「ジェムズガンごときに2機も!!こうなったら、残った3機で一気にカタをつけるぞ!!」
ラング3機が戦闘態勢に入り、レジアの緊張感も増してくる。
(奇襲が成功して、とりあえず2機はやれたけど、こっからが本番だ!!親父……………母さん………………ガスフィーさん………………皆の意思は、絶対に繋げてみせるからなっ!!)
操縦管を握るレジアの手に力が入り、少し汗ばみ始めた。
「あの小僧、なんてセンスしてんだ!!ニュータイプとでもいうのかい?」
ジェムズガンとラングの戦闘が一瞬落ち着いたところでエステルが驚きの声を上げたが、無理もない。
そのぐらいレジアの速攻は早くて正確で、連邦の正規パイロット達より鋭く、見ている側も息つく暇がなかった。
「彼はニュータイプではないわ。でも、モビルスーツ・マイスターのアグナール家の血を引いてるだけあって、モビルスーツの癖や能力の把握が早いから、自分の思い通りにジェムズガンを動かせてるのよ!!」
ミューラは目を輝かせて、レジアの乗るジェムズガンを見つめた。
確かにレジアの操縦は、1機1機のモビルスーツにある独特の癖を把握し、そのモビルスーツの能力が最大限に活かせるように動かしている。
反応速度の遅い機体なら、その反応速度に合わせて操縦出来る…………レジアの強さの秘密は、正にそこにあった。
(彼なら、ヴィクトリー計画の雛形機を任せられるかも。あの操縦能力…………試作機から最大限のデータがとれそうね。ここまで来たら、彼と一蓮托生だわ。彼がここで負けるようなら、私達に未来はない…………)
ミューラは自分が命の危機にある事を忘れ、まだ見ぬ試作機に想いを馳せる。
その想いを知ってか知らずか、レジアの命も危機的状況であるが、皆の思いを繋げる事………………ガスフィーの残してくれたジェムズガンを信じる事………………その事だけに集中しており、死ぬかもしれない………………そんな考えは脳内から排除されていた。
絶対的に不利という状況は、理解している。
しかし、レジアの瞳からは絶望は感じられない。
「いくぞ、ジェムズガン!!お前の力を借してくれ!!」
止まっていた時間を動かしたのは、有利な筈のラングではなく、レジアの操るジェムズガンだった。
ビームシールドを前方に展開させながら、正面のラングにジェムズガンが飛び込む!!
が………………左右に展開していた2機のラングは、レジアのスピードを警戒していた為、冷静にビームの集中放火を浴びせてくる。
「くっ……………そっ………………」
ジェムズガンの足が……………腕が……………少しづつ、ラングのビームによって削られていく。
更に正面のラングがジェムズガンに飛び込んできて、ビームサーベルで牽制してくる。
ビームサーベルを躱す動作をする度に、ビームライフルから放たれるビームがジェムズガンの体を焼いていく。
「このおおぉぉぉぉ!!」
ジェムズガンの左足にビームが直撃しバランスを崩した瞬間に、倒れながら背負っていたビームバズーカの出力を調節して正面のラングに放つ。
ビームシールドを避けるように放たれたそのビームは、正面のラングのコクピットに吸い込まれるように突き刺さった。
「この野郎!!」
倒れたジェムズガンに、1体のラングが近付いてくる。
「そいつに不用意に近付くな!!ビームバズーカの出力を戦闘中に調整するような奴だぞ!!危険だっ!!」
「こんなボロボロになった機体、もはや脅威じゃない。ジェムズガンごときが俺達の仲間を殺ったんだ。落とし前はつけさせてもらう!!」
確かに、ジェムズガンは満身創痍だった。
左足は吹き飛び、ビームシールドを持つ左腕も動かない。
頭も、何処かに飛んでいった。
もはや動く事もないガラクタのように横たわるジェムズガンに、ラングが不用意に近付いても不思議じゃない。
しかし、ラングが止めを刺そうとビームサーベルを構えた瞬間、ジェムズガンのバーニアが噴射した。
突然の事で意表を衝かれたラングは、ジェムズガンに体当たりされてバランスを崩す。
「そこだっ!!」
バランスを崩したラングのコクピットに、レジアの魂が乗り移ったジェムズガンのビームサーベルが突き刺さる!!
「あと……………1機………………」
レジアの疲労は、ピークに達していた。
操縦管を握る手は無理な操縦で痺れ始め、頭を飛ばされた事でサブモニターしか映らないコクピットで精神もすり減っている。
「この………………化け物ジェムズガンめっ!!俺は、貴様を討つのに油断はしないっ!!」
最後のラングは後方に跳びながら、ビームライフルで倒れているジェムズガンにビームを浴びせた。
そのビームが動かなくなったジェムズガンの左腕に直撃し、ビームシールドごと吹き飛んでいく。
「シールドも持ってかれたか……………けど、まだやれる!!こいつさえ倒せば、皆の意思を守れるんだっ!!」
ジェムズガンが傷つく度、レジアの体もその衝撃で傷ついていった。
それでも、レジアには負けられない想いが……………
両親やサナリィの技術者、そしてガスフィー………………
レジアやミューラに希望の光を見て散っていった人の為に、レジアは負けられなかった。
「動け………………動いてくれ!!ジェムズガン!!」
レジアの言葉に呼応するように、ジェムズガンのバーニアが息を吹き返す!!
