「そんな………………ゲルダさんっ!!」
「いやああぁぁぁ!!お父さんっ!!お父さんっっ!!」
ジェムズガンが爆発する瞬間…………ニコルもアーシィも、ただ見ている事しか出来なかった。
しかし、ゲルダの最後の言葉は……………父の最後の感情は、ニコルとアーシィの頭と心に送られる。
「ゲルダさん…………分かってる…………いや、今回の戦いで分かった。戦争は悲しみしか生まない。大切な人達を守る為には、戦争を止めなくっちゃならない…………だから、頑張ってみるよ。これ以上、悲しみが宇宙に広がらないように…………」
ニコルは、モビルスーツに人の感情が入り込んで来るような、不思議な感覚に身を委ねた。
父の感情が入り込んで来た事によって、アーシィの胸は締め付けられていく。
「私は…………私だって、お母さんと、お父さんに幸せになってもらいたかった。だから、今だって必死に戦っているのに…………」
父の考えも理解している…………そして、母の苦しみも…………
アーシィの瞳からは、自然と涙が零れていた。
「アーシィ!!動け!!止まっていては、的になるぞ!!」
マデアは吠えた。
動かなくなったマグナ・マーレイ…………事情を知らないレジアからすれば、もはや的でしかない。
「何故かは知らんが動きを止めてくれたのは、ありがたい!!白い方は墜とさせてもらう!!」
レジアはアーシィのマグナ・マーレイに向けて、トライバード・アサルトのバーニアを全開にして飛び込む!!
「しまっ…………間に合わない!!」
最初のビームサーベルの一撃は、辛うじて避けた。
だが、トライバード・アサルトの力は、戦闘に集中出来ていないアーシィの力を圧倒的に凌駕している。
振り上げられたビームサーベルに、思わずビットで防御するアーシィだが、トライバード・アサルトの力は止まらない。
「もう…………ダメ…………」
生きる事を諦めたアーシィから、力が抜ける。
力の失ったマグナ・マーレイの左肩からコクピットにかけて、トライバード・アサルトのビームサーベルが切り裂いた…………ように見えた。
しかし、そうはなっていない。
トライバード・アサルトのビームサーベルは、もう1つのビームサーベルに止められていた。
「ニコルっ!!どういうつもりだ!!」
「オレにも分かんないよっ!!でも、今オレ達が殺し合う必要はない!!だって、アーシィさんとは分かり合える!!モビルスーツは殺し合の道具かも知れないけど…………サイコミュの力は、人と人を繋いでくれるんだ!!だってサイコミュは、サイコ・コミュニケーターの略なんだぜ…………」
ニコルの駆るF90ウォーバードは、コクピット周囲にサイコフレームが採用されている。
リファリアがウォーバードを組み立てる際に、在庫になっていたフレームをニュータイプであるニコル専用機である為に使ったに過ぎないが、それがニコルの感応波を増幅させ、アーシィの思考を読み取っていた。
「ニコル、俺達が分かり合ったところで、何も変わらない!!今は戦艦を無事に別の宙域に逃がす事が最優先だ。それに、お前が分かり合ったと思っても、相手がそう思うとは限らない!!」
レジアはトライバード・アサルトの力でウォーバードを押し返すと、再びアーシィのマグナ・マーレイに斬りかかる。
「させんっ!!」
黒いマグナ・マーレイから放たれた凝縮されたビームが、レジアとアーシィの間に割って入った。
「ちっ!!もう来た」
レジアは、マデアのマグナ・マーレイに対して、ヴェスバーで牽制する。
「アーシィさん、一度戻って!!このままじゃ墜とされる!!そのままじゃ帰れないならっ!!」
ニコルはウォーバードのビームサーベルで、白いマグナ・マーレイの右腕を斬り落とす。
「これで帰れるでしょ??アンタも、一度帰ってくれ!!」
ミノフスキー・ドライブの加速は異常だ。
一瞬で黒いマグナ・マーレイの間合いに入ると、ウォーバードはショルダー・タックルを食らわす。
「ぐわっ!!この加速は何だ??そして、このパイロット…………先程とはプレッシャーがまるで違う……………」
体勢の崩れたマデアのマグナ・マーレイに、トライバード・アサルトが迫る。
「ニコルの様子もおかしい…………今は、生き残る事が優先か…………」
レジアの操作で、トライバード・アサルトのビームサーベルが伸びていく。
「ビームサーベルが伸びた??ロング・ビームサーベルだとっ!!」
間一髪でロング・ビームサーベルを受けたマデアも、アーシィの様子がおかしい事に気付いていた。
「うおおぉぉぉっ!!」
レジアは気迫でロング・ビームサーベルを振り切ると、黒いマグナ・マーレイは後方に弾け飛んだ。
「ガンダム!!なんてパワーだ…………このガンダムも、レジア・アグナールの力の1つと言う訳か…………」
マデアは、モニター越しにトライバード・アサルトを見る。
「レジア…………君は、リガ・ミリティアを選んだか…………影武者が必要とは言っても、指導者が表に出てこない組織に、信頼性はない。まして、能力の無いジン・ジャハナムがゴロゴロいる組織など…………」
トライバード・アサルトを見ながら、マデアは一瞬悲しそうな顔をした。
そして、そのままアーシィ機を抱えて戦場を離脱していく。
「なんとかなったか…………ニコル、先程の件は後でしっかり説明してもらうぞ!!」
「ああ…………まぁそんな事より、マイは助けられなかったよ………ザンスカールの戦艦に捕獲されたらしい…………」
ニコルの言葉に、レジアは応えられなかった。
ニコルの機体が援護に来た時から、薄々と予測出来ていた事である。
「助けに行く…………と言っても、止められるんだろうな…………マイ…………無事でいてくれ…………」
そう…………まだシークレット・ワンは、戦場から抜け出せていない。
ベスパの張っている防衛線を突破出来ずにいるのだ。
マイを助けに行きたい…………それでも…………レジアは少し考えたが答えが出る訳ではなく、トライバード・アサルトをシークレット・ワンが維持している戦場に機体を向けた。