「お父さん!!自分が何しているか、分かっているの??お母さんの命は、どうでもいい訳??」
お肌の触れ合い回線のまま、アーシィは叫んだ。
父に邪魔される程、自分のザンスカールでの居場所が無くなる。
腕の良い技術者である父をザンスカールが放っておく訳がなく、幾度となく勧誘の手が伸びた。
それを跳ね退け続ける父………それでも、母に薬が支給されているのは、アーシィがニュータイプであるからでしかない。
そのためアーシィは、スパイ容疑がかけられたり、厭味を言われたり…………辛い毎日を送っている。
それでも、サナリィの友人や仲間をザンスカールに殺されている父に、アーシィは強く言えなかった。
ただ、自分の邪魔だけはしないで欲しい…………任務の失敗は、直ぐに母の薬の支給を止められる事を意味する。
「私の邪魔だけはしないで!!お母さんを救いたいって気持ちは、お父さんだって一緒でしょ??」
「勿論だ!!母さんを救いたいって気持ちは、当然オレにもある!!だがな、間違っていると分かっている組織に手を貸して…………それで母さんを助けても、それを喜んでくれる筈がないだろ!!」
ゲルダの言葉に怒りが込み上げて来たアーシィは、マグナ・マーレイのコクピット・ハッチを開く。
それを見たゲルダも、ジェムズガンのハッチを開ける。
「お父さん!!何、ロマンチスト気取ってんの!!そんなの、男のエゴじゃない!!お母さんは、毎日苦しい思いをしてるのよ!!リガ・ミリティアにいたら、当然アメリアには戻って来れない!!もう何ヶ月、お母さんに会ってない??」
アーシィの剣幕に、ゲルダは思わず後退りした。
アーシィの言っている事は、全て正しいと思う。
妻は自分のやっている事を信じて、許してくれている…………ゲルダは、そう思いたいだけでしかない。
そんな自分の気持ちを見透かされている…………ゲルダは恥ずかしくなった。
ザンスカールのモビルスーツ開発に協力して、妻に毎日でも会いたい…………本音を言えば、そうだ。
ゲルダはそう思う度に、イエロージャケットがサナリィに攻め込んで来た日を………娘に銃口が向けられた恐怖を…………そして、自分の身を犠牲にして娘を助けてくれたレジアの母を思い出す。
とてもザンスカールに協力など出来ない。
それが自己満足でしかないと言われれば、そうかもしれない…………妻から言わせれば、どうでもいいと言われるかもしれない…………それでも、ゲルダは見てしまった。
ザンスカールの…………イエロージャケットの非道さを…………
「アーシィ…………分かってるんだ…………オレにだって分かってる。1番大切なのは家族って事ぐらい…………でも…………でもな…………レジアの母親はスージィの命を守ってくれた。その息子が、ザンスカールと戦っている。娘を救ってくれた人の息子を守りたい。そして、リガ・ミリティアを…………世界を救うモビルスーツを開発したい…………それが終われば、オレはザンスカールに協力するよ…………」
「そんなの!!一体いつになるわけ??お母さんの体は、もう時間が無いんだよ??イエロージャケットの地球降下作戦が成功して、お母さんを地球に降ろせれば、命が助かる!!一刻も早く、地球に侵攻しなきゃいけないのよ!!」
アーシィはマグナ・マーレイの装甲を1度叩くと、コクピットに滑り込んだ。
アーシィの瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。
自分が言った事は、多くの命を奪う事…………そんな考えが、父の嫌悪感に繋がっていると分かっているのに…………
「とにかく、お母さんを救いたいなら、私の邪魔だけはしないで!!」
マグナ・マーレイは、ウォーバードを追って宇宙に続くハッチに向けて飛び出した。
宇宙での戦闘は混戦になっており、ガンダムF90・ウォーバードはザンスカールのモビルスーツ隊に足止めをされている状態である。
コロニーから出たウォーバードを待っていたのは、シークレット・ワンに攻撃を仕掛けようとしていたモビルスーツ隊だった。
ラング主体のモビルスーツ隊である為に、ウォーバードの敵ではない。
しかし、1対1のモビルスーツ戦なら圧倒するであろうウォーバードでも、その高速の動きの為、攻撃がヒットアンドアウェイになってしまう。
そのためザンスカールのモビルスーツ隊は、シークレット・ワンにジリジリと近付いていき、ニコルはその場をなかなか離れられない。
「くそっ!!先攻して出ていたガンイージ隊に、艦の護衛をする余裕が無いのか??ニコルが足止めされていては、マイの乗る脱出艇をトレース出来なくなる!!」
「そうね…………でも、皆は精一杯だわ…………」
レジアの焦りの叫びを耳にしたミューラは、唇を噛む。
なんとか、マイを救いたい。
ただ、優先すべきはシークレット・ワンを守る事。
失われる命の量が、圧倒的に違いすぎる。
戦艦一隻と、1人の命を量りにかけたら、答は決まっていた。
「もう少ししたら、羽付きのニュータイプ専用機も宇宙に出て来る。そうしたら、ニコルにはシークレット・ワンを守るのに専念してもらわないと…………」
モビルスーツ・デッキに眠るトライバード・ガンダムは、復活の時を待ってはいるが、もう少し時間がかかりそうだ。
その時、モニターに黄色い閃光がラングを貫く映像が映る。
「ニコル!!話は聞いたわ!!ここは私達に任せて、あなたはマイを!!」
シークレット・ワンから放出されたビームバズーカを抱えたガンイージが、ウォーバードの横に飛んで来た。
その上から、更にラング隊にビームの雨を降らせるモビルスーツ…………ジェムズガン・ツインテールも、ビームバズーカで射撃をしている。
「あらあら…………この程度の敵を圧倒出来ないなんて…………リファリアの残したツインテールの方が、ミノフスキー・ドライブより使えるんじゃないかしら??」
「あんだ??ミノフスキー・ドライブが悪ぃってより、ニコルの腕が未熟なんだろ??素人は邪魔だから、とっとと幼なじみを探しに行けよ!!」
ビームサーベルでラングを串刺しにしたガンイージからも、その声が届く。
「マヘリアさん………それに皆…………よく無事で…………」
マヘリアにリースティーアにヘレン…………
ウォーバードが劣勢と見て、シークレット・ワンの近くまで後退して来た。
「ニコルさん!!早く行って下さい!!ここは私達に任せて………シークレット・ワンは、必ず守りますから!!」
クレナのガンイージも、シークレット・ワンの護衛に戻って来る。
(このままじゃ…………この宙域に出てたザンスカールの全てのモビルスーツが、シークレット・ワンに集まって来る。そんなリスクを侵してまで、マイの事を…………)
ニコルは胸が熱くなった。
「すまない皆!!マイを連れて、直ぐに戻って来る!!」
操縦管を思い切り倒し、ウォーバードを加速させるニコル。
そうはさせまいと目の前に飛び出したザンスカールの新型モビルスーツ、ゾロアットがウォーバードの放つ閃光に触れて一瞬で大破する。
「駆け抜けろウォーバード!!マイを…………皆を救う為に!!」
閃光と化したウォーバードが、マイの乗る脱出艇との距離をグングン詰める。
その脱出艇に、黒いモビルスーツが迫っていた……………