亜人ちゃんとカタルシス   作:社畜系ホタテ

11 / 13
スラマッパギ亜人ちゃん

 

 サキュバス、バンパイア、デュランはんなどなど……。この世の中には「亜人」と呼ばれる特別な性質を持つ人間がいるらしい。俺の幼馴染もこの「亜人」に該当する。

 

 そんな幼馴染と今日も今日とて遊ぼうと思い、幼馴染の部屋にまで突貫しに来たのだが、

 

「うーん、……寝ているとか予想外デス」

 

 彼女はベッドに横になってグースカプースカ。スプラピスプラパ、ドレミファ・どーなっつッ!にこにこぷんってな具合に寝ていた。

 

「じゃじゃまる、ぴっころー」

「……ぽーろり」

 

 ……本当に寝てんのかこいつ。ちょっと寝たふりしているんじゃないかと不安になったので、ひかりの顔にティッシュを置いてみることに。すると、ティッシュは、中心が上下するだけで、あとはひかりと共に微動だにせず。

 ……これは寝ていると判断し、ティッシュをどかす。しかし、まだ多少なりとも不安であったため、次は濡れたタオルでもセットしようかと思った。

 

「……すー……すー……」

「……気持ちよさそうに寝ているし、やめたろ」

 

 安らかに眠っているひかりを見て、持っている濡れタオルをひかりの顔ではなくハンガーに吊るす。

 しっかし、こいつめっちゃ気持ちよさそうに寝てやがるな。なんだか非常に腹ただしいです。カズは激怒した。むしろ激おこぷんぷん丸を超えたヴォルケーノにまで届きそうな勢い。

 

 とにかくむかついたので、何か悪戯でもしようかと思います。寝ている人に悪戯、と考えると何を思い浮かべるだろうか。

 例えば鼻をつまんだり、突っついたり、寝顔を撮影したり、くすぐったりなどなど……。

 寝ている相手の鼻にオオクワガタを挟んだり、全裸に剥いたり、手錠や拘束具で動けないようにしたりといろいろな案がでてくるだろう。

 

 まぁ、俺は定番のもので行かせていただく。とりあえず、定番の中の定番。落書きというものだ。

 相手が男ならその自慢のマグナムに向かって矢印を向けたうえに性剣エクスカリバーと書いてやるのもいいだろうが、相手は女。

 幼馴染という属性なだけあって、なにやっても多少なりとも許されるのではないかとは思うが、ひかりを怒らせると結構怖い。ひまりに引けを取らない怖さに昇格するので、あまり怒らなそうな程度のレベルでいこう。

 

 自重、自重と心で唱える。よし、落ち着いた。今の俺は、そう。ひかりが怒らない程度の能力を持っている。幻想郷はどこだ。

 

 ひかりに何の落書きをしようかなー、と思っていると何故か俺の手にはメイクセットが。ふむ、なるほど。やる事は決まった。

 

 ここからは俺の芸術。俺は集中するため、いったん大きく息を吸い、そして深く深く吐いた。

 精神統一。無我の境地。天衣無縫の極み。つまり、テニヌ。いや全く関係ないけど。

 さて、と。準備ができた。無駄に洗礼された無駄のない無駄の技術を全駆使して、ひかりを起こさずに、ひかりの顔に落書きをしよう。

 

 タイトルをつけるのなら、そう

 

 

 

 

 —————バカ殿様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、真っ白に白塗りされ、どこへ出しても失礼のないバカ殿様へと姿を変えたひかりがそこにッ!

 

「……ッ」バンバンバン

 

 あまりのクオリティの高さに爆笑してしまった。声を出すのを我慢するため、座布団を叩いてなんとか我慢する。腹筋つりそう。

 というかこいつよく起きなかったな。時々何度か、カズ……、なんて呟くからギョッとしたが、ただの寝言だったみたいなので、すぐさま作業に取り掛かったから短い時間で作業は終了した。

 低時間で高クオリティ。我ながら自分の才能が怖くなったわ。

 

 ふー、と息を吐き、なんとか笑いの波を抑えてもう一度ひかりを見る。

 

「……ッ」バンバンバン

 

 駄目だった。何回か、ひかりを見る、爆笑する、を繰り返し、ようやくバカ殿様(ひかり)を見るのに馴れたところで何か物足りないことに気づく。

 

「……おっと、ちょんまげないじゃん」

 

 俺としたことが不覚を取ってしまった。殿様といったらちょんまげだろ。ちょんまげの無い殿様とか威厳とか偉大感とか皆無だわ。

 やれやれ、とちょんまげを作ろうと思ったところで、あれっ? と気づく。確かちょんまげって前頭部から頭頂部の頭髪を抜くか剃らないといけなかったよな。

 

 ひかりにそんなことしたらと、ちょっと想像してみるとすごくげんなりした。SUN値チェックでファンブルしていたのかもしれない。危なかった。一時的狂気には陥っていないということは、まだ俺のSUN値は大丈夫なのだろう。

 

「……ちょんまげを結う代わりにこのしゃもじ付けとけばいいか」

 

 適当に袖から出てきた黒色のしゃもじをひかりの頭にセットする。

 

「……ッ」ババババッバッババッ!

 

 あかん、酸欠になる。あまりの面白さに高橋名人ばりの連打を座布団にしてしまった。

 結構大きな音を出してしまったんじゃないかと思い、ちらりとひかりを見る。あぶねー、まだ寝てるな。俺の技術の結果、芸術ばりの面白さに至ったひかりは、……すーすー、と寝息を立てていた。

 

 俺は、この芸術を誰かに伝えようと思い、写メを激写し、ひまり宛てに送信。

 

 ぽろん、神速の返信が返ってきた。

 はえーな、あいつ。

 

 ……えーっと、なになに……、図書室で声出して笑っちゃったじゃん? 怒り吸血鬼のスタンプまでつけちゃって、なんともまぁ。

 

 すんまそん。

 もういいよ。というかそれお姉ちゃん怒るよ。

 このまま放置して帰るんで。

 鬼か。

 

 なんてやり取りをひまりとしていると。

 

「……うーっ…ん」

「あ、やっべ」

 

 ひかりが目を覚ましてしまった。逃げ遅れた。ひかりは、寝ぼけているのか俺をじーっと見つめてきた。駄目だ、笑うな俺。

 

「……どったの? ここ私の部屋だよ」

「あ、遊びに来たけどひかりが気持ちよく寝てるから」

「私の寝顔見てたの?」

「……暇つぶしてた」

 

 笑いに耐えきれなくなりそうになり、ひかりから顔を反らす。

 なんだ、こいつ。バカ殿顔で穏やかに微笑んでるんじゃねーよ。頬の筋肉と腹筋がダブルでつりそうなんだけど。やばいここから逃げなきゃ。

 

 俺はそう思い、忍者が印を結ぶポーズを取り、

 

「ど、ドロン」

 

 一心不乱にひかりの部屋から退却した。これは戦略的撤退なのである。そして、自分の部屋に戻るや否や大爆笑する俺なのであった。

 

 ちなみに、あとでひかりにめっさ怒られました。俺のひかりを怒らさない程度の能力が発動しなかったみたいだ。俺の幻想郷入りはまだまだ遠いらしい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。