忙しすぎて時間が取れない泣
朝8時、翔は目覚めた。隣では常夫がまだいびきをかいて寝ている。父親とは思えないほど幼くて可愛い顔しておきながらひどいいびきをかいている。確実に翔とみほは常夫に似たのだろう。まほは完全にしほに似たみたいだが。
「よし。今日はちゃんと起きれたぞ。着ていく服は…って言ってもジーンズとTシャツしかねーや」
(でも学園艦を案内って…ここの学園艦かなりでかいよな?半日で回りきれるか?)
今は長期休暇ではないため普通に明日から学校だ。翔は16時に迎えにくる船に乗らないと自分の学園艦に帰れなくなってしまう。
「まぁいいか」
とりあえず早めに駅前に行くことにした。
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駅前に着いた時間は9時20分。少し早すぎたらしくさすがにまだエリカの姿は見えない。
「てか学園艦に電車ってほんとすげーよな〜。どんだけでかいんだよ」
あまりに学園艦の規模が大きいため山手線のごとくぐるぐると学園艦の中を電車が回っているらしい。規格外だ。
そんなことを考えながらベンチに座っていると少し離れたところに真っ赤なスポーツカーが停まったのが見えた。翔は車が好きでそれなりの知識も持っている。それ故にかなりの好奇心が湧く。
(アルテガGTだと!?初めて見たぞ!ん?ドライバーは女の人か)
降りてきた人物を目にした時、翔は驚愕することになる。
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今目の前に意図せず翔とほぼペアルックみたいな格好で来てしまった女の子が立っている。
「エリカちゃん。一つ聞いてもいいかな?」
「なんですか?ていうか翔さんなんで私と同じ格好してるんですか?変態なんですか?」
「変態じゃない!まさかデートなんてすると思ってなかったから服作業着と寝間着とこれしか持ってきてなかったんだ!」
「で、デートじゃないです!!」
エリカが顔を赤くしながら反論してくる。まるでトマトだ。
「とにかく俺の質問に答えてもらおう。なぜ君は乾燥重量1132kgの軽量ボディに最高出力300ps、最大トルク350N・mは必要十分。0-100km/h加速は4.8秒、最高速度270km/hを誇る軽量ミッドシップ2シーターという点では“ドイツ製ロータス”とも言うべき今は無きアルテガ社が生み出した幻の名車、アルテガGTに乗って来たんだ?」
「なんでそんな詳しいんですか…ちょっと引きますよ?」
「車好きだからな」
「私も車好きなんです。まぁなぜこの車に乗って来たのかは秘密です。そんなことよりさっさと行きましょ」
「そんなことよりって」
「早く乗る!」
なんだかどっちが年上なのだかわからなくなってきたところで翔は高級車の中に身を投じた。
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「いや〜こんな高級車に乗れるなんて夢にも思わなかったよ〜。ありがとなエリカちゃん」
翔は車に乗ってから興奮しっぱなしである。
「いえ、別に…。西住家では何乗ってるんですか?」
「うちはトヨタTS010だよ」
「へぇ……ってレーシングカーじゃないですか!」
「あ、ごめん間違えた。ヘネシーヴェノムGTだった」
「ですよね。日本でレーシングカーが乗れるわけ…って億越え!?合計29台限定の超高級スポーツカーじゃない!」
「ははは。エリカちゃんのツッコミはキレがあるなぁ」
「私をツッコミキャラにしないでください!で、ほんとは?」
「バモス」
「落差!冗談との落差が激しすぎです」
「車にこだわりはないらしいよ。母さんが真顔でバモスを運転するんだぜ?どう思う?」
「別に…」
しかし翔はエリカの肩が小さく震えているのを見逃さなかった。そしてすかさず畳み掛ける。
「西住流に後退の文字はありません」
「ぶふっ!」
翔はハンドルを持つ真似をしながら急に真顔になり西住流の格言を言い放った。それにエリカは耐え切れず吹き出したというわけだ。
「俺の勝ちということでいいかな?」
「反則よ!こんなの我慢できるわけないじゃない!」
「まぁそんなことよりもどこへ向かってるんだ?」
「ソーセージ生産工場です。名物なんですよ?」
「へぇ。名物なんだ。そりゃ楽しみだ」
深紅のアルテガGTがアウトバーンを駆け抜けて行く。
