月面都市[セント・ジョセフ]より車で数時間走った所に、リガ・ミリティアの秘密基地のあるホラズムはある。
「ボイズンさん、こちらです」
ホラズムに入ると、既にリガ・ミリティアのメンバーが待ち構えており、ニコル達はすぐにモビルスーツ搬入口に案内された。
「月面って都市のあるとこ以外、何もないんだな」
ニコルは谷の様になっている月面の道を見て、まるで無機質で暖かみの無い台地だと思う。
岩と大地が灰色に見え、自分の瞳から色が失われたんじゃないかと思える程だ。
「こんなトコに住んでたら、地球に行きたくなる気持ち………分かるよね………」
いつものような明るい声じゃないマヘリアの言葉に、ニコルも真面目な顔で頷いた。
地球には不法居住者による集落か、特別区と呼ばれる上流層や連邦士官の家族が暮らす街しかない。
スペースノイドが地球を目指す理由が、ニコルには少し分かった気がした。
「パイロットはこちらに、ボイズンさんは付いて来て下さい」
「分かった。じゃあ、後でな。ニコルはマヘリアに付いて行って、モビルスーツの勉強して来い」
ボイズンはそう言うと、通路に消えていく。
ニコルとマヘリアがボイズンと別れ、連れて来られたのはモビルスーツのファクトリーだった。
「お客さんかい?あんた達がイージを運んできてくれたのか?礼を言うよ」
白いモビルスーツの整備をしていた白髪のオバサンが、ニコル達を見つけて声を上げた。
ニコルはその声がした方に目を向けて………そして言葉を失ってしまう………
「ガ…………ガンダム………」
ニコルは、驚きの声を上げる。
雑誌の特集記事でしか見た事のない、いつの時代でも救世主のように現れる伝説の機体………
それが、目の前にあるのだ。
そんなニコルを見てか、ガンダムのコクピットから笑い声が聞こえた。
「そんなに驚いてくれるとは、嬉しいなぁ!!なぁ、エステルのばぁさん」
コクピットから、ボサボサ頭のレジアが顔を覗かせる。
「レ………レジア・アグナール………リガ・ミリティアの超エースに、こんな所で逢えるなんて!!」
今度はマヘリアが、ニコルとは違う意味での感嘆の声を発した。
「超エースなんて、恥ずかしいな。そんなに凄いかな?オレ??」
「凄かない!!アホな事言ってないで、手ぇ動かしな!!」
エステルが近くにあった工具箱からスパナを取り出し、レジアに向かって勢いよく放り投げる!!
「うわあぁぁ!!馬鹿野郎!!ホントに当たったらどーすんだ!!てか、オレのトライバードに傷がっ!!」
コクピットのすぐ横で激しい金属音を奏でてぶつかったスパナは、ゆっくり床に降下していく。
「なんか楽しい職場ですね!!!私、ここでならウマくやってけそう♪ねっニコル♪」
「オレを巻き込まないで下さい!!!って、ガンダムの後ろにも、もう1機モビルスーツが………」
白く輝く伝説のモビルスーツに隠れるように、ガンイージの目の部分にサングラスをかけたような、濃蒼のモビルスーツが立っている。
その手には、モビルスーツの身長ほどあろうかと思われるぐらいのビーム砲を持っていた。
「そいつに興味があるのかい?その[ガンスナイパー]は、メガ・ビームライフルとコア・ブロックシステムの試作機さ。新ガンダムはコア・ブロックシステムを採用するみたいだからね」
「そうなんですか………けど、そんな重要な情報、オレ達に与えていいんですか?」
ニコルの言葉にエステルは一瞬言葉を飲み込み複雑な顔になったが、すぐに豪快な笑みが戻っていた。
「なに、ボイズンが連れて来たんだ。信用出来るだろ。それに、ガンスナイパーはまだ完成してないからね………」
エステルが、次の言葉を発しようとした瞬間………
ブォー!!ブォー!!
エステルの言葉を遮るように急に警報が鳴り出し、メカニックやリガ・ミリティアのメンバーの動きが慌ただしくなった。