「レジアさん…………ごめんなさい!!私のせいで変な事になっちゃって…………」
ジェムズガンの最終チェックをするレジアに、マイは申し訳無さそうな表情で声をかけた。
「なに、マイさんが謝る事は何もないさ。むしろ助けに行くのが遅くなって、すまなかった」
「そんな……………助けに来てくれた時、凄く嬉しかったです。なのに、レジアさんの大切なトライバードを奪われるかもしれないのに、私………何も出来ないから…………」
目を伏せて謝るマイの姿を見て、レジアは笑顔を作る。
「ニコルも助けてくれるし、オレ達が負ける訳がないさ。それに、これから仲間になる人達の技量も図れる。マイさんは昨日の事は忘れて、オレ達の応援だけよろしく頼むよ。この話は、コレで終わりな!!」
嫌な記憶を思い出させないように振る舞うレジアの気遣いと言葉が、マイの心を揺さぶる。
(レジアさんだって戦争で両親を失って、その後もリガ・ミリティアのエースってプレッシャーと必死に戦ってるのに………私を助けたばっかりに、あんな連中に温室育ちのエリートだって馬鹿にされて、大切なトライバードも奪われるかもしれないのに……………それでも、笑って接してくれるんだ………)
真剣にジェムズガンの状態をチェックする横顔を、マイは何故だかボーッと見つめてしまう。
「マイさん、そろそろハッチ閉めるから、そこにいると危ないよ。少し離れて」
「あっ………はい!!スイマセン!!」
声をかけられた事で我に返ったマイは、心臓が高鳴り顔を少し朱に染めながら、ハッチから離れる。
離れた際に、ちょうどニコルがジェムズガンに乗り込もうとする所を目撃したマイは、そのままジェムズガンのコクピットに滑り込んだ。
「って、マイ!!何故にオレの機体にスルッと乗り込んだ!!ボチボチ出るから、遊んでやってる暇ねーぞ」
レジアとは違い、ろくに機体のチェックもしていないであろうニコルを横目に見たマイは、大人と子供の違いを痛感した。
「ニコル、昨日はアリガトね!!で、チョット動かすよ。無重力って便利よね!!」
レジアの時の対応を見ていたら、あまりに違うマイの言動にニコルは怒るかもしれない。
やけにアッサリした態度も、模擬戦を控えて多少緊張しているニコルは気にならなかった。
しかし、マイが操縦管を突然握って動かし始めたのには流石に驚く。
???
頭の中がハテナマークに支配されたニコルは、マイの行動を理解出来ず状況を整理するのに時間がかかり、その行動を止める事が出来なかった。
その隙に、マイはニコル機であるジェムズガンの腕を、前にいるレジア機に伸ばす。
「おいニコル!!何遊んでるんだ!!そろそろ出るぞ!!」
レジア機の肩を掴んだ事で[お肌の触れ合い回線]が可能になった瞬間、レジアの声がニコル機のコクピットに流れた。
「いや…………今、マイにコクピット占領されてっから、オレ関係ないんだけど…………」
ニコルの呟くような声に被せるように、マイの口が動く。
「レジアさんっ!!頑張って下さい!!あと、私の名前に[さん]付けないで下さい!!じゃ!!」
マイは、自分の心臓の鼓動を感じながら矢継ぎ早に喋ると、ニコル機のコクピットから出ていった。
「なんだったんだ……………今のは???」
呆然とするニコルに、レジアから回線が入る。
「マイの為に、この戦い負けられないぞ!!昨日の事をトラウマにしない為にも、圧倒して勝つぞ!!」
「へいへい、了解です。いつになく熱いっスね」
ニコルの言葉に、レジアは自分が普段より力が入ってる事に気付く。
「ニコル!!2人の恋路を邪魔しちゃ駄目よ!!」
「はっ??なんだって??」
ミューラからの通信に、ますます訳が分からなくなるニコル。
「レジアも、女の子泣かしちゃ駄目よ!!しっかり勝って、マイちゃんの気持ちに応えてあげなよ♪」
マヘリアからも通信が入り、女性陣からの言葉にレジアは首を捻る。
([お肌の触れ合い回線]って、外に聞こえないんじゃ??)
レジアがそう思った矢先……………
「あーっ、オンラインになってる…………ざんねーん…………」
ニコルの言葉に、表示を確認したレジアは頭を抱える。
「ざんねーん♪」
マヘリアの茶化した声に続いて、笑い声が2人のコクピットに流れ込む。
「レジアさんっ!!あいつらに何か言ってやった方がイイっすよ!!絶対、今の状況楽しんでる!!」
「あんな事があった後だ。暗くなるより、ずっといいさ」
少し笑っていたレジアは、頬を叩いて気合いを入れ直す。
(本当に、いいチームだな。ここの連中にも伝えたい。本来、仲間なんだから……………)
レジアは一瞬目を瞑り、そして、しっかりと瞳を開く。
「レジア・アグナール!!ジェムズガン、出るぞ!!」
漆黒の宇宙に、レジアの乗るジェムズガンが飛び出していく。
遠ざかっていくジェムズガンのバーニアの光を、マイは祈るようにモニター越しに見つめていた…………