もしもスケーターが異世界に行ったならば。   作:猫屋敷の召使い

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………スケボーってなんだ?

というか翔に普通のスケボーさせたい。どうせバグ(らせ)るけど。

でも、どっかで入れないとスケーター詐欺になるかも………!?いや、だが戦闘も多い巻だからそこに無理やりスケボー要素を………!?いやでも………!

あ………と、とりあえず本編どうぞ………。



原作三巻+四巻
第十二話 章の最初はまだ真面目


 ———〝黒死斑の魔王〟との戦いから一ヵ月。

 翔達は今後の活動方針を話し合うため、本拠の大広間に集まっていた。

 大広間の中心に置かれた長机には上座からジン=ラッセル、逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、板乗翔、黒ウサギ、メイドのレティシア、そして年長組の筆頭に選ばれた狐娘のリリが座っている。

 〝ノーネーム〟では会議の際、コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式である。

 リーダーであるジンの次席に十六夜が座っているのは、水源の確保に同士の奪還など、様々な戦果を挙げているためだ。十六夜の次席に座っている飛鳥はやや不満そうではあるが、特に異論はないようである。そう。彼女はない。一人だけ、椅子にすら座ることを許されてない人物がいる。

 

「あ、あの………俺、会議中ずっと床で正座ですか………?」

「おう」

「ええ」

「うん」

「えぇー………………」

 

 翔だけは椅子ではなく床、そのうえ正座を強制されている。え、座布団?あるわけがない。

 彼もコミュニティへの貢献度は決して低くない。むしろ十六夜に次ぐレベルで貢献しているだろう。土壌回復をメルンやディーンよりも先駆けて行っていたし、〝ペルセウス〟とのゲームでもたった一人で数百の騎士を誘導・撃破したのだから。一ヵ月前も、〝黒死斑の魔王〟を(精神的に)追い詰め、撃破に貢献している。三人のようにギフトゲームにこそ参加してはいないが、それ以外の細かいところでコミュニティに貢献している。しかし、一部(主にペスト)の方法が方法ゆえに反省も兼ねて床で正座ということになっている。今この場ではリリよりも下の立場である。

 

「でも、ご飯を一週間作ってくれるなら―――」

「「春日部?/春日部さん?」」

「………むぅ」

 

 翔に餌付けされつつある耀が、自身の欲に負けて妥協案を出そうとすると、すかさず十六夜と飛鳥が声をかけて止める。

 

「それで?今日集まった理由は?」

「えっと、僕の名前で届いた招待状の話もしたいと思っています。ですがその前に、コミュニティの現状をお伝えしようと思って集まってもらいました。………リリ、黒ウサギ。報告をお願い」

「わかりました」

「う、うん。頑張る」

 

 ジンは、黒ウサギと末席の椅子に座るリリに目配せをする。

 リリは割烹着の裾を整えて立ち上がり、背筋を伸ばして現状報告を始めた。

 

「えっと、備蓄に関してはしばらく問題ありません。最低限の生活を営むだけなら一年弱は問題ありません。この理由は一ヵ月前に十六夜様達が戦った〝黒死斑の魔王〟が、推定五桁の魔王に認定されたからです。〝階層支配者〟に依頼されて戦ったこともあり、規定報酬の桁が跳ね上がったと白夜叉様からご報告がありました。これでしばらくは、みんなお腹一杯食べられます」

 

 パタパタと二尾を振りながらはにかんで喜ぶリリ。

 隣に座っているレティシアは眉を顰め、そっと窘めた。

 

「リリ。はしたないことを言うのはやめなさい」

「え………あ、す、すみませんっ」

 

 リリは自分の発言が露骨だったと気が付き、狐耳を真っ赤にして俯いた。自慢の二尾もパタパタと大慌てである。そして、顔を上げると話の続きを話し始める。

 

「そ、それと翔様のお店も―――」

「「「「リリッ!!?」」」」

 

 翔、ジン、黒ウサギ、レティシアが大きな声でリリの発言を止める。彼女自身も思い出したように自らの手で自らの口を塞ぐ。

 

「翔のお店?」

「あら?また私達に隠し事かしら?」

「へえ~?そいつは悲しいな」

「あ~クソッ。必死に隠してたってのに」

「す、すみませんっ!!」

「いいよいいよ。バレちゃったら仕方ないさ。でも、一つだけ訂正しとくぞ、三人とも」

「「「………?」」」

 

 翔が耀を指さして言う。

 

「俺らが伝えないようにしていたのは飽くまで耀だけで、その理由は店って言うのが飲食店だからだ」

「ッ!?」

「「あー………」」

 

