私には二人の大好きな人がいる。
園城寺怜と須賀京太郎。
怜は傍から見たらちょっと変な子だったけど私が教えると小さなころから麻雀という遊びに没頭した。そして、高校であるきっかけを得て全国区でもその名をとどろかすようになる。
そんな怜に時々つき合わされ、気が付けばそれなりの力を身に着けてしまっていたのが京太郎君。一つ年下やけど小学校のレクリエーション大会で仲良くなった男の子。小学校、中学校と一緒に遊んでいた彼は打ち込んでいたスポーツをやめて高校から真剣に麻雀に打ち込むことにして今は麻雀の名門、姫松高校に通っている。
彼に好意を寄せるようになったのはいつからだったろうか。小学校の頃に上級生から庇ってくれた時か。中学でエースとして活躍する姿を見たときか。曖昧になるほどたくさん京太郎君の姿にときめいていた。
向こうで一人暮らしを始めてしまったのと私たちも麻雀部の練習でなかなか会いに行くことが出来ない日々が続いて寂しかったけど、そんなのとはもうおさらばや!
やっと久しぶりに休日が重なって会う約束ができた。
久々の三人や! 楽しむで!
そう思っていた。……はずなんやけどなぁ。
二年の夏も終わってあっという間に到来した冬休み。麻雀に関する大会は春期までもう無く、部を引っ張る立場となったうちらにとって嬉しい休息期間。
クリスマス、大みそか、正月と目白押しのイベントを終えて、そんな安息も残りわずかに迫りつつある時。あいつらの脳内思考はぶっ飛んでいた。
毎日寝ない勢いで楽しんでやろう(なお、一日で轟沈)ということで宿題をほったらかしていたためにいつものメンバーが我が家に集まっている。
本日が冬休み最後の日。お母さんに頼んだら意味ありげに笑ってお父さんと外泊してくるとか言うてた。
こ、これはつまり親公認ということ。つまり、今日は最大のチャンスなんや。
だから、攻める。いつも麻雀打つときみたいに押せ押せでいくで!
「なに燃えてるんだ、竜華」
「ううん、別に。京太郎はもう宿題終わってんねんな?」
「まぁな。竜華たちと遊びたかったから早めにやっておいたから」
「京太郎……!」
嬉しいなぁ、そんなこと言うてくれるなんて……。それに比べてこっちと来たら……。
「……竜華の冷たい視線を感じる」
「宿題やってない怜が悪いんやろー」
来客用の大きなテーブルにだらんとほっぺを乗せているのが怜。
やるときは出来る子やねんけど昔からの病弱体質のせいか自分にだらしないところが多い幼馴染。
……まぁ、そのたびに甘やかしてきたうちも悪いんやけどな。
来客室にはテーブルが2セットあってひとつを囲っているのが優秀組。しっかりと計画を立てて、残りを謳歌している者たちだ。
「いやー、今日は呼んでもらってごめんな。オレも全くやってなくてなー」
「いやいや、仲間が増えるのはこっちとしても助かるわー」
「あんたが助かってどうすんねん。さっさと終わらし」
「……って言ってもなぁ」
うちの言葉に怜はチラと隣でウガーと頭をかきむしる同級生と後輩を見た。
「ト、トラヤヌス? アントニヌス? 五賢帝? マルクス=アウレリウス……」
「接弦? 定理? ベクトル? 数列?」
次いで置かれている文字と数式で埋め尽くされた参考書に目を向ける。
「あかん……一巡先を読んでも証明が出来てへん……」
死屍累々だった。ツンツン頭、ショートボブたちが机に突っ伏している。
「ほらほら、倒れてる場合じゃありませんよー。これはあと10分で終わらせてくださいね」
「ほら、怜。しっかりしろよ」
対面に座るは鬼軍曹のフナQ。瀕死状態の三人に容赦なく鞭を振るう。これを朝の9時から続けてもう昼時。集中力も完全に切れ、みんなだらけていた。
「あはは……」
あまりにも当初の予定とはかけ離れた図に乾いた笑いを浮かべる。
セーラたちに情報を流した怜はお仕置きでしばらく膝枕禁止にしたる!
