もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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 ヒロインアンケート継続中です。中間結果があとがきにあります。おそらく次の次の投稿で締め切りです。


第十六話 残念諜報員、その名は板乗翔!

 地上に何事もなく帰還した翔。これから十六夜に、あの防衛ギフトとの対戦映像を見せに行こうと考えている翔。しかし、樹の中を歩いていると突然の揺れでバランスを崩し、地面に手を突いてしまう。

 

「………なんぞや?巨人族ってわけでもなさそうだし………?下から、なのか?」

 

 不審に思って下を目指し始める翔。入り組んだ道でかなり迷ったが、なんとか揺れの原因に辿り着く。そこには、

 

「―――アレでよくも私のゲームを生き残れたものね。逆に感心したわ」

 

 ジン、ペスト、黒ウサギ、サラ、そして水に濡れた飛鳥と彼女のギフトである紅い鉄人形のディーンがいた。

 悠然とした笑みと皮肉を飛鳥に向けるペストを見て、翔が尋ねる。

 

「………一体、何をしていたんだ?」

「あ、翔さん。実は―――」

「死になさいッ!!」

「はぁ!?ちょっ!?今はマジで勘弁してッ!!?」

 

 ジンが説明しようとした途端、ペストが翔に向かって黒い風を殺害宣言と共に飛ばす。しかし翔はさすがに古城にマーカーを置いている状態で、死にたくはないため必死で避ける。

 

「あら?いつもの威勢はどうしたのかしら?」

「俺は此処にマーカー置けねえんだよッ!!今ここで死んだら空中の古城からリスタートなんだよッ!!?また報告しに戻ってくんのクソ大変なんだぞ!?」

「それはいいことを聞いたわ」

 

 それを聞いたペストは翔に笑いかけると、一層激しく黒い風を発生させて彼を追い立てる。

 

「テメッ!?いつかやり返してやるからなッ!?」

「あらそう?ならその時を楽しみにしてるわ♪」

 

 必死に逃げ惑う翔をみて、皮肉そうに笑うペスト。だが、追い込まれているはずの翔が、不敵に笑った。

 

「なーんてな♪後ろだバーカ♪」

「「「「あっ」」」」

「え?」

 

 

 ムシャリ。

 

 

 楽しそうに言った翔の言葉のすぐ後に、咀嚼音が響く。

 背後からゴミ箱先輩に食べられたペストは、クルクルと宙を舞って大河に落ちる。しかし、激流には流されずにその場に留まってプカプカと浮いている。

 何とかゴミ箱先輩の口から這い出てきたペストは顔を俯かせながら、水を滴らせながらも額に青筋を立てて怒りを顕にしている。

 そんな彼女を指さし、

 

「ザマァ!マジ草生えるわw!」

 

 全力で嘲笑する翔。

 

「………死ねこの変態ッ!!」

 

 もはや揶揄う余裕もなく、殺意のみのペストの無慈悲な攻撃が翔に襲い掛か、ろうとしたその時。

 

「手が滑ったあああああああああああああッ!!!」

「えっ!?ちょっ!?水は、水だけはらめえええええええええええええッッッ!!?」

 

 バシャァァァァン!!!とペストとジンに十六夜が全力で水をぶっかけた。だが、翔は間一髪で何とか避けることに成功する。そのことに安堵して腕で額の汗を拭っていた。

 十六夜はついでに黒ウサギにもぶっかけた。

 

「って何でですかああああああああ!!?」

 

 下方からぶっ飛んでくるバケツ一杯分の水弾。それを辛うじて避ける黒ウサギ。どうやら弄り倒されてきた経験が生きたらしく、危険に対する感度が上がってきたようだ。

 ふふん、と冷や汗を流しながら自慢げに見下ろす黒ウサギ。

 そんな彼女のいる主賓室、というよりは黒ウサギの隣を見て、苦笑している翔の姿が黒ウサギの目に入った。

 彼女の隣には全身びしょ濡れで立ち尽くしているサラがいた。

 対して、至近距離で水を浴びたジンとペストは、あまりの水の勢いで後方三mほどぶっ飛んでいた。

 この二人はこの二人で、まさか勝者が水をぶっかけられるとは思わなかったのだろう。ペストは憤怒の視線を一割を十六夜に、九割を翔に向けながらユラリと立ち上がる。

 

「………何のつも」

「手が滑ったから仕方がないな!」

 

