リアルで一段落ついたので続きを投稿します。
ちなみにお気に入り30件突破いたしました!!
登録してくださったかた、ありがとうございます!!
前回と比べると今回めっちゃ長いです。
では、どうぞ。
「戻ってきた...この世界に!!」
周りの風景を見て思わずこの言葉が口に出た。
俺は今、ソードアートオンラインの舞台である
通称“浮遊城アインクラッド”の百層あるうちの最下層である第一層の始まりの街にいる。この街はかなり大きく道を知らない初心者は迷子になりやすい。特に雪ノ下のような方向音痴の人にとっては、まるで最初から迷宮区に居るように感じるだろう。
.....ちゃんと会えるだろうか?心配だ...
待ち合わせ場所に向かっていると街が騒がしくなってきた。どうやら続々とプレイヤー達がこの世界にやってきているようだ。ある者は歓声を上げ、またある者は周りの建物を見て目を見開いている。
やっぱり最初は驚くよな、俺だってそうだった。
すると近くを歩いていたプレイヤーにいきなり話しかけられた。
「そのアバター...もしかしてハッチか?」
え?俺を知ってる?それにこの呼び方に特徴的なひげのアバターは...
「...もしかしてアルゴか?」
俺がそう訊くと安心したように、そして嬉しそうに話しかけてきた。
「やっぱりハッチか。久しぶりだな、ベータテスト以来か」
「あぁ、久しぶりだな。その髭は相変わらずか」
まさか雪ノ下達よりも先にベータ時代の知り合いに会うとは思わなかったな。
「この髭はオレっちのトレードマークだ。それにこの髭がないと“鼠のアルゴ”じゃなくなるからな」
そう言ってアルゴはアバターの顔に施されたペイントを触る。
ちなみに今アルゴが言ったのはベータテスト時代の二つ名だ。両頬に髭が三本ずつ描かれていることが由来している。だがアバターが特徴的だからといって二つ名が付けられるわけではない。二つ名は有名なプレイヤー、良くも悪くも知名度が高いプレイヤーに付けられる。
こいつの場合は情報屋、すなわち情報を売って金を稼いだり、取引の仲介をする代わりに手数料を取って金をもらう商人プレイを主な活動とする数少ないプレイヤーとして有名だった。俺もこいつから情報を買ったことがある。
「そういえばそんな二つ名が付けられてたな。なぁアルゴ、フレンド登録しないか?次はいつ会えるかわからないしな」
俺がそう言うとアルゴはニヤリとした。
え?何その顔、絶対に何か良からぬ事を考えている顔だ。
「もちろんいいぞ。ハッチは上客だったからな、また何かいい情報が手に入ったら売ってやるよ。そうだ!さっきベータの時にはなかった要素を見つけたんだが...聞きたいか?」
「いきなり商売の話かよ」
俺は思わず苦笑いしてしまう。
でもベータになかった要素なら知っておいて損はないな。...それにしてもまだ始まって数分なのによく見つけたな。流石は鼠のアルゴといったところか。
「あぁ、でも金はあまり持ってないからな。タダだったら聞いてやる」
「タダか...まぁ大した情報じゃないしいいか」
「え?お前、大した情報じゃないのに金とろうとしてたのかよ」
俺が聞くと、アルゴは当然だろ?と言わんばかりの顔で言ってきた。
「当たり前じゃないか。こっちの手札を可能な限り見せずに金を引き出す、情報屋ってのはそうやって金を稼ぐんだよ」
「なんと卑怯な...」
俺は思わず顔をしかめながら呟く。
「まぁそんな商売を続けてたら客が居なくなるけどな。金に困った時か、反応を見て楽しみたい時にしかやらないさ」
「いや、俺の反応を見て楽しむつもりだったのかよ...」
アルゴはケラケラと笑いながら言った。
「まぁまぁ、そんなことより情報について教えてやるよ。実はな、ベータの時にはただの民家だった場所が新しく宿屋になってたんだ。しかもこの辺りだけでも3ヶ所」
「宿屋?何でそんな物が...」
予想外の情報の内容に思わず聞き返す。それと同時にベータテストの時の記憶を確認する。
宿屋なんてベータの時に使ったか?いや、そういえばクエストの受注ができるところもあったな。でもそれはごく限られたところだけだったはず...寝る時は現実に戻るから寝泊まりに使用することなんてなかったし...