「まだ動くのかっ!!このジェムズガン!!」
ラングは一定の距離を保ちながら、ビームライフルを射ち続ける。
ラングのパイロットもまた、何度も立ち上がってくるジェムズガンに恐怖を感じていた。
指先が震え、ただ突っ込んでくるジェムズガンにビームを当てられない。
「くそっ!!当たれ!!当たれよっ!!」
レジアの意思が乗り移り、気迫を込めて迫ってくるジェムズガンに、ラングのパイロットは逆に追い詰められていく。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
残った右足で絶妙なタイミングで地面を蹴ったジェムズガンは、ついに宙に浮くラングを捉えた!!
ラングの放った最後のビームは、ジェムズガンの肩に当り右腕を吹っ飛ばす!!
が…………………その瞬間に、ジェムズガンの右膝がラングのコクピットにめり込む。
「ぐはぁっ!!」
機体が触れた事により、相手のパイロットの声がレジアの耳に飛び込んできた。
人を殺したという実感が心に直接入り込み、レジアの手は震え始める。
(くそっ!!コイツらは母さんを殺して、ガスフィーさんをなぶり殺しにした奴らだぞ!!なんで……………なんで、こんなに心が痛むんだ!!)
朦朧とする意識の中で、心臓の高鳴り……………言いようのない悲しみが、レジアに襲い掛かってくる。
ガアアアァァァァン!!
その瞬間、2機はそのまま崩れ落ちるように地面に落下し、重なり合って動きを止めた。
「あの小僧………………やりやがった!!」
エステルは信じられないといった表情で、ボロボロになったジェムズガンを見つめる。
その視線の先でジェムズガンのコクピットハッチが開き、傷ついたレジアがジェムズガンから這い出した。
レジアは1人では歩けず、そのまま大地に倒れ込んだ。
「レジアさんっ!!」
ミューラは抱いていたスージィを地面に下ろすと、倒れたレジアの元に走った。
ミューラは、ラングとジェムズガンの機体性能の差をよく知っている。
圧倒的に機体性能が劣る機体で、ラングを1機も爆発させずに倒したのだ。
もし1機でも爆発させてたら、ミューラ達はその爆発に巻き込まれて死んでいたかもしれない。
コロニーに穴が開いたら、サナリィ・コロニー自体が危険に晒されていただろう。
それを理解しているミューラは、レジアの姿を見た瞬間に走り出していた。
「レジアさんっ!!しっかりして、レジアさんっ!!」
激闘の疲れと傷ついた体を休める為か、レジアは倒れた瞬間に気を失っている。
額から血を流し、体中に青アザができているその体を、ミューラは抱き締めずにはいられなかった。
「おい、ミューラさん。そいつは私がおぶるから、あんたは子供を頼む」
レジアの傍に来たエステルは、スージィをミューラに託すと、傷ついたレジアを抱えあげる。
「まだ安心出来ないからね。宇宙港まで行ければ助かるし、傷の手当ても出来る。急ぐよ!!」
エステルの言葉に頷いたミューラは、立ち上がりスージィを抱えた。
「なぁ、そいつの親はどうしたんだい?」
スージィを見ながら、エステルはずっと疑問に思ってた言葉を口にする。
「研究所に残ったわ。まだ、やる事があるって………それに………………」
ミューラは言葉を呑んで、スージィと瞳を合わせた。
「子供を置いてやる用事って、何なんだろうね!!まったく!!」
エステルは嫌悪感を込めた口調で、スージィの父親……………ゲルダを罵る。
「致命傷じゃなかったにしろ、何カ所か銃で撃たれていたわ。それに、事情もあるのよ…………でも、スージィは地球にいる親戚に預けるって。地球行きの船に友人が乗るから、連れてってもらうわ」
ミューラがスージィの頭を撫でると、事情を理解出来ていないのだろう……………屈炊くない笑顔を見せた。
「それより気になるのは、ラングの部隊がサナリィの技術者の乗るジェムズガンを躊躇いなく撃破してったってことだ……………残してきた研究所の人達は、無事じゃないかもな……………」
「レジアさんっ!!気が付いたのね!!良かった………………」
意識が戻り、うっすらと目を開けたレジアを見て、ミューラが喜びの声を挙げた。
「ようやく、お目覚めか!!いつもなら自分で歩けと言ってやるトコだが、今日のお前さんの働きは、ばぁさんにおんぶされる事が許されて余りある。そのままにしてな」
「すまない、エステルのばぁさん。情けないが正直、自分で歩けそうにない…………………」
エステルの言葉にレジアは感謝しながら、その背中から伝わる人の暖かさを感じる。
「それで、レジアの疑問はどうなんだい?」
「ええ…………ジェムズガンで出撃したのは、モビルスーツを組み立てる側の技術者なの。言い方は悪いけど、設計の図面通りに組み立てるだけだから、技術者の数も多いし、損失してもそれほど問題じゃないわ」
ミューラはそこで一息つくと、人の死を損失という言葉にしてしまう自分の技術者気質が嫌になった。
レジアが、今まさに命を削りながら闘ってくれた直後なのに…………
そして、ミューラは言葉を選びながら話しを続ける。
「でも、あなたの両親のような新型機や新兵器開発の人間は、数が少なくて貴重なの。だから、あのフロアの技術者は殺される事はないと思うわ。勿論スージィのお父さんもね」
スージィに優しく微笑みながらのミューラの言葉に、レジアは少し安心した。
「良かった…………これ以上、人に死んでほしくないんだ…………」
そう言うと、レジアは眠るように意識を失う。
「凄いヤツだな、コイツは……………苦しい戦いが続きそうだが、レジアは私達の希望になりそうだな!!」
エステルの言葉に、ミューラが頷く。
「私の命は、レジアのお母様…………レイナさんに救われた。ダブルバードは託せないけど、レジア専用のガンダムを……………レジアを守る鎧を必ず私が作ります。私達を、どうか見守っていて下さい……………」
ミューラはサナリィの暗い空を見上げて、そう呟いた………