そう心の中で決意したところに流石に可哀想になってきたのかフナQが呆れた笑みを浮かべながらも助け船を出してきた。
「……どないします? いったん、休憩挟んでご飯にしますか?」
「……どうする、京太郎?」
「……俺もちょうどお腹減ってたし。二人がそう言うなら昼飯にするか」
「よっしゃー!!」
「飯じゃあぁ!!」
「京ちゃん、最高! 竜華、アイシテルでー!!」
跳びあがって喜ぶ三人組に呆れる教師役二人はため息を吐いた。『まぁまぁ』となだめ、用意していたそれぞれの鉄板プレートの蓋を外す。このキャンパスに美味しいお好み焼きを描くのだ。
そこでうちが美味い料理を出せば京太郎もメロメロになってくれるはず!
お母さんもまずは男を掴むなら胃袋からってアドバイスしてくれたしな! 間違いない!
そうと決まれば早速行動に移すで!
「じゃあ、うちは材料取ってくるから」
「竜華は座っとき。準備なら私がするわ。なんかこのままじゃ悪いしな」
「なら、俺も」
「アホ。女の子一人にさせるつもりか。あんたは残っとき。フナQ手伝って」
「仕方ないか。わかりました」
「それならオレも行くで」
「じゃ、じゃあ、うちも!」
「よっしゃ、私についてこい。竜華の家は知り尽くしてるからなー」
そう言うと怜筆頭にお手伝い部隊はリビングへと向かってしまう。となれば部屋におるのはうちと京太郎君だけで……。
ひ、ひゃー……!
「取りつく島もねぇな。手伝わなくていいなら、それはそれで楽だけど。なぁ、竜華」
「そ、そやな! うちらもゆっくりしておこうか!」
口ではこんなこと言えてるけど心臓は高速でバクバク鳴っている。材料は一切下ごしらえをしていないから少なくとも20分はみんなは帰って来ないやろ。
自分が想いを寄せる相手がフリーになったんや。さっきまではライバルがいたかもしれへんけど、今は止める者はいない。となれば、そろそろ攻めに転じてもいいはず。
ここは一丁、勝負に出るか!
「……? 俺の顔に何かついてるか?」
「ううん、なんでもないよ? それより京太郎君。よかったらやねんけど……」
「俺が竜華のお願いを断るかよ」
「ほんまに? それやったらな?」
うちはそこまで言うと浮かしていた腰を落として正座し、怜曰く魅力がたくさん詰まった健康的な太ももをポンポンと叩いた。
「膝枕、してみいひん?」
うちの最大にして最強の武器。膝枕。これの威力は毎日の怜で実証済みや。万が一、不快に思われることはない。それに太ももの上に頭を乗せたらもう至近距離。若い男女が二人きりで間違いが起きひんはずがないもんな!
加減なんかしない。初めから切り札切ったる!
「えっと……いいのか? そう……簡単にしてもいいものじゃないんじゃ」
「誰にだってはせえへんよ? こんな恥ずかしいのは……京太郎君だけや」
「そ、そうか」
あー、恥ずかしい……! けど、京太郎君も目逸らしてるし少しはうちのこと意識してるってことやんな……? それやったら嬉しいなぁ。
「……本当にいいんだな?」
「おいでおいで」
「じゃ、じゃあ遠慮なく……」
ゴクリと京太郎君は息を飲み込んで、恐る恐る睡眠の体勢に入る。
実は気づいてたんやで? 小さい頃から怜が寝ているのを見ていてうらやましそうにしてるの。
そして、彼は髪を整えるとそっと太ももに頭を置いて一気に起き上がった。
「……やばい、気持ちよすぎ」
思わず漏れ出た彼の本音に笑みがこぼれてしまう。
よっしゃー! 勝利や! 今日は女神様がうちに味方してくれてるでー!