 ビシッ!と有無を言わさぬ笑顔で親指を立てる十六夜。

 しかしその目が笑っていない。ジンは笑顔のまま真正面から睨まれて思わず竦んだ。

 やりすぎだ、と目で訴えているのだろう。

 そんな有無を言わさぬ十六夜の気迫を受け、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くペスト。その隙を突いた十六夜はガシッ!と二人を拉致。

 

「ちょ、ちょっと貴方………!?」

「手が滑ったからには仕方がないな!俺が責任をもって風呂まで運んでやるぞ!」

「ふ、………!?」

 

 サァと血の気が引いたように頬を引きつらせるペスト。その光景を見て腹を抱えて地面を笑い転げる翔。

 二人を運び始める十六夜はその際、一連のやり取りをポカンと眺めていた飛鳥に視線を移す。

 

「………おい、お嬢様」

「な、何よ」

「何よも何も、そのまま全身濡れたままじゃ風邪を引くことはきっと間違いないからとりあえず風呂場まで直行するが異論は認めない方向なんでとりあえず同じように担ぎ上げるけど文句いうなよ分かったらしいなよし、翔も行くぞ!」

「あ、あいよー………ヒー、腹、腹が痛いッ………」

 

 え?え?と飛鳥が混乱して首を傾げている間に担ぎ上げる十六夜。

 お子様二人と飛鳥を拉致した十六夜は、ズカズカと大股で大空洞を去っていく。それに腹を押さえながら追随する翔。

 主賓室で一部始終を見届けた黒ウサギとサラは呆気にとられながらもその奇行を見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟葉翠の間・大浴場。

 飛鳥とペストを風呂に入るように説得?した十六夜は、ジンと共に風呂に入っていた。

 

「翔、お前は入んなくていいのか?」

「報告途中で死んでも俺がめんどいだけだし、お前も嫌だろうに………」

 

 呆れた表情で湯船に浸かる十六夜に声をかける。

 翔は今、服を着たままだが、足だけは裸足になりズボンの裾を多少捲り上げて湯殿に入っていた。十六夜に防衛ギフトの報告をするためだが、水が駄目なので湯船には浸からず出入り口の傍に立ちながら話す。

 

「それで、どうだったんだ?」

「………古城に来るならお前一人で来るのがベストだと思う。幻獣も使い捨てか、死ぬ覚悟か根性のある奴、あとは速度に自信のある奴にしといた方がいい。武器かなんかが欲しいならサラにでも言ってくれ」

「………そんなにか?」

 

 十六夜が驚いた表情で聞いてくる。翔は溜息を吐きながらも防水用にビニールに包んだビデオカメラを投げ渡す。十六夜はカメラを受け取ると、すぐに中の映像を確認し始める。

 

「詳しくは映像を見てくれ。さすがに口で説明するのは難しい。でも、十六夜や黒ウサギレベルじゃないと歯が立たないと俺は踏んでる。仮面の騎士やジャックでも可能かもしれないが、片や古城に、片や地上で巨人族が攻めてきた際の戦力だからな」

「………全部一瞬しか映っていないんだが?」

 

 十六夜が最初の方にある映像を視て呟く。翔はそれを聞くと、思い出したように補足する。

 

「あ、最初の二百くらいは早送りとかで飛ばして?俺のdieジェストだから。初見殺しにも程があったんだ………。長めの映像を撮るのに苦労した………」

「………何回死んだんだ?」

「俺も把握してない。暇なら数えてくんね?正直自分のdieジェストを見ようとは思えなくてな?いや、それでも『ゴミ箱先輩による一週間ぶっ続けリスキルの刑』よりは精神的に楽だったんだけどさ?さすがにあの時は一ヵ月は家に引き籠ったからな~………アレは怖かった………何も見えない、感じない、真っ暗な空間で、そんで気が付いたら死んで、リスポーンしたらまた喰われる。あれはもうやられたくないな………」

 

 哀愁漂う雰囲気で語る翔。

 そんな翔の言葉を聞いているのか聞いていないのか分からないが、真剣な表情で食い入るようにビデオカメラの映像を視ている十六夜。

 

「この、たまに映る木材っぽいのはなんだ?レティシアもどきの攻撃を完璧に防いでいるが」

 

 十六夜は映像にある木材のように木目のある板が気になったようだ。それを不思議そうな顔をして答える翔。

 

「何って、ベニヤ板先輩だろうが」

「………………………は?」

 

