合流して防衛戦で奮闘している頃。

 最前線では戦況が変化しようとしていた。

 ペストは士気を操作されて無理やり戦わされている巨人族を無視して、敵本陣へと強襲してそこにいたアウラと対立していた。

 そしてアウラの甘言の中で言われた、〝ハーメルンの笛吹き〟の侮辱にペストは怒りが爆発した。

 

「………アウラ。私はあの変態野郎とは違って、一つだけ貴女たちに感謝していたわ。それは他でもない〝ハーメルンの笛吹き〟の魔道書を提供してくれたこと。その一点に関していうなら、私は間違いなく貴女たちに義理も借りもあったわ。………だから今の交渉も、一考の価値はあったの」

「……………」

「でもオマエはたった今、それを捨て去った。そして吐き捨てた。オマエ達にとっては只の捨て駒でも、〝グリムグリモワール・ハーメルン〟は……私の全てを賭して旗揚げし、彼らが命を捧げたコミュニティよ」

 

 ペストは静かな声でアウラを恫喝し、笛吹き道化の指輪が嵌められた右手を握り込む。

 彼女にとってあのコミュニティは、最初の居場所であった。自身の野望に協力し殉じた二人の同士がいたあのコミュニティが、だ。

 

「その同士を侮辱するということは、私が掲げた旗を侮辱することと同意の行為。―――だから此処で、私たちの決別は為された。後はお互い殺し合うだけよ、古き魔法使い」

「………そう。とても残念だわ」

 

 アウラはため息を吐き、本当に残念そうな素振りで肩を落とした。

 一方その頃、巨人族の本陣を突き破って現れた飛鳥とディーンとサラ、そして追従した〝龍角を持つ鷲獅子〟同盟の幻獣・獣人たちがアウラの前に立つ。

 飛鳥はペストを横目で確認し、

 

「お疲れ様、ペスト」

「どういたしまして。でもまだ終わってないわ」

 

 一同の視線が一斉にアウラへと集う。

 サラは代表者として前に進み出て、降伏勧告をした。

 

「巨人族は全て我々が倒した。士気を操作して無理やり戦わせたようだが、所詮は死に体の輩。我々の敵ではない。大人しく降伏し、その身を預けるが良い」

 

 言い終わり、剣を抜く。これが最後通牒であるという意味だろう。

 巨人族を失い、四方を取り囲まれたアウラ。しかしその唇には憮然とした笑みが絶えず浮かんでいた。

 ペストは警戒しつつ、飛鳥とサラに告げる。

 

「気を付けて。この人は巨人と同じ人類の幻獣―――通称〝魔法使い〟と呼ばれる者よ。中でもコイツは〝妖精〟の語源に相当する〝フェイ〟と呼ばれる絶滅危惧種。代表的なのは『アーサー王物語』の〝湖の乙女〟やモリガン、『灰かぶり姫』の〝小さな魔法使い〟とかと同系統。人類カテゴリーじゃ最上級のキワモノね」

「好き放題言ってくれるわね。でもそういう事は、戦いが始まる前に伝えておく物よ?」

「言ったでしょ。ついさっきまでは義理も借りもあったと。………それに、あの変態野郎以外は誰も示し合わせたように聞いてこないんだもの。変なところで義理堅いと思わない?まあ、あの男に尋ねられた時は気に喰わないっていう理由で、意地でも言わなかったのだけれど」

 

 悠然と告げたペストは、〝アンダーウッド〟の本陣を見る。

 ペストは五感を通して戦況を窺っていたジンは、思わずドキリとした。

 

「さっ、終わりにしましょうアウラ。今なら特別待遇として、三食首輪付き年増女中として生かしてもらえるよう、交渉してあげてもいいわ」

「……………」

 

 ペストの言葉に表情を消すアウラ。

 彼女は自分を包囲する数多の軍勢を一度見回し、ボソリと呟いた。

 

「………ペスト。貴女は何故、巨人族が黒死病に弱いか知っている?」

「え?」

「〝黒死病を操り、築き上げた支配体系〟。これが巨人族の呪いとして、貴女を優位に立たせている。―――でも逆説的に考えてみて?〝黒死病によって支配された巨人族〟がいるなら、〝黒死病で支配していた巨人族〟も存在していたはずよね?」

 

 ………何?と様々な場所で声が上がる。

 アウラは〝来寇の書〟を閉じ、儀式場に安置された〝バロールの死眼〟を手に取る。

 何をするつもりかと眉を顰めるペスト。

 そんな彼女の脳裏に、ジンの悲鳴のような言葉が響いた。

 

(ペスト、彼女を倒して!今すぐだッ!!)

(え?)

(やられたッ!バロールだッ!彼女の言う〝黒死病による支配体系〟を築いたのは、バロールが率いた部族のことだッ!もしかしたら敵の狙いは………!!!)