何か新しいシステムでも追加されたのだろうか。
俺が考え込むのを見てアルゴが言った。
「そんなに気にすることないんじゃないか?ベータテストの時よりも9000人も増えたんだ。それに宿屋なんて街の雰囲気を出すための飾りみたいなものだったし」
「まぁ...それもそうか。そんなに人が増えたら宿屋も増やすか」
何か腑に落ちないがアルゴの言う通り、気にしても仕方がないか。理由なんて製作者にしか分からないしな。
ってそんなことより待ち合わせ場所に行こう、待ち合わせ時間には早いが、もうみんな着いてるかもしれない。
「じゃあ俺はもう行くわ。リアルの知り合いと待ち合わせしてるからな」
俺の言葉を聞いたアルゴは信じられない、と言った顔つきをする。
「何だよその顔は」
「いや...ハッチもリアルには一緒にやる仲間が居たんだな。ベータの時みたいな事はするなよ、またソロになるから」
ぐっ...痛いところを突いてきやがった。
そう、俺はベータテストの時にちょっとやらかしているのだ。ある日、たくさんのモンスターを討伐するクエストを受けた俺はパーティーを組んでいたのだが、ヘイトを他のパーティーメンバーに集めて楽をしたことがある。それが露見してから俺はパーティーを組むことがなくなった。
いや、一人だけ俺と組もうって言ってきた物好きなやつが居たな。
「あいつらにはあんなことしねぇよ。初心者だし、何より怒らせたら怖い連中ばかりだからな」
もしそんな事したら......想像するだけでも恐ろしい。
「そういえばハッチの知り合いってどんなやつらなんだ?」
「俺の妹と所属してる部活の毒舌お嬢様な部長とその顧問の独身教師、小悪魔生徒会長に末期の中二病...だな」
「何かすごいメンバーだな...」
「自分でもそう思う」
今思えばまじで普通のやつが誰一人としていない。てか俺の学校ってキャラ濃すぎじゃね?
するとアルゴが首を傾げて聞いてきた。
「ん?...って今、部活に所属してるって言ったか?」
「あぁ、そうだけど」
あっ、これヤバい
俺の返事を聞いたアルゴが言い淀みながら聞いてくる。
「嘘だろ...ハッチが...あのハッチが......部活に...。なっ、何部なんだ!?」
あー、やっちゃった。....どうする。奉仕部なんて言ったら、まず間違いなく驚く、というか引かれるに決まってる。いっそ開き直って堂々と言ってやろうか。いや、辞めておこう、変人の烙印を押されたくはない。
よし、適当にごまかして逃げるか。
俺はその場から逃げ出すべく語りかけた。
「まぁ、ちょっと変わった部活だ。じゃあそろそろ待ち合わせ時間だから行くわ」
そう言うと同時に俺は体の向きを変えて歩き始める。
それを見たアルゴが慌てて言う。
「ちょっ、何部か教えてくれないのカ!?...まぁいいか。じゃあオレっちも情報収集に行くよ。知り合いに宜しく言っといてくれ」
「あぁ」
俺の返事を聞くとアルゴは街の何処かに消えていった。
ふぅ、奉仕部って言わずにすんだか。今度、雪ノ下に奉仕部の名前を変えないか真剣に相談しよう。流石にこの名前は色々と面倒なことが多い。
にしても相変わらず仕事熱心なやつだ。俺には真似出来そうもない。する気もないが。
さて待ち合わせ場所に行くかな。もうみんな着いた頃だろう。そうして俺は、また歩きだした。
待ち合わせ場所に着くと既に全員が揃っていた。どうやら雪ノ下もちゃんと来れたようだ。
俺が近くに行くと小柄な女の子のアバターが話しかけてきた。
「もしかしてお兄ちゃん?」
このアバターは小町か。リアルと同じで可愛いな。
「あぁ」
俺が返事をするとロングヘアーのアバターが話しかけてくる。
「本当に比企谷君?どうしたの、目が腐ってないわよ」
この喋り方と罵倒の仕方は雪ノ下か。てか罵倒の仕方で誰か判るって凄いな。俺、今までどんだけこいつに罵倒されてきたんだよ。
「おい、ゲームの中でまで目を腐らせるつもりはないぞ俺は」
俺が文句を言うと、雪ノ下は笑いながら答える。
「ごめんなさい。リアルの印象が強すぎてつい口に出てしまったわ」
「そんなに俺の目は印象的なのか...」
「そんなの今さらじゃない」
「.....さいですか」
否定できないのがつらい...
