「さて、これでベスパの連中が喰いついてくれりゃ、いいんだが…………」
バーニアから白煙が上がるシノーペのコクピットで、外の様子とモニターをケイトは交互に見る。
「もう、アメリアの索敵宙域に入ってるんだろ??直ぐにでも、モビルスーツが飛んで来るんじゃねーの??」
ニコルは頭の後ろに手を回し、コンソールに足を乗せた。
「てか、ニコル君…………ウチラは敵に追われてた設定なんだから、その余裕な態度はどうかねー??それと、アンタは私の弟の役なんだから、しっかりと演じてよ!!」
「わーってるって!!とか言ってる間に来たぜ!!ラングが釣れた!!」
ニコルはコンソールから足を下ろすと、怯えている表情を作る。
「……………まーいっか。ラング、接触してくるよ!!」
漂っているシノーペを観察するかのように、ゆっくりと近付いて来るラング2機の姿が目視でも見える距離に近付いて来た。
その内の1機が、シノーペに手を添える。
「シノーペのパイロット、所属と名前を聞かせてくれ!!」
仕事熱心で、しかし優しそうな青年の声がシノーペのコクピットに響く。
「私達は軍隊じゃない!!連邦に捕獲されてたシノーペを奪ってアメリアに帰ろうとしていた矢先、リガ・ミリティアに見つかって、なんとか逃げて来たんだ!!」
「そうか…………機体の認証番号を確認する。バーニアをやられているみたいだが…………爆発の危険は??」
シノーペの後方に回りバーニアの状態を確認したラングが、シノーペに手を添えて【お肌の触れ合い回線】をしているラングに大丈夫だと合図を送る。
「機体は大丈夫そうだ……………このシノーペは…………確かに連邦に捕獲された可能性が高いとあるな…………乗っているのは何人だ??」
「私と、弟の2人です!!私はアメリアの居住権を持っているんですが、弟のは無くて…………」
気の良さそうな青年の声に、ケイトは何とかなりそうな気がしていた。
「しかし…………何故、連邦に捕獲されたシノーペを奪って来る必要がある??普通に、宇宙艇で来れるだろう??」
もう1機のラングのパイロットは、不信を抱く。
「そうなんですが…………弟にはアメリアの居住権が無かったのでチケットが取れなかったのと、私達はサナリィ・コロニーから来たので…………」
「俺達は、リガ・ミリティアとベスパの戦闘に巻き込まれたんだ!!逃げる為に連邦の艦に紛れ込んだんだけど、バレて…………止むなくシノーペを奪ったんだけど…………途中で後ろから撃たれて、この様さ」
ケイトの後に続いてニコルも緊張感のある声を発し、リアリティを醸し出そうとする。
「女性と少年か…………確かに、軍人では無さそうだが…………中を確認したい。ハッチ、開いて貰えるか??」
ケイトは指示に従い、シノーペのハッチを開く。
「本当に、2人だけのようだな…………それで、家族はアメリアにいるのか??」
「私の両親はアメリアに…………弟は、生まれてすぐにサナリィに養子に出してしまって…………前回のサナリィでの戦闘で、弟の両親が巻き込まれて亡くなってしまったので、引き取りに行ったんですけど…………」
ケイトは話ながら、アメリアの個人認証カードをベスパの青年に手渡す。
そのカードを見ながら、青年は本部に確認をとる。
「ケイト・ブッシュさん??確かに、アメリアに住んでいるな。しかし1年以上も前に、アメリアから渡航しているみたいだが…………」
怪訝そうな視線を向けるベスパの青年に、ケイトは苦労した事を物語るような表情をした。
「はい、留学中に弟の養子先の保護者が亡くなった事を聞いて………」
「なるほど………そうでしたか…………」
本部から送られてくるデータを持っている端末見ながら、ベスパの青年は難しい顔をする。
「お兄さん。オレ、アーシィさんって人のお父さんから伝言を頼まれているんだ。サナリィで知り合って、オレの義理の両親が良くしてもらってて………亡くなる前に、伝言を…………アーシィさんに、直接話したいんだ」
「アーシィさんって…………アーシィ・リレーン大尉の事か??」
驚いた表情で端末からニコルに視線を移したベスパの青年は、少し考え込む。
「アーシィさんって、大尉さんなんだね!!普通の軍人さんだと思っていたんだけど…………凄い方のお父様と知り合いだったのね!!」
考え込む姿を見たヘレンは、考えが纏まらないうちにニコルに声をかける。
少しでも揺さぶって、自分達が有利に事を運ぼうと思ったからだ。
「お前達、アーシィ大尉の事を知らないのか??オレの憧れの人だ!!君の名前を教えてもらえるかな??少し待ってもらう事になるが、大尉に連絡をとってみよう」
ベスパの青年は、端末から本部に連絡を入れる。
「危険な物も持って無さそうだ。シノーペは爆発の危険が無さそうだから、ラングで運ぶ。宇宙港の待合室の1つを用意しよう」
そう言うと、ベスパの青年はラングに戻った。
「ニコル、アーシィさんへの伝言って…………そんな事で、大尉のお手を煩わせて大丈夫なのかな??」
「父親の死ぬ間際の言葉だぜ!!娘なら、聞かなきゃいけないし、聞きたいだろ??」
シノーペにはラングの手がかかっている…………【お肌の触れ合い回線】は継続されている為、ケイトとニコルは、わざとそれっぽい話をする。
ラングに押されながら進むシノーペは、少しずつアメリア・コロニーに近付いていた…………