 

 ジンの言葉でペストも敵の狙いを直感し、黒死病で倒れている巨人族を見る。

 しかしアウラは嘲笑うかのように〝バロールの死眼〟を掲げ、

 

「さようなら、〝黒死斑の御子〟!そして〝龍角を持つ鷲獅子〟同盟の皆さんと、その他大勢の皆さん!不用意に全軍を進めた、貴方達の敗北よ………!」

 

 〝バロールの死眼〟が一瞬、戦場を満たすほどの黒い光を放つ。

 死眼の光を受けて死を覚悟したサラ達だったが、別段身体に別状はない。

 何故だと訝しげに顔を見合わせる一同。しかし次の刹那―――

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォォ――――――!!!」」」」」

 

 黒死病から解放された巨人族が、鬨の声を上げて彼らを包囲した。

 しかし、そんなアウラと巨人族をさらに嘲笑う者がいた。

 

 

 ムシャリ

 

 

 複数の咀嚼音が重なり、大きくなって戦場に響き渡る。それと同時に包囲していた巨人族の一部が消え失せた。

 

「……………………え?」

 

 アウラが突然の出来事で言葉を無くす。

 それもそうだろう。誰が空からゴミ箱が()()()()()、巨人族を捕食するなんて予想するだろうか。

 

 ―――とことん邪魔するって、言ったはずだぜ?―――

 

 アウラは、そんな声が聞こえたような気がした。

 サラ達すらも呆然としてる中、白い悪魔(ゴミ箱先輩)による一方的蹂躙が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟上空。吸血鬼の古城・外縁部付近。

 東南の平野の最前線に空からゴミ箱が降り注ぐ、少し前まで遡る。

 翔は古城の防衛ギフトの範囲内に入らないギリギリの場所まで来ていた。此処からでも十六夜と防衛ギフトの戦闘音が聞こえてくるほどだ。

 なぜ彼がこのような場所にいるのかというと………()()だ。

 下の前線で想定外が起こる、もしくは最悪のケースの場合に機能するためのものを()()しにきたのだ。

 その物の名称は、()()()()()()()()()()()()だ。それをこの古城の外へと射出口を向けて設置する。

 あとは勝手にゴミ箱先輩が危機を察知して飛んでいくだろう。………今回ゴミ箱先輩の力に頼り過ぎで後が怖い翔だが、犠牲を減らすためには文字通り粉骨砕身の覚悟をしている。

 そして、翔の想定する最悪とは〝バロールの死眼〟とやらの使用、またはゴミ箱先輩が()()になった場合だ。

 ゴミ箱先輩にも感覚があり感情があるように、人に備わっているような大半の機能が存在する。逆にないモノを上げた方が楽なほどに。しいてあげれば、瞬き、関節、排泄等の機能が存在していない。なので、ゴミ箱先輩にも容量というものが存在する。

 物理演算砲の組み立てが終わると、翔は満足したように一度頷く。

 

「………よし、これでいいな!ならさっさと、耀のところに向かうか。元から狙われていたとはいえ、俺のせいで場所まで伝えてしまったしな。待ち伏せされてる可能性もあるしな」

 

 独り言を言って、外縁部に背を向けて玉座の間へと足を向ける。

 ゴミ箱先輩が射出されたのは、翔が去ってからほんの少し後であった。

 ()()が存在するように、逆に()()も存在する。それに耐えきれなくなった先輩たちが、最悪のケースになる前に勝手に飛び出したのだ。だが、今回はそれが功を奏した。おかげで最悪のケースが起きたと同時に、その時点ではまだ最善な状況へと転じることが出来たのだから。

 

「―――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!」

 

「………は?え?なんで?ゲーム再開?クリアに伴って?いやそれなら〝契約書類〟に何かしら出るはず。なら、なんで………?」

 

 突然の出来事で、足を止めて考え込んでしまう。だがすぐに頭を振って、その思考を掻き消す。

 

「今は耀に合流することを急ごう………。俺が考えなくても十六夜あたりがどうにかしてくれるだろう」

 

 そう考えて先ほどよりも足早に耀達がいるであろう玉座の間に再び向かい始める。

 しかしその道中で玉座の間から一つの人影が飛び出し、上空に巻き上げられる姿が目視できた。それを追うように黒い鷲獅子が飛び出す様子も窺えた。

 人影が耀、黒い鷲獅子があのとき影にいた声だけの存在だと即座に理解すると、城下街にいる者達に被害が出ないように〝混沌世界(パーク)〟へと引き摺り込んだ。

 

「「………ッ!?」」

 

 突然周囲の光景が変化したことに戸惑い、動きを止める二人。

 先ほどまで城の周囲を旋回していたはずなのに、気がつけば見知らぬ()()()()()()()()()()の地面に立っていたのだ。そのうえ向かい合い戦っていたはずなのに、耀は建物の影におり、隣には翔がいた。対するグライアは建造物に囲まれた広場の中央に立っていた。

