亜人ちゃんとカタルシス   作:社畜系ホタテ

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初めまして亜人ちゃん

 

  この世の中には「亜人」と呼ばれる特別な性質を持つ人間がいることを、俺、斎藤和樹(サイトウ カズキ)は最近知った。

 

 サキュバス、バンパイア、デュラハンなどなど、神話やおとぎ話のモチーフになっているほとんどがこの「亜人」という人々みたい。

 

 かつては迫害の歴史もあったらしいのだが、近年では差別もなくなって個性として認められるようになり、日常生活に不利な点を持つ亜人に対する生活保障制度も存在するらしい。

 

 らしいばっかりで申し訳ないが、俺もさっき授業で知ったばかりなんだ。あとなんかスタンドみたいなものをだせるらしい。

 

 亜人について興味がでたのでネットで調べたら「亜人」という漫画にのっていた。かっこいい。

 

 もしかしたら俺の学校にも「亜人」がいるかもしれない。

 この平和な高校生活の裏でもしかしたら奇妙な冒険が繰り広げられていると考えるとドキがムネムネするのは俺が男の子だからだろうか。

 

 この尋常ではない俺の熱いパトスを小さいころから常に一緒にいる、いわば幼馴染に伝えるべく学校から直帰せずに幼馴染の家へ突撃。

 

 幼馴染の家は、俺の家の隣。生まれた後のベッドも隣だった俺たちはずっとお隣さんである。ちなみに家族ぐるみでのお付き合い。

 ということで勝手知ったるはなんとやら。無断で家を入り、居間で寛ぐ幼馴染を見つけた。

 

 俺は、件の少女を発見するや否やドヤ顔全開で、

 

「ひかりひかり。亜人って知ってる?」

「知ってるも何も私亜人だし」

「あっ、はい」

 

 どうやら俺の幼馴染はスタンド使いだったようです。

 

 

 

 

 幼馴染がスタンド使いだということが判明した。衝撃的な事実。由々しき事態だ。情報処理部かな。

 

 小鳥遊ひかり。小説や漫画やアニメとかでしか聞いたことがない珍しい苗字を持つ俺の幼馴染。別に小さいのが好きだったりファミレスでアルバイトなんてものはやっていない。

 

 レバーやトマトジュースをこよなく愛し、恋愛知識は豊富だが恋愛経験は一切なしというちょっとかわいそうな女子高生である。

 それに加え、スタンド使いという新たな特性が発覚した。これは戦慄せざるを得ない。

 

「えー、カズ、もしかして知らなかったの? 私たち物心つくまえからの幼馴染なのに」

「は、はぁ!? し、ししし知ってたし」

「いやなんでそんな動揺してんの。相変わらずわかりやす」

 

 失敬な。顔に出やすいタイプなだけです。

 

 じゃあ、あたしはなんの「亜人」でしょーか、と尋ねてくるひかりに俺は内心で唸る。ぶっちゃけ心当たりがつかん。

 

 いや冷静になるんだ俺。昔からずっと隣にいたんだ。それなりにヒント的なやつが普段の生活に出ているはずだ。

 よく考えろ特徴とか長所とか短所とか。心は熱く、頭はクールだ。心が熱い意味は特にない。

 

 うーん。ひかりの特徴か。寝坊助でずぼらで、たまによく俺の腕を噛みついてきたり、直射日光に弱かったり、蘭ねぇちゃんの髪型並みにとんがっている八重歯とか…………はっ!?

 

「わかった。妖怪ガジガジ的な亜人だろ」

「いや意味わからんし」

 

 なに言ってんのこいつって目で見られた。

 解せぬ。

 

「じゃあなんだよお前。よくすんじゃんガジガジ」

 

 いやするけど、と恥ずかしそうに呟いた後、咳ばらいを一つ。間を取るための動作をし、改めて俺の方を見る。

 

「私はバンパイアの亜人だよ」

 

 バンパイア、ということは吸血鬼か。

 おー、なるほど。

 

「つまりは、あれか。お前は俺が知らない間に石仮面を被ったということだな。カーズ様はどこだ」

「いや違う。そうじゃない」

 

