それじゃあ本編いってみましょう!
みほが無事に黒森峰に入学して早3ヶ月。2年になったまほは隊長に任命され黒森峰戦車道チームをまとめあげていた。そんな中代替わりのしていないチームで1年生であるみほが副隊長に選ばれるという快挙を成し遂げていた。みほ自身あまり自信があるようではなかったが強豪校である黒森峰で副隊長に選ばれるということは余程戦車道の才能があるのだろう。この前まほと電話した時珍しく彼女は嬉しそうに話していた。"みほと一緒に優勝するんだ"と。ちなみにまほは去年の9月頃、ようやく携帯の使い方をマスターした。それからというもの毎日メッセージやら電話やらよこしてくる。まぁそこまで忙しくないので付き合ってあげるのだが。そして今日もまほから電話がかかってきたのである。
「翔。今週の土曜日にお父様が戦車の整備をしに来てくれるんだ」
「知ってるよ?」
「なんでだ?」
「だって俺も行くもん」
「冗談は顔だけにしてくれないか」
「待って」
まほの冗談なのだが翔でないと判断できないだろう。余談ではあるのだがしほもごく稀に同じ手を使い兄妹3人をビビらせてくる時がある。とりあえずこれはスルーして大丈夫だ。
「親父に一緒に来て手伝わないかって言われたんだ。ティーガーとか近くで見れる機会そんな多くないし勉強させてもらおうかと思って」
「そうなのか。じゃあみほには内緒にしておこう」
「え、どーして?」
「その方が驚くと思うし喜ぶだろう。みほはお前のこと大好きだからな。それに最近あんま元気ないんだ…」
「副隊長の件か?」
「恐らくそうだろう。実力はあるのに自分に自信が持てていないんだ」
「そうか。なら俺に任せておけ!」
「頼んだぞ。ではまた明日」
「おう。おやすみ…って明日もか!?」
突っ込んだ時にはもう電話は切れていた。
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「うん。さすが女子校だな。めっちゃ居づらい」
翔の通う学園艦は共学のため学校に通う生徒が全員女子というのは新鮮な景色である。そしてなぜか翔は一人で戦車倉庫前で待機している。時間は朝7時30分。土曜日といえど様々な部活動の女子達が学校へと集まる。そんな中男が一人戦車倉庫前にいるのだから視線を集めてしまうのは当然だろう。
(早く親父帰ってこないかなぁ…)
父、常夫は関係者に挨拶してくると言ってどこかへ行ってしまった。俺も連れてってくれればよかったのに…
「あの、なにしてるんですか?ここ女子校なんですけど」
目の前にはツリ目気味で美しい銀髪をした女の子が立っている。これが彼と彼女の運命の出会いとなった。
わけでもなく完全に冷たい視線をぶつけられている。
「いや、戦車の整備の手伝いに来たんだけど…」
「整備?まだ訓練始まってすらいませんよ。私が一番最初ですし。そんなこと言ってただ忍び込んだだけなんじゃないの?」
「ひどいなぁ。そんなことするわけないよ」
「じゃあ何をしに来たのよ」
「戦車の整備だって!」
「じゃあ証明してみなさいよ」
「うーん…。ここの隊長西住まほって奴だろ?俺はそいつの兄貴なんだけど」
「そんな嘘バレバレよ」
「ダメダコリャ」
身分証を出せば一発なのになぜこの時その判断ができなかったのだろうか。目の前に急に可愛い子が現れてしかも話しかけられたから動揺してたのだろうか。我ながら疑問を感じる。
「とりあえず今風紀委員を呼ぶからちょっと待ってなさい」
「ちょ!待って!」
翔はとっさにケータイを取り上げてしまった。
「ちょっと!返しなさいよ!!」
「君が信じてくれるまで返すことはできないな」
ケータイを少女の手が届かないよう高く掲げる。翔は身長が182センチあるので男子の中でも背が高い方である。比べて少女は160センチに満たないくらいであろうか。それでもケータイを取り返そうと身を寄せてジャンプしてくる。はたから見たらただカップルがいちゃいちゃしてるような光景だっただろう。ただ本人達はそんなこと感じてる余裕はなかった。
(体に柔らかい感触が…耐えろ俺!)