 

「とりあえず、城下街にいる奴らに被害が出ないように此処に隔離した」

「………うん。ありがとう………」

「それで、アイツはどうにか出来そうか?」

「………………………作戦があって閉じ込めたんじゃないの?」

「あるわけないじゃん。アイツのギフトも実力も分からないってのに、作戦立てたって作戦とすら呼べないお粗末なもんになるだけだ。なら最低限ゲームの邪魔にならないようにするしかない。あの野郎は耀を狙っているからお前がいた方が、時間稼げそうだったからだ。しばらくは観察に徹するつもりだ」

 

 翔に正論を言われて押し黙ってしまう耀。

 翔は説明しながらも広場の中央にいるグライアから観察し続けている。

 

『………フン、突然のことで驚いたが、所詮は時間稼ぎか。しかしこの程度の事で姿を隠しきれると思っているのか!?』

 

 高く吼えるグライア。刹那、黒い鷲獅子はその造形を激変させるように軋ませ始めた。胸に刻まれた〝生命の目録〟の系統樹が流転を繰り返し、彼の生命としての在り方そのものを変幻させていく。

 骨肉が捩れ軋む音が広場に響く。物陰からその様子を窺っていた二人だったが、耀は余りの事態に息を呑んで放心していた。だが翔は冷静に、その変化から目を離さずに観察していた。

 グライアの身体から黒翼と嘴が無くなり、首筋からは三つの頭と顎が生え、やがて巨躯の猛犬へと姿を変幻させていく。

 その姿を見た翔は放心している耀を抱えて、

 

「移動するぞ」

「え?」

 

 即座に、この場に居てはマズイと判断して【ポセイドン】で移動し始める。

 匂いを頼りに二人を追い始めるグライア。さすがと言うべきか。【ポセイドン】の加速にも軽々とついてきている。それを後ろ目で見た耀が告げる。

 

「………追いつかれちゃうよ?」

「分かってる。内心めっちゃ怖い。だからアイツをどうにかする方法を考えてくださいお願いします耀様」

「………」

 

 無表情で冷や汗を流している翔をジト目で睨む耀。

 

「………なら翔がゲーム終了まで閉じ込めておいたら?」

「いいのか?アイツのギフトは耀と同じか近しい〝生命の目録〟だ。多分向こうの方がギフトの扱いは上手い。だから少しでも、お前のギフトのことが分かるかもしれないという俺の粋な計らいなんだが、観察しなくて良いのか?」

「………翔から見て、彼のギフトは、どういうものだと思う?」

 

 興味半分、恐怖半分。そんな感情を含ませた耀が尋ねる。尋ねられた翔は彼女のことを横目でチラリと確認して、

 

「分からん!」

 

 自信満々に言い放った。再びジト目で睨む耀。

 

「まず俺に聞くなよッ!?現在進行形で逃げるのに必死な俺に!!向こうの方が絶対詳しそうじゃん!!?」

 

 そういって、耀を抱えてない方の手で空を駆けて追いかけてきているグライアを指さす。

 そんなグライアは罠も何もないと分かったのか一気に二人との距離を詰め、

 

『遊びはここまでだッ!』

 

 二人を噛み殺さんと襲い掛かる。翔は抱えている耀を前方に投げると、身を挺して彼女を守る。だが、それでも動きを止められるのは三つある頭部のうちの一つのみだ。

 

「翔!?」

「俺より自分の心配をしろッ!!」

 

 噛みつかれながらも耀に逃げるように叫ぶ。だがグライアがそれを許さなかった。翔を遠方に投げ捨てて耀に襲い掛かる。耀は即座に旋風を巻き上げて上空に逃げる。

 

『愚か者がッ!我ら鷲獅子の一族は翼が無くとも飛翔出来るのを忘れたか!!』

「―――っ……!」

 

 グライアも強靭な四肢で大気を踏みしめ、一瞬にして耀との距離を詰める。鋭い牙で耀に襲い掛かるところ、既の処でかわす。

 だが、残り二つの頭が間髪容れずに巨大な犬歯が耀を襲う。連続して襲う牙に左足が掠る。それだけで耀から大量の鮮血が舞った。

 耀は鼻頭を全力で蹴り上げ、その勢いで急降下して距離を取る。半ば叩きつけられるように降りた耀は、その衝撃と激痛に顔を歪めた。

 

「痛っ………!」

 

 しかし痛がっている場合ではない。耀は直ぐに立ち上がって逃げようとするが、鷲獅子の姿に戻ったグライアがその行く手を阻んだ。

 即座に臨戦態勢を取る。しかしグライアは何故か訝しげな表情で耀を見つめた。

 

