俺が大洗以外の学校に行くのはまちがっている?   作:@ぽちタマ@

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こうして、彼の戦車道は始まるのであった

 模擬戦の内容は5対5の殲滅戦。参加するものは一年生のみで、二年、三年はその試合内容を見極める。

 

 一年生だけで5対5の模擬戦を行う。1車両最低3人だと数えても30人はいる。

 

 が、それでも黒森峰の一年生は腐るほど……というのは些か聞こえが悪いかもしれないが、それほどにいるのだ。

 

 それだけで、黒森峰の選手層の厚さが窺える。逆に考えると、レギュラーをとるのが過酷ということでもある。

 

 西住流の後継者―――西住 まほは、二年ながらこの黒森峰の隊長を務めている。

 

 親の七光りと言う輩もいるかもしれないが、それだけでは二年はまだしも三年が黙っているわけがない。実力の無い者の下に人はつかない。

 

 黒森峰戦車道の暗黙のルールとして、戦車道で決めたことは絶対、とある。

 

 つまりまほは、現在在学している黒森峰の生徒を退け、自身の実力を示した結果、今の立ち位置に居るのだ。

 

 だから、今回の模擬戦も同じである。八幡が勝てば―――それで誰も文句は言わなくなる。逆に負ければ―――ここに彼の居場所などない。

 

 いや、そもそも。女子だらけのこの場所に彼の居場所なぞ端からないが―――自身のクラスでも、まほが来たことによって、女子に避けられ、男子に僻まれ、若干居場所がないけれども。

 

 戦車に乗り、実践経験が積める。このメリットがどれだけの価値があるかは、比企谷 八幡が一番わかっていた。

 

 わかってはいるが、黒森峰の暗黙のルールなど、つい最近この学校にきた八幡が知るよしもなく。彼は単純にこの試合を楽しみに(現時点で女子と一緒に乗ることには気づいていない)していた。

 

 だからこの一言も悪気があった訳ではない。

 

「模擬戦は一年だけですか?二年や三年の方々は?」

 

 聞きようにはよっては、一年生では役不足もいいとこだ、と言っているようにも聞こえる。いや、十中八九そう聞こえたのだろう。先程から、八幡に突っかかっていた女子―――逸見 エリカを含め、一年生の目の色が変わった。

 

 普段の八幡なら、こういうことを言わなかっただろう。変に目をつけられることはボッチにとってよろしくない。その上で、彼がこういう発言をしてしまったのは一重に……浮かれているのだ。見た目上わかりにくいが、オラ、ワクワクが止まんないぞ!みたいな感じである。おもちゃを与えられた子供といってもいい。

 

 今の彼はただただ、今まで自分がやってきたことが、どこまでのレベルに行っているか確かめたくてしょうがなかった。だから、できるなら上級生と試合をしてみたかった。

 

「試合は公平を持って行う。だから、すまない……我慢してくれると助かる」

 

「……そうですか」

 

 まぁ、それならしょうがないか。ちょっと残念ではあるが、試合ができるだけ儲けもんである。

 

 何度も言うが、実力を示さなければ、八幡はこの戦車道に居場所はない。……ないのだが、当の本人は呑気なもので。周りから見れば余裕のあらわれにとられるだろうが、本人はその真実を知らないだけである。

 

「チームを発表する」

 

 まほによる、チームの発表がされたのだが……

 

「……なんで私がこっちのチームに……」

 

 一番、八幡につっかかっていた逸見 エリカが、八幡と同じチームという謎の現象が起きている。いや、謎というか、配置したのはまほなのだが―――本人は、実力が知りたいなら、一番近くにいるのがいいのだろうと思って、このような配置にしたらしい。

 

 そもそも、エリカが八幡に誰よりもつっかかっているのは、まほが原因であるともいえる。昨日、まほが八幡のクラスに赴き、あまつさえそのまま家に八幡がお呼ばれされているのは、もはや黒森峰において周知の事実となっている。

 

