機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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父と娘2

 

「お父さん!!自分が何しているか、分かっているの??お母さんの命は、どうでもいい訳??」

 

 お肌の触れ合い回線のまま、アーシィは叫んだ。

 

 父に邪魔される程、自分のザンスカールでの居場所が無くなる。

 

 腕の良い技術者である父をザンスカールが放っておく訳がなく、幾度となく勧誘の手が伸びた。

 

 それを跳ね退け続ける父………それでも、母に薬が支給されているのは、アーシィがニュータイプであるからでしかない。

 

 そのためアーシィは、スパイ容疑がかけられたり、厭味を言われたり…………辛い毎日を送っている。

 

 それでも、サナリィの友人や仲間をザンスカールに殺されている父に、アーシィは強く言えなかった。

 

 ただ、自分の邪魔だけはしないで欲しい…………任務の失敗は、直ぐに母の薬の支給を止められる事を意味する。

 

「私の邪魔だけはしないで!!お母さんを救いたいって気持ちは、お父さんだって一緒でしょ??」

 

「勿論だ!!母さんを救いたいって気持ちは、当然オレにもある!!だがな、間違っていると分かっている組織に手を貸して…………それで母さんを助けても、それを喜んでくれる筈がないだろ!!」

 

 ゲルダの言葉に怒りが込み上げて来たアーシィは、マグナ・マーレイのコクピット・ハッチを開く。

 

 それを見たゲルダも、ジェムズガンのハッチを開ける。

 

「お父さん!!何、ロマンチスト気取ってんの!!そんなの、男のエゴじゃない!!お母さんは、毎日苦しい思いをしてるのよ!!リガ・ミリティアにいたら、当然アメリアには戻って来れない!!もう何ヶ月、お母さんに会ってない??」

 

 アーシィの剣幕に、ゲルダは思わず後退りした。

 

 アーシィの言っている事は、全て正しいと思う。

 

 妻は自分のやっている事を信じて、許してくれている…………ゲルダは、そう思いたいだけでしかない。

 

 そんな自分の気持ちを見透かされている…………ゲルダは恥ずかしくなった。

 

 ザンスカールのモビルスーツ開発に協力して、妻に毎日でも会いたい…………本音を言えば、そうだ。

 

 ゲルダはそう思う度に、イエロージャケットがサナリィに攻め込んで来た日を………娘に銃口が向けられた恐怖を…………そして、自分の身を犠牲にして娘を助けてくれたレジアの母を思い出す。

 

 とてもザンスカールに協力など出来ない。

 

 それが自己満足でしかないと言われれば、そうかもしれない…………妻から言わせれば、どうでもいいと言われるかもしれない…………それでも、ゲルダは見てしまった。

 

 ザンスカールの…………イエロージャケットの非道さを…………

 

「アーシィ…………分かってるんだ…………オレにだって分かってる。1番大切なのは家族って事ぐらい…………でも…………でもな…………レジアの母親はスージィの命を守ってくれた。その息子が、ザンスカールと戦っている。娘を救ってくれた人の息子を守りたい。そして、リガ・ミリティアを…………世界を救うモビルスーツを開発したい…………それが終われば、オレはザンスカールに協力するよ…………」

 

「そんなの!!一体いつになるわけ??お母さんの体は、もう時間が無いんだよ??イエロージャケットの地球降下作戦が成功して、お母さんを地球に降ろせれば、命が助かる!!一刻も早く、地球に侵攻しなきゃいけないのよ!!」

 

 アーシィはマグナ・マーレイの装甲を1度叩くと、コクピットに滑り込んだ。

 

 アーシィの瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。

 

 自分が言った事は、多くの命を奪う事…………そんな考えが、父の嫌悪感に繋がっていると分かっているのに…………

 

「とにかく、お母さんを救いたいなら、私の邪魔だけはしないで!!」

 

 マグナ・マーレイは、ウォーバードを追って宇宙に続くハッチに向けて飛び出した。  

 