 十六夜の呆けた声が湯殿に響く。彼はベニヤ板先輩の存在を知らなかったのだろう。

 その反応を見た翔は、ならば説明してやろうと口を開く。

 

「『は?』ってベニヤ板先輩だよ。燃えず、壊れず、折れず、(しな)らず、割れず、貫かれずという性質を持った最強の(木材)のことだ。俺は先輩を盾にしてそのレティシアもどきの攻撃を防ぎ、時間を稼いでその映像を撮影したんだ。あの方がいなければ即死だった………」

「………………」

 

 十六夜は翔の話を聞き流すことにした。

 

「もし来るなら気を付けろ。どれぐらいの距離で迎撃態勢になるのかはさすがに測れてないからな」

「………ああ。わかった。これは借りてもいいか?」

「別にいいぞ。脱衣所に置いておくから渡してくれ」

 

 十六夜からビデオカメラを受け取って、脱衣所の服の上に置く翔。

 

「それじゃあ俺は古城に戻るわ」

「気を付けろよ」

「………………………そんな言葉がお前の口から聞けたことが驚きだよ」

 

 目を見開いて驚きながら返答する翔。言い終わるとリスポーンして消える。

 

「………アイツ、気を抜いても抜かなくても盛大に失敗するときがあるからな。いい方向に転ぶこともあるが」

「あははは、はは…………」

 

 ジンの渇いた笑いが湯殿に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟上空。吸血鬼の古城・黄道の玉座。

 玉座の間に続く階段の踊り場に陣取っていた、黒いローブを纏った女性―――アウラと呼ばれた女性は、水晶球で覗き見た地上の動きを察して呟いた。

 

「………殿下。〝アンダーウッド〟が動きました」

「そうか。そろそろ頃合いだと思っていた。迎え撃つ準備はできてるか?」

「勿論ですわ。城下街には吸血鬼の屍骸に冬獣夏草を散布してあります。苗床が良いですし、今頃は全区画を埋め尽くしているでしょう」

 

 口元を押さえ、クスクスと笑うアウラ。殿下も頷いて返す。でも残念ながら、城下街に蔓延っていた冬獣夏草は全て、すでにゴミ箱先輩が美味しく頂いてしまっている。

 二人の後ろに控えていたリンは、殿下の白髪を三つ編みに編みつつ、意外そうな声を上げた。

 

「そっかー。私は参加者側がもっと時間をかけると思ってたなー」

「うん?何でだ?」

「だって休戦期間は一週間もあるんだよ?まだ三日だし、焦るような時間でもないと思うな。ましてや翼を痛めた幻獣もいっぱいいるみたいだし。私ならギリギリまで治療に専念して………うん。五日目ぐらいに、総力が調った状態で敵城探索に乗り出します」

 

 リンの進言に、ふと考え込む殿下とアウラ。

 確信とまではいかないが、一考する価値はあると判断したのだろう。

 

「………そうですね。リンの言う事も一理あるわ。使い魔に確認したところ、攻略部隊はたった一人のようですし」

「………なに?」

 

 この古城に攻め入るのはたった一人。昨日の翔の助言に従い、攻略部隊は十六夜一人とその騎獣だけに編成し直したようだ。

 その事実に驚く殿下。

 

「なぜだ?何が目的で一人で古城に?」

「………古城の防衛ギフトを警戒しているのでは?」

「そうだとしても、どうやってその存在を知った?近づかなければその存在は分からないだろう」

 

 殿下が疑問を口にする。それに対してリンが指を顎に当てながら、自身の考えを述べる。

 

「………優秀な斥候でもいたのかな?」

「………そうだとしても、あの防衛ギフトを偵察して、尚且つ逃げ切るのは至難の業だと思うが?それ以前に古城に近付く事すら困難だろう」

「じゃあ、このゲームを知ってるような古参がいた?」

「それもないだろう。このゲームを知っている者となると、それこそ白夜叉やクイーン・ハロウィンとかの大物に限られる。そいつらも他所の地域の魔王の対応で手いっぱいだろう」

「………んー?じゃあ、なんでだろう?………やっぱり防衛ギフトで無駄な犠牲を出したくないからだと思うけど、それだとどうやって知ったのか、ってなるよね?」

「………一人だけ、斥候が可能な人物に心当たりが」

 

 アウラが声を上げる。その声に反応して三人は耳を傾ける。

 