「そんなことよりも比企谷君、なぜ小町さんと一緒にログインしたはずのあなたが一番遅いのかしら?小町さんは一番最初にここに来たそうよ」
「すまん。知り合いに話しかけられて少し話してた」
「知り合い?君と同じベータテスターかね」
このアバターは平塚先生か。
「そうですけど」
「先輩、その知り合いって女の人ですか?」
先輩呼びって事は、一色か。女性陣はみんなリアルに近い姿だな。
「そうだが...それがどうかしたのか?」
すると一色は『また女性ですか...』とため息をついて雪ノ下と何か話し始めた。どうしたんだ?何か小町も混ざり始めたし。
首をかしげて不思議に思っていると眼鏡のイケメンが話しかけてきた。
「八幡、余りフラグを立てると後悔するぞ」
ん?誰だこいつ。いや、あとはあいつだけだった。
「材木座か。てか何アバター、なんでイケメンになっちゃってんだよ」
「ふんっ。ゲームの中でくらい夢は見たいものだ」
「いや、それはいいんだがリアルに戻った時にへこむぞ?ソースは俺」
俺もベータテストの時に普通の目のせいか、初対面で引かれることがなくなって、それなりに話したりしていたが、リアルに戻って鏡を見たときの、あの虚しさは何とも言えないものがある。
「抜かった......そこまでは考えていなかった...」
そう言って材木座は頭を抱える。こいつの場合まず体格が違うから戻った瞬間にへこむだろうな。可哀想だが自業自得ってやつだ。
そういえばあいつもベータの時にアバターを男らしくして、リアルに戻った時にへこんだって言ってたな。
戸塚みたいな奴なんだろうか?いや、それはないな。あんな天使がそうそう居るわけがない。そう、戸塚は戸塚であり、天使なのだ。....何を言ってるんだ俺は。
てか、いつまでこいつは頭を抱えてるんだ。相変わらずの紙メンタルだな。
「まぁ、気にするな。そのうち慣れる。多分な」
材木座を慰めていると話し合いが終わったらしく、小町が話しかけてきた。
「お兄ちゃん。そこの人はほっといて、そろそろ狩りに行かない?時間の無駄だから」
「え?そこの人って。八幡、お主の妹ちょっと酷くない?」
材木座が何か言っているが確かに時間の無駄だな。
「そうだな、じゃあ先にこのゲームをやる上での注意点を1つだけ言っとく」
「え?無視なの?」
「いいから聞け」
「あ、はい」
おい、素が出てるぞ。キャラは保てよ。
まぁいいや。続けよう。
「このゲームの中ではリアルの名前で呼び会うのは控えること。リアルの知り合いだけの時はそれでもいいが、見ず知らずのプレイヤーとパーティー組んだときに困るからな」
全員が頷くのを見て俺は話を続ける。
「まぁ、俺は本名を名前にしてるから慣れるまでは今までと同じ呼び方でいい。俺からは以上だ」
話し終えると雪ノ下が言った。
「私も本名にしたわよ」
え?
「あ、私もです先輩」
「私も本名だが」
「小町も本名だよ」
「我も本名だ」
まじか...
