「で、そのビックキャノンを叩く方法は、もう考えてあるのかよ?」
少し冷めたハンバーグを頬張りながら、緊張感の無い声でニコルはミューラに聞いた。
「具体的な方法は、まだ考えてないわ。そもそも、今の私達にはビックキャノンまで行く足がないの」
「足?」
ミューラの言葉に、マイが自分の足を見ながら首を傾げる。
「ビックキャノンまでモビルスーツを運び、戦闘できる艦が無いのさ。今のリガ・ミリティアには、モビルスーツ開発だけで資金が手一杯だ………………戦艦なんて、夢みたいなモンだからな」
珈琲をグッと飲み干して、レジアは再び溜め息をついた。
「なんだぁ??偉そうな事言っといて、結局戦う方法が無いのかよ!!モビルスーツがあったって、戦艦が無きゃどうにもならないだろ!!基地に篭ってたら、ザンスカールにいいようにやられるだけだぜ!!」
ニコルが勢いよく机を叩いた事で、ハンバーグの乗った皿が少し宙に浮き、カチャっと音がたつ。
「五月蝿いガキだね!!ねぇモンはねぇんだ!!だが、まだ手はある!!」
エステルの言葉に、ニコルの行動に怯えた表情のクレナがレジアを見る。
「ああ、サナリィ・コロニーのファクトリーの地下に、サナリィがベスパに接収される前に造った新造戦艦が眠ってる。ガチ党がザンスカール建国を宣告した日にセレモニーで大々的に空を舞う為のモノだったが、サナリィの職員が隠して、まだ見つかってない筈だ」
「なんで、見つかってないって分かるのさ?」
ニコルはレジアを見ながら、妙に反抗的な態度をとる。
「まだ、サナリィでは一部のレジスタンスがザンスカールに反抗してゲリラ戦を繰り広げてるの。そのゲリラ組織が、戦艦を守ってくれてるのよ」
「だが、いつまでも耐えれる訳はない。一刻も早く取りに行かないとね」
ミューラの言葉に、エステルはサナリィに残っている人達の事が気になっていた。
「サナリィの技術者達が抵抗してるんですよね?サナリィの方々が協力してないのに、なんでザンスカールは次々とモビルスーツを開発出来るんでしょうか??」
クレナの疑問は、もっともである。
現在のモビルスーツ事業はサナリィがほぼ独占しており、シャイターンなどの新型は、サナリィ以外で開発するのはほぼ不可能だ。
これまでモビルスーツ開発を主導していたアナハイム・エレクトロニクスは、連邦軍に旧式機のジェムズガンやジャベリンの供給と、新型のジェイブスの開発をようやく始めた時期であった。
アナハイム・エレクトロニクスの生産ラインは生きており、OME提供を行ってはいたが、実際のモビルスーツ開発はサナリィが担っている。
「今までの話の流れじゃ、サナリィの人全員がザンスカールに反旗を翻してるように聞こえちゃうわね。でも、実際に反抗しているのは一部の人だけ。ザンスカールはサナリィの職員の給料を上げたり将来を保証する事で、技術者の多くはザンスカールに協力してるわ。レジアの経験した事件は、サナリィの技術者が隠すであろうミノフスキー・ドライブの技術の強奪が目的だったから強行手段にでたんだろうけど、他の職員や技術の接収はスムーズに行われたみたい」
ミューラはそこで言葉を止め、窓の外に目をやった。
「ビックキャノンなどの主要兵器を何に使うのか?ガチ党が何を企んでるのか……………それに気付けたのは、力で無理矢理ザンスカールに協力させられそうになった一部の技術者だけなんだ。サナリィが襲われた時も、サナリィが守りたい機密も多く、ベスパがモビルスーツを投入したコロニーの東側に戦火が集中し、協力する事が決まっていた西側地域の人はコロニー内で争いがあった事すら知らないかもしれない…………」
ミューラもまた、サナリィで切磋琢磨した仲間の技術者達と戦わなきゃいけない。
それを察したレジアが、ミューラの後を引き継いで話しをした。
そんな気配りがマイには大人の対応に見えて、レジアの優しさを感じて胸が急に締め付けられる。
(レジアさん、リガ・ミリティアのエースなのに……………辛い戦いを経験してきているのに、優しさも失ってない。凄い人なんだな…………………)
マイは、レジアが辛い経験を積み、更にリガ・ミリティアのエースという地位を手に入れたにも関わらず、どんな人にも普通に接している事に胸を射たれていた。
「なら、早くサナリィに行こうぜ!!オレのスナイパーにトライバードがあれば、サナリィでゲリラやってる人の力になれるよ!!」
まるで遠足に行くかのようなニコルの発言に、マイは頭を抱える。
「もぅ!!レジアさんの話、聞いてたの?ついさっき、戦うには信念や決意が必要って認識したばかりでしょ!!」
「分かってるよ!!無益な戦いはしないさっ!!けど、サナリィの人を助け、戦艦を手に入れないと、地球を守れないだろっ!!」
ニコルは正しい事を言っているように聞こえたが、言葉の軽さにマイは不安になる。
レジアの話を聞いて、マイは戦争に対しての認識が大きく変わっていた。
でも、ニコルはどうなのだろうか?
戦場に行く事を求めているような発言…………………戦争で人を殺す事………………自分が死ぬかもしれない事………………
ニコルは理解してるのだろうか………………
「まぁ、どちらにしてもマヘリアの回復待ちだね。今回、運んでもらったイージ2機を遊ばせておく訳にはいかない」
エステルは、マイとクレナに向かってニッと笑う。
「エステルのばぁさん、2人とも怖がってるから止めろ!!しかし、クレナさんとマヘリアさんのイージをいれても4機…………………また厳しい戦いになりそうだな………………」
レジアは空になったコーヒーカップの中に、深い溜め息を流した。