俺が大洗以外の学校に行くのはまちがっている? 作:@ぽちタマ@
プロローグ 終わりの始まり
タイミングがいいと思った。
安易な偽物に手をだし、その結果傷つき、そして自分が信じるべき姿を見つけた。
そいつは負けると決められている。なんどやっても勝てない。どうやったって勝てない。結果は0か1、勝つか負けるかではない、勝てないのだ。
でも俺には、その姿がどうしようもなくカッコいいと思ってしまった。なんどやられても立ち上がるあの姿に憧れに近い感情を抱いた。
あいつが立ち上がるのなら、俺も頑張れる気がした。
俺も似たようなものだ。戦車に乗りたい、ただそれだけのために頑張ってきた。その努力が報われる補償なんてどこにもないし、誰にも理解されることないのかもしれない。
でも、俺はもう立ち止まらない。迷わない。あいつのように頑張り続けた先に、俺が手を出した"偽物"じゃない、"本物"がそこにある気がしたから。
だから俺は、中学を卒業後、大洗の学園艦から転校した。
転校先は、黒森峰学園とかいう場所。
別になにか引かれるものがあったというわけではなく、あいつ……ボコに因んで、熊がついた県、熊本県に行こうと思い、その県の学園艦が黒森峰だったというだけの話。
けど、その選択が、まさかあんな事態を引き起こすなど、この時の俺は知るよしもなかった。
まさに、俺の人生がいろんな意味で変わりだすターニングポイントだった。
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環境が変わる。口に出すとなんだがそれっぽいが、転校してから、俺の日常にたいした変化は起こっていない。
俺は特段、この学校でやりたいことがあったわけではないので、部活に勤しんだりとか、友達とか作ったりして一緒に遊んだりなどはしない。
………いや、決して友達が出来なかったわけじゃない。あれだから、俺が尊敬するどこぞの主人公も言っていたのだが、『友達を作ると人間強度が下がる』らしい。
それに俺は激しく同意する。
上辺だけの関係なんていらない。自分を押し殺してまで相手の意見にうんうん頷いたり、たいして興味もない話を聞かされても嫌な顔ひとつもできないような関係なら別に欲しくない。むしろお断りするまである。
……いや、別に友達が出来ないから僻んでいるわけではないのであしからず。ホントダヨ?ハチマン、ウソツカナイ。
そんなこんなで、俺の黒森峰での学園生活も一週間が経とうとしていた。まだ一週間なのに、もう彼氏彼女とかいう関係に陥っている人間もいる。
ちっ、気分が悪い。いちゃつくならせめて人気がないところでやってくれ。自分たちの仲がいいですよアピールをするな。
なんでわざわざ寝ている俺の席の近くでいちゃつくのか。あれだよ?俺は机に突っ伏して寝たフリをしているが、お前らの話を聞かされる俺の身にもなれ。お前らが話終わらないと気まずくて起きられないだろうが!途中で起きたら絶対に変な空気になる。
結局、そのカップルの話はかれこれそれから10分も続いた。おかげで、無駄に寝ちまったじゃねーか。長かった。体感時間的には1時間はあったな。俺の貴重な時間を返せと言いたい。
さてと、俺は帰る支度を済ませ、目的の場所へと向かう。
先程俺は、黒森峰にきてたいした変化は起こっていないと言ったが、あれは是正しよう。俺には日課といえるものが、この学園艦に来てからできた。
目的の場所は屋上。俺はそこから双眼鏡を使って観察するのが日課になった。別に女子の尻など追いかけていない。俺が見ているのは戦車、厳密にいうと、戦車道の練習風景だ。
この黒森峰学園は戦車道が盛んである。もっというと、戦車道の全国大会に名を馳せる強豪校だったりする。さらにもっというと、今度10連覇が懸かっているとかなんとか。
10連覇ともなると、周りからのプレッシャーとか半端ない感じでやばそうである。勝って当たり前な空気、負ければどうなるか……。
ここ、黒森峰には西住流という、戦車道といえばこの流派!ともいえる流派の次期後継者がいるらしい。
まぁ、俺には関係のない雲の上の存在だな。あぁいうやつらは。
―――その、はずだったんだけどなぁ。
「今日から、我が黒森峰の戦車道のメンバーに加わることになった比企谷 八幡だ。みんな、いろいろ思うところがあると思うだろうが―――」
俺をここに呼び出した人物――西住 まほの説明も上の空に、俺はただひとつのことを考える。
いや、無理だって。なにをどうやったってこれは無理だろう。西住さんや、みんなの顔見てくれない?全員が全員俺を睨んできてるよ……。
いや一人だけ、おどおどして顔で見てきているやつがいるが……。
―――これが俺の最初の始まり。黒森峰学園での俺の戦車道が始まる、最初の最初であった―――
どうしてこうなったかと言えば、やはり、昨日の放課後に遡らないといけないだろう。
西住 まほとのファーストコンタクト。そして、何故か西住流の本家に呼び出されたあの日に。