「それは誰だ?」

「例の〝名無し〟の一人で、噂では死んでも蘇るそうです。それならば防衛ギフトの偵察も可能ではないかと」

「あー………アウラさんが追いかけまわされたっていう………」

「はい………巨人族の、その、アレを潰すという攻撃の恐怖で支配した人物です………」

 

 アウラが言葉を濁しながら説明する。

 だがその瞬間、どこかから人の声らしきものが響く。

 

「ぶぇっくしょんッ!!?」

「「「『―――っ……!?』」」」

 

 ………くしゃみだ。盛大に踊り場に響く。

 その声に反応して、四人の警戒心が高まった。

 威嚇するように周囲へと殺気を飛ばし、城全体を軋ませる。

 だが、声の主は存外四人の近くにいた。

 

「ズルッ………うー………ここ寒すぎー………風邪引かなきゃいいけど………いや、引いてもリスポーンすりゃいいんだが……ズルッ………しかもなんか強そうでヤバそうでめんどくさそうな連中いるとこに出たし………もう最悪………」

 

 声の主は踊り場の地面から上半身だけ出して、鼻を啜っていた。そんなことが出来るのは一人しかいない。翔だ。

 そんな彼に四人の視線と殺気が突き刺さる。しかし彼はそんなことを気にした様子もなく、四人に尋ねる。

 

「ズルッ………ねえ誰か、紙持ってない?鼻かみたいんだけど………」

「え?いや、持ってないけど………」

「あっそ。じゃあ自分の使うからいいや」

 

 自分のあるなら最初から使えよ。四人が若干の苛立ちを抱く。

 そんな四人の心境を知らずに持っていたティッシュで、チーンッと鼻をかむ翔。

 

「………ねえ。貴方は何者?」

「あっ、クソローブだ。お前こんなところに居たんだ。ていうか他人に尋ねる前に、お前達が名乗れよ」

 

 あくまでもここにいたのを知らない体を装う翔。彼の返しにアウラは、

 

「それはでき「じゃわうう。〝ノーネーム〟所属の板乗翔だ。よろしくな!」ま、せん………」

 

 アウラが返答しようとしたが、翔の突然の名乗りによって遮られる。

 なんだコイツ?突拍子もない行動に全員がそう感じた。

 

「それで、お前らは敵?」

「………まあ、そうなるかな?」

「そっか。………………………………見逃してくれたりはしない?」

「しないかな」

「ですよね~♪」

 

 そういって、ティーポットとティーカップをどこかから取り出して、ポットの中のお茶を飲み始める翔。

 その光景に唖然とする四人。そんな中、リンが彼に話しかける。

 

「………焦らないの?敵に囲まれてるのに」

「いや~、一対一なら逃げられるかもしれないけど、この人数で、しかも実力者達から逃げるのは、俺の力じゃあちょっと無理だからな。そしたらもうティータイムにするしかないね!あっ、もしかして飲みたいのか?茶菓子はあたりめとクッキーしかないけど」

「ううん。いらない」

 

 自身のとんでも理屈を述べる翔。

 会話が成立しているようで、していないような会話をする彼と四人。

 リンが困惑しながらも翔に提案する。

 

「………じゃ、じゃあ私たちの質問に答えてくれたら見逃してあげてもいいけど?」

「あ、マジ?いいぜいいぜ。答えられるものは全部答えるぜ!」

 

 翔がケラケラ笑いながら、お茶を飲む。答えるだけならば簡単だ、と了承する。

 

「どうやって古城に来たの?攫われたの?」

「いや、スケーターらしく飛んできたぞ」

「ど、どこから入ったの?」

「真下からだな。あそこからなら撃墜されずに入れた。まったく、甘いね!スケーターとか床をすり抜けて侵入する人だっているのにさ!」

「………貴方はなんでここに居るの?」

「くしゃみして気が付いたら此処にいた。スケーターだから仕方のないことだな」

「………………なんで埋まってるの?」

「それは俺がスケーターだからだな。埋まるのはスケーターの性だから、これまた仕方のないことだな」

「「「『………』」」」

「………………………殿下ー。私この人と会話できる自信がないよー」

「安心しろ。俺もコイツが何を言っているのかは分かっていない」

 

 翔は嘘をついてなどいない。

 スケーターらしく、スケボーテクニック【ロケット】で古城まで飛んだ。

 地面をすり抜けて古城にダイナミックお邪魔しますをした。

 くしゃみをして天井に突き刺さって、運悪く上半身が飛び出して四人に見つかってしまった。

 埋まっている?スケーターの基本テクニックだ。

 そうやって自信満々に質問に答える翔。

 翔の答えにはてなマークを浮かべて、殿下に助けを求める。が、その殿下も翔の言葉を理解できていない。

 

