漁村にて
「父さん!!この魚、ウーイッグに持ってけば売れるかな?」
漁船………というにはあまりにも小さい、白く所々に茶色のザビの見える舟に、2人の父子が乗っている。
普通の釣竿を垂らし、たった今釣った魚を釣竿を持ってない方の手で漁船の中に放り投げた青年、ニコル・オレスケスは、綺麗な金髪にサラサラの髪を靡かせていた。
が、身長はそれほど高くなく、童顔でもあり、カッコいいといわれるよりカワイイと言われる事が多く、コンプレックスを抱えている。
そんな自分を変えたくて、父の仕事である漁に付き合っていた。
「そんな小さな魚、ウーイッグじゃあ売れやしないよ!!!家で食うしかないな!!」
ニコルの父、ロブ・オレスケスは、ここ浜辺の町[マンダリアン]で細々と漁師の仕事をしている。
若い頃はスペースコロニーで暮らしており、その時に知り合った妻との子であるニコルは、宇宙で生まれた。
政治家の娘である妻は結婚と同時に地球への移住を提案し、ニコルは物心がつく前に地球に来た。
そんな母は、父とは10以上歳が離れており、性格が合わず離婚している。
その為、ロブは気楽な一人暮らしだ。
「ニコル、お前もいい加減しっかりした仕事につけよ。ろくな大人になれんぞ」
「こんなボロ舟で魚釣るだけが仕事の父さんに言われたかないよ。まぁ、いまに大きな事やって、父さんも楽させてやるからさっ!!」
鼻のしたに蓄えた髭を触りながら困った顔をするロブを横目に、ニコルは軽く返事をする。
「まったく、お前は………」
呆れ顔で頭を掻いたロブは、漁船を浜辺に戻し始めた。
「父さん、今日はもう終わりかい?」
ニコルは慌ててリールを巻き、そのまま漁船に横たわって太陽を視線の先に入れる。
漁船のモーター音、波の音、青空に浮かぶ太陽。
ニコルにとっては、心が落ち着く一時だった。
(幸せだな………)
ニコルは大きなアクビを一発かまし、横になったまま伸びを一回して、その反動で起き上がる。
「マイちゃんが浜辺に来てるぞ。何か用事でもあるのかな?」
ニコルが浜辺に視線を向けると、浜風で乱れる長い黒髪を掻き上げている女性[マイ・シーナ]が、漁船を見つけると大きく手を振ってきた。
ニコルはマイに手を振り返し、漁船のエンジンのパワーを上げる。
漁船が浜辺に近づくと、先程自分が釣った魚を手早く掴み、足が濡れるのも構わずマイの元に駆け寄った。
「マイ、見てくれよ!!オレが釣ったんだぜ!!」
「えーっ!!ちっちゃ!!こんなんで自慢しに来ないでよね!!」
しかめっ面をするマイは、年下ながらも人見知りせず、誰とでも笑顔で話すニコル自慢の幼なじみだ。
「そんな事より、ニコル聞いた?アメリアで連邦とザンスカールが激突したらしいよ!!ザンスカール帝国って、軍事国家でしょ?地球に攻めて来ないか心配だよ………」
「うーん、リガ・ミリティアってレジスタンスもザンスカールと戦ってはいるみたいだけど、連邦は弱体化してるし、小競り合い的な戦闘はしてるみたいだけど、表だった行動はしてないからな………。でも、遥か宇宙の彼方の話だし、大丈夫でしょ!!」
一瞬、表情を曇らせたマイも、ニコルの言葉を聞いて表情を明るくする。
「だよねー!!アメリアってサイドⅡコロニーでしょ?地球から一番遠いコロニーでの話だからね♪」
「モビルスーツでもありゃザンスカールのモビルスーツぐらい、オレがばったばったと倒してやるんだけどな!!」
「ハハハ!!無理無理、ニコルなんて、出た瞬間にビームサーベルでグチャってされるよ!!」
マイがビームサーベルでニコルを斬る真似をすると、ニコルもソレにのっかって、斬られた真似をした。
「2人とも、イイ年して戦争ゴッコは止めなさい。」
そう言うと、ロブは海を眺めてため息をつく。
(何か、嫌な予感がするな………。宇宙だけで収まってくれるといいが………)
ロブは、胸の中に暗い靄がかかるのを感じていた………