もしもスケーターが異世界に行ったならば。 作:猫屋敷の召使い
続くかわからないから短編で投稿。気が向いたら続きを投稿。
この作品は問題児とSkate 3のコラボ作品です。
ある実況プレイヤーの動画を参考に書かせていただいています。
リメイク後の変更点
・主人公が箱庭に行った方法
第一話 奈落の底からこんにちは
街中にスケートボードを持った少年たちがいた。
黄色いパーカーを着た少年は歩道の脇にあるベンチに膝にスケートボードを乗せ顔を俯かせながら座り、落ち込んでいるようであった。
他の少年たちはその少年を励ますように周りを囲んでいる。
すると落ち込んでいる少年が急に叫びだす。
「あークソッ!今日もゴミ箱に勝てなかった!マジでどうなってんだあの異次元ゴミ箱野郎ッ!!」
………………………………この少年は一体何を言っているのだろうか?
なぜか突然叫びだし、大きな声でゴミ箱に対して文句を言う。
しかし、彼が意味不明なことを口走っていても街を往来する人々は気にした様子もなく素通りしていく。
ゴミ箱に対して声高らかに文句を言う少年にそばにいた一人が溜息を吐きながら話しかける。
「お前、そろそろ諦めろよ。もう何回挑戦して敗けてんだよ?」
「
「マジで諦めろよ」
少年はもう一度溜息を吐きながら呆れたような声で話を続ける。
「ったく。毎回毎回お前を助ける俺たちの身にもなってくれよな」
「いつもサーセン。あざっした」
「絶対反省してないなコイツ」
全く反省していない様子の少年を見て本日何度目かの溜息を吐く少年。
「じゃあ、俺たちはもう行くから、今日はもう喰われるなよ、翔」
「ういうい。いやーどうもすんませんっした」
少年たちは彼の名前を呼んで、それを最後に黄色いパーカーの少年を残してその場を後にする。その後姿を笑いながら見送る黄色いパーカーの少年。
少年の名前は『
「ハァ………。あのゴミ箱め。どうしてくれようか」
どうやらこの少年はゴミ箱に喰われかけて友人たちに迷惑をかけたというのにまだ懲りていないようである。
「ハァ………今日はこれからどうすっかなー?」
二度目の溜め息。
ゴミ箱に挑戦して喰われ、友人たちに助けを求め、それでもまだ、あまりある時間をどのように使うかをこれからの予定を考え始める。
「………スケーターなら、やっぱ滑って、トリックの練習をする。それが一番いいかね?………そうと決まれば、もうちょい滑りやすいところに移動すっかね」
そう考え、彼は座っていたベンチから勢いよく立ち上がり、スケートボードに乗って移動を始める。しかし、
「あっ、地面抜けた」
彼は地面の中へと落下していった。なぜ?そんなもの彼がスケーターなのだから当然の現象だ。
「まーた、奈落行きかぁ………」
真っ黒な空間を落ちていく彼は、頭を下に向けグルグルと回転しながら落ちていく。
「にしても、落ちるのなんて、随分と久しぶりだなぁ」
何も見えない空間に落ちていくというのに物凄く冷静な翔。グルグルと回りながら代わり映えしない奈落の景色を眺めている。すると、
「えっ!?奈落じゃなくなった!?どういうことッ!?」
突然周囲の景色が一変した。
周りの殺風景な黒一色の景色は影もなくし、代わりに青い空が広がっており、眼下には巨大な天幕と緑豊かな森。
それは彼の世界では見れない光景だった。
だが、彼がいる場所は上空4000m。抵抗することなどできずに、そのまま重力に従って落下していく。他にも男一人、女二人の計三人ほど同じように落下していく人たちがいるが、翔はそれよりも気づいてしまったことがあった。
そう。落下地点に湖が見える。つまり水なのである。スケーターは総じて水に弱い。浅くても溺れるし、深いなど以ての外だ。このことは彼らスケーターの常識であった。
「…………さて、どう回避するか」
どうやって水に落ちないようにしようか。そんなことを考えている間にも水面が近くなっていく。が、彼の落下地点だけは、他の三人と違い、若干ズレていた。
そして結論に達した。
「あっ、なんだ。俺の落下地点、湖のそばの岸じゃん。それならボードに乗ってれば着地できるや」
そう考え、ボードに乗って着地体勢になる翔。
基本、スケーターというものは総じて死にやすい。
水に触れたら死。
殴られたら死。
ゴミ箱に襲われたら死。
そんなことが日常茶飯事に存在している。しかし、現に彼は生きている。その答えは簡単だ。スケーターは死んでも死なない。そういう生き物なのだ。ゆえに彼はこんな状況でも冷静でのんびりしている。
だが、そんな死にやすい彼らだが、高所から落ちる際には生き残る方法が一つだけ存在している。
それはボードに乗ってボードから着地することだ。
だんだんと地表が近くなっていく。
そして、ついに水面へと三人と一匹が着水した。
翔は何故かダブルピースしながら岸に着地、
「あっ駄目だこれ。ミスる」
失敗した。盛大に土煙をあげながら落下した。失敗の原因はボードの前輪部分が先に着地してしまったことだ。そのせいで衝撃が完全に吸収できなかった。いや、上空4000mから落ちて、その衝撃をすべて吸収できるのもどうかと思うが。
ボードから体を放り出されて、地面に頭を打ち付けてしまった。そして死に、リスポーンを果たした。