「あー、えっと...全員、慣れるまでは今まで通りで行くか」
俺がそう提案すると一色が答える。
「そうですね。正直いきなり先輩から名前呼びとか無理です」
「そうね、私もいきなりはちょっと...」
「いや、お前ら本人目の前にして酷くない?」
俺がそう言うと二人は同時にため息をつく。
「そういう意味じゃないんですけどね...」
「えぇ、私もよ...」
「...?どういうことだ?」
俺が聞くと二人は、よりいっそう深いため息をついた。
この様子を見ていた小町たちが呟く。
「お兄ちゃん...」
「八幡め...爆発しろ。そして塵となれ...」
「いいなぁ、青春だなぁ」
「...?」
一体何なんだ?訳がわからずに俺は首をかしげる。
何故か周りのプレイヤーから憐れみや羨望の眼差しを向けられるし。何か一部のプレイヤーからは怨念じみた視線を感じる。
とりあえず早く行こう。流石にこの視線は痛い。
「とりあえず早く外に行くぞ」
「そうね、それじゃあ行きましょうか」
そう言うと雪ノ下は真逆の方向へと歩き始める。
いきなり間違えるなよ。やっぱこいつは一人だと危ないな。
「おい、そっちは逆だ」
指摘するときれいに回れ右をして方向転換をする。
そして何事も無かったかのように歩き始める。
...何かデジャヴだな。
今の光景を見た一色が呟いた。
「雪ノ下先輩って方向音痴だったんですね...」
「一色さん、私は方向音痴ではないわ。今のは比企谷君が気づくか試したのよ」
「はぁ...そうですか」
おいおい、一色にまで呆れられてんじゃねぇか。
とりあえず外に行くか。時間がもったいない。
「じゃあ外に行くか。行くぞ小町、平塚先生も」
「え、我は?」
「あ、忘れてたわ」
「ねぇ、絶対にわざとだよね?わざとだよね」
「......」
すまない材木座、今ナチュラルに忘れてたわ。正直に言ったらこいつの紙メンタルは引き裂かれるから言わないけど。
「よし、じゃあ行くか」
そして俺達は歩き始めた。俺が進むと小町たちもついてくる。材木座もちゃんとついてきた。
「八幡、さっきの沈黙はなんだったんだ!?
◇
「これは......凄いわね...」
雪ノ下は目の前の光景を見て感嘆の声をあげる。他のみんなも同じように驚いている。
まぁ、無理もない。こんな光景、現実には存在しないだろうからな。
一面に広がる草原に、その上を我が物顔で闊歩する青色のイノシシ、この時点でもう有り得ない。それに加えてふりそそぐ日の光や、吹いてくる風の感触や揺れる草花によって、ここが作り出された仮想空間だと云うことを忘れさせる。
「ほんとにすごいですね....とても仮想空間とは思えないです」
一色は空を見て呟く。
それにしても建物の中なのに空が見えるっておかしいよな。
「小町もここまでとは思わなかったです.....この時代に生まれてきてよかった...」
「そうね、私もそう思うわ」
そう言って雪ノ下たちはこの風景を見て感動している。すると、この空気をぶち壊す者が二人、
「我は早くモンスターを狩りたいのだが」
「私も早くモンスターと戦いたいのだが」
そう言って材木座は剣を握り、平塚先生は拳を握る。
この二人ただの戦闘狂にしか見えないな。
って拳!?なんで!?
「いや、平塚先生。何で拳を握ってるんですか」
「何でって...あそこのイノシシの角をへし折るためだが?」
平塚先生はさも当然のように言って、近くのイノシシ型モンスター“フレンジーボア”を指差す。いや、確かに角は折れるけども...
「そういうことじゃなくて、何故に剣を使わないのかと」
「え?拳では攻撃できないのか?」
平塚先生は衝撃を受けたような顔をする。
逆に何で拳で攻撃ができると思ったのか教えてもらいたい。初期装備としてストレージに全種類の武器が支給されてるのに。
「いや、流石に分かりますよね?現実でも拳でイノシシとやりあう奴なんて居ませんよ」
そんなやつがいたらお目にかかりたい。いや、居ないよね?そんな人。
「そうか.....拳はないのか。拳でイノシシをタコ殴りにできると思ったのに」
そう言って平塚先生は落ち込んだような顔をする。な、何か罪悪感がするな.....仕方ない、一応教えておくか。
「そんなに落ち込まないでくださいよ。一応方法は有りますから」
俺がそう言うと平塚先生は俺の両肩を掴んで聞いてくる。
「何!?比企谷、それは本当か!?」
「は、はい本当ですよ。ちゃんと教えますから手を離してください」
「あぁすまない。で、その方法とは?」
そう言って平塚先生は目を爛々と輝かせている。子供か!?この人は!?
