「さてと、こんな感じかなー。食卓を囲んで食事するなんて、久しぶりだね」
食卓に5人分の食事を置いていくアーシィは、笑顔を見せている。
これから来る客人達がアーシィの心を盛り上げさせているのか、皆で食事をする事が楽しみなのか、ニコルには分からなかったが、美人の笑顔を見ているのは悪くない。
「5人分って事は、あと2人来るのかな??オレも家でゆっくり食事をするのは、久しぶりだな」
木の器から湯気を立てる温かさそうなビーフ・シチューに、カゴに入ったバケット、それにサラダ…………
アーシィの手作りである家庭的な料理に、ニコルは目を輝かせた。
「ニコル、お腹空いた??もう少ししたら来ると思うから、もうちょっと待っててね」
アーシィはエプロンを外すと、一輪の花を生けた花瓶を食卓の中央に置く。
コンコン…………
タイミングよく、玄関からノックする音が聞こえる。
「こんばんは。アーシィさん、夜分にゴメンなさいね」
「お母さん、お久しぶりです。スイマセン、お邪魔します」
髪の長い高貴な雰囲気な女性と、素朴な感じな男性がアーシィの家に入って来た。
なんと言うか…………あまりにミスマッチである。
「マリア様、お久しぶりです!!それに少佐、先日はありがとうございました!!」
アーシィは玄関まで小走りで向かうと、入って来た2人にお辞儀をした。
アーシィの母親も、ゆっくりした足取りで玄関まで歩き、2人を迎え入れる。
2人とも、アーシィの家族にとって大切な人物なのだろう。
「ん??キミがニコル君か??意外と小さい…………いや若いんだな」
少佐と呼ばれた人物が、ニコルの目の前まで来て少し驚いた表情をする。
「マデア!!失礼ですよ!!男性に小さいなんて…………それに、あなた方2人ががりでも倒せなかった凄腕のパイロットなのでしょう??」
マリアと呼ばれた高貴な女性が、マデアと呼ばれた男性を窘めた。
「ニコル、マデア少佐は黒いマグナ・マーレイのパイロット。マリア様は、マリア・ピァ・アーモニア…………女王様よ」
「はっ??女王って、ザンスカールの女王マリア!!って、何でこんな汚い家に??」
ニコルの驚き様を見て、マデアが腹を抱えて笑う。
「今日の男性達は、言葉使いから教育が必要なようね…………ニコルさん、女王と言っても、私は皆から助けられてばかりです。特に、この2人には頭が上がりません。だから、女王と言っても特別な存在じゃないのよ」
「いやいや、女王様って立場だけで、充分特別だろ!!」
パニックになるニコルを横目に、マデアはさっさと席に着く。
「とりあえず腹減ったぜ!!自己紹介は、飯食いながらにしないか??美味そうなシチューが冷めちまう」
マデアの言葉に、全員とりあえず席に座った。
早速バケットにシチューを付けて一口食べ足りないマデアは、食卓に飾られた花瓶に目を移す。
「ヤナギラン……………か……………」
「今日は彼女の命日だし、ヤナギランを置いとけば、家に来てくれるんじゃないかって…………」
食卓全体が、悲しみの雰囲気になる中、ニコルだけが首を捻る。
「ごめんなさい、ニコル。今日は、私の娘を地球に逃がしてくれた時に犠牲になった女性の命日なの。マデアの幼なじみで、私の娘の命の恩人…………」
そう言うマリアの言葉にも、悲しみを感じた。
「マリアさんの娘さんを地球に逃がしたって…………女王なのに、なんで??」
「ガチ党の党首フォンセ・カガチは世界平和を唱えてはいるが、武力を行使しすぎている。マリアの力を世界平和の為に使いたいと言っているが、その方法も分からない。娘を利用されたり、自分の言いなりにさせる為に人質にとられないように、帝国から隠したんだ。だが…………」
そこまで言って、マデアは言葉に詰まる。
「少佐の友人シャクティ・カッリアラは、地球でマリア様の娘アシリア様を守って戦死した。その2人の絆の花が、ヤナギランなのよ」
「その時のショックで、娘は記憶障害を起こしてしまったの。でも、シャクティの名前は忘れなかった…………今は、自分の本当の名前がシャクティだって勘違いしてしまっているみたいだけど…………けど、それでもいいの。アシリアの中で、シャクティが生きていてくれるなら…………」
地球で何が起きたか、ニコルには分からない。
それでもマリアの娘を隠す為に、3人が必死に戦って来た事は容易に想像出来た。
「それで、マリア・カウンターか…………視線をくぐり抜けた仲間達だから、信頼出来るんだな…………そして、武力で押すザンスカール帝国に不安を感じてる…………」
ニコルの言葉に、マデアが頷く。
「地球連邦に任せていても、平和な世にはならない。そして、トップが隠れているリガ・ミリティアも信用出来ない。ザンスカール帝国なら、世界平和の方向性は同じ。そして、マリア主義者も多い。だが、世界平和に導きたい道筋が違う。だからこそ、ザンスカール帝国が間違った方向に行かないように、我々が力を持って監視する必要があると思っているんだ」
「何の為に戦うか…………ニコルも考えてみて。私達はニュータイプなんだから…………」
アーシィの言葉に、ニコルは更に考えさせられる事になった………