戦う理由
「レジアさん………………壮絶な過去があったんですね」
クレナは自分の胸に手を当てて、目を閉じて哀しげな表情をする。
「戦争で、両親を失っちゃうなんて……………私、リガ・ミリティアに入隊してから今まで、自分の親しい人や大切な人が死んじゃうなんて考えてなかったな…………」
マイも流石に、いつもの元気を無くして下を向く。
「オレも最初は皆と同じ、戦争なんて遠い世界の話だと思ってた。そして、いざって時は自分の住んでる場所の軍隊に入るって漠然と考えてた」
そこでレジアは、クレナの入れてくれた珈琲を一口すする。
「だが戦争が始まる時は、誰かの思惑がそこにある。しかし、戦ってるうちに恨みや憎しみに心が支配されて、戦争の意味を見失っていく。大切なのは、なぜ戦争が起こり、戦争が終わった後の世界がどうなるのかって事なのに………………」
レジアはコーヒーカップの中にある飲みかけの珈琲を眺めて、溜め息をついた。
「けど、サナリィの戦いの後に連邦軍に入ったんだろ。なんで最初からリガ・ミリティアに入らなかったんだよ」
ただ闇雲に戦う事はいけないという事は、理解できる。
しかし、大切な人を守る為に戦うのがいけない事なのか?
何故、レジアが一度ミューラ達と別れて連邦軍に入隊したのか?
ニコルは知りたかった。
「当時のリガ・ミリティアは………………まぁ、今もそうだが、今より小規模なゲリラ組織みたいなモノだったんだ。それに連邦軍に入れば、今回の戦争について詳しく分かるかもしれないと思った。リガ・ミリティアからより、連邦の中から今回の戦争を見た方が、より客観的に見れると思ったんだ……………」
言葉を止めたレジアは、ニコルの目を強い力で見る。
「今のリガ・ミリティアは、モビルスーツを作れるまでになった。だからオレはリガ・ミリティアに戻り、試作のモビルスーツで色々な戦場に行った。その度に、多くのモビルスーツを倒してきた。オレはガチ党を………………ザンスカール帝国を止めなきゃいけないんだ!!」
いつになく語気を荒げたレジアに、ニコルは一瞬怯んだ。
「そりゃ………………今までの話を聞いてりゃ、ザンスカールを許せねぇよ。だからオレも、ザンスカールと戦ったっていいだろ!!」
昼食をとりにきたミューラとエステルは、ニコルの大声に驚き思わず振り向く。
「ニコル……………レジアは、アメリア出身なのよ……………今まで戦ってきた相手には、学生時代の友人だったり、近所に住んでいた知り合いなんかもいたわ。ニコルならどうする?大切な人が敵だったとしても、助ける事が出来る?」
食事をとりに来てから、レジアの話をミューラは少し立ち聞きしていたらしい。
「ミューラさん、急になんだよ……………てか、レジアさん!!友達とか殺してきたのか!!」
ニコルの言葉に、レジアの持つコーヒーカップが小刻みに揺れる。
「ちょっとニコル!!表現がストレートすぎるって!!」
興奮したニコルを抑えながら、しかしマイはニコルの意見に同意するとばかりにレジアを見る。
「でも、友人と戦うって……………私も、そんな事いけないと思います!!」
余りにも平和に慣れすぎているマイの言葉に、レジアは視線を上げた。
「レジアが好き好んで戦ってるとでも思ってんのか!!こいつは、不必要な戦闘はしない!!苦しみながら、過去の友人達とも戦ってる。だが、それでもレジアは宇宙から射てるビックキャノンで地球が焼かれる前に、ザンスカールの進行を止めたいんだっ!!それがレジアの両親がレジアに託した遺志なんだから…………」
ビックキャノン建造の噂は、早くからリガ・ミリティアの上層部はキャッチしていた。
大量殺戮兵器だけは使わせてはいけない…………
リガ・ミリティア全体の意思として、その考えは浸透している。
レジアは連邦の中から、そしてリガ・ミリティアに参加してからも、ザンスカール帝国について調べてきた。
ビックキャノンの建造やギロチンを使うザンスカールが、マリア主義を掲げて、どんなに良い事を言おうが、一度疑問を抱いたレジアには敵にしか思えなかった。
例え友人や知り合いが敵であったとしても…………………
そんなレジアの苦しみを知っているエステルが豪快に会話に入ってきた為に、マイは圧倒され一歩後退する。
「ははは…………………スイマセーン」
そんなマイを横目で見ながら、レジアが過去の話をしてくれて、今の話しに結びつけてる意味をニコルは理解した。
「つまり、ビックキャノンってのは衛星軌道上から地球を狙えるシロモノで、撃たれたら地球に甚大な被害が出ると……………それを止める為に連邦に入ったが、その力は連邦に無くてリガ・ミリティア………………というより、サナリィの技術の力を求めてリガ・ミリティアに入隊したと………………そんなトコですかね?」
少し驚いた表情でニコルを見たレジアは、軽く笑顔を作る。
「流石はニュータイプ……………といった所か………………その通りだ。ザンスカールがサナリィを襲った理由、その1つがビックキャノン開発用の技術者を集める事だった………………」
「なんの為に戦うか…………少し理解できた気がするぜ!!大切な人を守るのは、決して悪い事じゃない。だけど、敵だから何でも倒せばいい訳じゃない。ピンポイントで戦争を起こしてるヤツだけ倒せば、恨みも哀しみも広がらず戦争を止められる!!」
目を輝かせるニコルに、マイが頭を掻きながら溜め息をつく。
「そんな、単純な話じゃないよーな………」
「マイさん、今のニコルの考えは極論だが、大切な事だ。戦争の起きた理由を忘れず、戦争がもたらす悲劇を最小限に留める。そうすれば、戦争の拡大は防げるんだ」
そんな会話の中、クレナだけが身を震わせていた。
「ビックキャノン……………?衛星軌道上から地球を射てる兵器なんて……………そんなのが完成したら、地球はどうなっちゃうの?」
地球に住む家族を想い、クレナは心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「クレナさん、大丈夫だ!!そんな事はオレが……………オレ達がさせない!!その為のガンダムだ!!」
クレナの肩に手を置き力強く励ますレジアを見つめて、マイの心臓も少し高鳴っていた…………………