俺が大洗以外の学校に行くのはまちがっている?   作:@ぽちタマ@

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彼はそうやって執事になるのだった

 聖グロリアーナ女学院。

 この学校には侍従科というクラスが存在している。書いて字の如く、メイドを育成するためのクラスといってもいいだろう。

 お嬢様が多いこの学校では欠かせないクラスでもある。

 

 それは何故か?

 

 基本的にお嬢様と呼ばれるような人物が自分で家事全般が人並みに出来るだろうか?――いいや、出来ない。数少ない例外もいるだろうが、基本的に似たり寄ったりである。

 だから必然的に侍従科の需要は高く、相手に仕える際にも給料が出るようなシステムとなっている。

 その代わりに、半端なメイドでは仕えることそのものができず、学校から認可が下りるまでは研修に研修、さらに研修というまさにエンドレスな仕様となっている。メイドさんも大変なのである。

 そのせいで、需要のわりには供給が出来ないのは自明の理。だが、一流として認められたメイドさんのスペックは尋常じゃなく、もしお嬢様に気に入られればそのまま卒業後も専属のメイドとして働く、なんていうことも珍しい話ではないのだ。

 

 そんな、メイドさんがたくさんいるクラスの中に一人の異物、もとい男子がいる。いや、執事がいた。

 

 名前は、比企谷 八幡。

 ひょんなことからこの聖グロリアーナ女学院に通うことになり、そして執事をやらされることになった男である。

 

 女子ばかりのクラスに男子一人とか、どこぞのインフィニットなストラトスみたいだが。現実に男子がそんな状況になってしまえばストレスで禿げ上がるだろう。動物園のパンダを想像してもらえればいい。向けられる視線は好意的なものではなく、奇異の視線だが。

 

 しかし、彼はクラスのほとんどの生徒に認められていた。

 理由は2つある。1つ、彼が男である前に執事だからだ。もっといえばこの聖グロリアーナ女学院1の実力の持ち主。

 執事の実力ってなんだと聞かれそうだが、基本的にメイドと求められることは一緒である。

 家事全般ができ、仕えるべき相手に失礼のないよう奉仕することができるか、ということ。

 相手に奉仕する、という観点だけで見れば八幡の右に出るものはおらず、逆に八幡に教えを請うものも少なくはない。

 それほどに彼は優秀であり、執事であった。

 

 そして2つ目、彼がダージリンに仕えていること。聖グロリアーナ女学院の憧れの的に仕えている。このステータスは、彼女たちの中で否応にも八幡を認めざるをおえなかった。

 

 そんな八幡だが、最初から受け入れられていたわけではない。

 入学当初は奇異の目で見られていたし、入学してそうそう退学する寸前だったりした。

 八幡がこの聖グロリアーナ女学院に入学してそうそうに学園長から告げられる。

 

 ――二週間の研修の後、君を仮執事として採用する。その際に、誰ひとりとして君を指名しない場合は――やむをえないが、君は退学になる。そういう制度だからね。

 

 という内容。

 

 正直に言えば、入学してそうそうの八幡がここの生徒に指名されることなどほぼないだろう。つまりこれは体のいい厄介払いだ。

 制度と言っていたが、そもそも八幡が入学したのは例外中の例外なのだから、いくらでも制度を作りようがある。

 小町だけを残して、いらない八幡を捨てようとしているのが見え見えだった。だったが……。

 

「別にそれでいいですよ」

 

 それを八幡は受け入れる。別に誰かから指名される自信なんてのはないが。

 もともと小町が勝手に決めたことではあったし、違約金云々があったから入学しただけで、別に入りたかったわけでもない。なにもペナルティなしで辞めれるのなら、むしろありがたいとさえ思う。

 

 以上の結果、八幡は学校側の要求をのんだのだった。

 

 

 

 退学になることがほぼ確定しているなら、研修を頑張る必要はない。普通の人間ならそう思う。だが、八幡は違った。彼は普通ではなかった。

 彼はまわりが驚くぐらいに意欲的に、そして積極的に研修を受ける。

 なにがなんでも残ってやるとかそんな殊勝な心掛けではない。八幡がやる気を出している理由はただ1つ。

 

