魔導士達の英雄譚   作:鈴木龍

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第三話です。
(問題)第二魔導分隊でトーナメント戦をやった時、最も強いのは誰でしょう。


龍司

第二魔導分隊全員が揃ったところで、俺の実力を図るために、演習場を借りて、訓練をすることになった。

借りた演習場は屋外にあり、普段は機甲科の戦車隊が訓練に使っている場所だ。

しかし、今日は休日ということもあり、今この場に戦車の姿はなく、いるのは俺を含めた第二魔導分隊の四名だけだ。

「…さて、お前の力を見せてもらおうか、龍司。」

京介の声が先程より一段と鋭くなり、俺に向ける視線は鷹のごとく研ぎ澄まされている。

京介の傍に控えている桜火と紺からの視線も、さっきまでのおちゃらけたものではなく、真剣なものになっている。

「ああ。そこでじっくり見ててくれ。」

そんな視線に押されないように、あえて大きな態度で応じる。

「それで、戦車用の訓練場に来てまで何をするの?」

紺が、不思議そうに俺に聞いてくる。

そう、言わずもがな、ここは普段は戦車が砲撃訓練などで使っている場所であり、分類上では歩兵という扱いになっている俺たちには縁のない場所である。

「まあ、俺の最大火力を見てもらおうと思ってな。」

そう言って、俺はローブの中に仕込んでいた鉄片を自分の前にぶちまける。

腹ばいになり、ローブの中にあった掌大の大きさの台形の形をした鉄片を手に取る。

それは、目の前に広がっている鉄片の三倍ほどの大きさがあった。

「これより、あそこにある戦車の模型を破壊する。」

そう宣言すると、三人から驚嘆の声が上がる。

破壊すると宣言したのは、千メートル程先にある戦車の模型だ。

その戦車の模型は、戦車が砲撃訓練に使うもので、実物大で、戦車よりも強固な金属でできているものだ。

そのため、戦車の砲撃が直撃しても、無事なことが多い。

「ほう…楽しみだな。」

「うちの分隊にもついに火力持ちが…」

「あの戦車模型を破壊するほどの力…」

三者三様の感想を見に受けながら、攻撃に移るための最後の準備を始める。

先程手にした大きい鉄片に魔力を流して、長距離狙撃用の狙撃銃(スナイパーライフル)を思い描く。

すると、鉄片の先に細かい鉄片が集まり始め、細長い形を形作っていく。

集まってきた鉄片には俺の魔力が通っている証として、緑色の細い線が血管のように伸びていき、明るく光っている。

そして、緑色の線が輝く、一丁の狙撃銃が形を表した。

「さあさあ、これが俺の得物、俺特製のスナイパーライフルだ。普段はあまり使わないが、今日はこいつの威力をお見せしよう。」

高らかに言い放って、ローブの中に入れてあった弾丸を三つ取り出す。

まず一つ目に、銃のように青く細く光る線を纏った細長い弾丸を銃に込め、射出。

その弾は重力や風の抵抗を物ともしないようにまっすぐに進んでいき、戦車の模型に着弾する。

しかし、着弾した先では、戦車の模型が壊れた様子はない。

そして、続く第二射をすぐに発砲する準備をする。

今度取り出したのは、同じく緑色に光る線が迸る細長い銃弾で、それを先程と同じように戦車の模型に射出する。

しかし、その弾丸も戦車の模型に命中したが、壊れた様子はない。

「これで仕上げだ。こいつを打ち込めば、あの模型は粉微塵に壊れる。」

格好付けて最後の弾を指で弾き、落下してきた弾丸の後部を指で押し、装填する。

最後に装填された赤く輝く弾丸は、空中に赤い軌跡を残して模型へと飛翔していき、着弾、そして 、目を焼くほどの激しい光を起こして、爆発する。

三秒ほど遅れて爆音が俺たちの元へと届き、その後に爆風がやってきて、俺の傍に立っていた三人のローブをはためかせる。

爆発によって巻き起された砂埃が晴れた頃には、そこにあったはずの戦車の模型は跡形も無くなっていた…

 

「とまあ、俺の出せる最大火力はこんなところだ。普段は準備に時間がかかるから使わないが、やろうと思えばこんなこともできる。」

使っていた銃を解体(バラ)し、ただの鉄片と変わらぬ物が地面に散らばったところで、傍に立っていた三人に声をかける。

「なかなかやるな…まさか本当に模型を爆破できるとは思わなかったぞ。」

京介が言葉少なに驚嘆する。

「ねえねえ、なんで三発撃ないといけなかったの?」

「あ、私もそれ気になる。」

紺と桜火が興味深げに俺に聞いてくる。

「ああ、それはな、最初の二発は準備のためだけに撃ってたんだ。最初の一発には圧縮した液体の水素を中に封じてあって、着弾と共に圧縮された物が解放されるようになっていたんだ。」

