ファンファンファンファンファン…………
警戒音が鳴り響き、警備兵が居住区に入っていく。
「くそっ!!バレるのが早すぎるだろっ!!これじゃあ、格納庫に行って脱出どころじゃねーな!!噂の新造戦艦に身を隠すか…………」
既に居住区の端に移動していたプロシュエールは、基地内の格納庫に行くより距離の近い新造戦艦へのルートを携帯端末で確認すると、警備兵の動きを確認しながらマイを抱えたまま走り出す。
見つかる可能性が高まった今、プロシュエールは、より人質がいた方が有利だと考えていた。
細い通路を抜け新造戦艦に到達したプロシュエールは、近くにあった扉を開く。
スパイは居住区にいる…………そう伝えられていた戦艦のクルー達は、自分達の作業に追われていて、プロシュエールが目に入らなかった。
ザンスカールに基地を制圧されるより早く、新造戦艦を動かさなければならない。
時間の限られた中での作業は、他の者の動きを見る余裕が無かった…………その状況が、プロシュエールにとっては都合よく働いた。
「よし、意外と呆気なく入れたな…………このまま、モビルスーツ・デッキに行ければ、モビルスーツを奪って逃げれるんだが……………」
プロシュエールは慎重に、かつ急ぎながらモビルスーツ・デッキに向かう。
女性クルーが倒れていたので、医務室に連れて行く…………プロシュエールはそう言いながら、戦艦のクルー達の目を上手くすり抜けて、モビルスーツ・デッキの扉の前に到着した。
その扉の窓から中を覗くと、中にミューラとレジアの姿がある。
(あの2人がいるなら、こいつがいると刺激しちまうか??さっきの警報…………オレのスパイ容疑を知ってると見るべきだ。ここまでは上手く顔を伏せて誤魔化して来れたが、ここからは更に慎重に行かねーとな………)
プロシュエールはマイを連れて中に入るか迷った結果、通路に放置し救出されるより、人質として利用出来るように身近に置いておく方を選んだ。
モビルスーツ・デッキに入った瞬間に、確実にバレる…………なら、始めから人質として使った方が有効だろう。
窓越しにモビルスーツの場所を確認し、意を決してプロシュエールは扉を開けてモビルスーツ・デッキに侵入する。
やはり…………モビルスーツ・デッキの中にいる限られた人間しかいない中で、突然侵入して来た人間は異質だった。
「おい、プロシュエールがいるぞ!!マイさんも一緒だっ!!」
整備士の1人が、プロシュエールの侵入に直ぐに気付く。
その声に、レジアの身体が反応した。
「プロシュエール!!貴様、何故マイを連れている!!」
床を思い切り蹴ったレジアは、軽い重力の中で一瞬でプロシュエールとの距離を詰める。
「おっと!!お前さんと、まともにやり合う気はねぇよ!!」
プロシュエールは、まるで予定通りと言うようにマイの頭に銃口を突き付けた。
レジアは飛びかかろうとする動作を無理矢理に止めて、逆にプロシュエールとの距離をとる。
「プロシュエール!!抵抗の出来ない女性の頭に銃口を…………プライドはないのかっ!!」
動かないマイの体を見ながらレジアは叫ぶが、プロシュエールは動じない。
「オレがそんな人間だって、分かってるだろ??今更、プライドがどうこう言うつもりもねぇ!!それより、使えるモビルスーツを1機もらおうかっ!!とっとと準備しろっ!!」
プロシュエールの言葉に、モビルスーツ・デッキのスタッフ達は作業の手を止めザワつき始める。
「皆、状況が状況だけど、作業を続けて!!トライバードの換装を急がないと、外で戦ってる皆を助けに行けなくなる!!レジアも、一度下がって!!パイロットの貴方が怪我でもしたら、基地の外で…………貴方を待って戦っている仲間達に、なんて言うつもりっ!!」
ミューラが声を荒げながら、レジアを制してプロシュエールの前に立った。
「ミューラ!!モビルスーツを用意しろ!!コイツの頭が吹き飛んでもいいのか??レジアが使い物にならなくなるぜ!!」
プロシュエールは大声で周囲を威嚇しながら、少しづつ歩を進める。
その方向に、緊急時の脱出艇がある事をプロシュエールは知っていた。
プロシュエールがジリジリと脱出艇に近付いて行った時、艦内放送が突然響き渡る。
「全クルーに通達!!これより、基地内に残っている全ての人の収容に入る!!スムーズに誘導出来るよう、各員持ち場につけ!!」
艦長スフィアの声で、戦艦内のクルーが慌ただしく動き始めた。
しかし、モビルスーツ・デッキだけは、緊張感のある空気が流れ続ける。
「ちっ!!艦が動くのか!!こりゃ、時間をかける訳にはいかねぇな…………とっとと、モビルスーツを用意するんだ!!」
唇を噛むレジアを自分の体で隠しながら、ミューラは叫ぶプロシュエールの前に立った。