「んで、こりゃなんだ?」
ニコルの視界の先にある物…………
四角い倉庫のような巨大な乗り物を見て、ニコルは思わず声をあげた。
「どーだ!!すげぇだろ!!我がリガ・ミリティアの誇る巨大輸送艦、コロンブスⅢだっ!!」
「レジア、リガ・ミリティアのじゃなくて、連邦のよ。それより、機体の搭載は終わってるの?」
ミューラは冷静に言うと、青くて四角い乗り物、コロンブスⅢを見上げる。
「おい、そうじゃなくて!!何故に輸送艦?そして連邦の艦??こんなんでザンスカール領内に入ったら、一瞬で狙われるだろ!!」
「おやぁ、ニコル少年?怖くなっちゃったぁ?お姉さんが抱き締めてあげよっか?」
不安を口にするニコルの髪をクシャクシャっと撫でながら、マヘリアが冗談っポク悪戯な笑顔を見せた。
「マヘリアさんっ!!こんな時に、冗談言うなよっ!!」
ニコルは顔を赤く染めながら、マヘリアから少し距離をとる。
「ニコルじゃないですけど、本当にコレでサナリィまで行くんですか?敵に襲われたら、反撃する事も出来ないんじゃ…………」
素人のマイの瞳ですら、コロンブスⅢが弱々しい物に見えてしまう。
巨大ながらシンプルすぎる形に、不安を隠しきれない。
「なぁ……………これって、カモフラージュするとか出来ないのか?こんな連邦感丸だしの輸送艦じゃ……………ここって、リガ・ミリティアに協力してくれてるサナリィの月基地の近くなんだろ?そこの輸送艦借りるとか、サナリィのロゴマーク入れてもらうとか……………した方がよかないか?」
コロニーのサナリィ工場自体は、ザンスカールに接収されている。
となれば、サナリィ関係の何かに紛れさせた方が危険が少ないと感じるのは当然だろう。
「ニコルくーーん。私達は、月のサナリィの協力受けてる事は秘密なんだよーー。今回のベスパの攻撃だって、リガ・ミリティアと月のサナリィの関係を暴きたくて仕掛けて来たっポイしね」
「サナリィへの旅の途中、ベスパの索敵に引っ掛かる事は間違いないと思います。私達の機体が、サナリィ関係の艦から出てきたと知れたら……………サナリィの月基地の皆さんに迷惑がかかってしまうんです」
マヘリアとクレナの説明を聞いても、ニコルには理解出来なかった。
戦争に協力している仲間同士……………気を使う必要があるんだろうか?
そもそも、月のリガ・ミリティアの基地…………ホラズムからトライバードやガンイージが出撃した時点で、そんな事はザンスカールにバレているんじゃないか……………そう思った。
「ニコルは、私達とサナリィの関係がザンスカールに知られている……………そう考えているのよね。おそらく、その通りだと思う。でも、サナリィは一企業だし、ベスパのモビルスーツだってサナリィの協力を得て開発されている。リガ・ミリティアと月のサナリィが協力していると思うから攻撃した…………それでは、ザンスカールに協力しているサナリィの人達に納得されない。攻撃を仕掛けるには、大義名分はどうしても必要なのよ」
「だから、ベスパの攻撃はホラズムが標的だっただろ?トライバードかガンイージが奪われて、機体からサナリィが関わった事が分かれば、今度は躊躇いなく月のサナリィはベスパの攻撃に晒される……………あくまでも、俺達のレジスタンス活動にサナリィが協力してくれている……………そこを忘れてはいけないんだ」
今度はミューラとレジアに次々と説明されて、流石のニコルも少し理解出来てきた。
(難しい問題……………なんだな。ただ戦ってりゃいい訳じゃなくて、色々と考えなきゃ駄目なのか……………大人になると面倒臭ぇな…………)
「うーん。なんとなく、分かるんですけどねー。私達だけが危険に晒されて、なんか納得出来ませんね」
マイは頬を膨らませて、膨れっ面をする。
「お前ら2人は、ここに残るか地球に戻ったっていいんだぞ!!レジアにもミューラにも、戦う理由がある。だが、目的も無いままリガ・ミリティアに参加しているなら、ここで引き返すのも手だぞ」
エステルはニコルとマイを見ながら、厳しい表情をした。
確かに、かなりな危険が伴うサナリィへの移動は、あえてニコルとマイが一緒に行く必要もない。
「なんだよ、それ!!オレだって戦える!!充分、戦力になる自信はあるぜ!!」
「私だって……………確かに、最初はバイト感覚でしたけど……………レジアさんの話を聞いて、このままじゃ駄目だって分かったんです!!」
2人の言葉を聞いて、エステルは頭を掻きながらレジアを見る。
「エステルのばぁさんが言う事はもっともだ。一時の感情で危険に飛び込むもんじゃない……………と、言いたいところだが…………」
レジアはそこで言葉を切ると、ニコルとマイ…………2人の顔を見つめた。
「だが、危険の中だからこそ、見える物もあるだろう。俺達がいるから大丈夫………………と、言ってやりたいトコだが、まぁ危険度MAXだろうな。だが、複数のモビルスーツを搬送する手段はこれしかない」
「敵に見つかった時の事も考えて、レジアにはトライバードのコクピットにいてもらうわ。敵に襲われたら、レジアに迎撃してもらいます」
ミューラの言葉に、マイは不安になりレジアを見る。
「おっと、オレじゃ命を預けるの不安か?クレナにも待機してもらっておくから、なんとかなるさ」
「あの………………私も、皆さんが無事にサナリィに辿り着けるように、頑張ります」
静かな口調でクレナが決意を表明し、場に沈黙が訪れる。
戦闘力のない艦で敵の領内に入る事のリスクに、改めて全員が認識を深めた。
「戦争……………なんだよね………自分が戦場に出るなんて、思ってなかった…………でも、なんで戦争をしなきゃいけないのか…………しっかり見極めたい…………」
沈黙を破ったマイの言葉が、ファクトリーの金属に反響して響く。
「戦場に出た者だけが、戦争の恐ろしさ、虚しさを知る事が出来る。それを知って、人を恨むか、恐怖に気が狂うか、人を救いたいと思うか…………………オレ達、戦争に関わる者が正常な判断をしなきゃいけない。2人とも…………その目で、頭で、心で戦争を感じてほしい。自分達が何をしているのか?人を殺してまで貫かなきゃいけない正義・理想があるのかを……………」
レジアの瞳と言葉に吸い込まれそうになるマイは、視線をコロンブスⅢに搭載されつつあるガンダム・トライバードに移す。
(ガンダム………………私達の未来を……………レジアの未来を守って…………)
マイは心の中で、無意識に祈っていた…………