 まほを尊敬しているエリカにとって、それでけで八幡を毛嫌いするには十分だった。

 

 私だって行ったことがないのに……

 

 もはや、八幡が男なのに戦車道にいるよりも、エリカにとってそっちのほうが重要だったりするのは言うまでもない。

 

 そんなエリカの気持ちはつゆ知らず、八幡と一緒のチームにしたのは、まほが人の気持ちに鈍感であるからだろう。別に、皮肉でも嫌がらせでもなく、勘違いゆえの親切心とでもいえよう。

 

 ―――王は人の気持ちがわからないのです。ではないが、西住流の教えに従っているせいか。正味、母親のしほの言葉以外で彼女の感情が揺さぶられることなどほぼほぼないといっていい。

 

 ただひたすらに、西住流としてあろうとしている彼女にその余裕がないだけなのかもしれないが……なんにせよ、不器用である、という評価はおかしくないだろう。

 

 傍目から見れば、エリカがまほを心酔しきってるのは丸わかりだが……まほ自身、ちょっと気に入られてる程度の認識でしかない。

 

 

 ====

 

 

 そんなこんなでチームが割り振られ、模擬戦が始まろうとしていた。

 

 正直な話。この試合で八幡に期待しているものなどほとんどいない。いくら戦車道で有名な妹の小町が言っていたとはいえ、所詮は男子である。女子にお近づきになりだけのままごとだと、本気ではないと誰もが思っている。

 

 誰も、彼が本気で戦車に乗ろうとしていることを知らない。ただ一人を除いて―――まほ以外は。

 

 

 まほは、昨日、しほに言われたことを思い出す。

 

 ―――彼は、理性の化物だと、母はそういった。

 

 幼少期から、誰にも相手にされず褒められもしない。時には馬鹿にされたり、もしかしたらいじめにあっていたかもしれない。

 

 それでも……それでも彼は、誰にもなにも言わず、ただ黙々と戦車に乗るための努力をやめなかったのだと言う。

 

 それは、どれほどにつらいのだろうか?頑張るには目標がいる。しかし、彼の目標は普通にやっていてはそもそも叶うものではない。

 

 戦車道とは乙女の嗜みであり、男性がやるものではない。

 

 いや、正確にいうのなら、男性がやってはいけないという正確なルールはない。ないが、世間一般でいえば普通ではないのだと思う。

 

 まほはそのことを聞いて、一つだけ疑問に思い、母に問う。どうしてそのようなことをしっているのか?と。

 

 その時の母はめずらしく、まるで苦虫を噛み潰したような、それでいて楽しそうな表情を一瞬だけみせこういった。

 

『知り合いの友人が、酔った時にしゃべったのよ』

 

 酔った……ということは、お酒を嗜む仲の相手だろう。しかし、いくら記憶をたどっても、母が我が家で飲んでいる姿を見たことはない。

 

 親族同士の集まりでも、最初の一杯ぐらいしか飲まない母が飲みに行くのだから、その相手はなかなかに親しいのだろう。

 

 話がだいぶ逸れてしまってる。

 

 つまるところ、私が何を言いたいかと言うと。母の言葉に尽きる。

 

『彼女の言葉の真意を確かめなさい』

 

 その言葉があったからこそ、比企谷 八幡を戦車道にいれ、模擬戦という形で彼の実力を見極める……それでもし、母の言う友人の言葉が真実であるのなら……

 

『彼をあなたの婿養子にします』

 

 そう言ったときの母は何故か、してやったりという顔をしていた理由を、私が知るのはまだ先のことである。

 

 

『―――試合、開始……!』

 

 試合開始のアナウンスが流れる。そうして模擬戦は始まった。

 

 

 

 

 ―――結果だけを言おう。

 

 比企谷 八幡は模擬戦に勝利した。

 

 

 そして、彼の存在が黒森峰戦車道にどのような影響を与えていくは……

 

 

 まだ誰も知らない。

 

 

 

 


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