 ――どうせやめるのなら、とことん得られるものは得ていこう。

 

 という、後ろ向きな前向きさからであった。

 

 もともと専業主夫を目指していたので家事全般のスキルはもっていたし、よりそれを高めるにいたっては今後とも役に立つ。しかも、質の高い授業なら尚更頑張るしかなかった。

 

 すべては自堕落な生活のため。将来絶対に働きたくないでござる!という、おおよそ誉められるところがない感情が彼を今、突き動かしていた。

 

 さて、そんなこんなで二週間がたち八幡の運命の日、ジャッジメントデイズ。

 学園側は、聖グロリアーナ女学院の派閥に八幡を選ばせないようにと前々から根回しをしており、それに逆らうということは反逆の意があるとみなされる。本来ならこれで八幡は絶対に選ばれることはなかった。

 

 ただ、学園側に誤算があるとすればそれは……。

 

「――あら、誰も彼を選ばないの?なら、私たち二人がもらいましょうか。ねぇ、アッサム?」

 

「……そうね」

 

 お嬢様のなかにも物好き――ダージリンとアッサム、この二人がいたこと。

 もとより、保守的な考えの今の聖グロリアーナには辟易していた彼女たちにとっては、いくら上から圧力をかけられようが知ったこっちゃねーと言わんばかりである。

 

 つまりこれはダージリンたちの宣戦布告。

 

 そして八幡の運命が決まった日でもあった。

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

「へぇ、そんなことがあったんですね~。あ、ありがとうございます」

 

「そんなことがあったんだよ。誠に遺憾ながら」

 

 まるで不本意とでも言わんばかりに不満を見せながら、八幡の話し相手――ペコに紅茶を渡す。

 

 聖グロリアーナ女学院の幹部クラスが集うクラブハウス――通称、『紅茶の園』。この学園には紅茶の園が目当てで入学している生徒も多くはない。そんな生徒の憧れの場所で、八幡とペコは会話をしている。

 

 なんでこんな話をしているかというと、ペコが「ここに入学したときのことを教えて下さい」といってきたからだ。

 

「ダージリンさんとアッサムさん、この二人の仮執事になってからが地獄だった……」

 

 八幡は、自身の腐っている目を更に腐らせながら遠い目をする。

 

「そ、そんなにですか?」

 

 若干不安そうに、でも内心どんなことが聞けるかワクワクしているペコに「そうなんですよ」と八幡は答える。

 

「とにかくあの二人がスパルタだのなんのって。ダージリンさんは、私の執事になるのだからこれぐらい当然でしょ?と言わんばかりに無茶ぶりを押しつけてきてたし。アッサムさんはアッサムさんであのデータ主義だろ?パソコン関係の情報処理関係をみっちり仕込まれた……。あとあれな、紅茶の淹れかたを教える二人が超怖かった」

 

 まじ壮絶。いっそのこと退学になった方がよかったんじゃね?と思いもする。

 

「おかげで、いろいろできるようにはなったりはしたんだが……、この1年間は大変だった。もう働きたくない……誰か俺を養ってくれ。なんで執事として働いてんの?高校生にして既に社畜だよ……」

 

「ふふっ」

 

 いろいろ愚痴っていたらペコに笑われた。ペコが他人の不幸でご飯が三杯も食べられる悪魔になってしまったのか!?と不安になり「どうした?」と聞くと。ペコは「いえ……」と言葉を続ける。

 

「なんだか、不満を言ってらっしゃるわりには楽しそうだったので、つい」

 

「…………」

 

「八幡さん?」

 

「ペコ、結婚しない?」

 

「ふぇっ!?」

 

 ふと、そんな爆弾発言を投げ掛ける。心の中で呟いていたはずだがどうやら駄々漏れだったらしい。いかんいかん。

 いや、だってペコが天使過ぎるのがいけないのだ。俺が愚痴っても優しく微笑み返してくれるとかマジ天使だわー。結婚とかするならこういう優しい女の子がいいなぁーとか思っていたら口に出ていた。

