機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

80 / 237
連邦軍との出会い

「お前、本当にリガ・ミリティアのパイロットか??F90に新型のミッションパックを任される程のパイロットには、とても見えないが…………」

 

「なんだって!!こう見えても、一応ニュータイプだぜ!!」

 

 ニコルはF90ウォーバードと共に、連邦軍のカイラム級の戦艦に収容されていた。

 

 ニコルの幼い顔立ちと、身体の小ささが実年齢より若く見え、連邦の軍人達は若干緊張感が緩んでいる。

 

 ガンダム・タイプのモビルスーツと、少年のようなパイロット…………

 

 この組み合わせで、ガンダム伝説を想像しない連邦の軍人はいない。

 

 連邦軍に勝利と奇跡を見せてきた組み合わせに、興奮している連邦の兵士もいる。

 

「だがよ…………ミノフスキー・ドライブの開発は、サナリィが最先端だった筈だ。そのサナリィは、ザンスカールに接収されている。貴様、ザンスカールのスパイって事は無ぇよな??」

 

 ニコルの前に突如現れた、無骨な大男…………ガルド・コードウェルは、その鋭い眼光をニコルに向けた。

 

「なっ……………ちげーよ!!こっちは、たった今、そのザンスカールの新型の黒い奴にボコボコにされたトコだよ!!」

 

 睨まれた事と、手も足も出せずに完敗した記憶が思い起こされ、ニコルの言葉は荒くなる。

 

「少年、別に疑っている訳じゃないさ。君を助けたのも、ザンスカールと戦っているモビルスーツを見つけて、状況を見極める為にその宙域に行ったら、F90が漂っていたのを確認したって訳だからな」

 

 ジャベリン隊の隊長であるエルネスティ・アーサーは、ガルドを飛び越えてニコルの前に出た。

 

「おいエル。お前は、いつも甘いんだよ!!ミノフスキー・ドライブの技術は、レジスタンス如きが開発出来るような甘い代物じゃない。優秀な技術者もそうだが、金もいる。レジスタンスに、その両方が備わっている訳が無い」

 

「だから、コイツはザンスカールのモビルスーツだって訳か??だったら、その最新技術を俺達に奪われるなんて、ザンスカールが許すかね??コイツがザンスカールの物なら、今頃この艦は墜とされてるぜ」

 

 F90・ウォーバードを見ながら、エルネスティはガルドの肩を叩く。

 

「なぁ、オレが戦っているの見てたなら、その前に脱出艇が通り抜けるの見なかった??ソイツに、オレの幼なじみが乗っていたんだ!!」

 

 エルネスティは話が通じそうだ………そう感じたニコルは、思わず詰め寄っていた。

 

「脱出艇??そういえば、ザンスカールの戦艦の方に飛んでった飛行物があったな…………アレの事か??」

 

 エルネスティは考え込みながら、その時の状況を思いだそうとする。

 

「アレなら、戦艦に回収されたんじゃないのか??爆発は確認出来なかったし、戦艦を通り過ぎたようにも見えなかったぞ」 

 

 その様子を見ながら、ガルドは思い出しながら言う。

 

「なんてこった!!くそっ、オレにモビルスーツを借してくれ!!」

 

 跳び出そうとするニコルの襟を、ガルドが摘む。

 

「おいおい、連邦軍のモビルスーツを、簡単に持ち出せる訳ないだろ!!しかも、素性すら分からん貴様に、渡せるモビルスーツなど無い!!」

 

 持ってる襟を放され、ニコルは地面に落ちる。

 

「まぁ、ガルドの言う通りだな。軍の兵器の使用には、手続きってモンが必要になる。それに、ザンスカールの戦艦に単機で突っ込むつもりか??死んで終わりだ。何にもならんぞ??」

 

「けど、オレはマイの救出を託されたんだ!!助けないと、皆に会わせる顔がねぇ!!」

 

 叫びながら飛び上がるニコルを再びキャッチしたガルドが、今度は横に放り投げた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 ガラガラガラ………