「……………?」

『………解せんな。何故、〝生命の目録〟を使って変幻しない?そのギフトを使えば勝てぬまでも、防戦に徹する事は不可能ではないはず』

「………変、幻……?」

 

 肩で息しながらオウム返しに問い返す耀。

 グライアは一層不可解だと瞳を細めた。

 

『小娘。よもや貴様、そのギフトが何か知らぬ訳ではあるまいな』

「え………?」

『その〝生命の目録〟は生態兵器を製造するギフト。使用者は例外なく合成獣となり、他種族との接触でサンプリングを開始する。………よもや、知らぬまま使っていたのか?』

 

 耀は息を呑み、父に渡されたペンダントを握りしめる。

 

「接触して………サンプリング……?」

『そうだ。先ほど組み合った時に発した剛力。それは巨人族の物だ。お前にも覚えがあるだろう?数日前に〝アンダーウッド〟を襲った時に戦ったはずだ』

「へー、そういう代物だったのか。耀のギフトは」

 

 そこにようやくグライアに投げ飛ばされた翔が合流する。大体の話の流れを聞いていたようだ。彼は耀に駆け寄ると、彼女を背にしてグライアに立ち塞がるように二人の間へと立つ。

 

「耀。動けそうか?」

「………ちょっと、無理かな」

「なら本格的に閉じ込めるのを視野に入れなきゃいけないのか………(最悪、あの()()()を使うことも考えとくか)」

 

 眉を顰めてグライアを睨む翔。

 

『あくまでも抵抗するか。その小娘はこのまま生きていたとしても、己の怪物性に目覚めて苦しむだけだぞ?』

「悪いね。うちの稼ぎ頭の一人なんでな。そう簡単に殺されても困んだよ」

『………そうか。ならば貴様もろとも消し飛ばすのみだッ!』

 

 グライアの龍角が、彼の総身を包むように灼熱の炎を放出し始める。炎の中で体を変幻させていく彼はやがて全身を巨躯へと変え、別の怪物として組み上げて行く。黒い鷲獅子の面影はやがて消え―――炎の嵐から、巨大な四肢と龍角を持つ黒龍が顕現した。

 

「………鷲獅子が、龍に………!?」

「うわ。カッコイイなアレ」

『これが貴様の父が造りだした業の片鱗。そして〝生命の目録〟が持つ、真の力だッ!!!』

 

 黒い西洋龍となったグライアは口内に炎を蓄積し、熱線として建物や公道を焼き払う。しかし、その直後にまた世界が移り変わった。

 さっきまでのビル群や公園のようなものは姿を消し、代わりに工場のような建造物が立ち並ぶ街並みにだ。

 

『………厄介な。だが意味のないことだ。すぐに見つけ出して始末するのみだ』

 

 そういって飛翔するグライア。

 一方の翔と耀は、ある廃工場の中の物陰で身を潜めていた。

 

「さて、アイツを倒すか倒さないかの賛否決議をはじめまーす」

「………もう閉じ込めちゃえば?」

「未来の敵は最低でも重症にしたいんで諦めてください。だからどうにか倒したいです。どうにかなりませんか耀様」

「………でも、私のギフトは………」

 

 自身を怪物にするギフト、と言いかけて口を噤み顔を俯かせる。翔はそれを見てため息を吐く。

 

「………別な方向から考えねえ?」

「………?」

「お前の親父さんは娘を怪物にしたがるようなマッドな奴だったのか?」

「―――っ、違う!!」

「ならそうなんだろうよ。そんな危険な代物を渡すわけがない。そうしたら逆にこういう仮説が立てられる」

「………」

「仮説一、耀のペンダントはグライアの知っている〝生命の目録〟とはまた別の〝生命の目録〟である。仮説二、耀の為に作られた耀だけのギフトである。仮説三、耀ならば怪物にならないという確信があって渡した。仮説四、仮説一から三すべてを合わせたもの。でも、どれにせよ耀はまだ〝生命の目録〟の真価を発揮できていない、ってことになる」

 

 耀は静かに翔の話に耳を傾けている。

 

「それで、どうする?此処で死にかけて、小説みたいに真の力が発揮できるのを期待するか。または勝てない、無理だと自分に言い聞かせて尻尾巻いておめおめと逃げ出すか」

「………私に、できるかな………」

「自信もたなきゃだめだぜ?基本的には根性でどうにかなるさきっと」

「………帰ったら和食と和菓子。材料費は翔持ち」

「うぐっ………こういう時ぐらい頭ン中から飯を消せよ。俺の本業は料理人じゃなくてスケーターなんだからよー」

「それで、作ってくれるの?」

「約束すればアイツをどうにか出来んのか?」

「やってみせる」

 

 自信満々に言い切る耀。それを見て、安心したような表情を浮かべて立ち上がる翔。

 