 翔の言葉を聞いた耀は目を輝かせながら、椅子から勢いよく立ち上がる。対する二人は、納得したような声を上げて、耀のことを見る。

 

「ど、何処でやってるの!?」

「いや、来るなよ。身内が来たら商売の意味ねえから」

「ッ………そ、そんな………」

 

 絶望したかのように目からハイライトが消え、床に手をつき落ち込む耀。そんな彼女を傍目に十六夜は翔に尋ねる。

 

「それで、利益は出てんのか?」

「不定期営業ながらも大黒字だ」

 

 今度は飛鳥が不思議そうな顔をして尋ねる。

 

「でも、よく春日部さんにバレなかったわね?」

「そこら辺は厳重に対策してましたし。不定期営業なのもそのためだ。本業(スケボー)の時間を作るっていう理由もあるが」

 

 翔は全部用意周到に対策してあったようだ。

 

「さて、それよりもアレをどうにかせにゃな」

 

 翔は正座のまま、負のオーラを放っている耀に眼を向ける。

 

「むぅ………まだ秘密にしておこうかとも思ったが、近々元の世界では稀少だった白小豆が手に入りそうなんだよ」

「は?白小豆?アレってかなり栽培が難しいことから高くなかったか?」

 

 十六夜が疑問を口にする。

 

「ああ。だが、箱庭ではそうでもないらしくてな。かなり安価で、それこそ普通に中納言とかよりも少し安いぐらいで取引できることになったんだ。それで、無事に手に入ったら白あんに加工して和菓子を作ろうかと―――」

 

 そこまで言ったとき、もう既に耀は元の椅子へと座っていた。負のオーラも先ほどの光景が嘘のように、影を潜めていた。

 

「………よし。んじゃ続きをどうぞ」

 

 翔が呆れた表情で話を促す。

 

「そ、そうでございますね。今回の本題なのでございますが、復興が進んだ農園区に、霊草・霊樹を栽培する特殊栽培の特区を設けようと思うのです。例えば、」

「マンドラゴラとか?」

「マンドレイクとか?」

「マンイーターとか?」

「サメさんとか?」

「YES♪っていやいや後半二つおかしいですよ!!?〝人喰い華〟なんて物騒な植物を子供たちに任せることはできませんっ!それにサメは畑に出来ません!それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!」

「え?じゃあ、俺が見たチンアナゴからサメさんへと成長する畑は一体何なんだったんだよ!?体長一〇mほどの大物はッ!?」

「知りませんよっ!?」

「もしかしてタクシー畑も他の世界にはないのか!?」

「なんですかタクシー畑ってっ!!?」

 

 翔との言い合いが白熱する黒ウサギ。彼の世界の常識にはやはりついていけないようだ。

 

「………じゃあ、ラビットイーターとか」

「なんですかその黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!?」

「へー、そんなのが箱庭にあるのか」

「ありませんッ!!」

 

 うがーッ!!とウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

 レティシアは一向に話が進まないことに肩を落とし、十六夜達へ率直に告げた。

 

「つまり主達には、農園の特区に相応しい苗や牧畜を手に入れて欲しいのだ」

「牧畜って、山羊や牛のような?」

「そうだ。都合がいいことに、南側の〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟から収穫祭の招待状が届いている。連盟主催という事もあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも開かれるだろう。中には種牛や希少種の苗をかけるものも出てくるはずだ」

 

 なるほど、と頷く問題児たち。

 しかし、と黒ウサギが言葉をつなげる。

 

「この収穫祭ですが、二〇日、それに前夜祭からの参加を求められているので総計二五日。約一ヵ月にもなります。この規模のゲームはそう無いですし最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力がいないのはよくありません。そこでレティシアさんと共に一人残って欲し」

 

「「「嫌だ」」」

 

 三人は即答だった。そして言葉を発さなかった翔の方を見やる三人。

 

「じゃあ、翔が居残りな」

「え?俺って主力に含まれるのか?そういう認識なかったから反応しなかったんだが」

「「「………」」」

「いや、黙るなよ。あからさまに目を逸らすなよ。せめてこっちを見て、『そうだった』とか『一応主力』ぐらいの慰めを言え。無言が一番つらいんだよ」

 

 翔を無視して、話を進める三人。

 いや、翔の実力が低いとはこの三人も言わないだろう。しかし、それは彼が後衛、サポートとして立ち回ったときの評価だ。囮、足止め、誘導、待ち伏せ、罠などが彼の十八番だ。これだけ見れば防衛戦に強いだろう。敵を倒す力が無いとしても、今回の場合はレティシアが共に残ることになっている。だが、それでも不安が拭い切れない。そのため、三人は押し黙ってしまう。