一方、湖に落ちた翔以外の三人と一匹は水を泳いで陸地に上がっていた。翔の落下した部分に上がっている土煙を見ながら。
「………あれはさすがに無理ね。きっと生きてないわ」
「俺ならわからないが、他の奴なら無理だろうな」
「うん。可哀そうに」
「そうだな。失敗失敗。もう少しうまく着地できれば死ななかったんだろうけどさ」
「「「………ッ!?」」」
今、言葉を発した三人以外の人物の声が聞こえた。それに驚いた三人は声の主が誰かを確認するべく声の下方向へと勢いよく振り返った。
そこには傷もなく、土埃や汚れてもいない落下した当の本人、翔がいた。
そう。リスポーンである。スケーターの彼は頭を打って死んでしまった。だが、彼はすぐにリスポーンした。マーカーは死んだところに置いたのだ。その結果、三人の視線の先の土埃とはズレた位置に生きた状態で出現したのだ。そう。なにも不思議なことはない。なぜなら彼はスケーターなのだから当然の結果である。
もしも他の三人がスケーターであれば、もしくはスケーターを知っていれば、その謎はすぐに解けたであろう。それどころか彼と同じようにリスポーンすれば何も問題はなかっただろう。
つまり、
・水に入っても生きている。
・死んでリスポーンしない。
この二つから逆説的に彼らが自分とは違いスケーターではないということを翔は直感的に理解した。
翔が三人の方へと歩いて向かっていく。
「それで、ここがどこかわかったりは?」
「………さあな。つーか、お前。岸に落ちたはずだよな?なんで生きてんだよ?」
「そうね。それに汚れてもいないようだし、どういうことかしら?」
「それは俺がスケーターだからだ」
「はっ?」
「えっ?」
「………?」
三人から疑問符を浮かべられる翔。
なぜだ、この説明で通じるのは万国共通じゃないのか。と今度は逆に翔が疑問符を浮かべることとなった。
「なんでスケーターなら死なないし、汚れないんだよ?」
「スケーターは死ぬけど、生き返れるし、汚れなんてつかないからな。それに死んだら生き返るためにリスポーンするのは常識だろ?」
「………はっ?」
「スケーター?リスポーン?なにを言っているのかしら?」
「なん………だと………?まさか、スケーターでは、通じないのか………?馬鹿な………こんな、こんな訳の分からん世界があろうとは、俺は一体、スケーターとして、どうすればいいんだ………?」
三人の反応を見て、頭を抱えて真剣に悩み始める翔。そんな彼に理解が及ばないと判断したのか各々自己紹介を始める三人。
翔は考えながらも三人の名前を耳に入れる。
逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀。アンド三毛猫。
そして、翔の番が一応回ってくる。
「それで、最後に意味不明なことを言っているあなたは?」
「意味不明なことって………。ハァ、俺は翔、板乗翔。ただのスケーターだ」
「………結局、スケーターって何?」
三人がずっと思っていることを耀と名乗った少女が代弁する。
その質問に即答する翔。
「スケーターはスケートボードに乗ってトリックを決める人のことだ」
「スケートボード?」
「こういう車輪が四つ付いた板だ。略称としてスケボーとかって呼ばれてる」
「ふーん?でも、それがどうして汚れていないことにつながるのかしら?」
「スケーターが汚れないってのは常識だ。つまりは、そういうことだ」
「「「………」」」
「ちょっとこいつを湖に投げ入れてみるか」
「「賛成」」
「えっ、ちょっ、なにをす」
「オラッ!」
十六夜に首根っこを掴まれて湖に投げられる翔。
そして、そのまま着水し、沈黙した。
「………」
そして微動だにもしなくなる翔。そんな彼の様子を見た三人が慌て始める。
「………ね、ねえ?反応ないけれど大丈夫なの?」
「………さあな」
「………死んだ?」
「ああ!死んだよ畜生ッ!そのせいでリスポーンする羽目になったわッ!」
「「「………ッ!?」」」
突然後ろから怒声が響く。そして三人はその声に驚き、反射的に勢いよく振り返る。
「ったく。いきなり人を投げるとか非常識にもほどがあるだろうに」
「それを言うならお前も十分非常識だがな」
「俺んとこだったら常識だったんだよ」
ヤハハッと笑いながら話しかける十六夜。
一体何が起こったのかよくわかっていない飛鳥。
同じく何が起こったのか理解していない耀。
そんな三人を肩を竦めながら見る翔。
そしてそんな四人を見つめる人物が草陰に一人。
「(………い、一体何が起こったのでしょうか?あの人が投げ飛ばされたと思ったら、水面で動かなくなり、でも気が付いたら御三方の後ろに現れましたよね?移動系の恩恵保持者でしょうか?いえでも彼は『死んだ』と言いましたし………本当に一体何なのでしょうか………?彼の言っているスケーターとは一体………?)」
その人物も理解が及んでいなかったのであった。だが、一つだけ。一つだけどうしても気になる疑問があった。
「(黒ウサギが呼んだのは三人のはずです………。一体誰が………いえ、絶対にあの変な方でしょうね………)」
視線を翔に向けたまま、そう考えた。