「それなら、俺は時間稼ぎにでも行ってくる。もう一回ステージを変えるから、隙を見て一発ぶち込めよ。俺にこんな柄にもないことさせたんだから」

「うん。任せて」

 

 再び、世界が移り変わる。

 

 

 

 そこは最初のビル群が立ち並ぶ世界だった。ビルに囲まれた場所に二つの影が見える。片方は翔。もう片方は黒龍の姿のままのグライアである。

 

『………小娘は何処だ?』

「もう外に帰したさ。この世界にはお前と俺の二人だけ。あっ、できればこういうのってかわいい女の子と二人っきりの場面で言いたかったかな」

『………戯言を。私の嗅覚を知っていて、そんなことを言っているのなら正真正銘の馬鹿だな』

「馬鹿で上等。どうせそのご自慢の嗅覚はすぐに使えなくなるさ」

 

 そういって、懐から球体の物質をいくつか取り出す翔。それをしっかり握るとグライア目掛けて走り出す。

 

『空を飛べるのを忘れたかッ!』

「逆になんで俺が飛べないと思ってんの?俺とリンとやらの会話を聞いていなかったのか?馬鹿なの?死ぬの?」

『………ッ!?』

 

 空へと駆けあがるグライアをすぐに【ロケット】で追いかける翔。驚きで一瞬身体を硬直させるグライア。翔はその隙を見逃すつもりは無かった。手に握ってあった球を彼の鼻目掛けて投げつける。すると中に入れてあった粉状の物質が舞った。

 

『毒かッ!?』

「んなもん使うわけないだろ!」

 

 即座に翼を羽ばたいて粉を吹き飛ばすが、少し遅かった。

 

『………ハ、ハックションッ!?ハックション!?き、貴様、ハックシュン!?これは、何だ!?』

「中身はただのコショウじゃボケッ!!」

『私を、ハックシュン!馬鹿にしているのか!?ハックシュン!!』

「あ、分かっちゃった?でもまあ、こちとら貴様に噛まれて超痛かったんだし安いもんだよね!つ、ついでにそのまま呼吸困難になって窒息死しろとか、お、思ってなんかいないんだからねっ!?」

『貴様、ハックシュン!許さんぞ!!』

 

 ツンデレ風に挑発する翔にグライアの怒りが有頂天に達して、くしゃみをしながらも意識が完全に彼だけに向けられる。この男をどう痛めつけるか。それしか考えていなかった。………()()の事はその瞬間だけ完全に脳内から消え失せていた。

 

『………何ッ!?』

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 ペンダントが変幻した、先端に大蛇の顎を持ち、翠色の翼を装飾した巨大な杖をビルの影からグライアに狙いを定めて掲げている耀。

 先端から溢れ出た閃熱が大波の様に黒龍の片翼を消し飛ばした。

 

『オオオオオオオオオッォォォォォォ―――!!!』

 

 断末魔にも似た絶叫。翼を失ったグライアはその一撃で吹き飛んでいく。そしてビルにぶつかる直前に、

 

「とりあえず、そのまま落ちてけよ。回収はあの三人にでも頼むんだな」

 

 翔が古城の外へとつなげて、グライアを弾き出す。それを確認した翔は息を吐いて安堵する。

 

「これで一段落だな。十六夜達と合流する、ぞ?」

 

 耀の方を振り向くと地面に倒れている彼女の姿が目に入る。胸が静かに上下しているから生きてはいるのだろう。

 

「………ああ、メンドクサッ………せめて古城に戻ってから倒れて欲しかったが」

 

 文句を口にしながらも彼女の姿を見て、軽く笑っている。

 

「これで耀はより稼げるようになったな。これでうちの財政がもう少し楽になればいいが。………できれば食費を抑えて欲しいんだがな………」

 

 そういって翔は耀と共に古城の城下街に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 ———吸血鬼の古城・黄道の玉座。

 レティシアのいる玉座の間に繋がる通路を歩く翔と彼に背負われている耀、合流した十六夜とガロロ、キリノ、ジャックの四人。

 

「で?俺が頑張って情報渡したのに一発食らったのか?しかも九割わざと?なに?アホなの?マゾなの?敗北の味でも知りたかったの?」

「ヤハハハハ!」

 

 笑ってごまかす十六夜。

 肩を怪我している十六夜を見て事情を聴いた翔が、呆れながら彼のことを非難する。

 翔は耀の足を軽く処置していると、そこへ十六夜達がきたのだ。そして、十六夜の怪我を見た翔が唖然として問い詰めた。それで耀のついでに十六夜の処置も行った。

 怪我人に人を背負わせるわけにもいかず、翔が耀を背負っている。

 その途中で耀が目を覚ます。

 

「………翔?」

「………気が付いて何よりだ。耀もこの馬鹿になんとか言ってくれ」

 

