俺が大洗以外の学校に行くのはまちがっている?   作:@ぽちタマ@

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二年目の黒森峰

 きっかけは些細なものだった。

 なんとなく、本当になんとくなく、中学を卒業したときに思った。

 

 ――そうだ、転校しよう、と。

 

 それを妹の小町に話したら「別にいいんじゃない?」と軽く流されてしまった。その時の小町はファッション雑誌を読んでいた。兄の転校よりも今のトレンドの方が重要らしい。ちょっと切なかった。

 もっとこうあるんじゃないの普通はさ、と思いながら自分の部屋に戻ろうとしたら「どこにするの?」と聞かれ「適当に決めるわ」と答えたのを覚えてる。

 

 転校したあと電話で、「なんで転校先を教えてくれなかったの!」と、しこたま怒られた。

 知りたいなら知りたいと言え、お兄ちゃんはエスパーじゃないんだぞと抗議したかったが、横暴な妹はそれはもう自分の考えうる言葉で罵倒したあと「小町もその学園艦に行くから」とボソッと一言いって電話をきった。

 

 そのあと、こっちの学園艦に近づいてくる度に小町から電話がかかり、「私、メリーさん。いまどこどこにいるの」ばりに報告してきたのはなんかの嫌がらせかと思ったほど。

 

 俺の妹はヤンデレだったのかもしれない。

 

「――……ただのブラコンじゃないの?」

 

「そうか、小町はブラジャーコンプレックスだったのか。まあ、あの体型なら着けなくてもいいんだろうけども」

 

 着ける必要がなくても着けないといけないと聞いたことがある。なんだっけ?クッパ靭帯?だったっけ?それが切れるとヤバイらしい。確かに毎度ピンク姫をさらっているのだからキレたらやばそうだ。

 

 と、そんな変なことを考えていた八幡に、話を聞いていた少女――逸見 エリカはツッコミをいれる。

 

「あんた、それを小町に言ったら殺されるわよ……」

 

「あん?うちの小町がそんなヴァイオレンスなわけがないだろ。なに、ケンカ売ってるの?言い値で買うぞ?」

 

 妹のことになるとちょっとどころじゃなく性格が変わっている八幡。そこらへんにいる粋がっている不良より喧嘩っぱやくなっている。

 そんな八幡に、エリカは努めて冷静に言葉を放つ。もはやまともに相手するのも馬鹿らしい。

 

「売ってないわよ、シスコン」

 

 なんだ売ってないのか、ならいいや。と八幡は再び机に突っ伏して寝る。シスコンに対して八幡からの言及はなかった。本人も自覚しているのだろう。

 

「寝るな、この馬鹿!なんのために私がわざわざあんたのクラスまで来て聞かされた話が妹の話なのよ!」

 

「俺に妹以外のなにを語れと?」

 

 馬鹿なの死ぬの?と、エリカを見る八幡。俺から妹を取ったらなにも残んないぞとオーラがいっていた。冗談でいってるなら笑ってすませられるが目がマジだった。

 ……シスコンここに極まれり。

 

「戦車道のことを話しなさいよ!もともとその話をしていたんでしょうが!あんたが途中から話を変えるから……!」

 

「………、あれ?そうだったっけ?最初から小町の話じゃなかった?」

 

 数秒考えたあげくの言葉だった。おかしいな、戦車道の話なんてしてたか?といわんばかりに頭をはてな?と傾かせる。

 

「今度の全国大会に向けて、あんたの意見が聞きたいって言ったでしょ……」

 

「ああ、そんな話だったな。来年から小町が高校生になるなっていう話からズレたんだっけか」

 

 正確に言うと、八幡が聞いてもいない小町の話を始めたのであって別にエリカは話を振ったわけでもないのだが、そこを指摘していたら一向に話が進まないので却下。

 

「本当はあんたなんかに聞くのは癪だけど、隊長がどうしてもって言うから……」

 

 こいつ、まじでまほさんのこと好きすぎだろ。と、つっこみは入れない。

 

「だからってわざわざ昼休みに来る意味はないだろうが……」

 

 放課後でよかったんじゃない?

 

「隊長に言われたんだから速やかに実行しないといけないのよ」

 

「言われたって、いつ言われたんだよ」

 

「さっきよ」

 

 すごくタイムリーだった。こいつ、まじでまほさんのこと(ry

 有言実行ならぬ即日実行だった。恨むぜまほさん……俺の貴重な昼休みのお昼寝タイムが消えたんですが。

 

「とりあえず、だ。逸見」

 

「なによ」

 

「自分の教室に帰れ。俺の意見云々は放課後までには考えとくから」

 

「なんで――」

 

 八幡は周りを見ろとエリカに促す。八幡に言われエリカが周りを見ると、周りが何やらひそひそと話していた。エリカはヒートアップしすぎて気づいていなかったらしい。

 たぶん、あの二人できてるんじゃないとか、そんな類いの話をしているのだろう。自分たちに向けられる視線の類いがそういうものだった。まじでなんなのアレ?めんどくせー。男子と女子が話しているだけでできてるなら日本中カップルだらけだわ!俺にだって彼女がいないとおかしいわけである。

 八幡はうんざりしながら「だから、さっさと帰れ」とエリカに視線を送る。それで理解したのだろう、顔を真っ赤にしながら自分の教室へとエリカは帰っていった。

 

 まあ、どうせ直ぐにこのざわつきは収まる。一過性のものだし、ひそひそ言っていたやつらも新しい話題が見つかればすぐにそっちにシフトするだろう。

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

「コーチ、副隊長と付き合ってるって本当ですか!?」

 