私の笑い声に反応した京太郎君は苦笑いをして、もう一度。今度は一気に膝へとダイブする。
「――っ」
「どー? 気持ちいい?」
「……こうなんていうか、やべえよ。とりあえず、なんていうかすごく気持ちいい」
「そ、そう? 怜も褒めてくれるんやけど、京太郎君も気に入ってくれて嬉しいわ」
「……ふわぁ」
「大きなあくびやなぁ」
「それくらい気持ちいいってことだよ」
「ふふっ。このまま寝てもええんやで?」
いたずらするような笑みを向けると京太郎君は頬を真っ赤にさせる。こうまで彼が感情を表に出してくれるのはめずらしい。目線を合わせようとしても頭の位置を変えて避けてくる。
……そんな意地悪する子には罰を与えへんとあかんなぁ。
「もう……京太郎君? こっち向いてーなー」
わざと自然に前かがみにすることでうちの持つもう一つの武器が嫌でも彼の顔に近づくわけだ。
……京太郎君、いつもこれ見てるもんな? つまり、気になるってことやろ? なら、アピールポイントとして使わなあかんで!
「ふ、ふがががっ!?」
「んっ……気にせんでええねんで? 好きなだけ楽しんでくれたらええんや。うちの膝枕」
膝枕だけじゃないけどなっ! ふふん、うちのマシュマロサンドはどうや、京太郎君!
だ、大胆なことしてるけどこうでも京太郎君も気づいてくれへんしな。なんかもういろいろとすごいことに……。
あっ。
……な、なんか……下の方で膨らんでるような部分があるような……。こ、これはもしかしなくても……あ、あれなんやろうか?
それに京太郎君の息が当たってなんかうちも……変な気分に……。やばいやばいやばい。意識したらさらに呼吸が苦しく……。
「……き、京太郎君っ」
甘い声が出てしまう。息がちょっとずつ荒くなっている。もう正常な判断ができなくなってきた……。
「り、竜華……」
嬉しい。私の名前呼んでくれた。これを合図にいつの間にかうちらの距離はなくなっていって――
「あー! 京ちゃん、なにやってんの!?」
「「っ!?」」
――もう少しで唇が触れそうになったところで親友の声に跳ね上がるように私たちは咄嗟に離れる。
と、とととと怜か! あ-、びっくりした! 心臓が止まるかと思うた!
「……二人とも顔赤いけど何してたん?」
「な、なにって膝枕やで!?」
「そうそう! 膝枕膝枕!」
「……のわりには、やたら距離が近かったような……」
「あ、あれやから! えっと、そのほら! そらあれよ!」
「目にゴミがついてたんだ! そんなことより準備は終わったのか!?」
「うちを舐めてもらったら困るわ! ちゃんとやってきたで! だから、竜華ー。うちにも膝枕ー」
「う、うん! いくらでもしたるからおいでおいで!」
「ありがとう。それじゃ、失礼するわ」
そう言うと怜はうちの左ひざにごろんと頭を乗せる。すると、ポンポンと空いているもう片方の太ももを叩いた。
「ほら、京ちゃんもこっち使いーや」
「お前が決めるのか……」
「竜華の膝枕はうちのものやからな! しゃーないから京ちゃんにも分けてあげるわ」
「なんだそれ……」
「いらへんの?」
「いります、ごめんなさい!」
京太郎君も再度、頭を乗せる。にししと笑う怜。三人がこうして一緒に笑っていたのは一年も前のことだと思うと懐かしさが込み上げてくる。
……まぁ、今はこれでもええか。
京太郎君もちゃんとうちを女として異性として意識してくれたみたいやし。ちょっとは進展したと喜ぼう。
うちは微笑すると二人の頭をそっと撫でる。
「……いつまでも一緒やからな、怜。京太郎君」
一応、期間中は貼らせてね。
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