「眠いし、ダルいし…………何でオレが、レジアの誕生日プレゼント選びに付き合わなきゃいけねーんだ!!」
「もーうるさいなぁ……………お昼オゴッてあげるって言ったら、ヒョコヒョコ付いてきたのニコルなんだから、少しは一緒に考えてよ!!男の人が喜びそうな物って、よく分からないんだから…………」
模擬戦から数日後、ニコルとマイはサナリィにあるショッピングモールに買い物に来ていた。
コロニー内部は気温調節されているが、季節を楽しむ為の工夫はされている。
日本が好きな技術者がいたのか……………ショッピングモールの広場には桜が咲いている場所もあり、賑わっていた。
「結構、人がいるんだな。花見なんて、楽しいのかねぇ…………?」
「桜かぁ………………小さい頃、おばあちゃんの家で見た以来だなぁ……………日本にはね、桜の並木道があったりして、すっごい綺麗なんだよ!!あっ、ニコルには分からないよねー」
そんな他愛もない会話をしながら、2人は色々な店を覗いていく。
「誕生日の定番っつったら、手作りケーキだろ!!食材買って練習しろ!!練習!!」
「今から練習して、どーにかなるか!!ケーキは、お店で買った方が絶対に美味しいの!!」
明らかに面倒臭くなっているニコルの適当な考えに、マイが怒りの声をあげる。
「まぁ…………定番なら、時計とかベルトとか財布とか……………レジアなら、何あげても喜んでくれんじゃねーの?」
「やっぱり、その辺が無難よね…………始めての誕生日プレゼントだし…………」
そんな会話をしながら、ショッピングモールの端にある少し洒落た店に、2人は入ろうとした…………その時、通りの陰に男性がいる事にニコルが気付いた。
「あれ……………リガ・ミリティアの技術者の人じゃないかな?模擬戦の前に、機体の整備をしてくれてた気が……………」
「そうなの?私は記憶にないなぁ………」
マイは首を傾げ、男性の姿をよく見ようと少し近寄ってみる。
すると、その男性は、綺麗で長いピンク色の髪を持つ女性と話をしていた。
「お父さん……………お父さんの考えも分かるけど、家族の事も考えてよ!!お母さんの病気は、帝国から支給される薬じゃないと症状は抑えきれない。それに、スージィだけ地球に降ろしたって……………」
「母さんの事は心配に決まってる!!だが…………オレは自分の信念を曲げる事は出来ない!!スージィは叔父さんの所に………ラゲーンに無事着いている。大丈夫さ…………」
その男性…………ゲルダ・リレーンは目を泳がせると、ニコルと目が合う。
「おお、ニコルじゃないか!!ちょっとコッチに………」
ゲルダは女性との会話を止めたかったのか、手招きでニコルを呼び寄せる。
「やっぱり…………模擬戦の時、機体の整備をしてくれた技術者さんですよね!!」
「覚えててくれたか。模擬戦、お疲れだったな!!」
ゲルダとニコルは、握手してお互いの労を労った。
「あの……………そちらの方は…………」
マイが正面に立つ女性を見て、握手している2人に声をかける。
「ああ、すまない。こいつはアーシィ・リレーン。オレの娘だ」
「あっ!!私は、マイ・シーナっていいます。で、コッチのちっこいのは、ニコル・オレスケスです」
整った顔立ちで優しく微笑むアーシィに、マイは緊張気味に自己紹介をした。
ニコルも、アーシィのモデルの様なスタイルの良さに…………綺麗な顔に、一瞬言葉を失う。
「父がお世話になってるみたいね。これからも、父をよろしくお願いします」
差し出された手に、顔を赤らめて…………照れながらニコルは握手する。
すると、今までに感じた事のない…………何とも形容しがたい感覚がニコルの中に飛び込んできた。
アーシィも同じ感覚を感じたのか、表情が一瞬固くなる。
「アーシィさんは、サナリィで何をされてるんですか?やっぱり技術者さんとか?」
アーシィが首を横に振ると、爽やかなシャンプーの香りがニコルの鼻に吸い込まれていく。
しかし、2人はアーシィの口から紡ぎ出される言葉に、声を失うような衝撃を受ける。
「私は、ザンスカール軍のモビルスーツ・パイロットよ」
と……………
目を白黒させている2人を見て、ゲルダが口を開く。
「こいつの母…………まぁ、オレの妻なんだが…………太陽風にやられてしまっていてね。その症状を抑える薬が、アメリアにしかないんだ。だから、娘はやむを得ずザンスカール軍に志願したんだ」
「その治療薬は高価で希少価値が高くて、軍から支給してもらわないと手に入らないの。だから父にもザンスカールに………アメリアに戻ってほいのよ!!」
アーシィの切実な願いの言葉に、ニコルとマイはアーシィが敵である事を忘れかけてしまう。
「だかな…………ザンスカールはマリア主義を掲げる一方で、ギロチンで制裁を加える矛盾した政策をとっているし、何よりサナリィの仲間にした仕打ちをオレは忘れられない!!」
ゲルダもまた、胸の内に隠していた言葉を口にする。
自分の娘………スージィに向けられた、ザンスカールのイエロージャケットが狙う銃口…………それに身を呈して守ってくれたレジアの母、レイナに………そして、その息子であるレジアに、自分の存在を忘れられていたとしても、必ず力になると心に決めていた。
「辛い………ですね………」
マイはゲルダを見て、自分が好きな人や大切な人と離れ離れになっても…………敵になったとしても、信念を貫けるか……………心に問いかける。
(私は、どんなに間違っていても、好きな人の傍を離れられないな………ゲルダさんの考えが正しいって思えない…………)
しかし、マイはその考えを口には出来なかった。
「なぁ……………その薬って、連邦からは手に入らないのか?」
ニコルの言葉に、アーシィは悲しそうな表情で首を横に振る。
「元々、アメリアでしか作られてない薬だから、出回ってないの。だから連邦では高官以外は手に入らないわ」
ニコルは腕組みしながら、しばらく考えて込む。
「じゃあさ、その高価な薬の一生分の数を手に入れて、お母さんをアメリアから救出できたら、アーシィさんはオレ達の仲間になってくれるかい?」
「そうね………そんな風になったら素敵ね………」
アーシィの顔を見て、ニコルが頷く。
「どんな事も、諦めたらソコで終わりだ!!希望を持っていこうぜ!!」
ニコルの無邪気な言葉に、アーシィは苦笑いし、マイは呆れて溜息をついた。
「2人とも、この事は内緒にしてくれ。信じてもらうしかないが、スパイみたいな事はしてないから………」
ゲルダがニコルとマイを見て言うと、2人とも頷く。
「今の話を聞いてたら、スパイとかじゃないって分かります。それに、このままじゃ2人とも悲し過ぎますよ!!家族が離れ離れになって、戦争するなんて…………」
「そうだな!!だから、オレも頑張るよ!!」
(レジアだって、常に諦めずに戦ってるんだ!!オレだって!!)
ニコルは、心に力を込める。
マイは好きな人と一緒にいれる幸せを噛み締めながら、プレゼント選びを再開した。