午前11時を少し過ぎた頃、3人は最初の目的地に到着した。翔が"若干"寝坊したせいで予定より1時間以上到着が遅れてしまった。
「うむ。中々良いところだな。テレビで見てから一度来てみたいと思ってたんだ」
「うん。めちゃくちゃ落ち着く場所ではあるんだが」
「お姉ちゃんのセンスがよくわからない」
今3人がいる場所は水前寺成趣園という庭園である。豊富な阿蘇伏流水が湧出して作った池を中心にした桃山式回遊庭園で、築山や浮石、芝生、松などの植木で東海道五十三次の景勝を模したといわれている。まぁ要するに高校生や中学生がぶらりと遊びにくる場所ではないということだ。しかも何気に広いため一周見て回るのけっこう時間がかかる。現にみほはもう飽きてしまってぶすくれた顔で翔たちの後をついてきている。
「そういえばまほ。戦車道の方はどんな感じなんだ?」
「ん?副隊長に任命された」
「えぇ!?1年なのにか!?」
「黒森峰は実力主義だからな。まぁそういうことなのだろう」
「それはすごいなぁ。なんでもっと早く言わないんだよ」
「言う必要がないと思ったからな」
「じゃあ連絡を返さなかったのは?」
「携帯の使い方わからない」
「今携帯持ってる?」
「家に置いてきた」
ダメダコリャ。家に帰ったら徹底的に指導しなければ。戦車乗ってる時と私生活との差が激しすぎるのだこいつは。
「お前はどうなんだ?整備の勉強はちゃんとしているんだろうな。約束を破ったら許さないからな」
「当然。伊達に親父の弟子やってるわけじゃないって。もちろん他の科目もしっかりやってるよ」
彼は機械科のある学園艦に入学しており夢は父、常夫のような優秀な戦車整備士である。幼い頃からずっと父の後にくっついて機械のことを学んできた。そんな彼にとって高校で学ぶ基本的なものは退屈ではあるが整備士としてしっかり知っておかねばならないものなのである。そこを弁えているのが彼の良いところだ。他の科目でも軒並み優秀な成績を残しており教師からも一目置かれているようだ。ちなみにまほの言う約束というのはいずれは兄妹3人、一緒のチームで戦車道を〜というものだ。妹2人は戦車に乗り、兄は整備士として一緒のチームで戦車道を歩んでいきたいという幼き日に3人で立てた誓いである。
「朝は起きれていないようだが」
「なんで知ってる?」
「今日の朝を見れば一目瞭然だろう」
一見完璧に見える彼にも弱点はある。それは朝がめちゃくちゃ弱いところだ。中学生の頃は毎朝まほが叩き起こしてくれていたため遅刻するといったことはなかったのだが現在は業界最高峰の音量を誇る目覚まし時計と携帯のアラーム二台体制をとっているのにも関わらず朝起きれなくて遅刻ギリギリという生活を送っている。たまに遅刻もする。
「みほの声が聞こえたら一発で起きれんだけどな…」
「なに〜?呼んだ?」
「なんでもない」
後ろからすっかり飽きてしまっているみほの声が聞こえる。みほの呼びかけで起きないとなにをされるかわからない。まぁ主に落書きなのだが。顔ならまだ気づいて落とせるからいい。背中に落書きされていて体育の着替えの時恥をかいたことは思い出したくない。
こんな雑談をしているうちに出口が見えてきたので3人は水前寺成趣園を後にして市内のデパートへ向かうことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そういやまだなんも食べてないしそろそろお昼にしようか。なに食べたい?」
「カレー」
「マカロン!」
「うん。マカロンはお昼に主食として食べるものじゃないね?せめてお昼後のデザートにしようね?」
「え〜…」
「とりあえずあそこにあるカレー店入ろうか」
この後想像を絶するような戦いが待ち受けていることを3人はまだ知る由もない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お、お姉ちゃん…」
「まほ。なんだそれは」
「激辛スパイシーカレーだ」
まほの前にカレーと言う名の兵器が鎮座している。カレーの色をしていない。もはや赤い。
「黒森峰の先輩がこのカレーを美味い美味いと食べていて私も食べてみたいと思ってたんだ」
「いや、もう匂いからしてすごいし多分その先輩がおかしいんだと思うよお姉ちゃん」
みほが的確なツッコミをいれる。翔の前には温玉ハンバーグカレー、みほの前にはシーフードカレーが置かれる。
「じゃあ食べようか。いただきます」
「「いただきます」」
それぞれが一口目を運んでいく。
「うん!これは安定の美味さだな!」
「お兄ちゃん!こっちも美味しいよ!」
「なんだ。意外とからくな……ブフォ!!」
時間差攻撃にまほが耐え切れずルーを吹き出す。噴出されたルーは正面に座っていた翔の顔を捉え……
「ぐぁぁ!?目がァ!目がぁぁぁぁ!」
某ジブリ作品に出てくる大佐のようなセリフを口にしながらお手洗いに駆け込んでいった。ゲホゲホと咳き込むまほの隣でみほがゲラゲラと腹を抱えて笑っている。この後店員から注意を受けたのは言うまでもない。
〜数分後〜
「まほ。なにか言うことは?」
「ごめんなさい」
「よし。食事を再開しよう」
みほと翔は順調に食べ進めていく。まほは…まぁ御察しの通りだ。
「みほ、そのカレー一口ちょうだい」
「いいよ〜。じゃあお兄ちゃんのも!」
「食え食え。ハンバーグの部分とっていいぞ」
「み、みほ!私のカレーもたべ」
「ごめん無理」
「………」
「翔。はいアーン」
「う、それ断れないやつ!」
ついにまほが最終手段に出た。普段はこんなこと絶対にしない人が不意にやったりするとギャップ萌えなるものが発動するらしいが今の翔にそんなことを感じている余裕はなかった。
「…。食わないとダメか?」
「私は翔にこのカレーを食べてほしいな」
彼はついに決心する。
パクっ。もぐもぐ…
(ぐぁ!?なんだこの辛さ!口が焼ける!でもここで負けるわけには…西住流に後退の文字はないんだぁぁぁぁ!!)
ゴクリっ
「ハハっ。メッチャオイシイジャンコレ」
「そうか。それなら私も嬉しい。もっと食べさせてやろう」
普段表情を崩さないまほがにっこりと笑いながら兵器。もといカレーを口元に差し出してくる。結局残ったカレーは全てまほから食べさせられたのであった。
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「覚えてろよ」
「楽しみにしておこう」
お昼を食べ終わった後デパートで服を見て回ったり生活用品を買ったりして3人で楽しく過ごした。もうすぐ家に到着である。
「なんだかんだで楽しかったな今日」
「そうだな。良い息抜きになった」
「みほも受験頑張るんだぞ?」
「うん!頑張るよ!お兄ちゃんにいっぱいマカロン買ってもらったし!」
「そいつは結構。奢った甲斐があるってもんだ」
そして家に到着した。時間的にもう夜ご飯だろう。
「ただい…。こ、この匂いはもしかして!」
「もしかしなくてもあれだな。お母様特製の」
「メッチャ辛いやつ…?」
みほが今にも気を失いそうな虚ろな目をしている。
3人が怯えながらキッチンに向かうとエプロン姿のしほが立っていた。
「あら、帰ってたの。今日ご飯はカレーです。久々に家族全員揃っているので私が作りました」
顔を見合わせた3人はしほを前にしながらも恐怖の表情を隠すことができなかった。
かなりグダグダになりました。次回はもっと話を進めていきたいです!