翔が色んなものと戦っていたその時だった。
「……。エリカ、何をしている」
「た、隊長!助けてください!この変質者が!」
「何をしたんだ翔」
「なんもしてねーよ。早く助けてくれ」
「え、ほんとに隊長のお兄さんなの?」
「最初からそう言ってるだろ?」
ようやく翔はケータイをエリカと呼ばれた少女に返した。
「ずいぶんと仲良くなったみたいだな。中々やるじゃないか」
「からかわないでください隊長!」
「そうだな。よろしくエリカちゃん」
「なっ…!誰が貴方みたいな変質者と…てかちゃんづけしないで!!」
エリカはなぜかとても照れているようだ。若干顔が赤い。そしてみほもその場に現れた。
「あれ?なんでお兄ちゃんがここにいるの?」
「みほに会いに来たんだよ」
「お兄ちゃん。冗談は存在だけにしてくれないかな?」
「存在を否定!?」
「そしてなんでエリカさんは顔が赤いの??」
「うるさいわね!あんたには関係ないわ!」
「ふぇ〜」
「そろそろ訓練が始まる。茶番はここまでにして早く行くぞ」
まほが鶴の一声を放ちその場は収束した。
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午前の訓練が終わり今はお昼ご飯の時間だ。翔、みほ、エリカの3人でご飯を食べている。
「みほ。中々良い動きしてたじゃん」
「そうかな?ありがとう。でも…」
「自信ない?」
「うん…。私まだ1年生だし、私より指揮が上手な先輩だってたくさんいるし」
「そっか。じゃあ君にこの言葉を贈ろう」
「人間は自分の人生を描く画家である。貴方を作ったのは貴方。これからの人生を決めるのも貴方。」
「誰の言葉?」
「アルフレッド・アドラーですね。現代の心理学において多大なる功績を残しながらも世にあまり知られることがなかった学者よ」
「さすがエリカちゃん。博識だね」
「ちゃんづけしないでください」
エリカがぶすくれている。しかし翔はこれを華麗にスルーする。
「確かに西住の名を受け継ぐ者として1年生だけど副隊長にならなければいけなかったのかもしれない。でもね?本当にできないんだったらノーと言うこともできたはずだ。だって僕たちはその権利を持っているのだから。でもみほは副隊長になる道を選んだ。決断したんだよ。これまでの人生を作ってきたのはみほだ。ということはこれからの人生を作っていくのもみほなんだよ?"意思一つで人はどんなことでもできる"んだ。みほにできないことなんてないんだよ」
「でも失敗したら…」
「そん時は仲間に助けてもらえばいい。俺だってまほだって。それに一番近くにいるじゃないか。頼れる仲間が。だからみほはみほらしく自信持って堂々と戦車道をやりな」
「お兄ちゃん…。ありがとう…!」
涙目になりながらみほが抱きついてくる。その隣ではエリカがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「みほ!みんな見てるから!」
どうやら聞こえていないらしい。
「エリカちゃんどーにかして!」
「ちゃんづけされたので嫌です」
「そんなぁ」
こーしてお昼休みは終了した。
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訓練終了後、一通りの整備を終えホテルへ戻った常夫と翔。翔は疲労のあまりシャワーを浴びるとベットへと倒れ込んだ。
「疲れたなぁ。黒森峰は車両数も多いしあんなに機構が複雑だと…」
その時翔のケータイが鳴る。知らない番号だった。
「もしもし?」
「あの、こんばんは。翔さんですか?」
「あれ?その声はエリカちゃん?」
「だから…もういいです。好きに呼んでください」
「ははは。てかタメ語でいいよ。そっちのが話しやすいしね」
「え、でも…」
「いいのいいの。で、どうしたの?」
「頑張…るわ。昼間の事謝ろうと思って。あと明日黒森峰の学園艦を案内してやってくれって隊長が。その…昼間はひどいこと言ってごめんなさい」
「気にしないで。あれ?明日も訓練じゃないの?」
「明日は大会前最後の日曜日なので1日休みだそうです」
「そーなの?じゃあお願いしようかな」
「わかりました。集合場所はどうし…する?」
「駅前に10時くらいでいいかな?寝坊したらごめんね」
「許しません」
こうして不意にエリカとのデート?が決まったのであった。
翔はモテるのになぜか彼女はいません。
次作は頑張ってなるべく早く投稿したいと思います。