慣れればここも悪くはない   作:大豆御飯
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お久しぶりです。覚えていますか
覚えていてくださったなら嬉しいです
大豆御飯です


第七話 ムードメーカー

 その後、文は「また後程!!」と言って何処かへと去って行き、美咲と霊夢は電車に乗って来た駅まで戻って来た。のだが。

「はいはい!! 毎度お馴染み、射命丸です!!」

 駅を出た二人を出迎えたのは、去って行ったはずの文だった。

「あやや、私がここに居るのってそんなに不思議ですかね」
「え、いや、貴方って……さっきあの駅に居た……」
「はい、射命丸ですよ。射命丸文です。以後、お見知りおきを」

 飄々としている文と目を白黒させる美咲。さて、どう説明したものかと霊夢は頭を悩ませていた。

「ところでですがね、霊夢さんのお連れさん」
「あ、な、中村美咲、です」
「ふむ、美咲さんに一つ頼みごとがあるのですが、よろしいですか?」
「た、頼み事?」
「今晩、泊めてもらえません?」






 何ともちゃっかりした天狗である。どう謝ろうか、霊夢は少々本気で頭を悩ませていた。

「いやー、本当助かりましたよ。このまま野宿まっしぐらなんて嫌でしたからねぇ」
「は、はぁ。家、とか無いんですか?」
「有ったら良かったんですけどね。生憎、色々あったもので」

 頭に妙な帽子を乗せた山伏コスプレの剽軽相手に美咲はどう対応して良いか分からず敬語になっている。

「しかし、お二人はいつ知り合ったんです?」
「今朝よ。私が起きた所が彼女の家の中だった」
「あやや、そういうことで」
「霊夢と、あ、文さんは知り合い、ですよね?」
「文で良いですよ。後、普段通りの口調でよろしくお願いします。まぁ、腐れ縁とでも言いましょうか、友人と言えば友人で、まぁ好敵手のような?」
「いつ私がアンタの好敵手になったのよ」

 段々と文に慣れてきた美咲は、二人のやり取りを見ながら僅かに頬を緩める。霊夢とそれなりに仲が良さそうだし、ならば悪い人でもないのだろう。そんな美咲の顔を見た文はトンと胸を叩いて笑顔のまま言う。

「まぁ、泊めてもらう以上は頼まれればできる範囲でなんだってしますよ。それこそ、料理洗濯家事全般、霊夢さんより幾分役に立ってみせます」
「アンタことあるごとに因縁吹っ掛けようとしているでしょ……」
「さぁ?」
「なら、頼もうかしら。あ、服とかは私のおさがりになるかもしれないけどごめんね?」
「気にしないでください。何なら、室内でならば下着一丁でも構いませんので」
「それは、流石に……」
「冗談ですよ。ですが、何か困ったことがあれば、それこそ害虫駆除から何からやっちゃいますので!!」

 ビシッと文は敬礼して宣言する。さて、どうしてそんなに張り切っているのか、霊夢には見当もつかないが、見ていて面白いので覚えておくことにした。
 そして、そんなことを言いながらも文は何処からか取り出した写真機で周囲の建物や空の黒い線を忙しなく撮っていく。そんな文の表情には子供の様な無邪気さが浮かび、傍から見ている霊夢や美咲まで頬を緩めてしまう。そんな二人に気付く様子も無く、文はバシバシと写真を撮っていくのであった。

「文は、写真を撮るのが好きなの?」
「……ん? あぁ、好きというのも……いや、好きですね。生きがいの様なものです」
「へぇ、生きがいかぁ」
「元々、私は新聞を書いていまして。その為にこうして写真を撮っていたのですが、気付いたら割とどうでも良いことにまでシャッターを切る様になっていましてね……まぁ、私事は置いておきましょうか」
「いいや、文の話ももっと聞いてみたいけど」
「そうですか? 本気で話せば、それこそ三日三晩に渡る大長編になること間違いなしですが。おわっ、何ですかアレ!?」

 とか何とか言いながら、話の途中でも文は郵便ポストにシャッターを切る。

「……アンタ、美咲の家に着いたら大変になるわね」
「え? どうしてですか」
「……着けばわかる」

 何ですかー教えてくれても良いじゃないですかー、といやらしい笑みを浮かべて霊夢に絡み、当の霊夢はなされるがままといった感じでフラフラ歩き続ける。

 賑やかになった。改めて、美咲はそんなことを思っていた。
 独り暮らしの無味乾燥な昨日までの生活が、気が付けば今夜自分の他に二人の誰かと一緒に眠ることになるなんて、まさか夢にも思わなかった。

 気だるげで妹の様な霊夢。
 活発でムードメーカーの文。

 まだ二人のことは詳しく知らないけれど、それにどれ程の間共に過ごすのかは分からないけれど、あの小さなアパートの中、三人で過ごすことは少しも苦ではなさそうだ。

「あ、美咲さん。後々インタビューをしてもよろしいですか?」
「インタビュー?」
「止めておきなさい。コイツ、碌な記事にしないから」
「あぁ、新聞の。私は、構わないけど……変な記事にしないでよ?」
「大丈夫ですよ。大丈夫ですから」

 文がそう言うと、霊夢はジトッとした顔でその横顔を睨んだ。

「……二人は仲が良いのね。憧れるわ」
「まさか、そんなことないわよ」
「え、酷いですよ霊夢さん」

 良いから離れろと霊夢は文を押し返し、文も文で対抗心を燃やして離れそうにない。折角なので美咲は文と霊夢を挟み込み、三人はくんずほぐれつしながら夕暮れの道を歩いて行った。