宇宙巡洋艦カリスト。
ベスパの戦艦の中で最初に開発された、主力巡洋艦である。
カタパルトデッキが上下にあり、上下対称のザンスカール軍の戦艦独特の雰囲気を持っている。
そのブリッジのモニターに、巨大な輸送艦コロンブスⅢが映し出されていた。
「なんだ?あのデカイ艦は??」
サナリィに向けて航行中だったカリストのブリッジに、アーシィの声が響く。
「連邦の輸送艦、コロンブスⅢのようですな。恐らく、サナリィのレジスタンス共への補給物資でしょう。どうされますか?」
「輸送艦、1隻しか反応してないのが気になるな…………艦長、ラングを2機、偵察に出してみましょう」
ザンスカール帝国の支配宙域に、連邦の……………それも輸送艦1隻で侵入してくるのは自殺行為に近い。
と、なれば、何か策があるのか…………いずれにしても、索敵する必要がある。
アーシィの判断に、カリスト艦長アゼルトも頷く。
「迂闊に艦ごと近付くのは、得策ではありませんな。索敵を強化しつつ、ラングで牽制しましょう。今回は、出撃してはなりませんぞ」
「分かっているよ。ラングでは、反応スピードが遅すぎる。輸送艦1隻と連邦の護衛程度、我がベスパの優秀なパイロットだけで充分さ」
出撃していくラングを見ながら、アーシィは歯痒さを感じたのは事実だが、ベスパのパイロット達の腕もまた、上官として信じていた。
「大尉の感覚…………並のモビルスーツでは、大尉の操縦についていけませんからな。サナリィで開発された今回の新型が、大尉の腕に合う機体だと良いのですが…………」
(そう………新型………そのテストは、サナリィで行う予定だ…………お父さん、サナリィから離れてくれてればいいけど…………)
近付いてくるサナリィ・コロニーに、アーシィは目を伏せた。
その頃、コロンブスⅢでは………………
ブォーっ!!ブォーっ!!
コロンブスⅢの艦内に、けたたましいサイレンが鳴り響く。
「やっぱり見つかった!!レジアに出撃命令!!クレナにも伝えて!!」
ミューラの切羽詰まった声に、オペレーターシートに座ったマイの緊張感も高まる。
「はい、了解です!!レジアさん、ベスパのモビルスーツに遭遇!!数不明、機種はラングを確認してます」
「サナリィまで、もう少しってトコで!!まぁ、ここまで見付からなかったってのが、運が良かったか??」
レジアは素早くパネルアクションを行い、トライバード・ガンダムを起動する。
「敵艦の位置と数は、把握出来てるのか?」
「まだ、分からないです。この輸送艦、索敵範囲が狭すぎて……………」
コロンブスⅢの目的は、あくまでも輸送……………戦闘する事を考えられていない為、そのセンサーはスペース・デブリに当たらない程度の物しか搭載されていない。
戦闘用の巡洋艦と索敵範囲が圧倒的に違うのは、仕方の無い事だった。
索敵範囲の違いは、全ての行動が後手に回らずを得ない為、とてつもなく不利になる。
それは覚悟の上だ………………レジアは1度目を閉じると、呼吸を整えた。
「マイさん、了解した!!オペレーション、慣れないと思うが、人手不足だ。けど、しっかりやってくれていて心強いよ。戦闘中も、よろしく頼む!!」
目を開いたレジアの瞳に、コロンブスⅢの格納庫が全天視界モニターを通して送られてくる。
コロンブスⅢのモビルスーツ搬入口が開くと、トライバードのモニターに宇宙空間が映し出された。
漆黒の闇……………宇宙空間に出撃する時、レジアは闇に飲み込まれそうになる恐怖を少しだけ感じる。
「レジアさん…………ありがとうございます!!頼りないかも知れないけど、頑張ります!!トライバード・ガンダム、出撃、どうぞっ!!」
マイの言葉に、少しだけ勇気を貰い、レジアは恐怖を伝える心を落ち着かせた。
「レジア・アグナール!!トライバード・ガンダム!!出る!!」
トライバード・ガンダムが、闇の中にバーニアで光を作り、迫り来る脅威に向けて出撃した………