サキュバス、バンパイア、デュラハンなどなど……、この世の中には「亜人」と呼ばれる特別な性質を持つ人間がいるらしい。
何を隠そう俺の幼馴染の小鳥遊ひかりもこの「亜人」と呼ばれる特別な性質を持つ人間だったみたいであり、生まれてから15年間ぐらい一緒にいるがこの前初めて知った事実である。
その時ひかりに「亜人」についてドヤ顔でこれ知ってたー? と自分の知識をひけらかそうと思ったが、まさかのひかり自身が件の「亜人」であったため、どうにか機転を利かせて知ったかぶりにならないよう誤魔化した。
危なかった。俺じゃなかったら誤魔化せなかった。まぁ、そのことについてはもう終わったことだからスルーしておいて、だ。
その幼馴染が言うには最近の女子高生や若い子の間ではこの「亜人」のことを
理由はなんとなく。昔からの幼馴染の癖してあだ名というもので俺はひかりのことを呼んだことがない。いつも俺からは「ひかり」とか「おい」とか「おまえ」とでしか呼んでいない。俺はひかりからは「カズ」っていうあだ名的なサムシングで呼ばれているのにだ。
べ、別にあだ名呼びいいなとかなんて思っているわけではない。け、決して思ってなどはいないのである。
というわけで、都合よく今日も今日とて小鳥遊宅でごろごろしているので隣で床に寝そべりながら漫画HELLSINGを読んでいるひかりに対してあだ名で呼んでみようと声をかけた。
「へい、ちゃんデミぃ」
「なんでいカズ」
なんか江戸っ子みたいに返されてしまった。
なぜかそこから二人して「てやんでいべらぼうめえ」言っていたら、ふとした拍子に当初の目的を思い出したのでひかりに説明してみた。
ひかりは、俺の説明にえー、と渋い顔をする。
「デミっていうのは「亜人」を可愛く言っただけで、私たちみたいなのの総称なんだよ。あだ名なんだからさぁ、私の名前をもじってよ」
「なるほど」
確かにひかりの言う通りだ。
あだ名は人の名前や特徴からつけるもんである。名前からか……。えー……、名前ねぇ……。お、これとかどうかな。
「ひかりん」
「センスなっ!?」
心外な。
え、じゃあ、
「ひっかー」
「んー、ない」
「ピカチュウ」
「小学校のころ、クラスの男子に言われたんだけどなんかむかついた」
「ヒカ太郎」
「ペンパイナッポーアッポーペン」
どこからかリンゴとパイナップルとペンは無かったから代わりに箸を取り出し、二人してレッツダンシング。
ひとしきり踊った後、また脱線していることに気づく。なぜすぐ脱線してしまうのだろうか。すぐさま話題を戻した。
「んー、名前もじるの難しかったら特徴的なものはどう? ほら、私バンパイアだし」
「なるほど」
確かにひかりの言う通りだ。彼女はバンパイアの「亜人」。
そういえば、こいつが昔に時たま月一で国から支給される輸血パックを飲んでいた、ということを最近になって知った。
だけど、ここ数年は俺が渡しているトマトジュースでほとんど事足りるらしく、輸血パックは本当に飲みたくなったときしか飲んでいないみたい。しかし、毎日トマトジュースを催促してくるのはどうかと思うが、今はそんなことどうでもいいだろう。
うーん、バンパイアかぁ……。
んー、じゃあ、
「妖怪トマトジュースおばけ」
「それただの悪口じゃん」
ごもっともである。
「にんにく嫌い」
「むしろ好きですが何か?」
「キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード」
「長すぎ却下」
「ロザリオと?」
「バンパイア」
ちゅーるちゅーるちゅるぱーやっぱー♪ いえーいとハイタッチ。
もうわけわかんなくなってきたな、これ。
「ていうか今更あだ名とかいらないでしょ。ひかりでいいよ、ひかりでー。ぷりーずこーるみーひかーり」
「ふぁっきん」
「なんで!?」
手をバタバタさせてぷんすか怒っているひかりを無視し、ピンっとくるあだ名を考えてみるが、やはりこれといってでてこない。
もう面倒くさくなってきたのであだ名なんてやめることに。誰だ、ひかりをあだ名呼びしようとか言ったやつ。
「鏡みて、鏡」
「ひかりしか映っていない。つまりお前が犯人か。ふぁっきん」
「鏡こっち向けるなー!」
たまたま持っていた手鏡をひかりに向けてみたが、絶賛おこなひかりは俺から手鏡を取ろうと飛びかかってきた。
手鏡を巡って攻防戦が繰り広げられる。床をごろごろ、二人してばたばた。
「くらえ、四の地固め」
「痛い痛いッ!」
デストロイヤーばりの四の地固めを決めると、ひかりはギブギブと床を叩いた。
ギブアップ誓言で俺は技を解いた。闘う気がないやつにこれ以上技を掛けない。なぜなら俺は紳士だから。
ぜえぜえ言っているひかりをしり目に手鏡を元の場所に戻した。とそこで、ひかりの目がキュピーンっと光る。
「おりゃあ! 逆襲のチョークスリーパーッ!」
「ばかなッ!?」
やっべ、油断した。
がっちり首を決められるが、意地と意地と意地で絶対に降参しない。俺は武力には屈しないのだ。
最後まで戦うぞ!俺が堕ちるかお前の体力が切れるか勝負だ!
このあと、俺が堕ちる寸前で帰宅してきたこいつの双子の妹である小鳥遊ひまりからの絶対零度の視線に気づくまで、戦いは続くのであった。