「これが……………新型のモビルスーツか…………」
アーシィの目の前には、純白のモビルスーツがある。
まるで蝶々のような美しい機体…………戦場には似つかわしくない、華麗さを感じた。
「はっ、大尉の反応速度に充分ついていける機体だと思います。サイコミュ搭載型なので、レジスタンスの新型にも遅れはとらない筈ですよ」
開発者の説明を聞きながら、アーシィはモビルスーツの肩部が異様に大きいのが気になった。
「肩は…………あんなに大きくする必要あったのか?」
「あれは、フレキシブル・バインダーですよ。姿勢制御にも加速にも使える優れ物なので、使い勝手抜群です。それに、リフレクター・ビットが搭載されているのと、Iフィールド発生装置にミノフスキークラフトも装備されています。アーシィ大尉の力になる事間違い無しです!!」
技術者の力の篭った発言に、かなり優秀な機体である事は想像できる。
「しかし、過去に似たような機体を、博物館で見たような気がするが…………キュベレイと言ったか…………」
「ええ、よくご存知ですね。デザインは真似させてもらってます。開発期間が短かったので…………キュベレイの問題だった肥大化を抑えるだけ抑えていますし、フレキシブル・バインダーも、かなり高性能になってます!!その上、Iフィールドで防御も万全!!かなりイイ出来ですよ!!」
ザンスカール帝国が勃興して、まだ間もないこの時期、モビルスーツ開発はサナリィを接収して急ピッチで進められていたが、まだ充分では無かった。
そんな時期にニュータイプ用の機体を開発するのであれば、現在の戦闘に対応出来る事が条件ではあるが、過去のデザインを模倣する事も必要な事だとも思う。
「サイコミュも搭載されていると言ったな…………サイコミュ・ジャックとかって技術もあると聞いた事があるが…………大丈夫なのか?」
「以前、アナハイムが研究していた技術ですね。今のレジスタンスにサイコミュ・ジャック搭載機を造る余裕があるようには思えませんし、今はサイコミュ・ジャック・キャンセラーの技術も開発中です。ザンスカールとサナリィの技術者のレベルは、過去の技術者よりレベルは上がってますよ」
技術開発の底は見えない…………まして戦争中なら、自分達が使いたい技術の対応策ぐらいは考えるモノだ。
まぁ、そんなモノか……………
アーシィは溜め息をつくと、技術者からマニュアルを受け取る。
「とりあえず、実戦でデータをとってくればいいんだろ?」
「お願いします。それと、リフレクター・ビットにファンネルのような攻撃能力はありません。ビームを反射する機能なので、上手く使って下さい。高出力のビームは反射出来ないので、そこだけ気をつけて!!」
サイコミュ・ジャック登場後、ファンネルを含めたサイコミュ系の技術開発は滞っていた。
技術が遅れているのは、当然と言えば当然である。
「なる程…………だから、拡散ビームが搭載されている訳か…………使いこなせるモノかな?」
アーシィは呟くと、その純白の機体に乗り込む。
技術者が離れて行くのを確認した後、薄い赤のノーマル・スーツを着た男がアーシィの乗るコクピットに近付いて来た。
「マデア少佐!!こちらに来ていたのですか?」
「ああ………この機体はベスパではなく、我等【マリア・カウンター】が開発した機体だ。開発費用の関係で、過去の遺物に縋るような形になってしまったが…………充分な機体性能を持っている」
頭から被るタイプのマスクを着けた男…………マデア少佐と呼ばれた男は、アーシィのヘルメットに自分のヘルメットを付けて、周りの人に聞かれないように話をする。
「分かっています。この機体でニュータイプの力を示し、マリア様の考えを変えてもらわなければ…………」
「そうだな…………まぁ、あまり力むなよ!!」
アーシィは頷くと、純白の機体……………マグナ・マーレイの起動シークエンスを始めた。
「マデア少佐、ハッチ閉めます。私の戦い…………見ていて下さい」
「よろしく頼む。今回は、マグナ・マーレイの実戦テストが目的だ。敵を見つけても、深追いはするなよ」
アーシィは頷くと、マグナ・マーレイのハッチを閉める。
「アーシィ・リレーン、マグナ・マーレイで出ます!!」
アーシィの駆るマグナ・マーレイは、ラング2機を引き連れて出撃した。