その頃シークレット・ワンは、ベスパの部隊と交戦していた。
シークレット・ワンは、残っている全てのモビルスーツを投入している。
残っていると言っても、損傷しているマヘリア、クレナ、ケイトのガンイージの3機。
そして、マフティー動乱時に活躍した第5世代のモビルスーツ、グスタフ・カールにヘレンが乗っていた。
稼動試験を名目とする先行運用時に漏れた情報から、サナリィがアナハイムの技術を勉強する為に組み立てられた機体である。
当然、宇宙戦闘にも対応出来るようにモデファイされた機体だが、如何せん大き過ぎであった。
その全高は22メートル…………ガンイージの全高が約15メートルと言えば、その大きさが分かるだろう。
大した火力は無く、ただ大きいだけ……………
そんなモビルスーツを使わなくてはいけないぐらい、事態は切迫していた。
次々とラングとゾロアットを投入してくるベスパの物量に、シークレット・ワンと、そのモビルスーツ隊は防戦一方である。
ヘレンは、シークレット・ワンの盾にでもなればと、その大きなモビルスーツを持ち出したのだ。
「くそっ!!ウジャウジャと湧いて来やがる!!シークレット・ワンを守りきれんのかよ!!」
ヘレン機のレーダーに、敵のモビルスーツのマーカーが次々に映しだされる。
「仕方ないでしょ!!レジアとニコルは、相手のエース級と戦ってる!!コッチは私達で何とかしなきゃ!!」
「マヘリアさんっ!!1機づつ、確実に墜としていきましょ!!数が少ない分、1機でも戦闘不能になったら押し込まれる!!」
マヘリアとクレナのガンイージが、コンビネーションでベスパのモビルスーツを喰らっていく。
「私も、負けられない!!破壊された基地の…………皆の死を、意味のあるモノにしなきゃならないんだ!!」
ケイトのガンイージはビーム・ストリングスの網をかい潜り、ゾロアットにビームサーベルの一撃を加える。
パイロットの腕は、圧倒的にリガ・ミリティア側が上回っていた。
しかし、物量は圧倒的にザンスカール側が上である。
4機しかいない内の1機は、的の如くに狙われるグスタフ・カールであり、実質3機で戦っているようなモノである。
それでもマヘリアは、時間さえ稼げばレジアとニコルが助けに来てくれると信じていた。
そして、それは現実となる。
ヘレンのグスタフ・カールに2回ビームが直撃し、シークレット・ワンの盾にすらならなくなった時…………
高出力のビームが、ベスパのモビルスーツを薙ぎ払った。
「トライバード・アサルト!!レジアが来てくれた!!」
「ちっ!!おせーよ!!もう一撃喰らったら、ヤバかったぜ!!」
マヘリアとヘレンが、安堵の溜息をつく。
ヴェスバーを構えたトライバード・アサルトの前を、閃光の如くF90ウォーバードが舞う。
「お前達、自分の居るべき場所に帰れよ!!」
高速で移動するF90ウォーバードが、シークレット・ワンに取り付こうとするベスパのモビルスーツを一掃していく。
ニュータイプ達との戦い、そしてゲルダの死が、明らかにニコルを成長させていた。
そう…………ニコルの放ったビームは、コクピットを貫いていない。
戦闘不能になるように、モビルスーツを破壊させただけである。
ゲルダとアーシィのように、敵対してしまう親子もいる。
敵にだって家族があり、帰りを待っている人……………大切な人がいるだろう。
敵は敵であって、敵ではない。
敵である前に、人なのだ。
戦場で出会わなければ、殺す必要の無い人達である。
(ゲルダさん…………約束は必ず守る。悲しみの連鎖を止める…………その為に、早く戦争を終わらせる!!)
ニコルは誓いを胸に、F90ウォーバードを操った。
その動きに合わせるように、レジアのトライバード・アサルトから的確な射撃がベスパのモビルスーツ隊を襲う。
たった2機の介入であったが、ベスパのモビルスーツに脅威を与えるには充分であった。
着実にシークレット・ワンの前方に位置するモビルスーツを排除していくリガ・ミリティアのモビルスーツ隊を相手に、後手に回り始めたベスパのモビルスーツ隊は、足止め不可能と見ると後退を始める。
「深追いする必要はない!!シークレット・ワンに向かって来るモビルスーツ以外は無視するんだ!!」
リガ・ミリティアのモビルスーツ隊は、レジアの指示で攻撃対象を明確にした分、残存するベスパのモビルスーツの撃退に成功する。
シークレット・ワンを守り抜いた事で、戦艦の中は歓喜に包まれた。
しかし、モビルスーツのパイロット達は、喜んでもいれない。
今回の戦闘で、多くの仲間が犠牲になった。
リファリアを筆頭としたF90のパイロット達…………
サナリィ基地の仲間…………
アーシィの父、ゲルダ…………
そして、行方不明のマイ…………
多くの犠牲の上に、戦艦を守り抜く事が出来た。
ニコルはF90ウォーバードのコクピットで、汗が浮くヘルメットを外す。
自分達の敵って………………
ただリガ・ミリティアの組織に入ったから、ザンスカールと戦ってはいたが、敵を知らな過ぎる。
ニコルはいずれ、ザンスカール帝国発祥のコロニー、アメリアに行こうと心に決めた。