 そこでジンが提案する。

 

「でしたらせめて日数を絞らせてくれませんか?」

 

 ジンの提案は、前夜祭を二人、オープニングセレモニーからの一週間を三人、残りの日数を二人といったような提案をし、最終的には前夜祭までに最も多くの戦果を挙げた者が、全日程を参加できるということになった。

 

「………あれ?それって結局、俺は居残り決定ってこと?」

 

 翔の呟きが、誰もいなくなった大広間に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして戦果報告当日。昼食を摂り終えた一同。リリは家事全般の取り仕切りに戻り、十六夜達は大広間に集まっていた。

 

「まさか、シーチキンまで作れるなんて………翔の主夫スキルは恐るべし」

「運よく材料があったからな。本当は一夜ぐらい漬けて置ければもっといいんだが。今度から、食いたいときは早めに言ってくれ」

「うん。分かった」

「………なんか俺達、徐々に翔の野郎に胃袋を摑まれつつねえか?」

「………そうね。気を付けないといけないわね」

「ちなみに十六夜がリクエストした、梅鰹醤油に使った梅干しも自家製だ」

「………マジでヤバいんじゃねえか?」

「………本当、早めに対処しないとマズイわね」

 

 その呟きを聞き取った翔がケラケラと笑う。

 

「それでは、戦果を発表してきましょうか。黒ウサギは〝サウザンドアイズ〟の店に向かいましたが、審査基準は聞いていますので、僕とレティシアだけでも十分です。それに後は十六夜さんの報告を待つだけですから」

 

 三人が頷いたのを確認したジンは、コホンと咳払いを一つして話し始める。

 

「細かい戦果は置いておきます。まず皆さんが挙げた大きな戦果から報告しましょう。初めに飛鳥さんですが、牧畜として山羊十頭。そして、それらを飼育するための土地の整備です」

 

 フフン、と後ろ髪を搔き上げる飛鳥。あまり派手とは言えないが、生活を成り立たせるためには、組織的に大きな戦果であった。

 レティシアはぺラリと報告書を捲って続きを促す。

 

「次に耀の戦果だが、火龍誕生祭にも参加していた〝ウィル・オ・ウィスプ〟が、わざわざ耀と再戦するために招待状を送りつけてきたのだ」

「〝ウィル・オ・ウィスプ〟主催のゲームに勝利した耀さんは、ジャック・オー・ランタンが製作する、炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです」

「これを地下工房の儀式場に設置すれば、本拠と別館にある〝ウィル・オ・ウィスプ〟製の備品に炎を同調させることが出来る」

「なのでこれを機に、炎を使用する生活必需品は〝ウィル・オ・ウィスプ〟に発注することになりました。ですが、その費用は全額翔さんが払って出してくれました」

「「「え?」」」

 

 驚きの声を上げて、床に正座する翔を見やる三人。

 

「翔………犯罪はダメだよ?」

「翔君、貴方がそんな人だとは思わなかったわ」

「翔、見損なったぜ」

「いや、なんも悪いことしてねえよ!?三人して、俺が何かをやらかした前提で話さないでくれるか!?ちゃんと真っ当に店で稼いだ金だから!!」

 

 両手を顔の前でブンブンと振って、弁明する翔。しかし、まだ疑い続ける三人。そこへジンが助け舟を出す。

 

「翔さんのは自身の出店で稼いだものです。それに出店で知り合った上層コミュニティと契約を結んで、活魚を提供してくれることにもなっています。他にも、チップを払う人やギフトを代金の代わりに支払っていく人が多発しているそうです。ギフトも有用性が高いものが多く、コミュニティの発展に繋がると思います」

「………例えば?」

 

 耀が首を傾げてジンと翔に尋ねる。

 

「例えば、か。そうだな。湿度や温度を設定すれば一定に保ってくれるギフトとか、植えたら花や樹とかの植物の精霊が生まれる種子とか、植物の成長を促進させる霊薬とかだな」

「「「………」」」

 

 三人が口を開けて唖然としている。

 

「ていうか、俺の戦果はお前らの戦果とは一切関係ないんだから、早く十六夜の戦果を教えてくれ」

「え?」

 

 ジンが呆けたような声を出す。彼はなぜ、いまそのような声を出したのだろうか。

 