 放課後、戦車道に来てみればそんなことを言われた。えらくタイムリーだな、おい。あとその副隊長がいなくてよかったな。いたらお前らは確実に今日の練習は地獄だったぞ。

 

「事実無根だ」

 

 八幡が答えると「やっぱりそうですね~」とか「ヘタレな副隊長が動くわけないか」とかいろいろ1年どもが言っている。

 

「まほさんは?」

 

 とりあえずきゃーきゃーと、なにが楽しいのかわからないやつらはほっとくして、自分のやるべきことをやろう。

 

「隊長ですか?いえ、まだ来てませんよ。ねえ?」

 

「うん。もう少ししたらいつも通りにくるんじゃないですか?」

 

「隊長になにかお話ですか、コーチ?」

 

「あ?まあ、大事な話っちゃあ大事な話だな」

 

 八幡がそう答えるとまた、きゃきゃー騒ぎだす三馬鹿トリオ。あきらかになにかと勘違いしている。

 

「元気が有り余ってるみたいだな。なら、今日は……」

 

「あ、私たち練習の準備をしないとなんで」

「では、コーチ」

「また、練習の時にお願いします!」

 

 自分たちの身の危険を感じたのか、打ち合わせもしていないだろうに、アイコンタクトでお互い確認しあったかと思うと一気に捲し立ててそそくさと去っていった。

 危機管理能力だけはいっちょまえだな、おい。

 わりかし、今日の練習はあいつらだけハードにしとくのが今後のためか?と考えていたら話しかけられる。

 

「八幡」

 

「あ、まほさん。逸見から聞きましたよ」

 

「……そうか。意見を聞かせてくれ」

 

「現段階ではなんともですね。とりあえず候補は絞ってます」

 

 そう言って八幡がまほにリストを渡す。そこには現段階の選手の八幡なりの考察が書かれているものだ。その内容は、どういう役割が適しているか、また伸び代はどんなものなのだとか、はたまた性格まで、多岐に渡り選手候補のデータがびっしりと書かれていた。

 

「――ありがとう。それと、いつもすまない」

 

 まほは、知ってるものがよく見ないとわからない程度に微笑み、そして八幡に謝る。

 

「別に好きでやってることなんで気にしないでください」

 

「……みほは、みほは元気にやっているだろうか?」

 

 まほは八幡に聞く。今はこの学園にはいない自身の妹のことを。

 なぜまほが八幡に聞くかというと、彼が唯一、今の黒森峰でみほと連絡を取り合っている仲だからだ。

 

「……ああ、それなんですけど、えっとですね……」

 

 まほの質問に八幡はなんだか歯切れの悪い答え方をする。そんな八幡の態度に、まさかみほになにか!?とシスコン魂のスイッチが入る一歩手前に八幡が気づき慌てて答える。

 

「い、いや!なんかあったとかそういんじゃないんですど……」

 

 いや、これいっていいのか?と八幡はぽしょりと呟く。しかし、妹を心配するまほの気持ちは痛いほどにわかる八幡にとって、言わないという選択肢はなかった。なかったが……。

 

「しほさんには、内緒にしてもらえますか?」

 

 だからと言ってむやみやたらに教えるわけにもいかない。いずれバレるのだろうが、それでもである。

 

「どういうことだ?」

 

「それに納得してもらえないと答えられないです」

 

 まほの、下手をすると大の大人でも怯みかねない鋭い目付きに睨まれても、尚もひるまずそう答える八幡。

 八幡のその態度で後ろめたいことはないのをまほは理解するが、しかし、しほに内緒というのがどうにも引っ掛かる。

 だが……。

 

「――わかった」

 

 西住流と妹で揺らいでいた天秤が妹に傾く。

 それでいいのか西住流、と八幡はツッコミを入れたかったが、これがシスコンだよな、と納得してしまう。

 

「あいつ、戦車道をまた始めたらしいです」

 

「――……そうか」

 

「それと、これは本当は言っちゃいけないんですけど、まほさん宛に伝言を貰ってます」

 

「……私に?」

 

「ええ。『今はまだ向き合える自信がないけど、ボコみたいに立ち上がって頑張って見せるから、自分なりの戦車道を見つけて絶対にお姉ちゃんに会いに行くから』ってそう言ってました」

 

「――――」

 

 これ、俺が言ったことは内緒で、という八幡。

 この言葉自体、絶対にお姉ちゃんに言わないでね……とみほから言われていたのだが、不安そうなまほの顔を見てしまったら隠すのは無理だった。

 

「全国大会、みほは出るのだろうか?」

 

「ああ、そこまでは聞いてなかったですね。でも、近々わかるんじゃないですか?全国大会の抽選会がありますし、出るならあいつの学校の名前もあるでしょうし」

 

「……大洗、か」

 

「とりあえず、全国大会に向けて頑張りましょう。下手すると当たる前に負けるとかシャレになりませんし」

 

「……そうだな」

 

 

 

 比企谷 八幡の黒森峰に来て二年目の春。彼は黒森峰の特別コーチとしてやっている。試合などには基本的にはでない。

 どうしてそうなったか?なぜまほの妹のみほが転校してしまったのか?

 それを語るには一年前に遡らないといけないだろう。一年前の戦車道全国大会があったあの日に。

 

 

 




描き直そうと思っていたのに気づけばアフターを書いていました。あと、続きそうな感じに終わってますが、次回からは継続編です。

ほ、本編が難航してます。ぐぬぬ。

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