機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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Z-レイズというモビルスーツ

「この重装甲モビルスーツは、一体…………小型化が進むモビルスーツの進化に逆行してんぞ!!」 

 

 マデアに案内された格納庫の中で、ニコルは思わず声を上げた。

 

 アメリア・コロニーの外れの森の中にあるこの場所は、日中でも光を遮るであろう木々が生い茂り、服が身体に纏わり付くような湿気を生み出している。

 

 両親が離婚し父に育てられたニコルにとって、先程まで食べていた食事の時間は至福の一時であった。

 

 これからの作戦の過程で、アーシィの母親の薬の配給が止まる事態になるかもしれない。

 

 見ず知らずの人を助ける為に、自分の命を差し出す覚悟をしてくれた…………それも、敵である自分達の為に…………

 

 家を出る前に、アーシィの母はニコルを抱きしめてくれた。

 

 その温もりが、母に抱かれた記憶の無いニコルには心地好く…………心が安らいだ。

 

 それと同時に、何故こんな優しい人達が暮らす国と戦争をしているのか、ニコルは分からなくなっていた。

 

(だからこそ…………だ。戦争の本質を見極めて、そして敵味方関係無く、マデアさん達みたいに戦わないと、本当の平和なんて訪れる訳がない!!)

 

 そんな決意を胸に抱き、気持ちを新たに向かった先にあったのは、謎の重モビルスーツである。

 

 とんでもなく目立ちそうな大型モビルスーツ…………明らかに重そうであり、侵入作戦に向いているとは、お世辞にも言い難い。

 

 ニコルの決意が音もなく崩れ去っていったのは、想像が容易いだろう。

 

「どうだニコル。マリア・カウンター専用のモビルスーツで、女王を守護する為だけに産み出された重モビルスーツ、Z-レイズだっ!!」

 

「だっ!!ぢゃねーよ!!女王を守護する目的に造られたモビルスーツで、どうやってタシロとかって人の戦艦に忍び込むんだよ!!しかも、守護する為だけに産み出されたって、最早それ以外の事が出来ないよーに造られてんじゃねーのかよ!!」

 

 得意満面の笑みを浮かべるマデアの頭を、ニコルは本気で叩こうとした。

 

「ニコル君、そんなに殺気立っていては、コッチも当然警戒するぞ??そんな事より、ベスパの脅威になるようなモビルスーツを我々が開発するならば、それなりの理由がいる。マグナ・マーレイですら、リフレクター・ビットと通常のビーム兵器しか装備されていない。ベスパは、我々に軍の全てを掌握されないように、常に動向を探っている」

 

「つまりオレが殺気立っていたのと同じで、こちらの意図が相手にバレたら、その対応策で先手を打たれるって事か…………」

 

 マデアは、ニコルの答えに満足気に頷く。

 

「今の流れで、よく分かったな。このZ-レイズも、守備………つまり、拠点を守る目的に特化したモビルスーツだったから、開発許可が出た。普通に考えれば、何の脅威にもならないモビルスーツだからな」

 

「ってーなると、今の話の流れだと、このZ-レイズには秘密が隠されているって事だな??」

 

 ニコルは先程とは打って変わり、重モビルスーツであるZ-レイズを興味津々な表情で見上げた。

 

「とは言っても、秘密があるのはこの機体だけだ。他のZ-レイズは、コイツのカモフラージュに過ぎない。そして、コイツも装甲をパージした後は、普通のZ-レイズとして生まれ変わる」

 

「つー事は…………この重装甲の下に、モビルスーツが眠ってるって事かよ!!」

 

 マデアは、自信満々に頷く。

 

「じゃあ、段取りを説明するぞ。アメリア・コロニーの外壁周囲には、外からの侵入者や不穏な動きをする者をチェックする監視ロボットがいる。もう少ししたら、この宙域に一瞬だけ監視ロボットの視界から外れる時間がある。その隙に、Z-レイズの装甲をパージして、隕石群に紛れてくれ。その一瞬、この周囲のレーダーも切っておく」 

 

 ニコルをZ-レイズのコクピットに押し込みながら、マデアは少し早口で説明する。

 

「で、その時間ってイツよ??」

 

「もう直ぐだ!!装甲をパージしたら、すぐに隠れるんだぞ!!」

 

 マデアが、近くの壁に付いている赤いボタンを押すと、ニコルの乗るZ-レイズの床が開く。

 

「まぢかよ!!操縦方法とか、色々聞きたい事あんだけどー…………」

 

 ニコルの声は、Z-レイズと共に、床に口を開けた射出口の中に吸い込まれていった。

 

 格納庫のモニターでニコルの動きを見ていたマデアは、外に出た瞬間に装甲をパージし、モビルアーマーの姿で視界から消えたニコルの操縦センスに脱帽する。

 

「あの雑な説明で、あそこまで出来ちまうんだもんな。グレイ…………あんたより凄腕のパイロットかもしれねーぞ。あのニコルって奴は…………」

 

 マデアは、かつての故郷である冬眠船、ダンディ・ライオンに想いを馳せながら、自分にパイロットとして訓練し、送り出してくれたグレイ・ストークを思い出していた…………


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