「………今の『え?』ってなんだ?他になんかあったっけ?」

「い、いえ、関係ないという事はないのでは?だって四人の中で全日程参加する人を二人決める為に―――」

「いや、自分で言ったことを忘れるなよ。お前は『前夜祭を二人、オープニングセレモニーからの一週間を三人、残りの日数を二人』って言ったんだぜ?四人って言ってないから、そこに俺は含まれてないだろうし、だから暗に俺のことを収穫祭に参加させないで、本拠に残らせるつもりだと思ってしまったんだが………」

「「「「………」」」」

「え?………………あっ………」

 

 ジンのことを鋭い視線で見る問題児三人とレティシア。彼自身も自分の発言を思い出し、顔を青ざめさせる。その様子を見た翔は、呆れたように溜息を吐く。

 

「………ふっ。お前もいい感じに、この三人に毒されてるんだな………?」

「えっと、その、申し訳ありません………」

 

 目の縁にキラリと光るものを溜める翔。決してジンの成長を喜んでの涙ではない。逆だ。リーダーに存在を忘れられるほどの貢献しかしていないと、彼は感じてしまったのだ。

 一方のジンは、完全に翔の存在を忘れていたようだ。いや、問題児三人は翔のことを忘れていないだけ、マシな方なのだろう。いることすら忘れられる方が、正直悪質ではある。

 毒されていることを否定できないと思ったのか、顔を俯かせるジン。そして、珍しく問題児三人は翔に同情したのであった。

 

 

 

 結局戦果としては、〝水源となるギフト〟として神格保持者の白雪姫を貸し出して、〝地域支配者〟の証である外門の権利証を手に入れた十六夜。本人は参加している意識はなかったが、数多くのギフトを店の代金として受け取った翔。この二人が全日程を行けることになった。翔は納得がいってなかったが、彼がハブられていたのがジンのミスだったという事もあり、ほぼ強制的に全日程参加となった。だが、翔は本当に嫌がっていた。なぜ?それは、この問題児達と関わると碌なことが起きていないからだ。いや、彼自身も傍から見れば、問題児達と同じか、それ以上に碌なことはしていないのだが。彼がしている事で褒められることといえば、精々料理と畑ぐらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――二一〇五三八〇外門。噴水広場前。

 〝境界門〟の起動は定時に行われるため、起動時間には行商目的のコミュニティも一斉に集まってくる。

 しばらくして門前にちらほらとそれらしい人影が見え始めたころ。

 飛鳥達は門柱に刻まれた()()()()()()()()()()を凝視していた。

 

「………誰ですかッ!?こんなところに僕の彫像を作ったのはッ!?」

「あ、それ俺。ちゃんと自費だから安心してくれ」

「やっぱり翔さんですかッ!!」

「なんだ予想してたんじゃないか。いや、せっかく〝地域支配者〟になったってのに、いつまでもガルドの彫像だと鬱陶しいし、恰好もつかないから徹夜で撤去した。そんで代わりをどうしようかって考えたら『ここはやっぱり、我らがリーダー・ジン=ラッセルしかないよな!』と思って、一五〇%善意で作りました、はい。かなりの力作だぜ?ほら、もっと喜べよ」

「すぐに撤去してくださいッ!!」

 

 ジンが周りの目も気にせず、翔に怒鳴る。そんなジンの顔は羞恥の赤と血の気が引いた青が混ざって、変なことになっていた。

 翔は落ち込みながらもジンの彫像を撤去する。飛鳥も似たようなこと考えていたのか、ため息を吐く。

 

「せっかく、ジンを売り出そうと思ったんだがな」

「そうね。正直残念だわ。じゃあ………ジン君の代わりに黒ウサギを売り出しましょう」

「なんで黒ウサギを売り出すんですかっ!」

「おっ?なら彫像製作は任せろ!一ミリのズレもなく、完璧な黒ウサギを作ってみせるぜ!」

「そうじゃないでしょうっ!」

 

 スパン。スパン!飛鳥には軽く、翔には若干強くツッコミを入れる黒ウサギ。

 

「安心しろ!ミニスカは覗けるようにして男性の注目を集めるように作り込むからッ!!」

「黒ウサギを売り出すという前提から間違っていると言っているのですよっ!!それとそんな彫像は絶対に作らないでくださいッ!!!」

 

 スパァーンッ!!と先ほどよりも断然強く翔にツッコミを入れる黒ウサギ。

 周りで会話を聞いていた男性たちが動きを止め、耳をそばだてていたのは本人たちの秘密だ。それでも皆一様に動きを止めていたのでバレバレなのだが。

 隣で小首を傾げていた耀は、

 

