機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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還る魂

「トライバード・ガンダム!!貴様を墜とせば、その功績でお母さんを地球に連れて行く事が出来るかもしれない!!マデア少佐とならっ!!」

 

 アーシィのマグナ・マーレイは、リフレクター・ビットを使って拡散ビームを集束させ、トライバード・アサルト目掛けて放つ。

 

 集束されたビームはIフィールドで防げない為、レジアは回避運動をとるしかない。

 

 回避した先…………そこに、申し合わせたように黒いマグナ・マーレイが待ち構えていた。

 

「お互い、Iフィールドを持っている!!ならば、接近戦で勝負だっ!!」

 

 トライバード・アサルトとマグナ・マーレイ…………

 

 互いのビームサーベルが交錯し、スパークが飛び散る。

 

 トライバード・アサルトはビームサーベルでしか攻撃出来ないが、マグナ・マーレイはリフレクター・ビットの直接攻撃も出来る…………それも2機分だ。

 

 レジアとトライバード・アサルトと言えども、オールレンジ攻撃2機分は流石にキツい。

 

 ビームサーベルの攻撃も、オールレンジ攻撃の合間を縫って的確に行って来る。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

 トライバード・アサルトは、ヴェスバーとビームサーベルで、ギリギリのところで攻撃を避けていた。

 

「トライバードの起動性でも、限界だっ!!このままでは…………」

 

 レジアが限界を感じ始めた、正にその時…………

 

 ドオオォォォン

 

 白いマグナ・マーレイ…………アーシイ機の右肩が爆発した。

 

「なんだ??」

 

 全く予期していなかった方角からの攻撃…………

 

 索敵範囲外から、突然現れた高速の物体…………

 

「速い…………まさか…………ニコルの機体??」

 

「ちっ!!止めを刺さなかったのが、裏目に出たか??しかし、あのガンダムは機能停止していた筈だっ!!」

 

 アーシィとマデアが、モニターでその機影を確認する。

 

 謎の機体……………そう、F90・ウォーバードが戦線に復帰した。

 

 宇宙空間を高速で、一直線に戦場に向かって来る。

 

「このスピードでは、我々を通り越した瞬間にタイムラグが生まれる筈だ!!その間にトライバードを叩く!!2機を相手にするのは厄介だ!!」

 

 Iフィールドを失っているアーシィのマグナ・マーレイは、不意打ちのビームライフルの一撃を受けてしまったが、通常のビーム兵器の射線さえ分かっていれば、リフレクター・ビットで対応出来る。

 

 そして、アーシィのマグナ・マーレイに致命傷を与えられないまま、マデアの読み通りにF90・ウォーバードは、マグナ・マーレイを通過した後の反転に時間がかかった。

 

「今だ!!ありったけのリフレクター・ビットをトライバードに叩き込め!!」

 

 無数の銀色の球体が、トライバード・アサルトに向けて飛び込んで行く。

 

 トライバード・アサルトはヴェスバーを最大出力で放ち、リフレクター・ビットの囲いに穴を開けようとするが…………その穴も2機分のリフレクター・ビットの数で直ぐに塞がれ、脱出口を開けない。

 

 そこに……………ビームサーベルが1本飛んで来る。

 

 そして、リフレクター・ビットの動きが止まった一瞬の隙で、ジェムズガンが飛び込んだ。

 

 飛び込む時に、機体の至る所にリフレクター・ビットによって破損している。

 

 しかし、ジェムズガンのパイロットは、そんな事は気にもしていなかった。

 

「アーシィ、お前にばかり負担をかけて、すまないと思ってる。だが、ザンスカールの……………ベスパのやり方が、正しい訳ない事は分かるだろ!!」

 

「正しい、正しくないなんて関係ない!!私がザンスカールの軍隊を抜ければ、お母さんは薬の支給を受けれなくなって死んじゃう!!それが現実なんだよ!!私達に…………人にとって大切な事って、大切な人を守る事なんじゃないの??」

 

 サイコミュ兵器は、ニュータイプの出す特殊な脳波に反応する…………トライバード・アサルトに狙いを定めていたリフレクター・ビットは、アーシィの感情に反応してしまい、父であるゲルダの乗るジェムズガンを貫いてしまう。

 

「ぐわあぁぁぁぁ」

 

 ゲルダの身体はシートに何度も叩きつけられ、変形したジェムズガンの装甲に圧迫された。

 

「そんな…………お父さん!!わたし…………こんなつもりじゃ…………」

 

 リフレクター・ビットの物理的な直撃により、装甲の歪んだジェムズガンがアーシィの目の前を漂う。

 

「アーシィ…………お前を苦しめるだけの父で、すまなかったな……………だが、何が母さんの幸せか考えろ…………お前の自由を奪うのが母さんの幸せじゃない。親は子供の幸せを感じてる時が、いちばん幸せなんだ………ニコル………アーシィを…………娘を頼む………」

 

 アーシィとゲルダの会話を、ニコルは不思議な感覚の中で聞いていた。

 

 そしてアーシィの言葉は、ニコルの心にも深く突き刺さる。

 

 立場とか所属とか…………そんな事より、大切な人を救えない事が、どんなに辛くて悲しい事か…………

 

 たった今、ニコルは感じて来た所だった。

 

「ニコル…………戦争が長く続けば続く程、俺たちみたいな人が増えていく…………止めてくれ………この哀しみの連鎖を…………」

 

 肺にも装甲の破片が食い込んでいるのだろうか………ゲルダは呼吸するのも辛い状況で、それでもF・90ウォーバードのいる方角に手を伸ばす。

 

「アーシィを…………そして、地球に下りたスージィを…………」

 

 そこまで言ったゲルダの視界が、光に包まれる。

 

 ジェムズガンが爆発する時に発生する光…………その光を見た瞬間、ゲルダの魂は天に還っていった…………

 


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