「期待しているところ悪いですけど、この階層では無理ですよ。次の階層のクエストで体術スキルを習得すれば拳でも攻撃が当たります。威力は弱いですけど」
そう言えばどんなクエスト何だろうな、たまたま話しかけたNPCがクエストの存在を教えてくれたけど、ベータテストの最後の日に知ったから結局クエストをやる時間がなくて内容までは分からなかったしな。
「そうか...次の階層か...ならばそれまでは剣を使うか」
そう言って平塚先生は渋々といった様子で剣を握った。
はぁ.....初めからそうしてほしい。
ため息をつくと小町が聞いてくる。
「お兄ちゃん、さっきからどんどん人が外に来始めてるけど、場所無くなっちゃうよ?」
「え?まじで?」
そう思って周りを見ると小町の言う通り、見えるだけでも数十人のプレイヤーがいる。思ったよりも人が来るのが早いな。まだサービスが始まって30分も経ってないのにもう街から外に出てくる人がいるとは...。いや、よく見ると知っている姿の人が多いな。元ベータテスター達か。
「マジじゃん。じゃあ早くモンスター狩りに行くか。余り人が増えると良い場所が無くなっちまう」
そう言って俺が動き出すと材木座が聞いてきた。
「八幡、良い場所とは何だ?場所によって差があるのか?」
他のみんなも疑問に思っているようだ。
そうか、こいつら初心者だからこういう狩場の情報とか知らないのか。
「あぁ、モンスターのリポップのインターバルや、地形によって狩りやすさも変わる」
「なに!?ならば早く狩り場に行こうではないか」
「だな。じゃあみんなそろそろ行くぞ」
そうして俺達は狩り場に向かった。しかし、この草原広いな。マジで歩きたくねぇ。
◇
「では、八幡、早速ソードスキルについて教えてもらおうか」
狩り場に着くと早速、材木座が聞いてきた。既に剣を手に持っている。平塚先生も既に手に持っていた。
これは勿体ぶると俺が斬られそうだな。
そう思った俺は早速説明を始める。
「よし、じゃあ今から説明するぞ」
俺がそう言うと全員が耳を傾け始める。
「まずソードスキルを発動させるためにはシステムに自分の動きを認識させる必要があるんだ。スキルごとに必要な動きも変わるからそれは覚えるしかない。システムが動きを認識したら武器が光り始める。後はシステム任せで腕を振り抜けば良い」
「それは説明書でも読んだわ。出来れば実際に見せてほしいのだけど」
「そうだよお兄ちゃん。聞いたり読んだりしただけじゃピンと来ないよ」
一色たちからも同じような事を言われて結局手本を見せることになった。まぁ、元々手本を見せて教えるつもりだったからいいか。
「それじゃあ今から実際にやるからちゃんと見てろよ」
そう言って俺は近くにいたフレンジーボアに狙いを定める。そして挑発するために石ころを投擲スキル“シングルショット”を使って当てる。
「ちょっとまって。比企谷君、今のスキルは何?」
いきなり質問かよ。何かめんどくさくなってきた。
「投擲スキルだよ。通常エリアの敵は攻撃しないと敵対しないからな、一回でも攻撃を当てないといけないんだよ」
俺が説明すると全員が納得したようだ。よし、説明を続けるか。
「まずお前たちには、この“フレンジーボア”っていうモンスターを相手に練習してもらう。こいつは見た目通りに突進しか能がないから攻撃も避けやすいし、威力も低いから死ぬことはまずない」
実際に突進を避けながら説明する。
「ちなみにこいつは某有名RPGで云うところのスライム的な存在だからソードスキルを一発当てるだけで十分にHPも削れる」
そして俺は武器を構える。
「それじゃあ今からソードスキルをやるからちゃんと見てろよ」
俺がそう言うと全員が集中して見始める。
再びフレンジーボアが突進して来るのを見て、俺は剣を背中に背負うような感じに構えた。それと同時に片手剣のソードスキル“ソニックリープ”が発動して、剣が青白い光を纏う。そして突進してきたフレンジーボアをすれ違い様に切り裂いた。
HPバーが一気に無くなりフレンジーボアはポリゴン片になって砕け散り、俺にはドロップアイテムの猪の肉と少量のコルが手に入る。コルは、この世界の通貨の単位だ。
「とまぁ、こんな感じだな。他にも色々と戦闘の技術は有るけど、まずはソードスキルに慣れることだ。これが戦闘の基本になるからな。他のはそれからで良い」
俺がそう言うと全員が頷いて、それぞれが自由に狩りを始めた。
それじゃ俺も少しレベル上げするかな。
◇
あれからしばらくの間、俺達はフレンジーボアを狩り続けた。その間に俺はレベルが5まで上がった。
「ふぅ、一時間やってレベル5か....やっぱり最初はレベルが上がるのが早いな」
レベル10を越えると極端にレベルが上がりづらくなるもんな。
さてと、そろそろみんなの様子を見てみるかな。剣を仕舞って地面に腰をおろす。
まずは平塚先生だな。ちゃんと剣を使っているだろうか...。見ると淡々とフレンジーボアを狩っていた。
無表情で、ただひたすらに。
気のせいかな、フレンジーボアが怯えているように見える......。何にせよ、もうソードスキルは使いこなせているようだ。
雪ノ下の様子を見ようと思ったが、どうやら既に休憩し始めているようだ。だが周りのフレンジーボアの少なさから見て大分狩りには慣れたのだろう。恐らくソードスキルも使いこなせているはずだ。あいつは無駄に高スペックだからな。
次に一色の方を見ようと首を動かすと、ちょうどソードスキルを使った瞬間が目に入る。
おっ、どうやら使いこな...