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二人が到着したのは黒森峰学園艦の全てのソーセージの生産を担う工場である。ドイツの生産方法を模しているためかなり本格的なものだ。
「へぇ〜試食コーナーにもかなりの種類があるんだな」
「翔さんこれ美味しいですよ。私の一番のオススメです」
「お?どれどれ・・・」
翔は全く警戒することなくエリカが差し出してきたソーセージを口へ運ぶ。隣ではなぜかエリカが心なしかニヤニヤしているようにみえる。この後翔がどのような結末を迎えることになるのかを知っているかのように。
「エリカ、お前もか・・・」
「私はブルータスではありません」
「ぐはっ・・」
激辛チョリソーを吐き出して力尽きるガイウス・ユリウス・カエサル(翔)であった。
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「そういえばチョリソーってドイツではなくスペイン発祥らしいですよ」
「ドイツですらねぇのかよ!おのれサクラダ・ファミリアめ」
「いや、関係ないでしょ・・・」
遥かなる歳月を経て現代の地へ甦ったカエサル(翔)とエリカは学園艦を一通り見渡せる展望台へ来ていた。
「ほんと広いよな〜。俺の学園艦なんて比べ物にならないよ」
「翔さんはどこの学校に通っているんですか?」
「えー言わなきゃだめ?」
「なんで渋るんですか?」
「だって恥ずかしいし」
「いいじゃないですか。教えてくださいよ!」
「しょうがないなぁ・・・。ケンブリッジ大学ジャパンカレッジ高等学部だよ」
「・・・」
「・・・」
まるで時が止まってしまったかのごとく長い沈黙が二人を襲う。
「・・・・は?」
「まぁそうなるわな」
「嘘ですよね?」
「いや、残念ながらこれはガチやで」
「あの日本で一番合格率が低くて入学すること自体困難とされるあの名門校ですか?」
「そうそう。だから必然的に人数も少なくなるわけ。でも公立だからそこら辺はあんまり問題ないんだろうけどね」
「そこを卒業した生徒は大体世に出て活躍しますからね」
「まぁ受けてみたら合格しちゃったって感じだけどな。俺もびっくりしたわ」
「その軽さ・・・。本当に意外です」
「そうか?」
「だって翔さん変態だし」
「ちがうけどな?」
エリカは本当に驚いているようだ。まぁ当然だろう。この反応が安易に予想できるためこのことは誰にも言ってなかったのだ。そのため家族と中学の先生とエリカ以外真実を知るものはいない。
「ところでエリカちゃん。この話は内緒な?」
「あ、はい。わかりました」
「約束な!指切りでもしとくか?」
「・・・遠慮しておきます」
「それな。ははは!」
気づけばもうすぐ港に向かわなければならない時間である。楽しい時間というのはいつもあっという間だ。
「エリカちゃん」
「なんですか?」
「まほとみほのことよろしくたのむよ」
「え・・・。いきなりなんですかそんなまじめな話」
「あの二人は基本戦車に乗ってるときしかしっかりしてないからさ。特にみほは高校入学してからほんと大人しくなっちゃってエリカちゃんがいてくれなかったら友達もできてたかわからないし」
「そんな・・私こそあの二人がいてくれなかったらこうして戦車道ができていないですし。お世話になるのは私の方です」
「それでいいんだよ。人っていうのは独りでは生きていけない。足りないところを補いあって生きているんだ。だからエリカちゃんも思いっきり支えてもらえ。そしてその分君もあの二人を支えてやってくれ」
「今俺はあの二人の近くにいてやることはできない。この思いは君に託すよ」
そう言って翔はにっこりと微笑む。
「・・・シスコンですね」
「おう。可愛い妹たちだからな」
「わかりました。頑張ります。あ、あの・・」
なぜかエリカは頬をほのかに赤く染めながら言い淀んでいる。
「どうした?」
「もし挫けそうになったら翔さんは支えてくれますか?私のこと」
「ん?当たり前だろ?」
「そうですか・・ありがとうございます。そろそろ行きましょ。出航に間に合わなくなります」
「そうだな。あ、ちょっと待って。記念に写真撮ろうよ」
「え」
翔はポケットからスマホを取り出す。広大な学園艦を背景に満面の笑みの翔とその翔に肩を抱かれ顔を真っ赤にして俯きながら控えめにピースサインをカメラに向けたエリカが写真に収められた。
〜その夜ラインにて〜
「あの写真まほとみほに送って見せてあげたらめちゃくちゃ喜んでたぞ」
「なに勝手に見せてんのよぉ!」
次もいつあげられるかわかりません。。。
頑張りますので少々お待ちください泣