「え、えっと。じゃあ次は、攻略部隊が一人なのはどうして?」

「余計な犠牲を出したくないからだな。防衛ギフトが思いのほか強すぎて、半端な戦力は足手まといと判断したんだ。アレの相手ができるような人材、かつ自由に動ける奴は一人しかいなくてねー。それに謎も解けたみたいだし、さっさとこのゲームも終わらせて収穫祭を楽しみたいからな」

 

 あ、今度はまともだ。安堵するリン。

 

「古城にいる人物に組織の重鎮はいる?」

「知らね。俺ってば箱庭に来たばっかりで誰が偉いのかよく分からん。なんかそんな話を聞いたような気もするけど忘れた。気になるなら自分で調べてきたら?」

 

 当然のように嘘を答える翔。実際は忘れてなどいないのだが。

 だが、誰も真実を答えるとは言っていないのだから、当然だ。

 

『………〝生命の目録〟の所持者はどこにいる?同じ〝名無し〟ならば知っているだろう?』

「えっ?なにそれ?そんなのあったっけ?誰か持ってるっけ?」

 

 やはり息を吐くように嘘を吐く翔。 

 コイツ、使えねえ。その場の殿下以外の三人がそう思った。

 

「それにしても、声しかしない方は随分とその、〝生命の目録〟?とやらにご執心なようだけど、なんか確執でもあるの?」

 

 そう尋ねた瞬間、柱の影からの殺気が増した。それを感じ取った翔はケラケラと笑って、

 

「おっと、藪蛇だったか?ごめんねー?追及はしないぜ」

 

 お茶を注ぎ、また飲み始める翔。そんな翔に最後の質問を投げかけるリン。

 

「………最後に、貴方を始末するにはどうすればいい?」

「んー、さあ?死んでも生き返るし、どっか異世界にでも送ればいんじゃね?あとはお前らが一生拘束し続けるとか?」

 

 適当に答える翔。それを聞いて頷くリン。

 

「じゃあ、そうしようか。あとで連れて帰ることにするよ」

「………おっとー?それは困るぜい。というか見逃してくれるっていう話は?」

 

 お茶を飲むのを止めて、四人の動向を気にし始める翔。

 

「知らな~い♪嘘の情報しか教えない人はいらないし~♪」

「だーれも、本当のことを言うなんて言ってませ~んよ~だ。こーのクソガキがー。生意気言ってると地面に埋めるかゴミ箱先輩に食わすぞー?」

「やれるものならやって―――」

「なら遠慮なく」

 

 

 ムシャリ。

 

 

 咀嚼音が問答無用で響く。そしてリンの頭部に素敵な装飾品(ゴミ箱先輩)が追加される。

 

「んー!?んんー!?」

 

 必死に頭を引き抜こうと頑張るリン。完全な不意打ち、かつ直接頭にゴミ箱先輩が呼び出されたため、ギフトで避けることが出来なかった。

 それを見ながらまたお茶を飲み始める翔。

 

「………それで、本当のことを話してくれないか?そうすれば本当に逃がしてやる」

 

 殿下が慌てふためくリンを余所目に翔に話しかける。彼は悩みながらも頷き、

 

「まあ、いっか。十分楽しめたし、大した情報でもないからな」

 

 存外すんなりと了承する。

 

「古城にいる重鎮は〝六本傷〟のガロロ=ガンダックだ」

『ほう。ガロロ殿が………』

「そんで〝生命の目録〟の所持者も古城にいる」

「………ほう?それは面白いな」

「まあ、さっきも言ったがとことん邪魔させていただくんだけどね!そこんとこ夜・露・死・苦ゥ!それじゃあ、ほんの少しだったけど、君らのことも分かったし!いい夢見ろよ、じゃあな!」

 

 そう言って、ティーポットとティーカップを残してリスポーンによって姿を消す翔。

 そこでようやく頭からゴミ箱先輩を外せたリン。辺りをきょろきょろと忙しなく見回し、三人に尋ねる。

 

「さっきの人は!?」

「消えたぞ」

「消えたわ」

『消えたな』

「えぇー!?結局何だったのあの人!?」

「ただのスケーターでーす!」

「わっ!?」

 