言いながら、最初に使った青く輝く弾丸をローブから取り出して見せながら言う。

「二発目は、魔障石(ましょうせき)粉末が圧縮されて入っていたんだ。魔障石は、魔力の回復だけでなく、魔術の反応を高める役割があるからな。」

魔障石とは、通常は魔力の回復などに使われる鉱石なのだが、魔力の循環を早め、魔術の効果を高める役割も持っているのだ。

「最後に撃ったのは、着弾と同時に爆発魔術が発動するように付呪(エンチャント)してあるんだ。後は魔障石の粉末と、液体水素が爆発の威力を一気に引き上げてくれるってことだ。」

先程使った三発の弾丸と同じ物を指に挟み、説明する。

それを聞いた三人は、驚き半分、悔しさ半分といった感じであった。

「へぇー…ところで、エンチャントってなんなの?」

紺が不思議そうに尋ねてくる。

「エンチャントっていうのは、発動条件と発動する魔術を設定して物に呪いをかけて、その条件が満たされた時に、設定した魔術が発動するようにしておくことなんだ。」

鼻を高くして説明する。なぜなら、これは俺が独自に開発した技術だからだ。紺が知らなかったのも無理はない。

「そういえば、龍司くんは『普段はこれを使わない』って言ってたけど、普段はどうやって戦ってるの?」

そうだ。俺が今披露したのは、あくまで俺の最大火力にすぎない。

普段は、別の戦い方をしているのだ。

「ああ、普段はな…」

そう言って、足元に転がっていた大きめの鉄片と、ローブの中にあるもう一つの大きな鉄片を両手に一つづつ持つ。

先程と同じ要領で、しかし今度は大きな狙撃銃ではなく小さな拳銃をイメージする。

すると、やはり鉄片に鉄片が磁石のように集まり始め、赤く輝く細い線が走っている二丁の拳銃が俺の両手に表れた。

「この二丁拳銃で戦ってる。」

両手に現れた二丁の拳銃をくるくると回しながら言う。

そして、何回か回したところで拳銃を解体し、また鉄片に戻した。

「他にも、ナイフとか剣とか、俺が構造を理解しているものならこの鉄片から作れるぞ。」

最後に、自慢を入れて話を区切ると、京介から拍手が上がる。

「素晴らしいな。思っていた以上だ。エンチャントか…俺には思いつきもしないことだな…ぜひ、手合わせ願いたい。」

しかし、京介は、賛辞だけでなく、挑戦状を叩きつけてきた。

「ああ。望むところだ。俺としても、一度お前とやりあってみたかった。」

そうして、俺と京介の決闘が始まった。

 

「ルールは簡単だ。俺はお前の首や腹など、急所に俺の獲物を当てれば勝ち。お前は、一発でも銃弾が当たれば勝ちだ。」

「おいおい京介、そんなに俺が有利なルールにしていいのかよ?負けても言い訳はなしだぜ?」

随分なめられたルールだ。

アイツは、俺をかなり過小評価しているらしい。

「構わん。お前の攻撃は俺に通らない特に銃弾はな。」

「そう言ってられんのも今のうちだぞ。」

絶対に吠え面かかしてやる。

そう思ったところで、紺から決闘開始の合図がかかる。

「それじゃあ…はじめっ!」

桜火と紺が見届ける中、俺と京介の決闘が始まる。

京介は刃を潰した短剣を二本構えて俺の正面から突っ込んでくる。

対して俺は、すでに作成済みの拳銃を二丁構え、右手に持っていた銃で京介の足元を狙い、発射。

赤い軌跡を伴ったその弾丸は京介の足元へ狙い過たれることなく飛翔するが、ありえないことにその軌道を横へと大きく変えた。

「なんだと…ッ!?」

突然の出来事に困惑する中、京介は構わずに接近する。

その速度は人間の限界を超えたスピードであり、決闘開始時には百メートルほどあった間合いは、わずか二秒ほどで、体五つ分までに縮まっていた。

京介の言っていたように、銃弾は効かないと察し、半歩後ろに飛び去りながら、右手の銃で自分の足元の地面を撃ち抜く。

足元に着弾した弾丸は激しい光を伴って爆発を起こす。

爆発によって起こった爆風によって俺の体は後方へ吹っ飛ばされるが、その分京介との距離は開く。

が、そう思ったのも束の間、俺が吹っ飛ばされるよりも京介が肉薄してくる速度の方が速く、距離は開かない。

(こいつのこの速さは一体なんなんだ…?〕

思考が加速していく。

京介の異常な突進速度、そして、急に軌道を変えた弾丸。

この二つ謎が無関係だとは到底思えない。

(魔力での身体能力強化か?だがそうすると、弾丸が軌道を変える理由がわからない…)

