ブォー、ブォー
サイレンの音が基地全体に流れ、敵機の襲来を告げて回るが、ミューラはその音が聞こえないのか…………気にしていないのか、反応しない。
しかし、レジア達は緊張感に包まれた。
「くそっ!!こんな時に!!」
モビルスーツは整っていない…………敵のニュータイプ専用機に対し、性能の劣る機体で戦闘しなければいけない状況に、レジアは唇を噛み締める。
トライバード・ガンダムでさえ、敵の新型に大した傷もつけれなかったのに…………
「レジア!!トライバードを戦艦に搬入して!!換装作業を行うわ!!」
それまで黙って端末に向かって作業していたミューラが、突然大声でレジアを焦らせるような言い方で指示を出した。
「ミューラさん、トライバードは修復不可能なくらいボロボロだ。申し訳ないが、戦艦に運び入れても戦力にならないと思う…………それより、今あるモビルスーツの出撃準備だ!!」
レジアは、トライバード・ガンダムへの未練を断ち切るように大声を出すと、基地内の格納庫に向けて走り出そうとする。
マイと食事をし、多少は現実を受け入れるぐらいの余裕が出来たレジアだが、心の奥にはトライバードを失った心の傷がポッカリ空いていた。
希望も無い筈なのに、希望を持たせるようなミューラの言い方に…………それも命令口調に、苛立ちを感じたのかもしれない。
普段とは違う…………トライバード・ガンダムに対するレジアの力ない答えに、ミューラも少し戸惑った。
「レジア!!!トライバードが生まれ変われるかもしれないの!!コクピットも、メインコンピュータも無事だから、この換装パーツさえフィットすれば……………いえ、リガ・ミリティアのモビルスーツの規格で造ってるんだから、必ずトライバードは蘇るわっ!!」
ミューラのテンションが上がり、上擦った声を聞いて、マイの顔も思わず綻む。
「レジア、良かったね♪また戦場に行くのは嫌だけど、トライバードならレジアも皆の命を守ってくれるよ♪」
マイは笑顔でレジアを見るが、その顔を見て笑顔が消える。
レジアの顔は、喜びより絶望を覗かせる表情をしていたからだ。
「換装には、どれだけの時間がかかる??そもそも、トライバードは手足が無い状態だ。換装なら、同じ規格のガンイージからパーツの提供を受ける必要がある。そして、今この基地に残っているモビルスーツの中で、ガンイージはトップクラスの機体性能だ」
「まぁ………レジアの言う通りだな。残っているイージは5機。F90で出れないリースティーアが使うか、ニコルかレジアのどちらかが使うか…………とりあえず、パイロットよりモビルスーツが不足している状態だからなぁ………」
ゲルダは汚れた手袋のまま頭を掻き、その顔も黒くなっている。
ヘレン、マヘリア、ケイト、クレナの4人のガンイージは、それぞれの癖に合わせたチューニングが施されており、予備のガンイージが残されているだけであった。
それ以外の機体となると、ヘビーガンとジェムズガンしか、この基地には残されていない。
優秀なパイロットに与えるモビルスーツが無いのだ。
「今、基地に近付いている敵にあの新型がいたら、換装を待っているヒマなんてない。オレはヘビーガンで出る!!ガンイージはリースティーアに!!」
レジアが戦艦のモビルスーツデッキから出ようとすると、数人の人影に行く手を阻まれた。
「レジアくん!!とっととトライバードを搬入しなさい!!トライバード以外、あの新型とまともに戦えないんだから!!」
「そう言うこった!!それとも、私らじゃ足止めすら出来ないと思ってんのか?」
マヘリアとヘレンが、捲し立てるようにレジアに言葉を投げ付ける。
「あらあら、随分自信家なんですね。模擬戦では、指揮官がいなかったから負けただけですわ。リファリア隊長がいれば、私達に負けは無いわ。それに、射撃が得意な私は、ガンイージよりヘビーガンの方が相性いいの」
「まぁ…………トライバードがいても、勝算は低いぐらいなんだ。レジアがヘビーガンで出てしまったら、そこで勝負は終わる。結局は、換装が終わるまで凌ぐしかないんだ。その後は、全て任せる事にはなるが………」
リースティーアの言葉に頷いたリファリアが、レジアの肩を軽く叩く。
リースティーアもリファリアも、レジアの為に命を投げ出す覚悟は決めていた。
「私達全員、レジアさんの力とガンダムの起こす奇跡を信じているんです。だから、ガンダムパイロットの貴方が諦めないで下さい。トライバードが出てくるまで、基地と戦艦は私達が必ず守りますから!!」
クレナはレジアの目を見て、全員の素直な気持ちを代弁する。
皆、クレナと気持ちは同じだった。
その気持ちは、レジアの胸に熱く…………熱く突き刺さる。
「ミューラさんっ!!すぐにトライバードを入れる。メカニックを集めて、搬入したら直ぐに作業に入れるようにしといてくれ!!」
レジアは、今まで出した事のないスピードで走り出した。
「ところで、オレの乗るモビルスーツあんのかな………完全に忘れられてたポイんだが…………」
レジアが去った後、ニコルが不機嫌な顔で疑問を口にする。
「ああ、勿論あるさ。ジェムズガンがな!!」
ニコルの頭を撫でながら、ゲルダが笑いながら言う。
「ああ、ジェムズガンね………って、ジェムズガンかよっ!!」
ニコルの独り突っ込みに皆が笑う最中、リファリアだけが溜め息をつく。
「新型やら高性能機が、そんな都合よくある訳ないだろ…………ガンスナイパーは、ミューラが趣味で作らせたようなモンだしな…………」
頬を含ませるニコルを横目に、リファリアはミューラを見た。
「ああ…………Wのミッションパックなら、まだ完成してないけど…………まさか、使うつもり??」
驚くミューラとは対照的に、ニコルは目を輝かせる。
「使えるなら、出し惜しみは無しだぜ!!で、どの機体に取り付けるんだ??」
ニコルの言葉に、再びリファリアは溜息をついた。