「じゃあ………黒ウサギを売りに出そう」

「なんで黒ウサギを売るんですかあああああああ!!!」

 

 スパァーン!っと心の叫びと共にハリセンを奔らせる黒ウサギ。

 

「じゃあ、今度白夜叉に値段を伝えに行ってくる。あ、でもその前に彫像用のスケッチと型取りだけでも―――」

「この、お馬鹿様あああああああッ!!!!!!」

 

 ズバンッ!!!!っと決してハリセンが出してはいけない音を鳴らす黒ウサギ。その一撃で地面に埋まって絶命し、リスポーンを余儀なくされる翔。

 

「………クソッ。屈辱だ。スケーターが地面に埋められるなんて」

 

 よく分からないことを悔しがる翔。

 万事同じ調子の飛鳥と耀。そして今回は翔までが問題児側に加わったことにため息を吐きつつ、二枚の招待状を取り出す。

 

「我々がこれから向かう場所は南側の七七五九一七五外門。〝龍角を持つ鷲獅子〟が主催する収穫祭でございます。しかしそれとは別に、舞台主である巨躯の御神木〝アンダーウッド〟の精霊達からも招待状が来ております。両コミュニティには前夜祭のうちに挨拶へ向かいますので、それだけ気に留めておいてください」

「うん」

「分かったわ」

「埋まったらすまん」

「最初から埋まること前提はやめませんか!?」

「だって、こういう長距離移動とかゲーム盤で、埋まらなかった試しが一度もないんだよッ!!」

 

 地面に拳を打ち付ける翔。彼にとって、こういった移動はいい思い出が無いのだろう。白夜叉のゲーム盤、白夜叉による北側への移動、白夜叉によるゲーム盤への移動などなど。

 ………あれ?全部白夜叉が悪いんじゃね?そう思わずにはいられない翔であった。

 黒ウサギが道先案内をしている間に、〝境界門〟の起動が進む。

 青白い光が門に満ちていくと、待機していた利用者が列を作り始めた。黒ウサギ達は〝地域支配者〟として列の脇から門が開くのを待つ。

 

「皆さん、外門のナンバープレートはちゃんと持ってますか?」

「大丈夫よ」

「問題ない」

 

 飛鳥と翔が鈍色の小さいプレートを見せる。

 耀は手の平にあるナンバープレートをじっと見つめ、本拠のある方向へ視線を向けた。

 

「……………」

「どうしたの、春日部さん。何か忘れ物でも?」

「ううん………ただ、十六夜のことが気になって」

 

 ヘッドホンは見つかったかな、小首を傾げる。

 飛鳥と黒ウサギも気になっていたらしく、二人も同じように本拠のある方向を見つめた。

 

「そうね………まさか十六夜君が、ヘッドホン一つで辞退してくるとは思わなかったわ」

「YES。あれほど楽しみにしていましたのに」

「全くだ。おかげで俺が辞退できなくなったじゃないか。直前で置手紙を書くか店を一ヵ月も空けられないとかで、耀に行かせるつもりだったというのに」

「「「「………」」」」

 

 四人がジト目で翔のことを見る。

 

「貴方だけだったら、本拠の守りが不安なのよ」

「お生憎様。敵を閉じ込めることに関しては俺以上の奴は多分いないぜ?やろうと思えば敵が餓死するまで閉じ込められるしな。そうでなくとも主力が帰ってくるまでは普通に余裕」

「「「「………」」」」

 

 今度は驚きで目を丸くする四人。

 そう。彼のギフト〝混沌世界(パーク)〟は翔が相手を出そうと思わない限り、抜け出すことはできない。だが、その条件は翔も同じだ。しかし彼は、リスポーンすれば餓死もしないし、寝る必要もない。殺されてもリスポーンするだけ。そのうえ、パークを壊すことも出来ないため脱出不可能の牢獄へと一変する。

 

「だからわざわざ俺は主力じゃないと主張してお前らを煽り、コミュニティの利益になるよう誘導したし。そして、俺が本拠に残れれば万々歳、だったんだがなぁ………まさか店が六桁・五桁で噂になってて、〝境界門〟を使ってまで来るとは思わなんだ………」

「………く、悔しいわ………途中までとはいえ、翔君の手の平の上で踊らされていたなんて…………!」

 

 飛鳥が恨めしそうに翔を睨む。睨まれた本人はケラケラと笑うのみであった。しかしすぐに笑うのをやめ、

 

「十六夜のヘッドホンも予想外だった。見つかりゃいいとは思うが………」

「………うん。見つかるといいね」

 