そんなことを考えている間にも、京介の刃が己を切り裂かんと迫ってくる。

刃が潰されてるとは知っていながらも、彼の気迫と、刃の伴う強烈な風圧に死を幻視せざるを得ない。

そして、右と左、それぞれの頭の上から振り下ろされる二つの刃は、十字を描くように、俺に殺到する。

それを、後ろに飛んでは躱せないと感じ、右足を後ろに蹴り出し、前へと飛んだ。

(これで頭突きを食らわせて、その後に銃を突きつけてやる!)

半ば勝利を確信しながら、前へと飛び出すと、なぜか、体が京介の右側へと吹っ飛んで行った。

だが京介は、そんな俺を見て、その足を止める。

「ほう…躱せないと見るや否や、前に突っ込んでくるか。いい判断だ…そして、今の一合で、俺の力の正体が分かったろう。」

こちらを向いてゆっくりと話す京介は、なんとも嬉しそうだ。

「ああ。十分に理解できた。文字通り身に染みてな。」

受け身をとって衝撃を殺しはしたが、殺しきれなかった衝撃にやられた左腕を抑えながら、強がって笑ってみせる。

「京介。お前は、風を身に纏って、その風圧で加速し、銃弾を受け流しているんだな?」

出した結論を告げると、京介はその口元に不敵な笑みを浮かべ、もう一度俺に向かって走り出す。

その笑顔が、何よりも雄弁に肯定を物語っていた。

「だが龍司。俺のカラクリが分かったところで、お前に何ができる?」

京介は、走りながら、おれに問いかけてくる。

その顔は、一切の負けを感じない、自分の勝利を信じている顔だった。

「じゃあ、俺も一つ特技を見せてやるよ。」

そう言うと、持っていた二丁の拳銃を瞬時に解体し、新しく一本の杖のようなものを形作る。

「ほう?それで何ができるかやってみろ!」

すでにあと十歩程の距離までに迫っていた京介が叫ぶ。

だが、俺はあくまで冷静に、落ち着いて杖の先端を地面に突き刺す。

突き刺された杖を中心にして、円形状に光る文様が浮かび上がる。

そして、勢いを殺しきれずに突っ込んできた京介が光の中に飛び込むと、その体を地面から生えてきた土の腕が掴んだ。

そして、その勢いが完全に止まる。

「なッ!?…これは!?」

そうだ。この顔だ。こいつのこんな困った顔が見たかった。

土の腕に絡め取られて動きを封じられた京介は、ただただ抜け出そうともがくばかりだ。

「どうする?京介。まだ続けるか?」

杖を地面から引き抜き、悠然と歩み寄りながら京介に尋ねる。

「ああ、もちろんだ。まだ勝負はついていないからな…!」

だが、京介は動きを封じられており、すでに戦闘ができる状態ではない。

たとえ風を纏っていようとも、この杖のように重いものであれば、京介に届くだろう。

「そうか。だったら、この杖でお前の頭を殴る。それで俺の勝ちだ…いいな?」

そして、杖を手にして歩み寄り、京介の目の前まで行く。

杖を振り上げ、頭めがけて振り下ろした時、

「最後の詰めが甘いぞ、龍司。」

京介は先程までの狼狽した様子ではなく、落ち着いた声で俺に向かって話した。

腹部に違和感があり、カラン、と甲高い音を立てて何かが地面に落ちたので、それを目で追ってみると、そこには京介が使っていた刃の潰れた短剣が落ちていた。

それが一体なんなのか理解できないでいると、紺から、龍司の負けー、という声が聞こえてきた。

「…え、どうなってんの…?」

だが、理解できない様子の俺に、京介はことの顛末を説明してくる。

「俺は手に持っていた短剣を、風に乗せてお前の腹にぶつけただけだ。あれが本物ならお前は死んでいたぞ。」

決闘が終了したことで、俺と京介の元へ駆け寄ってきた紺に、あそこでカッコつけなきゃ勝ってたかもしれないのにね、と言われ、桜火にまで、最後はちょっとあほらしかったね、フォローしてるのかバカにしてるのか分からないことを言われ、俺と京介の決闘は幕を下ろした。




初めての戦闘描写で疲れました。
書き終わってから、京介は一回しか刃を振るっていないことに気が付いたり。
(解答)京介ではありません。今後をお楽しみに。

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