 

 言った本人はただ誤爆しちゃったなー、てへぺろ☆みたいな感じで処理。言われたペコは「え!?あの……その……」としどろもどろになっている。が、八幡は顔を真っ赤にしているペコを見て、怒らせたか?ぐらいにしか捉えてない。

 

 下手をするとラブコメに発展しかねないのに発展しないのは、八幡が八幡たるからかもしれない。

 そんな二人に声がかかる。

 

「後輩をそうやってからかうのは趣味が悪いんじゃなくって?」

 

「ダージリン。言っていることは正しいのだけど、貴女も人のことを言えないのではなくって?」

 

 ここ、紅茶の園にダージリン、アッサムがやってきた。話しかけてきた二人が妙に不機嫌そうなのは、八幡が「結婚」などという単語を発したからだろう。

 

「……からかう?」

 

 ペコは八幡の方を、なにか期待を込めた目でみる。

 

「ん?ああ、すまん。さっきのは冗談だから気にしないでくれ、ペコ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 いっそのこと本当に結婚しますか?なんて言えたらどれだけよかったのか。そんな度胸があれば、昔の話を聞きたいなどと託つけて八幡とおしゃべりなどしないだろう。うん。

 

「それで?二人してなんの話をしていたか教えてくださるかしら?」

 

「え?ああ、俺が入学した頃の話が聞きたいって言われてたんでその時のことを話していたんですよ」

 

 その話がなにをどういう過程をたどれば「結婚」などというワードがでてくるのか聞きたい気持ちもあったが、聞いてしまうとそれはそれで薮蛇になりそうだったのでダージリンはグッと堪える。

 となりにいるアッサムも同じことを思っているだろう、視線があった。

 

 そんな二人に八幡は紅茶を淹れる。

 

「ありがとう」

 

「また腕をあげましたね?」

 

 紅茶を一口飲み、アッサムが八幡に話しかける。

 

「そうですか?」

 

「そうですよ。……そういえば、入学したときのことを話していたと言ってましたね。あの時から比べると雲泥の差よ」

 

「八幡さんがお二人がスパルタで大変だって言ってましたよ」

 

「へぇ……」

 

 意味ありげに瞳をすっと細目ながら、ダージリンは八幡を見る。

 

 ペコさん、それは言わない約束でしょ!?と八幡は抗議の目をペコに向けるが、ペコはつーんと顔を背ける。どうやらさっきのことでまだおこのようだ。

 

「あの頃の初々しいあなたはどこにいってしまったのかしら……?」

 

 溜め息混じりにそんなことをいってくる、ダージリン。

 

「ダージリンさんによって駆逐されたんですよ」

 

「確かに、ダージリンが原因といっても過言ではないわね……」

 

 ふむ、と顎に手をあてながら呟くアッサムに抗議の弁を言いたかったが、からかいすぎて下着姿では動揺しなくった(そう見えるだけ)八幡の姿を思い返すとなにも言えなかった。

 

「そ、そうだっかしら?」

 

 話を流れを変えよう。そう思い、なにかいい話題がないかと思考を巡らせる。そういえば……。

 

「そうそう。先ほど、練習試合の申し込みがあったのよ」

 

「練習試合、ですか?相手の学校は?」

 

「大洗学園、と確か言ってたわね」

 

「大洗……ですか?聞いたことありませんね。最近になって戦車道を始めたのでしょうか?」

 

「たぶん、そうじゃないかしら」

 

 練習試合、その話題でわいわいと会話を繰り広げるダージリンたちを見て思う。

 自分がもし転向していなかったら、もしかしたら運良くか悪くかは知らないが大洗で戦車道に入っていれば、ダージリンさんたちと戦っていたのだろうか?それはそれでちょっと面白そうだなと思う。

 まあ、こんな仮定に意味はない。俺はこの学園で執事をやってるんだから。

 


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