 再び地面から生え出る翔。今度は全身が地上に出ている。

 

「って、きゃああああぁぁぁ―――――!!!?首、首が捻じれてッ!?」

「ありゃ?」

 

 全身出てはいるが、首と上半身が捻じれている。それを間近で見たリンが悲鳴を上げる。

 しかし少しすると正常な状態に解ける。

 

「お、戻った。いやーごめんなー?たまにあるんだわ。それよりもティーセットを忘れちまったんだぜいッ!それとついでに、これ!渡し忘れたから戻ってきたぜい!」

 

 懐から小袋に分けられたお菓子を人数分手渡す。

 

「………クッキー?」

「YES!皆で食べろよ!じゃあ、今度こそばいばいさせてもらうな!」

 

 そういってティーセットを回収して、もう一度リスポーンで消える翔。

 急な展開について行けず、呼び止めることも出来ずに呆然とする四人。

 

「………本当に、何だったのあの人?」

「さあな」

「そんなの知りませんよ」

『私も知るか』

「………あ、このクッキー美味しい」

 

 四人の間に微妙な空気が流れる。

 その後、翔のことを忘れるためなのか、各々が役割を果たすために行動する。リンとアウラと殿下は音もなく闇に溶けて姿を消す。柱の影にいたグライアも鷲獅子とは思えない漆黒の翼を広げ、玉座へ続く回廊から飛び去るのだった。

 

 四人から何とか逃げることが出来た翔は、マーカーの置いてある城下街にリスポーンするとホッと一息つく。

 

「び、びびったぁ………ッ!まさかあのタイミングでくしゃみが出るとは思わなかったぞ、チクショウッ!!?平常心保つのに苦労したッ!!欲を言えばもうちょい、盗み聞きしたかったんだがなぁ………」

 

 内心、もの凄く焦っていた。

 翔の嘘があまりばれなかった原因の一つでもある。脳内麻薬が垂れ流しっぱなしで、体の正常な反応が見分けづらかったのだ。そのためテンションもおかしく、口調が安定していなかったのだ。

 




【ベニヤ板先輩】
 燃えず、壊れず、折れず、(しな)らず、割れず、貫かれずという性質を持った最強の(木材)。ゴミ箱先輩と双璧を成す、翔の秘密兵器。
 ゴミ箱先輩は最強の矛。でも、ゴミ箱先輩はベニヤ板先輩を食べられない。が、ベニヤ板先輩の影にいる人物なら余裕で食べられる。

【くしゃみ】
 噂されたから出ちゃった。

【ティーセット】
 常備。若干ぬるい。お茶は自家製ハーブティー。

【あたりめ】
 苦労して手に入れたあたりめ。だが、辛口ではない。現在辛口にするための試行錯誤中。

【クッキー】
 もちろん手作り。


作者「今回はちょっと短めで申し訳ない」
翔 「まあ、最初の方は適当に書いてたこともあって、短いのもあったが久しぶりに一万字を切ったな」
作者「切りが悪くてね。これ以上書くと切り処を見失うってことで、ここまでにさせてもらったよ。ホントこれ以上書くと、今回で原作四巻の内容が終わるまで切りがよくないからさ」
翔 「難しいもんだな。とりあえず短い理由が分かったところでヒロインアンケートの途中結果だ。一応七票の投票があったな」
作者「内訳ドンッっと」


ヒロインアンケート途中経過
・春日部耀:四票
・ペスト:二票
・ヒロイン無し:一票


作者「こんな途中経過ですな」
翔 「耀がリードしてるな」
作者「………このままじゃ、恋愛描写を書かなければいけなくなる………!?」
翔 「自分でアンケートしといてそれはないんじゃないか?」
作者「いや、だって前回も書いたけど『ヌケーターにヒロインとかいらんやろ』と思って書き始めた作品だぜ?………困るやん?」
翔 「知るか」
作者「翔君が冷たい。まあ、ヒロイン決まったとしても絡みが多くなる程度にして、あからさまな恋愛描写ってのは少ないかもしれないけどね」
翔 「それでいいのか?」
作者「だって苦手なんやもん!」
翔 「男が『もん』とか言うな。きしょいぞ。これを機に練習すればいいだろ。じゃなきゃ他の原作に手を出せなくなるぞ?」
作者「………ヒ、ヒロインの少ない原作に手を出せばいいし………」
翔 「言ってろ。じゃあ、また次回!」

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