 その言葉に二人も頷く。〝境界門〟の準備が調ったのは、その直後だった。

 

 

 

 ———七七五九一七五外門〝アンダーウッドの大瀑布〟フィル・ボルグの丘陵。

 

「わ、………!」

「きゃ………!」

 

 ビュゥ、と丘陵に吹き込んだ冷たい風に悲鳴を上げる耀と飛鳥。

 多分に水を含んだ風に驚きながらも、吹き抜けた先の風景に息を呑んだ。

 

「す………凄い!なんて巨大な水樹………!?」

「やっぱり埋まった………それにしても水、水かぁ………」

 

 少し遠い目をしながら、呟く上半身だけの翔。やはり埋まってしまったようだ。そして、何とかリスポーンだけで脱することに成功する。

 丘陵に立つ外門を出た耀たちは、すぐに眼下を覗き込む。彼女たちの瞳に飛び込んだのは、樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市と、清涼とした飛沫の舞う水舞台。

 

「北側とは本当に、真逆と言っても良いぐらい対照的だな」

 

 騒ぐ耀と飛鳥を見ながら、冷静に〝アンダーウッド〟を観賞する翔。

 

「来てよかったですか、翔さん?」

「まだ来たばかりだろう。これじゃあ何とも言えない。だけどやっぱ、人伝に聞くよりは見た方が迫力はあるな。間違って溺れないかが心配だが………」

「………そればかりは、本当に気を付けてください」

 

 翔の不安に苦笑する黒ウサギ。

 そこへ、耀の声が響く。

 

「飛鳥、上!」

 

 その声につられて飛鳥のみならず、翔と黒ウサギとジンも上を見上げる。

 遥か空の上に、何十羽という角の生えた鳥が飛んでいた。

 

「鹿の角?じゃあ、あれが客の話にあったペリュドンか?」

「ペリュドン?それってどんな幻獣なの?」

 

 翔の呟きを眼を輝かせながら尋ねる耀。

 

「客の話だとたしか、人を襲い殺す幻獣だったか」

「え………?」

「だからこの収穫祭の時期は追い払うか、他種の幻獣が警告するって言ってたはずなんだが………」

「食人種なの?」

「そこまでは聞いてないさ。副業中に聞いた話だからな。そこまで詳しくはな。あ、でも肉は美味かったぞ。持ち込まれて調理したしな」

「………じゃあ、友達にならないで、食卓に出した方が良さそうだね」

 

 少し落ち込む耀。声も先ほどのように熱っぽいものから、大分落ち着いた声音に戻っていた。そこに旋風と共に懐かしい声が掛かった。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

 巨大な翼で激しく旋風を巻き上げて現れたのは、〝サウザンドアイズ〟のグリフォンだった。嘴のある巨大な頭を寄せると、耀も答えるようにグリフォンの喉仏を撫で上げた。

 

「久しぶり。此処が故郷だったんだ」

『ああ。収穫祭で行われるバザーには〝サウザンドアイズ〟も参加するらしい。私も護衛の戦車を引いてやってきたのだ』

 

 見れば彼の背中には以前より立派な鋼の鞍と手綱が装備されている。契約している騎手と共に来たのだろう。

 それから耀とグリーと名乗ったグリフォンは話を続ける。言葉の分からない翔と飛鳥とジンは内容が分からず、話についていけなかった。耀とグリーが話している間に、黒ウサギが翔達に事情を説明する。三人はグリフォンに頭を下げて背に跨る。

 耀は自らの力で飛べるため、一同が乗り込むまでの間、ペリュドンと思しき鳥について質問していた。やはりグリフォンの言葉は分からないが、耀と黒ウサギの言葉を拾い殺人種ということを考えると、翔が先ほど言っていたような危険な幻獣だという事は飛鳥にもわかった。

 そして、グリフォンは翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こすと、巨大な鉤爪を振り上げて獅子の足で大地を蹴った。

 

「わ、わわ、」

 

 〝空を踏みしめて走る〟と称されたグリフォンの四肢は、瞬く間に外門から遠退いて行く。耀は慌てて毛皮を摑み並列飛行をするが、彼の速度に付いて行くのは生半可な苦労ではない。

 現に飛び立った瞬間、

 

「あ、こりゃ無理だわ」

 

 翔が風圧でどこかへと消えていった。

 

「しょ、翔さん!?」

「後で合流するからあああぁぁぁ………!」

 

 遠ざかる翔の声。その様子を唖然とした様子で見つめる四人と一匹と一頭。耀と飛鳥とジンは、何処か既視感のある光景だった。

 

