襲われるマイ
「ちょっと!!何をするのよ!!」
サナリィのリガ・ミリティア基地内で、マイは2人の男に挟まれていた。
「別に、何もしてないだろ。ちょっとメシに誘ってるだけだ」
「お前達の脱出艇を助けたのはオレ達だぜ。少しは感謝して、付き合うのが礼儀ってモンだろ」
無事にサナリィ・コロニーに入り、コロンブスⅢのモビルスーツ・パイロット達は疲労困憊で、早々に割り当てられた部屋で休んでいた。
マイは、命懸けの脱出劇を経験し、興奮もあったのか休めずに基地内をウロウロしているうちに、男達に絡まれてしまう。
基地は、やはり男の職場であり、マイのようなパイロットでもなければ技術屋でもない女性は貴重であり、そういう目で見られがちである。
2人の男の1人、プロシュエールがマイの前に立ちはだかり、もう1人のフォルブリエが横からマイの肩に手を回す。
「ちょっ!!触んないでよ!!」
マイはその手を振りほどこうとするが、軍人上がりの男の力は強く、とてもほどけない。
逆にその動きが、フォルブリエの胸にマイは身体を預ける格好になってしまう。
「なんだ、お前もその気か?なら、嫌がる事ねーだろ」
いやらしい笑みを浮かべながら、プロシュエールはマイの横に回り込み、腰に手を持ってくる。
左右から男に挟まれ、マイは言い様の無い恐怖を感じた。
(誰か助けて!!お願い!!)
足は震え、瞳には涙が溜まる。
しかし、恐怖が身体強張らせ、マイの心とは裏腹に男達の言いなりにさせた。
こういう経験をすると、改めてレジア達は紳士だったと思い知らされる。
基地内の無機質な廊下を無理矢理歩かれ、照明が暗くなってくにつれ、マイの恐怖は増強されていく。
「さぁ、この部屋に入れ」
暗めの部屋に、シングルの…………お世辞にも綺麗とは言えないベッドが1つ置いてある。
「ちょっと!!食事するだけでしょ!!なんでこんな部屋に入らなきゃいけないの!!」
マイは大声を出して抵抗するが、男2人の力にかなう訳もなく、無理矢理部屋の中に押し込まれた。
マイはこれから起こるであろう行為を想像し、心臓が強く………早く脈うち、絶望感に支配されていく。
「ここには人は来ないからなぁ……………大声出してもいいゼ!!」
プロシュエールの手が、マイの服を掴み、力が入る。
(レジアさんっ!!)
マイは目をギュッと瞑り、咄嗟に胸を守るように腕を組んだ。
「声は聞こえなくても、心の叫びは聞こえんだよ!!残念ながらな!!」
「その手を放せ!!リガ・ミリティアの品位が落ちる!!」
その声は、マイには聞き慣れた……………
そして、今までとは違う、聞いてて心が落ち着く男の声……………
ニコルとレジアの声だった。
「てめぇら、なんでこの場所が分かった??」
フォルブリエの驚きの声に、ニコルが鼻で笑う。
「だから大事な人の心の叫びは、ドコにいたって聞こえるんだよ!!大事な人のいないヤツには分からないだろうがな!!」
おちゃらけて言うニコルの言葉に、しかしレジアは真顔のまま、怒りの表情を崩さない。
「そんな事はどうでもいい!!さっさとマイさんから手を放せ!!」
レジアの気迫の籠った声に、プロシュエールは思わずマイから手を離す。
その隙を付いて、マイは震える足に力を込めて、一目散にニコルの側まで必死に走った。
「ちっ!!エリート野郎どもがっ!!お前達は、いつも後方で遊んで、女遊びも出来るからいいだろうさ。コッチは前線で女を抱く暇も無けりゃ、遊べる女もいねぇんだ。男ならチッたぁ察しろ!!」
プロシュエールは、懲りずにマイの方に歩みを進める。
マイは、プロシュエールが迫ってくるだけで身がすくんだ。
「おい、来んじゃねぇよ!!」
ニコルの声を無視して、プロシュエールはマイに近づいていく。
「確かに、いつ命を失ってもおかしくない状況で、精神が…………心が壊れても仕方ないかもしれない。だが、オレ達は何故立ち上がった!!ザンスカールの……………カガチのやり方に疑問を感じたからじゃないのか!!前線にいるからストレスが溜まる……………なら、連邦に戻って戦争せずに生きていけばいい!!」
レジアの過去を知っているマイとニコルは、その言葉が胸に響いた。
しかしプロシュエールとフォルブリエには、エリートの綺麗事にしか聞こえない。
「うゼェな!!てめぇ!!」
フォルブリエの拳が、レジアに迫る!!
レジアはその拳を難なく避けると、強烈な膝をフォルブリエの鳩尾に突き刺す!!
「ぐほぉ!!」
言葉にならない悲鳴を上げて、フォルブリエは地面に倒れる。
「ちっ!!冗談じゃねぇ!!最新モビルスーツに苦も無く乗れて、たまに前線に顔を出す程度の奴に………最前線のオレ達に新型を廻してくれりゃ、仲間もオレ達も危険に晒される事もねーのによ!!」
マイに向けて出していた足を止め、悔しさを滲み出すプロシュエール。
レジアはマイとプロシュエールの間に割って入り、口を開く。
「なら、ガンダムに乗ってみるか?オレと模擬戦で勝負だ。お前はガンダム、オレはジェムズガンでもいい。それで、お前がオレに勝てれば、トライバードはくれてやる!!」
その言葉に、プロシュエールの口元が緩む。
「なら、2対2でやろうぜ!!オレのスナイパーも使っていいから、ソッチの機体、何か貸してね」
「ざけんな。やるなら3対3だ。模擬戦なら、実戦に近い方がいいだろ」
鳩尾を押さえて立ち上がったフォルブリエは、レジアを睨みながら提案を口する。
「なら、そっちは3人でいい。こっちは2人で充分だ!!」
レジアの芯の通った言葉に、一瞬場に緊張が走った。
「ハンデは、そのくらいでイイかな??諸君!!」
一瞬で場の緊張を壊したニコルに、レジアは溜め息をつく。
「彼等も、これから供に戦う仲間だ。ニコル、無理に喧嘩を売るな」
ニコルを宥めたレジアは、しかし理念や理想を持って戦う事の難しさを感じていた……………