 

 宇宙での戦闘は混戦になっており、ガンダムF90・ウォーバードはザンスカールのモビルスーツ隊に足止めをされている状態である。

 

 コロニーから出たウォーバードを待っていたのは、シークレット・ワンに攻撃を仕掛けようとしていたモビルスーツ隊だった。

 

 ラング主体のモビルスーツ隊である為に、ウォーバードの敵ではない。

 

 しかし、1対1のモビルスーツ戦なら圧倒するであろうウォーバードでも、その高速の動きの為、攻撃がヒットアンドアウェイになってしまう。

 

 そのためザンスカールのモビルスーツ隊は、シークレット・ワンにジリジリと近付いていき、ニコルはその場をなかなか離れられない。

 

「くそっ!!先攻して出ていたガンイージ隊に、艦の護衛をする余裕が無いのか??ニコルが足止めされていては、マイの乗る脱出艇をトレース出来なくなる!!」

 

「そうね…………でも、皆は精一杯だわ…………」

 

 レジアの焦りの叫びを耳にしたミューラは、唇を噛む。

 

 なんとか、マイを救いたい。

 

 ただ、優先すべきはシークレット・ワンを守る事。

 

 失われる命の量が、圧倒的に違いすぎる。

 

 戦艦一隻と、1人の命を量りにかけたら、答は決まっていた。

 

「もう少ししたら、羽付きのニュータイプ専用機も宇宙に出て来る。そうしたら、ニコルにはシークレット・ワンを守るのに専念してもらわないと…………」

 

 モビルスーツ・デッキに眠るトライバード・ガンダムは、復活の時を待ってはいるが、もう少し時間がかかりそうだ。

 

 その時、モニターに黄色い閃光がラングを貫く映像が映る。

 

「ニコル!!話は聞いたわ!!ここは私達に任せて、あなたはマイを!!」

 

 シークレット・ワンから放出されたビームバズーカを抱えたガンイージが、ウォーバードの横に飛んで来た。

 

 その上から、更にラング隊にビームの雨を降らせるモビルスーツ…………ジェムズガン・ツインテールも、ビームバズーカで射撃をしている。

 

「あらあら…………この程度の敵を圧倒出来ないなんて…………リファリアの残したツインテールの方が、ミノフスキー・ドライブより使えるんじゃないかしら??」

 

「あんだ??ミノフスキー・ドライブが悪ぃってより、ニコルの腕が未熟なんだろ??素人は邪魔だから、とっとと幼なじみを探しに行けよ!!」

 

 ビームサーベルでラングを串刺しにしたガンイージからも、その声が届く。

 

「マヘリアさん………それに皆…………よく無事で…………」

 

 マヘリアにリースティーアにヘレン…………

 

 ウォーバードが劣勢と見て、シークレット・ワンの近くまで後退して来た。

 

「ニコルさん!!早く行って下さい!!ここは私達に任せて………シークレット・ワンは、必ず守りますから!!」

 

 クレナのガンイージも、シークレット・ワンの護衛に戻って来る。

 

(このままじゃ…………この宙域に出てたザンスカールの全てのモビルスーツが、シークレット・ワンに集まって来る。そんなリスクを侵してまで、マイの事を…………)

 

 ニコルは胸が熱くなった。

 

「すまない皆!!マイを連れて、直ぐに戻って来る!!」

 

 操縦管を思い切り倒し、ウォーバードを加速させるニコル。

 

 そうはさせまいと目の前に飛び出したザンスカールの新型モビルスーツ、ゾロアットがウォーバードの放つ閃光に触れて一瞬で大破する。

 

「駆け抜けろウォーバード!!マイを…………皆を救う為に!!」

 

 閃光と化したウォーバードが、マイの乗る脱出艇との距離をグングン詰める。

 

 その脱出艇に、黒いモビルスーツが迫っていた……………

 


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