 ジト目で見られた。ひかりの顔から察するにどうやら石仮面は関係ないみたいだ。柱の男に会いたかったとです。

 

「じゃあ、ザ・ワールドは?」

「使えないよ」

「ゴールドエクスペリエンスは?」

「それも使えない」

 

 じゃあなんだったらできるんですかね。

 

「……なんか勘違いしているみたいだから言っておくけど「亜人」ってスタンド使いじゃないからね」

「なん……だと……」

「一護みたいに驚かれてもなぁ」

 

 奇妙な冒険うんぬんは一日だけの夢へと消えた。人間賛歌なんてなかったんや。悲しい。非情に悲しい。

 

「俺の純情な思いを返せ」

「そんな君のために私がスタイリッシュポーズを決めてあげよう。なんかでるかも」

 

 ひかりは、バーンっと効果音が出そうなポーズをとる。ついでに俺もとってみた。

 

「バーンッ」

「口で言ってみてもなんにも起きないね」

「悲しいです」

 

 悲しさあまりに二人でバーンッともう一回呟く。

  やはりなにも起きない。

 

「かずきは めのまえが まっくらになった」

「じゃあ財布からおこずかいもらうよ」

 

 さすがにお金は取られたくなかったので仕方なく懐から非常時のためのトマトジュースをひかりにへと献上した。

 

 

 トマトジュースを見た瞬間ひかりの目がキラキラする。そして、俺からトマトジュースを奪い、一瞬のうちに飲み干した後に、懐から小判を取り出した。

 

「おまもりこばん」

「なんで小判をもっているのか小一時間問いただしたい件について」

「さっきニャースにもらったの……にゃーんてにゃー」

 

 …………。

 

「ごめん今のなしー! 謝るからそんな目であたしを見ないでぇ!」

 

 いや、いい年した女子高生がニャースのものまねなんて……、しかも、ポージング付きでのりのりと……。

 ひかりは、途中で俺の視線に気づいたからか、頬を赤く染めて両手でバッテン作り、ごめんごめんと連呼する。

 

「ん? 今なんでもするっていったよね」

「いや言ってないし」

 

 急に真顔になるのはやめてくんさい。仕方がないから予備のトマトジュースも加えて献上。ストックが煩悩ぐらいになったが、まだまだ数は大丈夫だろう。

 

 ひかりとチューチュートマトジュースを飲みながらまったりと過ごす。まったりしすぎて日が落ちる時間帯になった。

 そろそろ帰ろうかなと思ったところ、居間にいたひかり父が夕飯を食べていけばいいというものだからお言葉に甘えることに。家族ぐるみの付き合いの特権ですね。

 

「ていうか、カズは私が「亜人」だって知らなかったんだね」

「知ってたし。知りすぎて吐き気を催しているし」

「意味わかんない」

 

 ひかりに苦笑いされた。

 大丈夫、俺も意味わからないから。

 

「どうどう? 私が普通の人と違うってわかってどう思った?」

「へーって思った」

 

 俺の返答が意外だったのか、きょとんとした表情の後、ひかりは、それだけ? と聞いてくる。

 

「いやだって、普通の人とかわらんじゃん。スタンド使えないし」

「スタンドに重点置きすぎだよね」

 

 また苦笑いされた。しかし、これについては譲れないものがあるので無理なんです。

 

 俺は、それに、と続ける。

 

「それに、ひかりはひかりだし。ぶっちゃけ「亜人」でも人間でもどっちでもいいわ。……なんよ、そのアホ面」

「え、えっ? えへへー。な、なんでもない。そっかー、ふーん。……えへへ」

 

 形容できないほどの何とも言えない気持ち悪い顔をしたかと思うと照れたように笑みをこぼしたひかりはゴホンッと咳ばらいをした後、

 

「ついでに言っておくけど今どきは「亜人」って言わないからね。可愛くないから」

 

 可愛い、可愛くないの問題か。

 教科書みたい? 確かにそう言われればそうだな。

 

 

「だからね、女子高生とか若い子の間では————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————亜人(デミ)って言うの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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