ペンダントの秘密
「これは、酷いな…………」
戻ってきたモビルスーツの惨状をみて、ゲルダは絶句する。
「先行して出撃したモビルスーツが、F90・Fタイプ以外は大破か…………レジアの操るガンダムまで墜とされるとはな…………」
久々の大敗に、リファリアも途方に暮れていた。
「今、この基地が襲われたらヤバイんじゃないか?何故か敵さんは、基地の位置情報を掴んでいるみたいだ。ヘビーガンやらジェムズガンに、数機のガンイージだけじゃ、基地も戦艦も守りきれないぞ」
ヘレンの言葉にリファリアは頷くが、解決案は見つからず、そのまま言葉もなく呆然と大破したモビルスーツを見続ける。
「せめてモビルスーツ・デッキが使えれば、残存したモビルスーツを詰めて戦艦で逃げれるのに………」
ミューラが戦艦のデータを端末で見ながら、歯軋りをした。
技術者であるミューラが、ここに来て力になれていない自分が悔く、またレジアの父親がなんらかの意図で閉じたモビルスーツ・デッキの扉を開ける力が無い事を腹立たしく感じる。
「戦艦で逃げるって言っても、結局は戦闘になる。そうなれば、戦艦を守る為に多くの犠牲者も出る。戦闘しない技術者連中は助かるだろうが………」
「仲間を沢山失った直後だ…………そんな事を言いたくなる気持ちも、分からなくないが…………だが、ミューラさんもできる限り多くの命を救う為に考えているんだ。滅多な事を言うもんじゃないよ」
この基地は戦艦を守る為に、他の基地を圧倒する程の戦力を有していた。
それだけの戦力がありながら、救援に来たのは基地が壊滅した後………
ケイトは頭では理解していても、納得は出来ていなかったのかもしれない。
それが分かっていたから、ヘレンもあまり強くは言えなかった。
「ケイトさん、ごめんなさい。けど、このまま基地に残って戦っても、いずれ全滅してしまう…………そうなる前に対策を立てないと………」
ミューラの言葉に、全員が再び考え込んだ。
量産機のみで、ザンスカールの新型…………トライバードとガンスナイパーを墜としたモビルスーツ相手に、基地と戦艦を守らなければいけない…………
どんな厳しい状況でも、適切で冷静な判断で窮地を救ってきたリファリアでさえも、言葉を発する事が出来ない……………
普通のパイロットが量産機に乗って、敵の新型に挑んだとしよう……………展開されたリフレクター・ビットに拡散ビームの雨…………
現状で考えうる最高の状態で戦えたとして…………リファリアが自分の頭の中でシュミレーションした結果は、1時間持ちこたえれるか…………というレベルだった。
(ケイトのいた基地は、新型とラング2機だけで全滅した…………おそらく、新型の実戦テストみたいなモノだったんだろう…………そして、今度はしっかり部隊を編成して来る可能性が高い…………そうなれば…………)
やはり、現実としては戦艦だけを他のリガ・ミリティアに託す……………その戦艦を逃がす為に、全滅覚悟でモビルスーツ戦をする………
それしかないか……………
「ミューラ、ヘレン、ちょっといいか??」
指揮官として覚悟を決めたリファリアは、ミューラとヘレンに自分の考えを伝えようとした…………その時……………
「ミューラさんっ!!トライバードが墜とされたって………私、そんな事も知らないで、レジアと普通に食事してきちゃった………」
血相を変えたマイが、モビルスーツの格納庫に飛び込んで来た。
「マイ…………今は、基地の皆で対策を立てなきゃいけない時なの。貴女の恋愛相談は、また今度…………ね」
今度があるかは分からない……………が、今はマイに構っている暇は無い。
ミューラは、マイを部屋から外へ連れ出そうと腕を持った。
マイを引き連れながら、戦艦のコンピュータと繋がる端末の前を通り過ぎた時……………
マイの首にかかっていたペンダントが突然輝き、端末のモニターに記号のような文字を映し出す。
端末から離れると輝きが失われ、その文字も消えた。
「ちょっと…………今の何??マイ、ペンダント貸して!!」
「ちょっ………ミューラさんっ!!大事に扱ってよ!!レジアから貰った私の宝物なんだから!!」
乱暴にペンダントを奪い取ったミューラに、頬を膨らませて反抗するマイだったが、そんな事も見ている余裕もないミューラはペンダントにぶら下がるダイヤモンドを端末に近付ける。
再びダイヤモンドが輝き出し、その光がモニターを照らすと、やはり記号のような文字が浮かび上がった。
「この記号………一体、何かしら??」
ミューラが、記号を見ながら考え込んでいると、ゲルダが背後からモニターを覗き込んでくる。
「ミューラ、何の配線図だ??これは??」
よく見ると、記号だと思い込んでいたそれは、確かに何かの配線を文字のように細かく区切っているようにも見えた。
「これって、レジアから貰ったペンダントって言ってたわよね??彼はコレを誰から…………??」
「ご両親の形見って言ってた…………それが、どうしたの??」
マイの言葉を聞いたミューラは、自分の中で確信めいた予感が生まれる。
「モビルスーツ・デッキの扉の配線図!!誰か、急いで持ってきて!!」
ミューラは急に立ち上がると、スタッフに大声で指示を出し、そのまま落ち着かない様子でモニターに映る記号を見つめる。
「うわっ!!ビックリ~。ミューラさん、急にどうしたの??」
突然のミューラの大声にマイは言葉をかけるが、その言葉は集中するミューラの耳に届かない。
「持ってきました!!」
配線図を持って来たスタッフが声を掛けると、ミューラはそれを奪い取るように受け取るり、すぐに広げる。
「やっぱり…………分からなかった配線に、この記号のように配線を当てはめていくと…………うまく繋がる!!急いで試しましょう!!」
そう言うと、ミューラはモビルスーツ・デッキに繋がる扉に走り出す。
「ミューラさん!!もう、何か発見すると周りが見えなくなるんだから………技術者の人って、皆ああなのかしら………って言うか、ペンダント返して!!」
マイも、ミューラを追って走り始める。
途中、医療室から出て来たレジアもマイと合流し、リファリアやヘレンも続いた。
マイ達がモビルスーツ・デッキの扉についた時には、既にミューラが作業に没頭している。
「ミューラさん。開きそうかい??」
「レジア、貴方の持ってたペンダントが鍵だったみたい!!この配線で…………必ず開くはずよ!!」
レジア達が見守る中、モビルスーツ・デッキの扉が開く。
「これは…………何のパーツだ??」
モビルスーツ・デッキの中に隠されていたパーツ…………
金色に輝くパーツが手前にあり、後方には砲身の長いビームキャノンのパーツが置いてある。
「これは…………マルチプルの能力を備えるリガ・ミリティアの次期主力機で使う予定の、換装用の試作パーツ。これを隠したかったの………??」
ミューラは、モビルスーツデッキに作り付けてある端末をいじり、パーツの詳細なデータを読み込む。
「このパーツ、トライバードの規格にも対応してる…………??確かに、トライバードはガンイージをベースに作ってるから、換装出来るかも………??」
ミューラは独り言のように呟きながら、端末を操作し続けた。