ボイズン達カリーン工場の面々は、宇宙引越公社のシャトルを偽装し[アーティジブラルタル]より宇宙へ上がった。
引越公社に勤務していたリガ・ミリティアの主要メンバーであるハンゲルグ・エヴィンが、中立を訴える公社の目を欺きリガ・ミリティアの物資を宇宙に上げていたのだ。
その為、ニコルのような若者が一緒の方が疑われないと考え、今回の同行となったのだ。
「しかし、これって立派な犯罪のような………」
マスドライバーを走るシャトルの窓から見える、もの凄い勢いで流れる景色に感動しながらも、ニコルは今の状況を考えていた。
「仕方ねぇだろ!!ザンスカールの野郎に知られず宇宙に上がる方法は、今んとこコレしかねぇんだよ!!」
ボイズンはそう言いなからもニコルのシートベルトの確認をし、しっかり固定してあるか確認する。
「だから頭数も厳選してんだろ!!中立を守るって言っても、オレ達がやらなきゃ地球も宇宙もザンスカールのやりたい放題決定だからなぁ………少しは考えてほしいぜ!!」
ボイズンが最後は愚痴のような言葉を発している間に、シャトルはマスドライバーのレールからタイヤが外れ、宇宙に向けて加速していく。
「うわっ!!なんてGだ!!」
シートに身体が押し付けられ気分が悪くなる感覚に、ニコルは改めて自分が宇宙に行くんだと実感していた。
シャトルは雲を突き抜けて、アっという間に辺りを宇宙の色に変えていく。
「うわぁ……すげぇ……」
思わず、ニコルは感嘆の声を洩らす。
それもそのはず、窓の外には今までとは全く違い、暗い宇宙に透き通る青い光を輝かせる地球があるのだ。
ニコルでなくても、その自然の作り出す奇跡の美しさに見とれるに違いない。
「いつ見ても、宇宙から見る地球って素敵よね~」
突然、ニコルの鼻に綺麗な花を嗅いだような匂いが吸い込まれる。
「って!!マヘリアさん!!近いって!!」
宇宙の景色に見とれてたニコルは、自分の真横にマヘリアの顔がきているのに気付かなかった。
「何よ~、別にいいじゃない」
頬に空気を入れて膨らませるマヘリアの顔を見て、ボイズンは吹き出しながら2人に近づいて来た。
「マヘリア、ご苦労さん。ガンイージのコックピットで大気圏離脱した気分はどうだい?」
「サイテーだよ!!狭いし暑いし!!化粧が汗でとれちゃったよ!!」
積み荷にモビルスーツとは流石に書けないので、ガンイージはコンテナに収納しシャトルに積み込んでいる。
マヘリアは自らの操縦でガンイージをコンテナに積み込み、そのままコックピットに残り宇宙まで上がってきたのだ。
コックピットに残っていれば、何かあった時にガンイージだけは守れる………。
リガ・ミリティアの新兵器なだけに、まだ人の目に触れさせたくなかった為の万が一の配慮だ。
(でもマヘリアさん、汗臭くない。凄いイイ匂いがするな…)
バチっ!!
ニコルが妄想にふけっていると、不意に何かが外れる金属音がした。
マヘリアが、ニコルのシートベルトのロックを解除した音である。
「うわああぁ!!」
ニコルの身体が突然浮き上がり、目の前に天井が迫ってくる。
「天井を蹴って、バランスを整えて!!」
マヘリアがニコルの手を掴み、無重力の世界に放り出された身体のバランスを整えた。
「なかなかセンスあるよ!!すぐに宇宙の環境にも慣れるんじゃない?」
マヘリアの言葉通りニコルは数分で無重力の環境に慣れ、うまく身体を使い動き回る。
「お前ら、遊びに来てるんじゃないんだぞ!!」
一喝して座席に座ったボイズンは、しかしガンイージを無事に宇宙に上げれた事で安堵の表情を浮かべていた。