「くたばれ、イノシシィィーーー!!」
ズバンッ パリーン
....うん。ちゃんとソードスキルは使えてるな。○ねぇ!、って言わなかっただけ良しとしよう。にしても、くたばれなんて、女子中学生が使う言葉じゃねぇよ。
呆れながら一色を見ていると視線に気がついたのかテヘッと舌を出して笑いかけてきた。
いや、さっきの言動がインパクト強すぎてカバーできてねぇから。
思わず心のなかで突っ込むと一色が俺の方に向かって歩いてきた。
「先輩、そろそろ休憩にしません?流石に疲れました」
さっきの様子を見る限り、とても疲れているようには思えないんだが、罵倒されそうだから言わないでおこう。
あれ?俺の周りの女子って俺を罵倒してくるやつしかいなくね?
「そうだな。あれから一時間たってるしな。流石にみんな疲れただろ。雪ノ下はもう休み始めてるしな」
「平塚先生は疲れてなさそうですけどね」
そう言えばあの人、一時間もあの無表情で狩り続けていたのか?.....軽くホラーだな。そりゃフレンジーボアもビビるわけだ。
「まぁ、平塚先生だからな」
「....なんか、納得できちゃいますね。そう言えば先輩、さっき小町ちゃんがモンスターに乗ってたんですけど、あれってどうやるんですか?」
一色の質問に俺は頭に、はてなマークを浮かべる。
は?モンスターに乗ってた?そんな事有るわけ無いだろ。一色の見間違いじゃないのか?
そう思って俺は小町の方に顔を向ける。
「突撃ぃぃーー!」
.......え?
視線の先では小町が、フレンジーボアに乗りながらもう一体のフレンジーボアに斬りかかっている。
.....幻覚か。一度目をつぶってもう一度小町の方を見る。だが、そこに見えるのはフレンジーボアを乗り回す小町の姿だった。
「は?何あれ?」
「え?先輩が教えたんじゃないですか?」
一色の質問に俺は首を振って答える。
まさか....本当にモンスターに乗るなんて....。ベータの時にはモンスターに乗ることなんて出来なかったのに。ビーストテイマーって確か専用のアイテムが必要じゃなかったか?しかもそのドロップ確率は有り得ないだろ!って思わず叫ぶくらい低かったはずなのに。それにもっと小さな使い魔を使役するはずじゃ...。
愕然として小町の方を見ていると俺の視線に気づいたらしく、俺の方に体を向けた。なんか、嫌な予感が....
すると小町はニヤッとして微笑を浮かべて叫んだ。
「お兄ちゃんに向かって突撃ぃーー!」
「は?いや、ちょっ...えっ?」
小町がフレンジーボアに乗ってこっちに迫ってくる。それを見た俺は、慌てて立ち上がって走り出した。そして頭の中で思考をフル回転させる。
え?マジで状況が把握できないんだけど。何あれ?どうなってんの?いや、フレンジーボアに乗ってるだけか。
......それが一番の疑問じゃねぇか!!
一体何なんだあれ!?新要素か!?ライドモンスターとかか!?
