「ニコル!!そろそろ、F90・Wタイプの換装作業終わるぞ!!いつでも出れるように、準備しとけ!!」
ゲルダの声が聞こえた為、ニコルはジュースを飲んでいたストローを口から離し、マニュアルを片手にF90のコクピットに滑り込んだ。
「この中、タバコ臭ぇなぁ…………しかも、プロシュエールの体臭混じりで、鼻が曲がりそうだぜ!!」
ニコルはブツブツ言いながらもコクピットに収まり、モビルスーツの起動シークエンスを開始する。
「仕方ねぇだろ!!使えるF90は、プロシュエールのF(ファイト)タイプだけだったんだ。少し我慢しろ!!」
実際にモビルスーツのコクピットでタバコを吸っている訳では無いが、タバコを吸わないニコルには、シートに染み付いた臭いだけで頭が痛くなった。
「ニコル、コイツの機動性に振り回されたら、余計に気持ち悪くなるぞ。今の内に、その臭いには慣れておけよ!!」
「そうか…………本来このミッション・パックは、強度のある装甲とフレームじゃないと、機動力に耐えきれないってミューラさんが言ってたな…………こりゃ、マヂで吐くかもしんねぇぞ…………」
ゲルダの言葉で、無理な換装を行っている事を思い出したニコルは、気を引締める。
「そういう事だ。W………ウォーバードは、ミノフスキー・ドライブを搭載している。操作を間違えれば、機体ごとバラバラに吹っ飛ぶぞ!!」
「了解!!臭いを気にしている余裕は無いって事は、理解したよ!!それで、外の状況はどうなってんの??」
ニコルは、マグナ・マーレイとアーシィの強さを、先の戦闘で実際に肌で感じていた。
だからこそGキャノンと、リファリアのF90だけで戦っているコロニー内の戦闘が、ニコルは気になって仕方ない。
「ニコル…………焦るな…………リファリア達は善戦してる。焦ったって、何も変わらないんだ。お前は落ち着いて、やれる事をやればいい」
ゲルダの言葉に、ニコルは何かを思い出したかのように首を振って、小声で話し始めた。
「新型のパイロットは……………アーシィさんなんだ。今まで言うタイミングなくて…………他のクルーの目もあったから、言えなかったけど…………」
ゲルダは作業の手を一瞬止めたが、すぐに手を動かし始める。
「アーシィは……………今は敵だ!!ニコル、お前は仲間を守る為に…………全力で戦ってこい!!じゃなきゃ、死ぬのはお前だぞ!!」
ニコルは無言のまま何か考え込んでいるが、ゲルダは話しを続ける。
「ありがとな…………俺も、娘の事…………家族の事…………色々考えてはいるんだ。だが、戦場で会ったら、今はまだ敵同士だ。躊躇えばニコル、お前でも危険な相手だ。俺が言うのも何だが、娘は質の高いニュータイプなんだ………」
ニコルはコクピットの中で、それは分かっていると言わんばかりに頷いた。
ゲルダは既に、アーシィが新型のパイロットだと感覚的に分かっていたのかも知れない。
それでも自分を気遣うゲルダの物言いに、ニコルは内から力が沸き上がる気がした。
(アーシィさんも、皆も、俺が守ってみせる!!機体バランスが悪くたって…………このモビルスーツは、皆の技術の結晶なんだ。コイツで………皆の未来を繋げてみせる!!)
ニコルは、力強く操縦桿を握りしめる。
「換装作業終了だ!!シェイクダウン無しだが…………お前ならやれる!!コロニー側のハッチ開け!!頼むぞニコル!!」
ゲルダの声に、ニコルは力強く頷く。
「ガンダムF90・ウォーバード!!ニコル・オレスケス………出ます!!」
ゲルダの声に押されるように、F90・ウォーバードがコロニーの大地に飛び出した………
飛び出して直ぐに、リファリアのF90が墜とされる映像が、モニター越しに飛び込む。
「リファリアさんっ!!ちくしょう!!間に合わなかったのか!!」
ニコルは操縦桿を軽く押し込み、F90・ウォーバードを加速させる。
(うわっ!!なんて加速だっ!!まともな操縦なんか出来ないぞ、コレ!!)
マグナ・マーレイの放った拡散ビームは一瞬で目標を見失い、そのビームは何も無い空間を切り裂いていく。
F90・ウォーバードは、その加速のまま、マグナ・マーレイ目掛けて飛び込んでいく。
その右手にはビームサーベルが握られている。
「まだ、コイツのスピードに慣れない。掠めただけか!!」
F90・ウォーバードのスピードに対応出来ていないマグナ・マーレイはその一撃を受けるが、ニコルもまた機体のコントロールが出来ていない。
ウォーバードのビームサーベルは、マグナ・マーレイの機体表面を焼いただけである。
(パイロットは…………やっぱりアーシィさんなんだろうな…………いや、今は余計な事を考えるな!!)
ニコルは迷いを振り切るように、目の前のマグナ・マーレイを睨みつけた。