 半分諦めたような翔の声が回廊に響く。そういわれて十六夜の方に視線を向ける耀。その方向にはボロボロの学ランを着た十六夜がいた。そのあとすぐに、前方にいるガロロ、キリノ、ジャックを見る。すると安心したのか力を抜いて翔の背中に凭れかかる。が、すぐに何かに気づいて勢いよく辺りを見回す耀。それに気づいた翔は、

 

「アレならちゃんと回収してある。心配するな」

「そ、そう?それなら、いいけど………」

 

 小声で耀に話す。

 

「でも、アレを渡すのはどうかと………」

「………だよね」

「俺のヘッドホンやるから、そっち渡しとけ」

 

 小声で話し続ける二人。

 

「で、十六夜は完全な謎解きが出来てたのか?」

「ああ。俺はレティシアから吸血鬼の歴史を聞いていたからな」

「………吸血鬼の歴史?箱庭より前の?」

「そう。曰く、あの巨龍は『吸血鬼の世界を背負う龍』だそうだ。まあ確かに大きいと言っちゃ大きいが………流石に、星を引っ張るほどはデカくねえ。だから俺は吸血鬼たちが抱いていた宇宙論は宗教上の比喩・暗喩の類だと読み解いた」

 

 そう―――それが『系統樹が乱れないように、巨龍の背から監視していた』という十六夜の推論。

 

「この前提を知っていれば、この空飛ぶ城が衛星だという発想に辿り着くのは容易だ。だから俺も最初に目を付けたのは〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT〟だった。その次が第四勝利条件〝鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て〟かな」

「………もしかして言葉遊びだったのか?〝革命〟の部分は。〝正された獣の帯〟ってそこにかかる言葉か。そこを〝公転〟に直せばいいって訳なのか」

「へえ。翔は気づいてたのか?まあ、正しくは第三勝利条件の裏付けにも使うが」

 

 十六夜が感心したような声で尋ねる。それに対して翔は首を振って否定する。

 

「まさか!暇つぶしに〝契約書類〟を英訳して、再び和訳してって遊んでるときに気がついただけで、全部偶然だ。地面に潜ってる間は暇だったんだよ。結局それだけ考えても勝利条件はさっぱりだしな」

 

 予想通りというべきか、ただの偶然であった。

 耀は二人の話を聞いて考えをまとめた。

 

「えっと………つまり総合すると『公転の主導者である、巨龍の心臓を撃て』というのが、第四の勝利条件?」

「ちょっと違うが、概ねそういうことだ。………ただ一つ、腑に落ちないことはあるが」

 

 そこで言葉を切る。最後の欠片を嵌める窪みを見つけたのだ。

 十六夜はその場ですぐには嵌めず、玉座に鎮座していたレティシアに振り返り。

 

「………レティシア。外の巨龍はもしかして………お前自身なんじゃないか?」

 

 え、とその場にいた全員が瞳を丸くしてレティシアを見る。

 レティシアは沈鬱そうに俯き、自嘲の笑みを浮かばせた。

 

「………ああ。その通りだ」

「ど、どういうこと十六夜?」

「タイトルに書いてあるだろ。これは太陽の軌道の具現である巨龍と、吸血鬼の王様が主催したゲーム。そして勝利条件に二度登場するレティシアの存在。確信にはちょっと物足りないが、推測するのは難しくない」

 

 フン、と何故か不機嫌そうに鼻を鳴らす十六夜。

 レティシアは心底困ったように彼を見つめて頷く。

 

「………最強種を箱庭に召喚するには多くの場合、星の主権と器が必要だ。そして偶然にも、当時の私にはその二つが揃っていた。龍の純血種が生み出したこの身体と………我ら〝箱庭の騎士〟が積み重ねた功績の証。十三番目の黄道宮という主権が。………しかし、それも今日で本当におしまいだな。勝利条件を満たせば巨龍も間もなく消える。私も無力化されてゲームセットだ」

「………本当は?」

 

 其処で翔が彼女に尋ねる。

 

「無力化ってのは、具体的にどうなるんだ?アレがどうやって無力化される?死ぬのか?どこかに消えるのか?」

「………本当に、頭がいいのか悪いのか疑いたくなるな、主殿は。………クリアされれば大天幕が開放され、太陽の光が降り注ぐ。その光で巨龍は太陽の軌道へと姿を消すはずだ」

「………クリア後、大天幕の開放まではどれくらいだ?」

「………大体十数分後というところだろう。ゲームがクリアされれば具体的に分かる」

「………分かった。十六夜。とりあえずゲームをクリアさせろ。そのあとは、俺に協力してくれ。頼む」

 

 真剣な表情で十六夜に頼み込む翔。

 

「俺に出来ることは何でもしてやる。だから、今回だけ力を貸してくれ」

「………へえ?なんでだ?」

「………ここで救えなきゃ、絶対に後悔する」

 