 

 壁に立て掛けられていた機材にニコルが衝突し、物音を立てて崩れ落ちる。

 

「くそっ!!何しやがる!!」

 

「落ち着け!!エルも言っただろ??無駄死にするだけだ。1度自分の部隊に戻って、作戦を練り直せ!!」

 

 ニコルはF90・ウォーバードを見て…………そして、悔しさを滲ませた。

 

 ガルドの言葉を真に受けるなら、ウォーバードのミッションパックの開発は、かなりの時間と資金を投入した筈である。

 

 その機体を使っていながら、敵のモビルスーツに簡単に倒され、幼なじみの…………レジアの恋人も助けられずに…………

 

 ニコルの瞳からは、自然と涙が零れた。

 

「まったくよぉ…………さっきまで暴れてたと思ったら、調子狂うぜ…………どうしたモンかな??」

 

「ガルド、コイツの新技術…………ミノフスキー・ドライブと言ったか…………コイツの技術を貰えれば、この少年の機体を動けるようにしてやってもいいんじゃないか??」

 

 エルネスティの提案に、ニコルとガルドが驚いた顔をする。

 

 ガルドは、その無骨な感じに太い腕に似合わず、繊細な作業も軽々とこなす凄腕のメカニックだ。

 

 確かに、F90・ウォーバードは電気系のトラブルで、少し弄ってやれば直りそうだが…………

 

「そもそもコイツを助けた時点で、ミノフスキー・ドライブの技術のコピーは確定だ。別にコッチにメリットは無いぞ」

 

 ガルドは、その言葉とは裏腹に少し笑っている。

 

 戦争中にも関わらず人間臭さが残るニコルに、ガルドは好意を抱き始めていた。

 

「それに、その技術が確立されたら、この腐った連邦軍を変えようって奴も出て来るかもしれん…………ザンスカールの独立を許し、その対応をレジスタンスに任せっぱなしの連邦軍をな…………」

 

 エルネスティは、連邦軍が変わる事を願っている。

 

 その為にも、この状況は利用したいと思う。

 

「少年、F90を直すが、ザンスカールの戦艦に向かうのは禁止だ。リガ・ミリティアの部隊に戻って、対策を練り直せ。我々としても、せっかく手に入れたミノフスキー・ドライブの技術を、直ぐにザンスカールに奪われるのは面白くない」

 

「……………分かったよ。確かに、このままザンスカールの戦艦に行ってもマイは助けられない…………」

 

 冷静に考えれば、マイを助けに行っても、良い事は何も無い。

 

 エルネスティの言う通り、ウォーバードが捕まれば、ミノフスキー・ドライブの技術が盗まれる。

 

 それに、F90でマイを助けに行けば、マイがリガ・ミリティアの関係者とバラす様なもので、立場を危うくしかねない。

 

「オレからも…………1つだけお願いしたい。ミノフスキー・ドライブの技術を、リガ・ミリティアと敵対する為に使わないって約束してくれ。コイツには、この戦いで散ったリファリアさんや、ミューラさんの想いが詰まってるんだ………」

 

 ガルドは静かに頷いた。

 

 先程も述べたが、レジスタンスが新技術を開発する事は、並大抵ではない。

 

 その技術が流れてしまう事の重大さを、ガルドは理解していた。

 

「大丈夫だ。運良く、この艦はリガ・ミリティア寄りの考えの奴が多い。

 連邦軍も全てが腐ってる訳じゃねぇ!!ミノフスキー・ドライブの技術開発は、いずれリガ・ミリティアにも還元してやるぜ!!」

 

「そうだな…………今の我々の力は小さいが、連邦軍が必ず君達の横で戦う日が来る。それまで…………もう少し踏ん張ってくれ」

 

 ガルドの言葉に、エルネスティも続く。

 

「俺達も、今が正念場だ…………ウォーバード、もう少しだけ、オレに付き合ってくれ…………」

 

 作業に入るガルドを横目に、ニコルはF90ウォーバードを見上げた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。