亜人ちゃんとカタルシス   作:社畜系ホタテ

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サルウスシス亜人ちゃん

 

 サキュバス、バンパイア、デュランはんなどなど……。この世の中には「亜人」と呼ばれる特別な性質を持つ人間がいるらしい。俺の幼馴染もこの「亜人」だったりする。

 

「あっつーい……。地球温暖化進行しすぎぃ、太陽私に優しくなさすぎぃ……」

 

 季節が変わり夏。バンパイアの「亜人」であるひかりは太陽の日差しに弱かったりするため、毎年この時期になるとはぐれメタル並みに蕩けている。

 今年も変わらず、俺の隣をうへーと項垂れながら気だるそうに歩いていた。

 

 今日は土曜日。暑さを凌ぐため、市民プールに行くことにした俺とひかりは、炎天下の中をえっちらおっちら歩いていた。気分は、オアシスを求めて歩く砂漠の中。

 ちなみにユッキー補完計画は失敗に終わった。さすがにケツから冷房は絵面的にアウト。この夏も電気代を気にせず快適に過ごせないとなると残念でならない。

 

 水着の入れたバッグをぶらぶらと揺らしながら、止めどなく流れる汗に不快感を感じるもこの後の天国のためだと思い、重い足を前へと動かす。俺でこれなのだからひかりはもっときつかろう。

 仕方ないので、俺はトマトジュースをどっからともなく取り出すとひかりへと差し出した。

 

「おっ、さすがカズ。主人への奉仕の精神が身に沁みついてるね」

 

 ひかりは、俺からトマトジュースを取ろうと手を伸ばすが、手がジュースに触れる手前でジュースを引いて取らせないようにする。

 

「ひかり待て」

「おい、私をペット扱いしないでよ!」

「お手」

「わんっ!」

 

 そう言ってトマトジュースを持っていない方の掌に手を置き、ついでとばかりに、へっへっへっへ、と犬のものまねをやり始めた。さすがひかり。ペットの精神が染みついてるようで。

 ひかりの動作に満足した俺は、よしっ、とひかりにトマトジュースを渡した。

 

 貪るようにトマトジュースを飲み干し、「来た来たー! これガンギマリですわー!」とか言ってる幼馴染を見てこいつ大丈夫かと思う今日この頃。

 

 日差しと暑さによる精神的疲労と長々と歩いてるせいで溜まる身体的疲労。そして、今現在進行形で彼女の体に取り込まれているトマトジュースによる幸福感が混ざりあい、とても世間一般的に、見せられないよ、な表情をしていた幼馴染を見てこいつもう駄目だなと思う今日この頃。

 アへ顔ダブルピースとは違った意味でひどい表情だな、これ。

 

 まぁ、しかしそれも仕様がない。だって、彼女はバンパイアの「亜人」なのだ。日差しは天敵で、本当なら炎天下に外に出るのはNGだろう。

 彼女はすぐに日焼けしてしまう。それはそれは渋谷の姫盛りゴージャスガングロギャルに引けを取らないほどの日焼けレベルだ。

 つまり、彼女が一日中外で遊んでいるとテレビ東京あたりでガングロ少女ひかりちゃんが放送開始してしまうのである。OPは多分FLOW。

 

 なので彼女は、夏になるとあまり外で遊ばない。バンパイアの性質を周囲の人に見られて気を使われるのが嫌だから。

 度合いにもよるが、一日家の中でゆっくりしていれば元に戻るらしい。だから、遊ぶとしても今日みたいな土曜日か、夏休みといった長期休みの時だけである。

 遊んだ次の日は、家に籠って日焼けを戻し、一緒に遊んだ友達にばれないように、心配や気を使わせないようにするのである。

 案外なんだかんだで周囲に気を使ってるからなこいつは……。

 

「俺にももっと気を使ってもええんやで?」

「カズに気なんか使ったら終わりですわ」

「なんでやねん」

 

 せやかて工藤。なんで関西弁になってんやろか。

 

「そんなことよりも、もう一本トマトジュースを渡してくれてもええんやで!」

「おかわり」

「わんっ!」

 

 自分からおかわりを所望するペットにトマトジュースをもう一本渡し、俺自身もトマトジュースを飲む。うまうま。

 

 まだまだ道のりも長い。

 

 市民プールまでそんなに距離はないと思っていたが、予想外に遠かったみたいだ。

 自転車でニケツしていけば良かったとちょっぴり反省。

 

「カズ、カズ。タクシー乗ってもええんやで?」

「高校生からそんな贅沢いけません」

「えー、となりの斎藤さんは昨日の帰り、タクシーだったよ」

「よそはよそ。うちはうち」

 

 つーか、それべろんべろんに酔った家の親父ですから。ママンにパイルドライバー決められていたのが印象深かったです。

 思わず、ひかりとともに実況と解説しちゃうぐらい印象深かった。

 

「まぁ、カズもその後ジャーマン決められていたけど」

「マジ理不尽だったでござる」

 

 家のママンは四天王の中でも最強。たぶん魔王も顎で使われるレベル。

 

 そんなこんなでまだまだ歩く。時間も時間で日が一層強くなってきた気がする。

 

 はー、とため息。こんなの性質のことで周りの人に気を使われたくないと言っているひかりにはあまりやりたくなかったけど、仕方ないか。

 そう思いながら俺はどっからともなく日傘を取り出し、ひかりが日陰に隠れるように差した。

 

「そんなことしなくてもいいのに……。どうせ日焼けするんだからさ」

「日焼けを遅らせるに越したことはないだろ」

 

 ぶつぶつと文句を言ってるひかりに、んっ、ととなりのトトロに出てくるカンタ少年並みのツンデレ感で日傘を渡そうとするが、ひかりは頑なに受け取らなかった。そんなことしなくていいという意思表示だろう。

 というか頑固モードに入ってないか、こいつ。

 

 またもやため息をつき、俺は仕方なしにひかりに日傘を差した状態で歩き続ける。

 

「ちょっと。このまま歩くの? 暑苦しいんだけど」

「だったらお前持てよ。それで済む話だろ」

「やーだー」

 

 なら我慢しろ、とそのまま肩と肩がぶつかりそうな距離の隣り合わせのまま市民プールへと向かう俺たちであった。

 

 ちなみに顔が若干熱いのは、やはり夏の日差しのせいだろう。

 

 

 

 


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