 そこにいる全員が静かに翔の言葉に耳を傾けている。

 

「主に家事と子供達の統率に関して。新しく俺じゃ扱いきれないメンドクサイ斑模様のムカつくクソアマも増えたし、俺の負担が増えるのはさすがに嫌だ。レティシアにはメイドが増えた際のメイド長をしてもらおうと思っていた計画が全部潰れるし。子供達の教育係も減ってしまう。それに死なれるとコミュニティの雰囲気も暗くなって、子供達や黒ウサギの仕事効率が悪くなる可能性もあるし。それにいざという時の戦力だって―――」

「待って。いいこと言ってるかもって思ったら、そういう理由なの?」

「え?悪いか?コミュニティの事を考えて言ってるつもりなんだけど………。それにほら、負担が全部俺らに来るしさー………今いなくなられるのはかなり困るぜー」

 

 頭を掻きながらぼやく翔。

 その場にいる翔以外の全員が、ハァ、とため息を吐く。

 

「え?ていうか、二人はここでレティシアを見殺しにして、後悔しないって言えんの?」

「………言えない。絶対無理」

「俺も無理だな」

「じゃあ、救おうぜ?みんなで!」

 

 物凄く軽く告げる翔。そんな彼の表情は明るく、満面の笑みだった。それにつられて二人も笑ってしまう。

 

「そうだね。助けた後でいっぱいこき使おう」

「二人がやる気なら俺も手伝うぜ。それと翔。さっきの約束忘れんなよ?」

「うげっ。そこは無償で手伝う流れじゃないのか………?」

「ヤハハハハ!」

 

 笑いながら最後の欠片を窪みに嵌める十六夜。

 

 

『ギフトゲーム名〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟

 勝者・参加者側コミュニティ 〝ノーネーム〟

 敗者・主催者側コミュニティ 〝     〟

 

*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了とします

 尚、第三勝利条件達成に伴って十二分後・大天幕の開放を行います。

 それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承下さい。

 夜行種の死の恐れがありますので七七五九一七五外門より退避して下さい。

 

 参加者の皆様はお疲れ様でした』

 

 

 ゲームの終了が告げられる。

 

「十二分か。悪いけど先に行って飛鳥の援護に行ってくる」

 

 そういって何故か()()()()()を被る翔。それを見てギョッとしたレティシアが尋ねる。

 そんな翔の手には、何かが入った小瓶が握られていた。

 

「ちょ、ちょっと待て。何をする気だ?毒でも使うつもりか?」

『うーん?毒よりももっと凶悪かね?何せ耐性のつけようがないし、抗体や血清もないから。今から使うものを説明すると長いから言わないけど、簡単に言えばゴミ箱先輩に対して唯一の白星の際に使った()()()。もしくは()()

 

 くぐもった声で話す翔。

 説明を聞いた十六夜、耀、レティシアの三人は嫌な予感しかしなかった。

 

「待て待て待て。お前はじっとしてろ。な?さっきの約束もなかったことにしていいから」

「うん大丈夫。何もしなくていい。ここでガロロさんを守っててくれればそれでいいから」

 

 焦るように十六夜と耀が彼に必死の説得を試みるが、

 

『男に二言はない!それに()()がどれくらい効き目あるのか興味あるから俺は行く!』

 

 そういって地面の中へと消えていった翔。さすがの二人も自身が通れない場所に行かれては止めようがなかった。

 二人は本当に焦って立ち上がり、

 

「マズイッ!急がないとまた斑ロリの時のような気持ちを味わうことになるぞッ!!」

「さすがにあの時の話は聞いただけでも虚しくなったから、絶対に止めないとッ!!」

 

 そういって耀は〝生命の目録〟を変幻させ、ロングブーツを先端から燦爛とした光を放つ白い翼が生えた白銀の装甲に包ませる。

 

「何だよそれ、超カッコいいじゃねえかッ!」

「後でたくさん褒めて!今はそんなことを聞いてる場合じゃないから!!私は運ぶだけでいいんだよね!?」

「ああ!十分だ!その後は任せろ!だから翔より速く頼むぜ!!」

 

 そうして、二人も巨龍をどうにかするべく古城を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、二人が地上で見たのは半身がボロボロの赤い鉄人形のディーンと、何とも言えない表情をしている飛鳥とサラとその同士達。

 そして、正座をして『申し訳ありません。自身の行動について反省も後悔もしています。どうか気の済むまで叱るなり罵るなり痛めつけるなりしてください。私はそれを地獄の亡者のように全ての罰を受け入れます』と書かれたボードを自主的に首に下げたと思われる翔。

 そんな彼らの視線の先には―――

 

 

 

 ―――白目を剝き、泡を吹きながら、仰向けに倒れて痙攣している巨龍の姿であった―――

 