『………す、すまない。少し飛ばし過ぎたようだな………しかし、あの少年は本当に平気なのか………?』

「大丈夫。翔は死なないから」

 

 グリフォンが謝罪するが、耀は気にしなくていいと告げる。他の皆も同意するように頷いている。そしてすぐに街へと向かい始める。が、後ろから何かが飛行して近づいてくる。

 

「な、なんとか追いついた………」

 

 翔だ。だが、その状態は皆が疑問符を浮かべるものだろう。

 直立で、スケートボードに乗っている。ここまではいつもの彼だ。しかし、今はスケートボードの下に何かがある。それは長方形で木目のある、

 

「しょ、翔さん?その板は一体………」

「ん?これはベニヤ板先輩だ。スケーターが空を飛ぶために必要な代物だ!こういう風に使えば空を滑ることが出来る!」

 

 ベニヤ板だ。罠にもなり、乗り物にもなれる素材。それがベニヤ板先輩である。

 どういう風にかは一切わからないが、とりあえずキメ顔で自信満々に答える翔。それを見た一同は、

 

「「「「『『いや、それはおかしい』』」」」」

「なぜだッ!?なぜ毎度毎度、俺の為すことの大半が否定されなきゃいけない!?」

 

 即座にその用途を否定した。それもそうだろう。一同の知っているベニヤ板の用途と言えば、椅子やテーブルへと加工する材料なのだから。

 一悶着はあったものの、街の上空を旋回する一同。そのまま街へと下り、網目模様の根っこをすり抜け、地下の宿舎に着いて一同を背から降ろす。翔もまた墜落と言っても間違いではない着陸をする。その際に上半身が地面に埋まる。

 一方のグリーはすぐに翼を広げ、旋風を巻き上げながら去っていく。きっと殺人種のペリュドンを追い払いに向かったのだろう。

 すると、宿舎の上の方から声をかけられる。

 

「あー!耀じゃん!お前らも収穫祭に」

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

 その声に引かれて上を見る耀たち。しかし、翔だけは未だに上半身が抜けないようで、地面に膝を立てて足の力だけで抜こうと奮闘していた。

 耀たちの視線の方向には〝ウィル・オ・ウィスプ〟の少女アーシャと、カボチャ頭のジャックが窓から身を乗り出して手を振っていた。

 

「アーシャも来てたんだ」

「まあねー。コッチにも色々と事情があって、サッと!」

 

 窓から飛び降りて耀達の前に現れるアーシャ。そのまま耀達と談笑する。ギフトゲームの話や世間話をする一同。

 その後ろでようやく抜けたのか、色々な場所を動き回りは立ち止まり、するとまた動き回っては立ち止まるという事を繰り返している翔がいた。

 

「………ところで、翔さんは一体何をしているんでしょうか?」

「………わからない」

 

 少し翔のことを観察していると、やりたいことが終わったのか耀達の下へと戻ってくる。しかし、その表情は少しほっとしていた。そのことに気づいた黒ウサギが彼に尋ねる。

 

「な、何かありましたか、翔さん?」

「いや、なんでもない。もう解決した」

 

 翔の返答に一同が首を傾げる。

 いま彼が確かめていたのは、この場所に()()()()()()()()()()()()だ。だが、たとえ置けなくても裏技で置くことが出来るのだが、それでも死んでからの復帰が不安定になる。そのため安定して置ける場所を探していたのだ。しかし、残念ながらこのあたり一帯はマーカーを置くことが出来なかったため裏技、視界ジャックを利用してマーカーを置く方法を用いたのだ。ただ、視界ジャックは箱庭に来てから使っていなかったので、スケーター以外の視界も使える事に安心したのだ。

 

「それでこれからどうするんだ?荷物を置いて真っ直ぐ〝主催者〟に挨拶にでも行くのか?」

「ヤホホ。それは丁度良かった。我々も今から向かおうと思っていたところです。此処であったのも何かの縁ですし、〝ノーネーム〟の皆さんもご一緒というのは」

「YES!ご一緒するのですよジン坊ちゃん!」

「そうだね。じゃあ、少しだけ待っていてください」

 

 荷物を宿舎に置いた〝ノーネーム〟一同はジャックとアーシャに連れられて地下都市を登り、大樹の中心にある収穫祭本陣営まで足を運ぶのであった。

 

 

~~余談~~

 