後ろを振り向くと小町がチェシャ猫ばりの笑顔を浮かべながら追いかけてくる。
てか、足早くね!?フレンジーボアってあんなに足早かったのかよ!?
このままじゃ轢かれると思った俺は走りながら小町に向かって叫ぶ。
「小町!!頼むから止まってくれ!!色々聞きたいこと有るから!!」
「えー?どうしよっかなー」
小町は考える素振りをしながらも、走る勢いを止めようとはしない。どうやら俺の妹はいつの間にか陽乃さん並のドSになっていたようだ。
「ちょっとマジでストップ!!何でも言うこと聞くから!!」
俺はフレンジーボアが追ってこれないように直角に曲がる。すると、小町はフレンジーボアに曲がるように指示を出した。
ふっ、残念だな小町。フレンジーボアは突進するときは真っ直ぐにしか進めないのだよ。
勝ちを確信した俺は走るのを止めて後ろを見る。すると、少し膨らみながらも曲がって小町が追ってきた。
「曲がれんのかよ!?」
ええい!!小町のフレンジーボアは化け物か!!
まずい、逃げれない。そう思った俺は剣を取り出す。
仕方ない.....斬るか。悪いな小町、そのフレンジーボアが普通の個体と同じ体力なら殺してしまうが、また新しい奴を使ってくれ。
「ちょっとお兄ちゃん!?流石に斬るのはないんじゃない!?」
俺が剣を構えるのを見て小町は慌ててフレンジーボアの動きを止めた。どうやら斬らずにすんだようだ。
「いや、轢こうとしてたやつに言われたくない」
俺は剣をしまって溜め息をつく。色々と説教したい気分だが、今はそれよりも聞くべきことがある。
「なぁ、一体どうやったんだ?」
「え?何を?」
俺の質問に小町は不思議そうに首をかしげる。
そうか、こいつはベータの時の事を知らないから、フレンジーボアに乗れることが異常だということが分からないのか。
「聞き方を変える。どうやってフレンジーボアに乗ったんだ?」
「え?普通に乗っただけだよ?」
いや、普通にって.....
「じゃあ、乗る前に何かやらなかったか?」
「あぁ、そういえば最初に乗ろうとしたときに、ゲージが出てきたから、それが満たされるまで頑張ってしがみついてたよ。そしたら急におとなしくなって言うことを聞くようになったの。って急にどうしたの?そんなに真剣な顔して...」
「いや、ちょっとお兄ちゃんも知らないことかもしれないからな。気になっただけだ」
俺がそう言うと小町は一瞬驚いた顔をして、目を輝かせて逆に俺に質問してきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんも知らないって事はさ、もしかして小町が第一発見者?」
小町に言われて俺は気づく。そうか、ベータテスターの俺が知らなかったって事は小町が第一発見者になるのか。第一層の最初のエリアの事なのにベータテストの最後まで発見されなかったことだ。これは新要素で間違いない。恐らくこの情報はアルゴも知らないだろう。それにしても周りにいるプレイヤーが少なくて良かった。新規参入者はともかく、もし俺以外のベータテスターがこの様子を見てたら間違いなく大騒ぎになっただろう。
「まぁ、そういうことになるな。なぁ小町、他にも聞きたいことが有るんだけど聞いても良いか?」
「うん、もちろん良いよ!」
「じゃあまずはそのフレンジーボアについてなんだが...」
俺が質問をしようとすると、それを遮るように後ろから声をかけられた。
「その話、俺も聞かせてもらっても良いかな?」
「え?」
誰だよ、今俺が質問してる真っ最中だろうが。後ろを振り向いて文句を言ってやろうと口を開いたが、口からでたのは素っ頓狂な声だった。
「え....キリト?」
「久しぶりだな、ハチ」
そう言って目の前の男、キリトは笑った。
この終わりかたってどうなんですかね?
いやー、今回は広場に転移するとこまでやるつもりだったんですが、書いてる最中に思い付いたことを追加してたら6000文字ほどの予定だったのに10000文字越えちゃって(笑)
無理やり途中で切りました。はい。
多分ですが次も同じような長さになるかと....。
小町のはユニークスキルです。ビーストテイマーの強化版みたいな感じです。
では、また次の話で。