 

 

 ………十六夜と耀は、翔を止めることが出来なかったことを激しく後悔した。

 

 

 彼が使った()()()、または()()と呼称していた代物。それは、ゴミ箱先輩に勝ちたいという執念から作られた、()()()()()()()()()()()()()()だった。しかし、その威力は人が一滴でも口にすれば、脳が伝わってくる情報を処理しきれずにショートするという、文字通りのデスソースである。

 巨龍(レティシア)はそんなものを小瓶一つ分を口に入れられ、ああなった。

 翔はこの一件で、永久に使わないことを決めた。ちなみにこれが『ゴミ箱先輩による一週間ぶっ続けリスキルの刑』の原因でもあり、ゴミ箱先輩が一日は何をしても動かなくなった、翔の唯一の白星の要因でもある。

 とどのつまり、ただ憎しみから生まれたトンデモ兵器である。

 

 

 結局、助けても助けなくても二人が後悔する結末であった。

 

 

 その後、翔は〝ノーネーム〟の同士のみならず〝アンダーウッド〟の皆様からも厳しく叱られた。

 

 サラは「私はあんな結末のために自身の角を………?あは、あははははは………!」とブツブツと壊れたように呟いている姿が数日間見かけられたが、翔に全ての怒りをぶつけた次の日には元に戻っていた。いや、むしろ以前よりも表情が明るくなったそうだ。

 

 そして肝心のレティシアはと言うと、ゲームクリア後一週間は目を覚まさず、皆から心配されたが無事?に生還。しかし、しばらく翔を避けるような姿が見かけられた。

 

 

 ………もしかしたら翔が何もしなかった方が、被害が小さく済んだのではないだろうか?

 

 

 




【全自動ゴミ箱先輩射出装置】
 あの不安定な射出装置を全自動にしてほんの少しだけ安定させたもの。

混沌世界(パーク)
 実はパーク以外にも翔の世界も呼び出せる。ただし人はいない。絶対に壊れない不思議な建物が乱立している。

巨龍(レティシア)
 五感も脳もあるという()()

【危険物or劇物】
 世界一辛い唐辛子『キャロライナ・リーパー』を百個凝縮して作ったエキスに、友人からもらった(押し付けられた)虹色ソース(仮称)を混ぜ、謎の反応によって辛味がありえないぐらい跳ね上がってしまった代物。
 翔自身も出来てすぐに飲んでみたが、気が付いたらリスポーンしていたとのこと。文字通りのデスソース。
 唯一ゴミ箱先輩に勝つための手段。しかしその後に地獄が待っている。
 ちなみに在庫がまだ小瓶五ダース分ほどある。



翔 「まさかあんなことになるとは………」
作者「いいじゃん。ゴミ箱先輩にも巨龍にも通用するってわかったんだから」
翔 「圧倒的に不利益の方が大きいんだよなぁ………」
作者「まあ、そんな落ち込んでいる翔君は放っておいて、ヒロインアンケートの途中経過ドンッ!」


計二五票
・ペスト:八票(内SM覚醒チキンレース希望が二票)
・耀:六票
・女性店員:五票
・レティシア:一票
・黒ウサギ:一票
・ヒロイン無し:一票
・あたりめ:一票
・ゴミ箱先輩:一票
・十六夜:一票


作者「………大分意見が割れたね!」
翔 「いやそこか!?一番下!一番下をよく見ろよ!?」
作者「大丈夫!警告タグのボーイズラブはこの時のためにあるんだから!」
翔 「やめろォ!」
作者「冗談だよ。どう間違っても十六夜が、というよりは男がヒロインになることはないよ。BLは嫌いなんだ。そんな腐ってるのは姉だけで十分さ………。警告タグも知らないうちにそういう描写してたら嫌だな、ってつけたもんだし」
翔 「作者………」
作者「それ以上に俺はペストが一位になることに不安がある」
翔 「え?」
作者「『ラストエンブリオ』に突入すると絡みが極端に少なくなる可能性があるし、SM覚醒チキンレースってどうすりゃいいんだよ………分かんねぇよ………」
翔 「じゃあ、どうするんだ?」
作者「『一位二位のダブルヒロイン案』というのが頭を過ってしまったが、恋愛描写したことのない俺にそんなことが出来るのか………?と現在もの凄く悩んでる。耀なら逆に楽なんだがな」
翔 「また読者に意見を聞くのか?」
作者「それはできればあまりしたくない。そう頻繁にアンケートとかは実施したくないんだよね。まあ、とりあえず結果が決まってから考えるさ。これについての意見がある方は活動報告のなんでも掲示板で教えてください。それじゃあ、また次回!」
翔 「結局アンケートっぽくなってるし………。じゃあ、また次回!……………………………次の投稿は?」
作者「出来るだけ早く投稿できるように鋭意執筆中です」


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