「そういえば翔の荷物は?」

「そういえば翔君だけ何も持ってなかったわね。行く気がなかったから用意してなかったのかしら?」

「いや、全部〝混沌世界(パーク)〟にぶち込んでるから、手に持つものがボードぐらいだっただけだ」

「「「「………」」」」

「それって、私達の荷物も入れれたり………?」

「出来るが、女性の荷物を男の俺が管理していいのかよ?」

「「「それはいや」」」

「だろうな。だから言わなかったんだよ」

 




【床に正座】
 反省させるための罰。だが、足が痺れてもリスポーンすれば平気。

【翔の店】
 飲食店。食材持ち込み・テイクアウトOK。パークを利用して作った野菜や持ち込まれた食材を使って料理を出している。耀の嗅覚などから逃げるために、本拠が風上の時にしか営業をしないようにしている。基本は屋台。場所は〝サウザンドアイズ〟から許可をもらっている。本人は副業と言っているが、もはや本業であるスケボーのフリーパフォーマンスなんかよりも儲かっている。噂が六桁や五桁にも広まり、わざわざ〝境界門〟を利用して来店する人がいる程度には盛況している。

【翔の手料理】
 シーチキン、梅干しは手作り。梅は近隣住民の皆さんからもらったもの。シーチキンに使った魚もマグロに似たものを店に持ち込まれ、その余りを使ったもの。

【翔が代金の代わりにもらったギフト】
 精霊の種子はもう埋めてあり、それを成長促進のギフトで立派な樹木へと成長させてある。そのため、子供の人数が密かに一人増えている。見た目は髪に一輪の花の差した少女。
 湿度・温度の保存ギフトは冷蔵庫の代わりにしようと考えている。
 その他にも多数あるが、基本は目立つようなものはない。

【ジンの彫像】
 翔の作品。オブジェクト召喚を利用して、その後加工して作り出したもの。全部で百体作ってあって、それら全部が違うポーズをしている。しかしそれらが日の目を見ることなく、本人の命令で撤去を余儀なくされた。だが、何故かこのジンの彫像がオブジェクト召喚に増えていたのは、翔だけの秘密。

【行きたくなかった】
 問題児に係わっていい思い出が無かったから。埋まる、死ぬなどが続き、我慢の限界になりハジケた結果が、ペストガチ泣き事件である。

【アンダーウッドのことを教えてくれたお客様方】
 アンダーウッドの出身者だったり、収穫祭に参加したことのある方々。酒のつまみを翔に作ってもらいに来ている。基本はテイクアウト。

【既視感のある光景】
 第三話のカフェテリアからの射出。

【ベニヤ板先輩】
 花火にもなり、罠にもなり、挙句には空飛ぶベニヤ板にもなれる不思議木材。スケーターは貫通できるが、それ以外は何物も通さない鉄壁。何故か壊れない。

【マーカーを置けない】
 ゲームで言う一部の芝生の上。今回は樹の中→植物の上→だみだこりゃ、という感じ。そのため視界ジャックでジン君の視界をお借りして、マーカーを置きました。



翔 「………原作一冊内で真面目は一話のみ。そんな数少ない真面目成分が若干多め。そんな始まりで大丈夫か?」
作者「だいじょばない。問題しかない」
翔 「おい」
作者「で、でも!弄られキャラのアーシャちゃんが出てきたし、サラちゃんもその予定だから次話は大丈夫なはず!それに二話三話後ぐらいには、二巻で散々泣かされたあの子も登場予定だから!」
アーシャ・サラ
「「!?」」
ペスト「私、また泣かされるのかしら………?」
作者「あ、ヤバい。目のハイライトが消えた」
ペスト「いっその事、ここで作者を消せば、私はあの恐怖をまた感じなくて済む………?」
作者「ちょっと雲行き怪しいんでこれで失礼しまーす!」
翔 「あ、おい!?………アイツ、逃げやがったな。つーかもうそろそろ普通(意味深)にスケートしたいんだがな………おい!?(意味深)ってなんだ!?」
アーシャ・サラ・ペスト
『さあ?』
作者「スケーターじゃないからわかりませーん!って、ちょっ!?黒い風こっちにくんなッ!!それではまた次回ッ!ちょ、死ぬって!?」
ペスト「なら死ね!!いえ、刺し違えてでも絶対に殺すわッ!!」
翔 「あー………また次回をお楽しみにー」
ペスト「ついでにアンタも死になさいッ!!」
翔 「なんか飛び火した!?」


 でも、書いてて思った。ケモノっ娘がケモミミまで真っ赤になるってどういう感じ?すごく愛でたい。以上。では次回。ちょッ!?死の風が!地の文にまで入ってきてんじゃねえぞペストォッ!!

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