「あらあら、そんな新装備があるなら、私にF90を任せてもらえないかしら??慣れてない坊やに、貴重な機体を預ける事もないでしょ??」
リースティーアがリファリアに近付こうとするのをニコルは体で止めて、慌てて祈るポーズをする。
「すんません!!リファリア隊長!!オレ、どんな旧式でも頑張りますよ!!オレなんかにモビルスーツを回してもらっちゃって、ありがたいですよ!!だから、そのミッションパックってのオレの機体に付けてね!!」
「ニコル、格好悪い………」
マイは、そんなニコルを呆れた顔で見つめた。
「ところで、F90と言えば…………前回の戦闘で無傷だったのはFタイプだけなんだろ??そのパイロットのプロシュエールは、どこに消えてんだ??」
ヘレンがモビルスーツデッキを見回すが、確かにその姿はない。
「プロシュエールなら、風邪気味とか言ってたからな…………部屋で休んでたんだろうが、さっきの警報で起きて準備でもしてるさ」
「あらあら、お馬鹿さんでも風邪ひくのね。まぁプロシュエールの事だから、もうモビルスーツに乗ってるかもね。前回の戦いでも、1人だけ新型と戦えなかったって悔しがってたし」
リファリアとリースティーアが、口々に言う。
「そんなら、いいか。皆、私達もモビルスーツに!!レジアを待たなくても、私らで新型を喰っちまってもいいんだからね!!」
ヘレンの号令を合図に、パイロット全員が戦艦から基地内の格納庫に移動を開始した。
「あらあら…………これが新装備のブラスター・パッケージ??結構イイじゃない」
基地内の格納庫に入ったリースティーアは、ジェムズガンに装備された羽のようなバックパックに、歓談の声をあげる。
ブラスター・パッケージ…………性能の低いジェムズガンの底上げを目指し、リファリアが開発していたパーツだ。
「ああ、ジェムズガン・ツインテールってな!!高起動に安定性を加えたこの装備なら、質量兵器を宇宙で使ってもバランスを崩さないぜ!!」
ゲルダの言葉に、リースティーアは瞳を輝かせた。
「あら、これなら宇宙でバズーカ使っても大丈夫そうね!!ビームを弾くバタフライ野郎に、一泡吹かせてやれそうだわ!!」
リースティーアの満足そうな顔に、リファリアの顔も一瞬綻ぶ。
「まぁ、コイツも試作品だから、今は1機分しかない。リースティーア、頼むぞ!!」
リファリアに背中を押され、リースティーアはジェムズガン・ツインテールのコクピットに向けて宙を舞う。
「で、オレのWのミッションパックは??どの機体に付いてるんだ??」
ジェムズガン・ツインテールを羨ましそうに見つめていたニコルが、我慢出来ずに口を開く。
「ああ、それが問題だ。Wのミッションパックが実用に堪えれるかも問題なんだが、そもそも取り付ける機体が無い。オレのOタイプか無傷のFタイプかしかないが…………どうするか…………」
リファリアは考え込んでしまう。
「プロシュエールが、Fタイプを手放すとは思えないしね………しかし、作戦指揮にはOタイプは必ず必要だ。悩み所だな…………」
「更に言えば、Fタイプは耐久性が無い。Wの………ミノフスキー・ドライブの負荷に堪えれるかどうか…………」
ヘレンとリファリアが考え込む姿を見て、ニコルは顔が青くなっていく。
「なぁ……………Wのミッションパックって、まだモビルスーツに取り付けられてないの??しかも、取り付けるモビルスーツが無いとか…………」
愕然とするニコルの言葉に、リファリアは頭を掻く。
「俺達の計画では、装甲の補強もしていたGタイプのF90で、Wタイプを試すつもりだったんだが…………な」
「もしWを使うなら、Fを外して使う他ねーだろ!!そもそも、バタフライ野郎にFは相性悪いんだから、使えるかは別にしてWを付けてみるしかないだろ!!私達は出撃準備するぜ!!」
ヘレンはリファリアの背中を思い切り叩くと、ガンイージに向けて床を蹴る。
「そうと決まったら、すぐに換装しちゃってよ!!オレも出撃準備、急ぐからさっ!!」
「おいニコル!!こいつを着けるにも、時間はかかる。トライバードの換装程の時間はかからないが、すぐに出撃は出来ない!!お前は、Wタイプのマニュアル読んどけ!!」
難しそうなマニュアルを手渡されたニコルは、不安を感じた。
「じゃあ……………最初は、オレとレジア抜きで、戦うしかないのかよ!!それはヤバイぜ!!」
ニコルの声は大きく、周りの人の視線がニコルに集まる。
「ニコルくん~♪レジアならともかく、あんたに心配される程、私達は弱くないわよ~♪」
マヘリアがニコルに近寄ってきて、後ろから羽交い締めにした。
「全く、自信過剰なガキだね!!悪いがここのパイロット全員、あんたより経験豊富なんだ。坊やは自分の心配だけしてりゃイイんだよ!!」
身動きとれないニコルの胸を、戻って来たヘレンが拳で軽く叩く。
「ニコル、大丈夫ですよ。ヘレンさんもマヘリアさんも、初期開発された6機しかないガンイージのうちの1機を託されているエースパイロットなんだから」
「クレナぁ~、あんたもでしょ!!自覚持ってよ~」
マヘリアのふざけた口調に、ニコルは思わず笑ってしまった。
「皆がスゲーのは分かってる。オレとレジアが行くまで、絶対やられんなよ!!」
「分かってるよ!!少年もメカニックを信じて、焦らず待つんだよ!!私にとっては、弔い合戦なんだ。やられる訳にはいかないよ」
バンっと1回ニコルの頭を叩くと、ケイトはガンイージに向かって飛んで行く。
それと同時にヘレンとマヘリアとクレナも、それぞれのガンイージに取乗り込む。
(皆、死ぬなよ………)
ニコルは心で祈るしか出来ない事に、不安を感じて心臓が高鳴っていた。